骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第148話 「戦いと出会い」

 「これ何の冗談だよ!」

 「話す余裕があるなら腕を動かせ!」

 

 四足歩行中型ゴーレム…呼称『ナマズ』から距離をとる事に成功したアイン達であったが、問題はそれから先だった。ナマズを撒いたと思って帰りを待っていた二人と合流した。すると跡を追って来たのか人型の泥人形の群れが襲い掛かって来たのだ。逃げることは簡単だが何を目的にプログラムされて創造されたのか分からないゴーレム達を連れて学園に逃げ帰る事は出来ない。

 

 ゆえにここで追ってくる物を倒す事になったのだが…。最初の追撃隊は五体だった。アインとジエットが前衛を務めて、オーネスティとネメルが回復担当、モミが魔法支援担当となって有利にことを進めた。回復と言っても第一位階の《ライト・ヒーリング》で回復量こそ少ないがジエットひとり回復するのには問題なかった。アインは第一位階の《カモフラージュ》と《クィック・マーチ》でヒット&アウェイでダメージを負わぬように動いている。始めは良かったのだが徐々に数が増えて十体、十五体、二十体と増えていき、最終的には五十体に取り囲まれえる事になった。

 

 「…《ライト・ヒーリング》…」

 「くぅ…うおおおおおお!」

 

 すでに魔力量が底につきそうであるが必死に振り絞ってネメルはジエットの治療を行なう。すでにオーネスティは限界を超えており休んでいる。アインはまだ戦えているがジエットが倒れたら一気に雪崩れ込み、低レベルとしている今のアインでは勝ち目はない。

 

 「アイン!ジエット!まだ行ける?」

 「まだ行けるさ!というか行くしかない!」

 「私はまだ戦えるぞ!」

 

 ジエットとアインは剣を構えながら泥人形を睨みつける。二人が落ち着けるように《ファイヤーボール》を放って援護する。泥で出来たゴーレムはユグドラシルの時とは違う弱点を持っていた。火による乾燥で身体が動かなくなる事だ。渇いた身体で無理に動けば肉体はボロボロと砕けて土に返る。その事を序盤で理解したモミは直撃させる事に主眼を置くのではなく、密集している所に撃ち込む事にする。一体は直撃で、残りは地面に直撃した時の爆発と爆風で乾燥して崩れる。前衛は二人にまかせっきりだから出来る戦法である。

 

 「残り二十体前後…これ以上はキツイかな…。ネメルさん」

 「は、はひっ!?」

 「オーネスティさんをつれて後退を」

 「でも、ジエットが!」

 「二人が後退したらジエット達も下がらせます」

 「モミさんはどうするの?まさか残るわけじゃないよね」

 「援護射撃しながら引きます。ここで死ぬ気はないですから」

 

 返答に納得したネメルはオーネスティに肩を貸しながら後退を開始する。遠巻きながら聞いていたジエットとアインも斬り付けつつ後退するが、すでに体力も限界に近いジエットには辛かったらしい。後退する中で足がもつれてその場に倒れた。

 

 「ジエット!クソッ!!」

 

 襲い掛かろうとする泥人形をアインが斬り伏せる。ここでモモンとしての経験が役に立っている事に頬が弛む。魔法の援助無しでも自分は戦えるようになっている事に楽しく思う。そんな感情を抱いてもこの状況は変わることは決してないが。前衛がいきなり崩れた事で《ファイヤーボール》から速射力の高い《マジック・アロー》を連射してアインの援護のみを行なう。決して良い手ではないがするしかない。

 

 このままではと覚悟する。ジエットは母の事やネメルの事を脳裏に巡らせつつ生にしがみ付こうと立ち上がる。アインはアインズとして行動すべきか悩む。が、二人の思いは無に還った。それも良い意味で。

 

 「わっ!?って何この状況?」

 

 聞き覚えのある声に振り向くとそこには刀を腰に提げたマイン・チェルシーが草むらから飛び出していた。何故ここにぼっちさんの元に居る筈のマインが居るのかと疑問を考える間もなく、ジエットの腕を掴んで肩を貸しつつ立たせながら声を挙げる。

 

 「そこの方!援護を頼みたい」

 「―了解!ここはボクが受け持とう」

 

 何の疑問も状況を確認する事無く返事をして残った泥人形にひとりで突っ込んだ。楽しそうに笑いながら泥人形を切り裂き、一撃も受けないように立ち回って無双するマインにジエットは悔しそうに歯を食い縛る。本物の剣士としての実力と自分の戦い方を見て絶望に近い感情を抱く。渦巻く感情を一掃したのは空から飛来した少女だった。空から降りてきた少女は姿勢を崩す事無く着地して、辛そうなジエットに近付き肩に触れる。

 

 「君、大丈夫?」

 「はい、なんと…か……っ!?お嬢様」

 「え?…もしかしてジエット?」

 

 予期せぬ出会いに膠着するジエットとアルシェ、そしてこの事態はぼっちが関わっているのかと思考し始めたりと固まった四人の周りではたった一人で二十体の泥人形とマインが戦い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 「《ヒール》…これでもう大丈夫ね」

 「ありがとうございます」

 「どういたしまして」

 

 泥人形を討伐し終えた一行は近くにあった小さな洞窟らしき穴で休息をとっていた。アインとモミはまだ精神的にも余裕がある為に見張りをしてくれている。ジエットも名乗り出たのだが二人に休んでいなさいと強めに言われたのでネメルやオーネスティと共に居る。二人は疲れきって今は熟睡しており、実質アルシェと二人っきりである。先ほど助けてくれた剣士は何かをモミに言おうとする前に口を塞がれ連れて行かれ、今は見張りをしているのだろうか。

 

 「元気そうでなによりですお嬢様」

 「ジエットも元気そうで良かった。今はボロボロだけどね」

 

 久しぶりに聞いた声に安堵する。鮮血帝により貴族の地位を失ったアルシェの家は没落。学園を辞めてワーカーになった話は聞いていたがそれ以上の事は知ることも出来ず、心配でいたのだ。

 

 「お嬢様は何をなさっているのですか?まだワーカーを?」

 「―もうワーカーはやってない。今は王国で働いているの」

 

 王国で働いていると言われていろいろ疑問が浮かんだ。何故王国なのか?王国で働いているというなら帝国にどうして来られたのか?他にも疑問は湧いて出てきたが、そんな事よりどんな生活を送っているかの方が気になっている。会うことも知ることも出来なかったからこそいろいろ聞いてしまった。

 

 現在は王国のアルカード・ブラウニー伯爵という貴族の方の下で働いていると。居・食・住に困る事もなく働く環境はどんなところより魅力的だし、妹様達と一緒に暮せるように手配してくれたりしてくれた事を語ってくれた。今の暮らしは心地よく、心から安心していると。それを聞いてホッと胸を撫で下ろして頬を弛ませる。

 

 ここで俺はアルカードと言う貴族に興味が湧いた。途中出てきた程度だがどうも有名な方らしいがお金を稼いだり、学園の勉強を行なったりとで一日一日が忙しく、世間で大きく騒がれている事以外何も知らない為に聞き覚えがなかった。それにお嬢様は優秀でかなりの価値を持つことは理解できる。しかし王国の一貴族が帝国より引抜をするなどあまり聞かない話だ。

 

 お嬢様曰く、資産・武力・人望の全てにおいて王国の貴族…もしくは王族より有り、民を想う心優しい方だとか。民や働き手などに施された事や領地で行なった政策などを耳にして行くとまさに御伽噺に出てくるような貴族だった。その話の中で最も興味を持ったのはこの前の王国と帝国の戦を王国の勝利に導いた話だ。一般的にも帝国が敗北した情報は伝わっている。が、どうやって負けたのかなどは具体的に知らされていない。噂では騎士では行なわぬような愚劣な手を使っただとか騙まし討ちや寝首を掻いたなんて話もあった。だが、どれも具体的ではなくまさに噂話という感じだった。しかしお嬢様が話された戦略と戦術、相手の心理を把握した策などを聞いて帝国の民でありながら興奮した。その戦争の話の中でお嬢様とあのフールーダ様が一対一で戦った話を聞いた時は驚きつつも疑う事はなかった。先ほど使われた《ヒール》は第六位階の魔法。人間種が使える上限であり、帝国最強の魔法詠唱者であるフールーダと同等の力を持っている証明であるからだ。なくともお嬢様の言葉を疑う事はなかったが。

 

 「所でお嬢様はどうして帝国に?」

 

 ここまで話を聞いてから疑問に思って口に出した。先ほどまではただ単に帝国に何しにきたのかだけだったが、今は王国の貴族付きの立場があるお嬢様が何をしているかに変わった。何か大事な用事を行なっているのではないかと思った。その予想は当たっていた。

 

 「―アルカード伯より勅命を受けて四足のゴーレムを追っている」

 「四足のゴーレム…もしかしてあのナマズみたいな奴ですか?」

 「知っているの?」

 「はい。夕暮れ前に見つけてからあの泥人形に追われてましたので」

 「―そう」

 

 短い返事を聞いたジエットは悲しく感じた。多分だがお嬢様は場所を聞いたら倒しに行くのだろう。そして二度と会うこともない気がする。だから…。

 

 「俺も…いえ、私も連れて行ってもらえませんか?」

 「―危険。今度は死ぬかもしれない」

 「死にません。まだやらなくちゃいけないことがありますから」

 

 数秒間視線がぶつかり合う。以前にはなかった鋭さに逸らしそうになるが、ここで折れたら駄目だと食い縛って耐える。折れたのはジエットではなくアルシェのほうだった。

 

 「分かった。連れて行かなかったら何かしそうだし」

 「すみません…」

 

 ため息を付きつつ同行を許可してくれたお嬢様に頭を下げつつ謝る。顔を上げたときに映ったお嬢様の瞳は諦め気味に出されたため息とは違って、どこか嬉しそうに見えた。


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