骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 投稿遅れて申し訳ありません。
 それと投稿日を水曜と金曜のみに変更させて頂きます。最近忙しいのもあって週3投稿が難しくなったので…。すみません。


特別編26:遅いバレンタイン

 隠す事無く大きな欠伸を漏らしつつ、ジャージの隙間に手を突っ込み腹を掻くモミは深夜の食堂前で不審者を見つけた。たかが41人程度の規模でありながらユグドラシルのランキング上位まで上り詰めたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点であるナザリック地下大墳墓、いや、第八階層より下層に侵入者などありえない。プレイヤー1500人の攻めにも耐え切った防衛網にモンスター群が兵士の平均レベル20以下の低スペック集団なぞの侵入すら許す事はないだろう。

 

 されど目の前には不審な人物が居るのである。眠気眼を擦って再びその人物を見つめる。何事にも間違い…この場合は見間違いだが、例え100レベルの階層守護者にだってありうるのだから。

 

 食堂の入り口で顔半分を覗かせ、純白のドレスに対するようにドス黒いオーラを噴出しつつ、呪詛のような言葉をボソボソと漏らす人物。間違いなく不審人物と称して問題ないだろう。

 

 ぶっちゃけて言うとナザリック地下大墳墓の守護者統括様のアルベドだ。なんかめんどくさくなって踵を返そうとすると肩を掴まれた。いつ気付いたし!とか、何故掴むの!とか言いたい事はいろいろあるが振り返らず口を開く。

 

 「HA☆NA☆SE」

 「まぁまぁ、ちょうど良い所に来たわね」

 

 顔全体で嫌だという意思を表現するがニンマリと邪悪な笑みを浮かべるアルベドには通用する事無く、入り口まで引き摺られて行く。

 

 「で、何用?」

 「アレよ。アレを見なさい」

 「アレって何よ?あんれ!?」

 

 めんどくさそうに向けた視線の先には長くさらさらの髪をなびかせたふりふりのエプロン姿の女性がアインズと一緒に料理をしていたのだ。肌は透き通るように白く、垂れた目元にある泣きほくろは色っぽく、何処となくアルベドに似た美女。それを認識すると同時に背後で嫉妬と怒気のオーラを放つアルベドの感情が読み取れる。

 

 「あー…アインズ様と二人っきりなのを嫉妬してんのね」

 「当たり前よ!私のアインズ様と二人っきりなんて」

 「にしてもニグレドが食堂に居るってのがびっくりだわ。アインズ様が氷結牢獄から連れて来たのかな?」

 「え?姉さん?」

 「気付いてなかったんだ。どう見てもニグレドじゃん」

 

 モミの一言にアルベドはキョトンとしていた。姉であるニグレドは顔の皮膚がなく、筋肉や筋、眼球が露出している。とてもじゃないがあのような人間らしい顔はしていない。

 

 「姿・形が問題じゃねぇ問題は魂だろ」

 「で、実際は?」

 「髪型と雰囲気」

 「分かったわ。姉さんという事は分かったのだけれど何故アインズ様と二人っきりなの?」

 「…さぁ?」

 「貴方《ラビットイヤー》とか使えないの?」

 「私の兎耳に需要があるとでも?」

 「需要なんてどうでも良いから使えるか使えないの?」 

 「そりゃあアインズ様と同じ魔法は習得してますからね。使えるよ」

 「なら―」

 「だが、断る!」

 「何でよ!?」

 「何でも知ってたら面白くないじゃん。見て察するべし」

 「ぐぬぬぬ…」

 

 顔を歪ませるアルベドを余所に二人を見つめる。ニグレドがチョコレートをボールに入った湯につけようとしてアインズが慌てて止めている。何してんの?と言いたいところだが多分『湯煎』使用としたんだね。

 

 「…誰がそのまま湯に入れろと言ったんだろう」

 

 ボソッと呟いた言葉は後ろの般若顔の美人には届く事無く消えて行った。そのまま二人は溶けたチョコレートにバター、卵を入れてかき混ぜる。それらが混ざりきると薄力粉やベーキングパウダー、ココアパウダーを振るいながら入れ、再びかき混ぜる。材料や手順から察するにチョコクッキーのようだ。アインズは近くでアーモンドを砕き、ニグレドはチョコチップを用意している。私だったらカシューナッツを入れるかなとか思う。

 

 それぞれが生地の中に入れていく途中手と手が触れあった。ふと、背後の気配が強まった気がして振り返ると壊れた笑みを浮かべたアルベドが。

 

 「行くわよ」

 「いや、行かない方が良いと思うんだけど」

 「例え姉さんと言えどアインズ様を独り占めするなんて」

 「・・・動くな」

 「ングっ!?」

 

 いつの間にか背後に現れたぼっちの左腕が無数の触手に変化してアルベドを拘束した。足も腕も拘束された上に口元まで押さえられて声を漏らせなくなっている。息は出来るように鼻は押さえてない。

 

 「さすぼ(さすがぼっちさん)」

 「・・・させぼ?」

 「誰が地名を言ったか。にしても触手で拘束とかどうなの?」

 「・・・不味いか?」

 「…あー、あのまま放置するよりマシかな」

 「んんー!!」

 

 くぐもった声を漏らして不服にするアルベドを見つめながらぼっち口元に人差し指を当てて声を出すなと伝える。不満げだが魔法詠唱やスキルを唱えようにも口を押さえられては不可能なので黙って見守る。チョコチップやアーモンドを混ぜ込んだ生地を焼いていく。拘束された人は妬いていたがそれは無視して作業を注視する。十五分が経って取り出されたチョコクッキーは焦げる事無く上手く焼けており、ここまで匂いが届いていた。

 

 出来上がったクッキーを十枚ほどを綺麗にラッピングして、嬉しそうに見つめるニグレドを見ていたぼっちは触手を動かして食堂に投げ込む。いきなり転がってきたアルベドに二人は驚いて飛び退いた。

 

 「「あ、アルベド!?」」

 「姉さん!アインズ様と二人っきりで何をしてたの?」

 

 驚く二人に半分泣きそうなアルベドが詰め寄る。困った顔をしたニグレドはアルベドの感情を読み取って微笑む。

 

 「バレンタインって言うイベントがあったらしいわね。私は参加していなかったのだけど」

 「という事はそれはアインズ様への?」

 「それは違うぞアルベド」

 

 アルベドの言葉を優しく否定したアインズはニグレドと目を合わせて頷く。すると手にしていたラッピングしたクッキーをアルベドに差し出した。

 

 「え?姉さんこれは?」

 「バレンタインには好きな人だけじゃなく、友人や家族にも渡すそうよ。だからこれはあなたの分」

 「私の為に…」

 「ええ、一番最初にあなたに食べて欲しくて」

 「ありがとう姉さん。大事に食べるわ」

 

 姉妹だけの空間に居ずらくなったアインズはそそっとモミの横に移動した。

 

 「…この為にニグレドを引っ張って来たんだ」

 「まぁ、な。しかし良かっただろう」

 「私は面倒事に巻き込まれたから何とも…」

 「贅沢を言えればあそこにルベドも呼べたら良いんだけどな。っと、ぼっちさんこれを」

 

 アインズより同じくラッピングしたクッキーを受け取ったぼっちは指輪を使って転移する。行き先は宝物庫の先にある霊廟…タブラさんを模ったゴーレムの前であった。


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