骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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特別編23:隠密作戦

 月が夜空を照らす深夜…。

 

 魔法というものが実在する世界では魔法技術が磨かれる事はあっても、科学技術が磨かれる事がほとんど皆無である。誰も無理をして新たな技術開発するよりも現状存在する技術を進歩・適応させるほう選ぶ。そのほうが資金的に安く、ゼロから行なうよりも断然やり易いからだ。

 

 科学技術が盛んな世界では街灯や建物内の灯りで照らされて、人々はそれぞれ行動していただろう。しかし、魔法では術者に負担がかかり随時照らすだけの力は無い。ゆえにこの世界の住民のほとんどが眠りについている。

 

 月の光を遮る雲より高い位置にある集団が待機していた。

 

 《フライ》の魔法をかけられた絨毯の上にぼっちは腰を降ろしていた。灯りが一切無い町並みを見つめながら共に並ぶマーレとアウラに視線を向ける。二人とも真顔で頷いて絨毯の端による。

 

 「降下地点を確認しました」

 「よ、用意をお願いします」

 

 今日はいつもの真っ赤なスーツ類ではなく真っ黒のロングロートで膝辺りまで隠していた。きっちりとボタンもして中を見せないようにしているようだった。持っていた同じく真っ黒のリックサックを背負う。

 

 「降下一分前です。後部に移動してください」

 

 マーレに指示されるまま立ち上がり絨毯後部へと移動する。先ほど座っていた所と同じく下は雲で隠されているか真っ暗で何も見えない。吸血鬼の種族を持っているぼっちでさえ見えないほど高度を上げているのだ。これなら地上からは何者も肉眼では見る事は叶わないだろう。

 

 『これが記録に残る世界初のHALO降下となる…』

 

 これは幻聴ではなくモミからのメッセージだった。あいつはらりるれろ…『愛国者』を創設したゼロにでもなる気か?

 

 『合衆国日本の建国を…』

 

 それは違うゼロ。左目に傷を負っているおっさんから帝国皇子のイケメンに変わったなオイ。

 

 「降下十秒前」

 「では行ってらっしゃいませ。ぼっち様」

 

 顔を向ける事無く頷いて飛び出す為に足に力を入れる。

 

 『トリィになってこい!幸運を祈る!!』

 

 『鳥』と言うはずの台詞を宇宙空間でもスラスター無しに飛べる子供が作った鳥型ロボットの名を言われて、こけるように足を滑らせるように落ちていった。バランスを崩した為に空中で数回回転するが無理やりにでも向きを固定して大の字で効果して行く。どんどんと地表が近付いてきて目標地点である王城の屋上にコースを取る。

 

 王城は王国の中枢。警備の兵士も常に配備されているが上空の警戒は手薄であった。雲より上空を飛べる生物を確認されてない為、見ていても斜め上であり頭上の確認は行ってない。目視でそれを確認したぼっちは腕と足の間にムササビのような膜を展開して屋上に降り立った。

 

 膝を突かないように両足で踏ん張りつつ、両手はついて体が前に倒れないように支える。少し間を開けて力強く顔を上げるとその眼前に同じポーズでモミが着陸した。

 

 「…待たせたな。ってどうだった?まるでスネー…サイサリス!!」

 

 にへらと笑いつつ振り向いたモミの顔面を何の躊躇いも無く蹴飛ばした。手加減したとはいえ威力が威力だけに行動部を擦りながら滑って行く。

 

 「ノイエ…ジール…」

 

 どう見たって今のはスネークじゃなくてスネークの前に降り立ったシギントじゃねーか!

 

 口に出す事無く心の中だけで突っ込んでコートを脱いで真っ赤な服が姿を現す。リュックサックの中からふさふさの付け髭と真っ赤な三角帽子を取りだして、代わりにコートを仕舞う。

 

 煙を立てた後頭部を擦りながらモミも同様の準備を行なう。ここで一番突っ込むところは何処にモミが居たかなのだが、ぼっちも気にして無いので少し寂しそうだが。

 

 ぼっちはプレゼントの確認をしながらある人の言葉を思い出す。

 

 『よいか孫よ。現代の警備体制は過去に比べたら異常なほど進化しておる。監視カメラや警報機が置いてあるだけでなく自動迎撃システムや警備ロボ、環境の変化で外出するにもガスマスクが必需品となった今では家そのものが厳重になっており、入り込むだけでも大変な事じゃ。

 にも拘らずサンタクロースなるものは煙突から侵入ではなくそんな警備体制を無効化する情報操作!

 人目が合っても気配すら悟られず侵入をこなすステルス技術!

 老人なのに子供達に渡すプレゼントを袋に詰めて運搬できるほど鍛えられた肉体!

 ゆえにわしは断言する!サンタクロースとはオタコンとオールド・スネークの事であると!!』

 

 12月24日の深夜にプレゼントをクリスマスツリーに飾った靴下に入れていたお爺ちゃんが、ダンボールを被ったまま力説してたっけ。

 

 そんな事を思い出しつつ自分の任務を確認する。大人には見付からず王都の子供達にプレゼントを配る。出切れば姿を目撃させてこちらでもサンタクロースの習慣を作ってみようかと思う。来年は別の村か都市で行なう予定だ。

 

 モミと一緒に…いや、モミを片手で抱えたぼっちは侵入した王城廊下の角より様子を窺う。蝋燭に火を灯した兵士が寝ずに警備している。下手にシステム管理にしてない分、人間による警備で意外と難しそうである。が、本気を出せば何とかなるし今回はモミが居る。モミが風系の魔法で蝋燭の火を消した。蝋燭の灯りに目が慣れていたのがいきなりの暗闇でまったく前が見えない。焦りつつ腰のポーチより火を起こすアイテムを取り出そうとする一瞬に《サイレント》の魔法で音を消してゆうゆうと通り過ぎて行く。再び蝋燭に灯りを灯して警備に戻った彼は何も気付かなかったのだろう。

 

 なんだかんだ容易にラナーの寝室前に来たぼっちはドアを開けようとしたがモミにそれを止められる。

 

 「・・・どうした?」

 「…どうしたじゃないよ。女性の部屋に忍び込むって不味いんじゃないの?しかも位の高い人物は特に」

 

 言われて確かにと納得した。女性の寝室に何者かが侵入したなんてことが広がれば。純潔ではないなんて噂が立つ事があるだろう。納得しつつどうしようかと悩む。結果、王城の壁をよじ登って窓の外枠に置いておく事にした。クライムを模した人形を…。

 

 

 

 「私、参上」

 

 王城に侵入した後にぼっちと別行動をとったモミは付け髭で口元を隠した状態でとある屋敷に潜入していた。ここは王都から離れているのだがどうしてもと頼まれたのだ。貴族を纏め上げて、王国議会を仕切ってもらっているレエブン候の屋敷。

 

 使用人は居るようだが夜起きているほど警備は厳重にしている訳ではないらしい。

 

 窓を開けるのに使った針金をボックス内に戻しながら屋敷をうろつく。書斎に夫妻の寝室、調理場と子供部屋が見付からない。首を捻りつつ探しているとある事に思い立った。

 

 「あぁ…まだ幼子だっけ」

 

 まだレエブン候の子供は幼く、ひとり部屋ではなく両親と寝ているのだろう。さっきチラッと確認はしたのだが夫妻しか見えなかった。三人川の字で間に子供が居た為に見えなかったのだろう。

 

 「川の字か…たまにアウラにマーレ、ぼっちさんでやってるらしいけど」

 

 そしてデミウルゴスやシャルティアに怒られるさまを思い出して笑いながら振り向くと目が合った。キョトンとした瞳で興味深々に見つめてくる。身長やあどけない表情から五歳ぐらいの少年…つまりレエブン候の子供と判断。寝巻きのズボンをぎゅっと握り締めた彼は居た位置からトイレから戻ってきたと推測する。トイレは位置だけ見て誰かが居るかは確認してなかった。

 

 「あなただぁれ?どろぼうさん?」

 「…サンタクロースって言うの」

 「さんたくろーすさん?」

 「そうそう。良い子にプレゼントを持って来たんだよ」 

 「ぷれぜんとですか。やったぁ♪」

 

 担いでいた袋から大きめのプレゼント箱を取り出して渡す。にっこりと笑う少年は両手でしっかりと受け取るとすぐさまラッピングしていた紙を解く。中から出てきたのはふわふわもこもこの子供用のコートと懐中時計だった。嬉しそうに取り出したコートを羽織って振り向くとそこにはもうモミの姿は無かった。ぼっちから預かった召喚獣《ペガサス》にトナカイに見えるように角と茶色い毛皮を装備させてそりをローブで繋ぐ。《フライ》の魔法でそりを浮かして飛び立とうとした時に少年に見付かる。

 

 「ありがとお」

 「…メリークリスマス」

 

 呟いて飛び立つ。見送った少年は次の日にこの事を父親であるレエブン候に伝えた。レエブン候は嬉しそうに微笑む最愛の息子を撫でながら良かったでちゅね~と言っていたが、内心は息子の心を奪ったサンタクロースを心の底から憎んだという…。


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