骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第149話 「ナマズ対」

 「―降下30秒前」

 

 木々が並ぶ森林地帯をアルシェは高度3000を維持したまま速度を落とす。この先には100体近くの泥で出来たゴーレムが進軍していた。進軍先はこの森を抜けたところにある集落だ。

 

 あのゴーレム達の習性のひとつに生者を狙うというのがある。これはあの『博士』が言っていたプログラムによって近くに居る生者を狙うように設定されているのが原因だろう。言葉通りならジエット達を真っ先に襲うところなのだろうが、集落に向かっている事からある程度の範囲内で人数の多いほうを優先的に狙っている。

 

 目を凝らして木々の隙間から進軍するゴーレムを発見すると同時に右手はマインの首根っこを掴んで使えない為に左手で杖を構える。モミにより火に弱いとのことで《ファイヤーボール》を上空を通過する際に三発ほど放つ。41レベルになったアルシェの一撃は通常の《ファイヤーボール》よりも威力があり、一撃で10体ほどが爆発に巻き込まれた。爆発音を耳で確認すると右に大きく旋回しつつ高度を落とす。後ろを振り返ると笑顔を向けてくる戦闘馬鹿…マインと目が合う。

 

 「行くよ」

 「はい、行きます」

 「降下」

 「エントリイイイイィィィィィ!!」

 

 手を離されて空を飛ぶことの出来ないマインは叫びながら重力に従って落ちていく。腰に提げた刀を抜きながらゴーレム達の中心に降り立ったのを確認したらすぐさま方向転換して泉を目指す。泉にはジエット達が待機しており、すぐさまあのナマズと戦闘に入るだろう。

 

 アルシェとマインはすでにあのナマズ型のゴーレムとは二度ほど戦っている。その時に分かったのだがあのナマズ型は攻撃主体に作られたのではなく、精製したゴーレムの数を維持する為の存在らしいのだ。アルシェの魔法で30体ほど失い、マインにより次々に数が減っていっている数を維持する為に再び生産を開始する。一番生成の簡単な泥人形を生産すると思われるが、生産するに当たって土と水が必要なのだ。川から離れた地点まで移動していたのは確認しており、位置的に森の中央付近にあった泉に寄ると推測される。

 

 上空に上がりつつ泉を見つめるとちょうど戦闘が始まったようだ。少し息を吐きつつ速度を上げる。人間では肉片にまで還る速度を出して仲間の元に向かう。

 

 

 

 

 

 

 木々をなぎ倒しながらナマズは現れた。四つの足をゆっくりと動かしながら泉へ直進して行く。目視でナマズを発見したモミは手を軽く挙げて合図を送る。モミより離れた茂みで同じように手が上がる。にこりと笑いつつ杖を茂みより出して構える。

 

 「《ファイヤーボール》!」

 

 モミが放った初手の一撃はナマズではなく泉に向かって飛んでいく。水に触れた瞬間温度差で水は蒸気へと一気に変わりナマズを覆うように拡散した。一度ナマズとの戦闘でモミの目くらましが聞いた事から、あのゴーレムは探知するのではなく上についている人間の視覚情報から周辺の状況を知ることが出来るのではないかとアインが発言し、初撃で確かめる事になったのだ。見事に推測は当たり、視界を塞がれたナマズは泉から離れる為に後進し、霧より後ろ足を露出させた。

 

 「目標右後ろ足!放てぇ!!」

 「「《マジックアロー》」」

 

 離れた茂みの中に隠れていたオーネスティとネメルは光の矢を空中に出現させて指示された右後ろ足に放った。慌てたのか標準が若干ずれて掠る程度で終わった。が、掠ったところは削れてダメージが効いている事が分かる。ゴーレムを生成する事を第一に考えられたのか防御力は見た目の材質ほどしかないのだ。ゆえに二人のような低レベルの攻撃が響いている。

 

 「効いてる…効いてるよ!」

 「よぉし、このまま攻めるよ」

 「うん、やろうネメルさん」

 

 第二射は一射目より精度がまして直撃する。抉るように削れた足にナマズは慌てて右前足を前に出して隠すように右後ろ足を後方に移動させる。ナマズは見た目のままだと攻撃はその巨体を生かした体当たりぐらいかと思っていたのだが、それを大きく違った。口の少し上にある二つの穴より鞭上の触角が伸びる。見た目ナマズのヒゲみたいだがこれは相手を殴る攻撃手段であり、唯一の武器であるらしい。

 

 ヒゲを動かして《マジックアロー》を放つ二人を攻撃しようとするがジエットとアインの前衛ペアに阻まれる。マインのマジックボックスに収納されていた人が扱える程度のタワーシールドで身を隠しながらヒゲの攻撃を受け止め、同じく受け取った1メートルのメイスでヒゲを叩きつける。

 

 「ネメル、オーネスティ!今のうちに!」

 「分かった。少し待ってて」

 「こちらを向けよ!」

 

 移動を開始するネメル達に攻撃させないようにと前に出たジエットに二本のヒゲが左右から迫る。右の一撃を受け止めると左の一撃はアインが受け止める。

 

 「前に出すぎだ」

 「すまない…でもこれで」

 「ヘイトはこちらをむいているだろうな!」

 

 ヒゲを打ち返しながらニヤリと笑うアインは楽しくて仕方がなかった。こうやって連携をとってモンスターを狩るなど何年ぶりだろう。かつての仲間の事を想うと頬が弛んで仕方がない。それに作戦通りにことが進んでいる事が何よりも気分が良い。ナマズ右側面に回りこんだネメル達の《マジックアロー》が再び右後ろ足に集中する。目に見えて削られていく足は元の半分以下までえ減らされ、強度不足と繋がりが弱くなった為にぼきりと折れた。痛みを感じる事もなければ鳴く事無くナマズは振り向いて二人を視界に納める。

 

 上空から白い電撃が左前足に直撃し、貫通はしなかったもののごっそりと上部は削れて内部が露出していた。空からの攻撃は

アルシェの《ドラゴン・ライトニング》である。アルシェが合流した事で戦況はジエット達が完全に優勢…というか勝敗がついたと言っても過言ではない。だが、最後までは気を引き締めて事にあたる。油断なんかして大怪我なんて笑い話にもならない。注意が上空にそれた一瞬の隙を突いてアインがタワーシールドを投げ捨てて接近戦を仕掛ける。少し出遅れたが負けじとジエットも後に続く。抑えている力の範囲内で渾身の一撃を崩れかけている足に喰らわせる。続いてジエットが一撃を入れてまたアインがと連打でダメージを与えていく。

 

 「いい加減砕けろ!」

 「―ッ!?下がれジエット!」

 

 攻撃された事でネメル達からジエット達へ攻撃対象を変更したナマズが振り向く。タワーシールドを持ってない状態でヒゲの攻撃は不味いと判断して飛び退く。アインは両手でメイスを握りやすくする為にタワーシールドを投げ捨てたが反撃に出られた事を考えてナマズの近くに投げていた。だからすぐに拾うことが出来たがジエットはそうではない。今からでは間に合わないし、アインと距離があって守りきれない。舌打ちをするアインの焦りは、ぐきりと音を立てて崩れた足によって掻き消えた。二本の足を失ってバランスを崩したナマズは何とか残りの二本で踏ん張ろうとするがあっけなくその場に倒れた。

 

 「では行きます!《ファイヤー――ボール》」

 

 倒れた衝撃で開いた口目掛けてモミの放った《ファイヤーボール》が放たれる。口内に消えて行き、口からは爆発音と煙が噴出した。それで終わらず身体のあちこちから火を噴いたのだ。衝撃で大きく身体が跳ねてドスンと大きな音を立てて地面を抉る。すかさず二発目を打ち込むと同じように跳ねた。ジエットもアインと同じようにタワーシールドを構えて見つめる。ネメルとオーネスティはいつでも援護ができるように杖を構えたままだ。しかし火が噴出した所には大穴が空いたナマズはピクリとも動かず、ただの置物と化していた。

 

 アルシェが地上に降り立つとナマズを近くで確認し、完全に破壊した事を伝える。伝えられると緊張の糸が切れたのか皆が皆その場に腰を降ろして笑い合う。そして今更ながら実地試験をクリアした事を理解したのである。

 

 …その頃、動かなくなった泥人形の残骸の中心に立っているマイン・チェルシーは、アルシェ達がどの方向にいるか知らないので何処に向かえば良いのか分からず途方に暮れていた…。


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