骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第145話 「ゴーレム」

 人では見る事も出来ない高高度をアルシェ・イーブ・リイル・フルトはマイン・チェルシーを背に掴まらせて飛んでいた。

 

 朝方にケットシー達がアルカードの元へと訪ねて来たのが事の始まりだった。訪ねてきたのはアルゼリア山脈を越えたバハルス帝国境界線ギリギリの位置に存在する地下遺跡で夜な夜な何かを行なっている集団が居るらしいのだ。別にケットシーが調査しても良かったらしいのだが、代表曰く「アルカード領内だから領主に任せとけばいいにゃ」とのことらしい。しかしアルカード伯はある施設の建設に付きっ切りとなっており、別の誰かを向かわせる事になったのだ。クレマンティーヌはバスカヴィルと共に未だ火消しとして王国内を飛び回っている。将軍は領地守護の為に中々動けない。そこでアルシェとマインという訳だ。

 

 マインは歩いてアルゼリア山脈を越えると息巻いていたが、アルシェはさっさと仕事を終わらせて妹達の元に帰りたかったので首根っこを掴んで背に乗せて飛ぶことにしたのだ。

 

 「寒いー!!」

 「…我慢して」

 「そんな事言われても凍りつきそうなんですけど!?」

 「…この程度で?」

 「どんな体温しているんですか!?」

 

 太陽の下を平気で飛んでいるが自分が吸血鬼であることを思い出して納得する。目を細めて地下遺跡があると言われたポイントを見つめると数十人程度の人だかりが出来ていた。さすがに吸血鬼の視力でもこの距離で性別を確認する事は叶わず近くに降りるしかない。

 

 「…降りる」

 「へ?ってきゃあああああああ!!」

 

 背から女の子らしい悲鳴を聞きながら目的地に向けて急降下する。そのままだと地面に激突してしまうので徐々に速度を落として着地体勢に入る。地面にゆっくりと足を付けると背中にくっ付いていたマインが地面に転がってダウンしていた。私も人間だった時はこうなったのだろうと感じながら上から見た集団に目を向ける。

 

 結果を先に言うと人ではなかった。

 

 ゴーレム。土や鉱物などで構成されたモンスターであり、防衛用のガーディアンとしても使用される存在。昔の遺跡などでは防衛用として置かれたりしていたが今の王国や帝国で作れる者が居るという話もないので、そのものを見る事態でレア中のレア事案なのだ。もし作れる者が居るのなら上級貴族以上の待遇で迎えられるのが約束される。

 

 目の前には人形の土色ゴーレムが24体が防衛隊列を整えて見つめていた。姿は軽防具と槍を持った兵士のようだった。警戒されているというより敵として認識されている。

 

 「起きて」

 「うん~…気持ち悪い…」

 「しっかり。前衛は任せるよ」

 「心得た~」

 

 まだフラフラしつつレイルが打った刀を二本抜いて構える。王国で五本の指に入る剣士に前は任せて後衛として力を振るう為に杖を構える。

 

 「行きます!」

 「《ドラゴン・ライトニング》」

 

 

 

 地下へと繋がる祠前に切り刻まれ、感電しながら風穴を開けられ行動不能となったゴーレム24体が横たわっていた。祠の中へ入ったアルシェはマインと並んで進んでいた。二人の前には《サモン・アンデッド》により呼び出されたスケルトン・ウォリアー三体が警戒しつつ前進していた。

 

 二人とも黙っているのは疲れ果ててなどという理由ではなく、警戒に集中する為に黙っているだけだ。二人にとってはアノ程度別段疲れるほどの相手ではなかった。

 

 薄暗い階段では何処からゴーレムが襲ってくるのか解らない。何処から襲ってきても対処できるようにしつつ降りて行くとだだ広い空間に出た。目の前の手すりから先は10メートルぐらいの深さがあった。下を確認する前に手すりの前に並んでいた者に視線を向ける。ひとりは真っ白の医者のような白衣を纏った長身の男性。もうひとりは赤黒いローブを纏った老人だった。

 

 「おんや~誰ですかね?君のお知り合い?」

 「あんな餓鬼の知り合いなど居りませぬが…貴方の部下の方では?」

 「私は独り身で部下など持っておりませんがね~」

 「侵入者という事ですか…」

 「…貴方方は誰ですか?」

 「アルカード様の領内で何をなさっているのですか!!」

 

 アルカードの名を聞いた瞬間、老人は苦々しい顔をして長身の男は「はて?」と首を捻った。

 

 「すみませんね。私は世情に疎いもので」

 「何者ですか?ただの人間には見えませんが…」

 「それはそちらもでしょう。ミディアンさん」

 「―ッ!?」

 

 アルカード伯のアイテムを持っていることからばれる事はないと伝えられたが、あっさりとあの男は見破った。危険すぎる存在…アルカード伯曰くナザリック上位陣なら簡単に見破れるだろうと言っていた事からナザリック上位者にも匹敵する存在なのだろう。向こうもアイテムを使用しているらしく魔力量を伺う事は出来なかった。アルシェの様子からただ事ではないと判断しつつ剣を構え直す。対して男は無防備かつ大仰に白衣を広げ、右手を胸元に当ててお辞儀をした。

 

 「私の名はプロフェッサーと申します。この世界では《博士》と呼ばれております」

 

 深々と頭を下げた博士はニンマリと笑顔を向けて歩き出す。警戒せずに向かって来る様子は不気味で恐ろしかった。最大の警戒を向けている二人の横を通り過ぎて降りてきた階段へと向かって行っていた。

 

 「何処に行こうと言うのですか?まだ話は終わってませんよ」

 「私としてはやる事も済んだので帰りたいのですがね」

 「例の件はいかがなさいますか?」

 「盟主殿に助力致しましょう」

 

 何事も無かったように階段を登り始めた博士は何かを思い出したように手を叩いて振り返る。

 

 「君達はこの場所が大事なようだね?」

 「そうですが何か?」

 「ならあれらをどうにかする事をお勧めするよ」

 

 あれらと言われた者に目を向ける。10メートル下に居たゴーレムを視界に捉えた。上のと同じく兵士の格好をしたゴーレム達。少なくとも120体は居る。その後ろにはジープほどの大きさのナマズに四足と口の上の人の上半身らしき者を取り付けられた化け物ゴーレムが三体並んでいた。

 

 「あそこのゴーレム達は三十秒後にこの入り口を抜けて生ある生き物に襲い掛かるようにプログラムしていますので。では後は任せましたよカジット君」

 「はっ!!畏まりました」

 

 博士が空間に空いた空間に消えて行ったのと同時にゴーレム達が動き始めた。100ものゴーレムがここまで繋がっている階段を駆け上がり、化け物二匹は壁を無理やり登ってこようとしていた。

 

 「《アシッド・ジャベリン》」

 

 カジットより放たれた槍状になった酸をアルシェは羽織っていたマントで防ぐ。多少腕の皮膚が焼けたがこの程度なら5秒もすれば跡すら残らず治るだろう。

 

 「クッ…博士が言われた通りの化け物か…」

 「…そう私は化け物だから躊躇せずに撃てる…《ドラゴン・ライトニング》」

 

 人間に撃てば一撃で殺せる魔法を躊躇無く放つがカジットは左腕で受け止める。左手は電撃によりバチバチと電気が流れているがその表情に苦悶の色はまったく無かった。

 

 「そっちも化け物らしいね…」

 「貴様のような化け物と一緒にするな。この力は博士が私に与えられた人間を超越した力なのだ」

 

 フンと鼻を鳴らしつつ付近を見たカジットは手すりに飛び上がり、登ってこなかった化け物まで跳んだ。手すり近くまで追ったがそこには化け物ゴーレム二体と人型ゴーレムに阻まれ追えなかった。

 

 「私には使命があるのでな!!」

 

 入り口ではなく壁をぶち壊して去って行くカジットを睨みつつ二人は背中合わせで辺りのゴーレムと対峙する。

 

 「…半分は任せても」

 「全部でも構いませんよ」

 「解った…」

 「すみません冗談です。早く済ませましょう」

 

 各々の武器を握り締めゴーレムの群れに突っ込んでいくのであった…。

 


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