骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 新年早々すみませんでした。
 年末に予約投稿して今日までパソコンに触らず過ごしておりまして、予約した日時が『一月三日』が『三月三日』になっていた事に気付かず今日に投稿する事に…。
 申し訳ありません。


特別編24:二度目の正月

 年末はナザリック皆と年越しパーティを行なって、正月はおせち料理に雑煮を全員分作らないとと思っていたのだが料理長にレシピを教えた為に、彼らが作ってくれる事になり暇になったので今年は寝正月を楽しむ事にした。

 

 視界がぼやける。

 

 背中から伝わるベッドの柔らかさを感じながら寝起き眼を擦り辺りを見渡す。

 

 右側にはマーレ、左側にはアウラ、胸板の上にはモミが丸まって寝ている。腰から下は設置したコタツに入っており、程よい温かみに眠気が押し寄せる。瞼が降りるのに抵抗出来ずに静かに寝息を立て始める。

 

 「って、なにしてるでありんすか!!」

 「バタラッ!?」

 

 部屋に駆け込んできたシャルティアの蹴りによってモミが壁まで吹っ飛ばされる。それによりアウラは目を覚ますが、マーレは唸りつつ顔を右腕に擦り付けて眠ろうとする。

 

 「なによ~…ぼっち様が起きちゃうじゃない」

 「なによ~じゃない!何でぼっち様に抱きついて寝ているの!!」

 「その前に何故に私は蹴飛ばされたし」

 

 騒がしくなったことで目が覚めて身体を起こす。マーレが腕から腰に移ってくれたのだが、結局抱き付かれているので動き難いのには変わりないが。起き上がった事でシャルティアとアウラが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 「ぼっち様の睡眠を妨げて申し訳ありませんでした」

 「ありませんでした」

 「・・・シャルティア」

 

 起き上がったもののうつらうつらしながら手招きする。呼ばれたシャルティアは申し訳なさそうにしたまま近付き、お怒りを受ける覚悟はしていた。が、手が届く距離まで近付くと引っ張って胸板に抱きつかせるようにした。

 

 「ぼ、ぼぼぼ、ぼっち様ぁ!?これはいったい…」

 「・・・寒い」

 「はぅっ!?」

 

 胸板を寒さから守っていたモミを失った為に何か温かいものを欲していたのでシャルティアを胸板に押し付けると抱き締めたまま横になる。顔を真っ赤にして恥かしがっているがその表情は幸福そのものだった。アウラはその事に頬を膨らませて羨ましかったが抗議する事無く元の位置に戻って抱きついて寝ようとする。

 

 「まったくもって解せぬ」

 

 理由もなく蹴飛ばされたモミは開いているスペースに入って、置いてあったみかんに手を伸ばした。手に取った一個は剥くがもう一個はぼっちに投げ付けた。直撃したぼっちは再び起き上がって投げられた物を確認して、剥いてひとつを口の中に放り込む。渇いた口や喉にみかんの甘みと酸味が染み渡る。

 

 「・・・おはよう」

 「何度目のおはよう?もう三日目だよ」

 「おう・・・」

 「風呂でも入ってきなよ。寝正月っていっても寝すぎだってばよ」

 

 さっぱりする為にお風呂に向かうのは良いのだがとりあえず話を聞いていたシャルティアには動いてもらい、腕に抱き付いているアウラとマーレを何とかしなければ。そーと、そーと起きないように腕から放して肩までコタツに入れる。起こさずに事を成した事にほっとしながら立ち上がる。

 

 「私もご一緒しても?」

 「・・・え!?」

 「ほほう、シャルティアは男風呂に入るんだ」

 「違うでありんす。それはぼっち様が望まれるなら喜んで入りんすが、痴女紛いの事をして評価を落としたくないので。道中一緒にと言う事よ」

 「なんだ面白くない」

 

 残念そうなモミは置いといて二人で大浴場に向かう。勿論、更衣室前で別れてぼっちは男湯へ向かうわけだが、先客が居たようだ。

 

 柚子が浮かべられた湯にアインズとデミウルゴスが浸かり、ゆずの代わりに氷が浮いている氷風呂にはコキュートスが腕を組んで楽しんでいた。こんな寒い時期に氷風呂とはコキュートスらしいといえばらしいのだが、見ている分には寒すぎるのだが。

 

 「ぼっちさんもひとっ風呂浴びに来たんですか?」

 「・・・(コクン)」

 「ボッチ様、氷風呂ゴ一緒ニ如何デショウカ」

 「この寒い時期に氷風呂に浸かるのは君ぐらいなものだと思うよ」

 「ソウカ…」

 「一緒に飲みませんか?」

 

 さすがに入る気はなかった氷風呂でがっかりしているコキュートスを見ていると入ってやったほうが良いのだろうか?と、考えているとアインズさんが盆に乗って湯の上を漂っている徳利を傾ける。また頷きつつ湯に浸かる前に身体を洗いに洗い場の椅子に腰掛ける。そこには髪を洗い中のセバスが居た。泡で前が見えないために音だけでこちらに顔を向けて立ち上がり深く会釈する。

 

 「・・・続けな・・・さい」

 

 それだけ告げてこちらも洗い始めると短くも力強い返事を返して再び髪を洗い始めた。

 

 

 

 「あら?アルベドも居たのね」

 

 タオル一枚巻いた状態で女性専用の大浴場に一歩踏み出したシャルティアが認識したのはご機嫌なアルベドの姿だった。一瞬大きく育った胸元を見て歯軋りをしそうになったが、この胸の大小など関係ないと前にぼっち様に言われた事を思い出して微笑みながら視線を外した。

 

 ここに居たのはアルベドだけでなくユリにシズ、ナーベラルにソリュシャン、エントマにルプスレギナとプレアデス全員が揃っていた。

 

 「聞いてほしいすよ。さっきからアルベド様が自慢ばかりしてうらやましいんすよ」

 

 『~す』発言を興奮しながら行なうルプスレギナにスパーンと言う叩く音ではなく、飛んで来た桶によりもっと乾いた音が響き渡る。ナーベラルのゴミを見るような視線を受けながら頭を押さえるルプスレギナをユリは首根っこを掴んでいつもの説教を始める。

 

 「正月早々から見慣れた光景をするのね」

 「…鉄板ネタ」

 「まぁそれは置いておいて何があったでありんすかアルベド」

 

 見慣れた光景は気にもせずにアルベドに話を振るとニタリと笑みを浮かべた。聞かないほうが良い類の自慢話になるとは理解しているので、髪を洗いながら聞き流すようにしておこうとしてから声をかけたのだが、自慢したいアルベドはそんな態度気にも留めずに話し出した。

 

 「年末のパーティを終えてからずっとアインズ様の執務室で二人っきり。わたしは――」

 

 話し出した内容は二人っきりでアインズ様を独占していた話題でいっぱいだった。しかもダイジェストのように纏められたものではなく、事細かに話しているのでとても長い。代わりに鮮明にイメージ出来るがイメージした者は羨ましさ倍増といったところか。

 

 「むぅ~…アルベド様ずるいです」

 「二人っきりになりたかったからメイド達も近寄らせなかった訳ですか」

 

 エントマもナーベラルも羨ましそうな視線を向けているが先ほどまでマーレとアウラとモミがぼっち様に抱き付いて眠っていたなんて聞いたらどう思うのだろうか。言ってみたい気もするがもし後で私もと同じ事をされては自分が出来なくなる可能性が高まるので黙っておく事とする。

 

 「そう言えばぼっち様は如何だったのですかシャルティア様」

 

 黙っていようと思った矢先の質問に口だけではなく、身体の動きごと固まった。その様子に話し続けているアルベド以外の視線が突き刺さる。

 

 「な、なにもなかったでありんすよ…」

 

 目をあらぬ方向に泳がしながら、声を震わして誤魔化そうとしても説得力皆無であった。次第に強くなる視線に耐え切れず全てを話してしまうと羨ましい視線を受けて、私も私もと話が進んで行く。

 

 「何で守護者の方ばかり…って何処に行くのかしら」

 「―っ!!ちょっとぼっち様に用事が…」

 「そう言ってユリ姉。ぼっち様と添い寝する気っすね」

 「そ、そそそ、そんな事…」

 「あぁ、それは無理でありんす。今はお隣で身体を温めなさっているでしょうから」

 

 皆の視線が女風呂と男風呂を区切っている壁へと向けられる。そこでまさかアインズ様の悲鳴を聞くことになるとは思わず何事かと皆が一斉に立ち上がって駆け出した。

 

 

 

 仮面を仕舞って髪を洗い始めていると、シャンプーが足りない気がしてもう一回出そうとボトルに手を伸ばすがちょうど空だったようだ。ならば隣のセバスから借りようと…

 

 「ほい、シャンプー」

 「ん・・・助かる」

 

 受け取ったボトルをワンプッシュして液体を出して髪に絡めて泡立てていく。そこで気がついた。誰から今受け取ったのかと。セバスは左隣に居るが右隣には誰も居なかった筈だ。しかもどう考えても男性の声ではなかった。それに気付いた皆も反応したのだろう。

 

 「今のは…な、なにぃいいいい!?」

 「何故オ前ガココニイル!!」

 「だって向こうは自慢話で五月蝿かったし」

 「そんな理由でこちらに来たのですか」

 

 アインズさんの悲鳴のような叫びやコキュートスの怒鳴り声が響くが泡で前が見えないために桶を探すが手に触れない位置にあるのだろう。

 

 「・・・セバス」

 「ハッ!なんでございましょうぼっち様」

 「・・・お湯を・・・頼む」

 「畏まりました。では、おかけ致します」

 

 ゆっくり、丁寧にお湯を頭にかけられて視界を確保できたぼっちは右隣を振り向くとてへっと舌を出して笑う白いスクール水着姿のモミが…。

 

 

 

 「バイアラン!?」

 

 アインズ様の悲鳴が聞こえてタオル一枚巻いただけの姿で飛び出した女性人は、男性用の更衣室に入る前に奇怪な叫び声をあげながら吹っ飛んできたモミを見て殺意を覚えた。男湯から出てきたという事は今入っている至高の御方とご一緒した可能性がある。しかも彼女が入ったことでアインズ様が悲鳴を上げるような事態になったのは明白。

 

 殺気と怒気を撒き散らしながらどうしてやろうかと近付く前にもうひとり男性用の更衣室から現れた。

 

 腰にタオルを巻いただけのぼっちだった。身体も髪の毛ももろに水気を帯びており、雫が身体のラインを伝って行くごとに視線が向かってしまう。

 

 「ぼぼぼぼ、ぼっち様!?」

 

 一番最初に発言したのはナーベラルだった。その一言をキッカケに顔を手で隠したり(指の隙間は開いている)、頭を下げて見すぎて不快に思われないようにそれぞれが動いた。対して気にも留めてないように微笑を浮かべた表情で壁に叩き込まれたモミを蹴り転がす。

 

 「・・・誰か・・・これを」

 「了解しました。ブラックカプセルに叩き込んでおきますね」

 「・・・任せる」

 

 エントマの発言にモミは何ともいえない表情をしてエントマに引き摺られて行く。それを見送る事無く更衣室に戻ろうとするがその前に腰辺りに抱きつかれて身動きが止まる。それはアウラとマーレだった。泣きながら抱きついた二人を慰めるように抱き締めている。

 

 「・・・どうした」

 「ぐずっ…だ、だって起きたらぼっち様が居なくて」

 「あたし達置いていかれたのかと…」

 「大丈夫・・・私は・・・ここにいる」

 

 アウラとマーレが泣いていた理由を聞くと羨ましいという感情は湧かずに、重く受け止めてしまう。自分たちが同じ目にあったら同じ事を思うだろう。

 

 まぁ、シリアスは長く続かずに正月早々良いものを見せてもらったと心に今の光景を刻むのだった。


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