骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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特別編22:ハロウィン

 調理場にぼっちはお菓子の作り方が載せられたレシピ集を眺めながら椅子に腰掛けていた。

 

 『コヒュー…コヒュー…コヒュー…』

 

 足元辺りから空気が抜けるような呼吸音が聞こえてくる。音源である棺桶を見つめるが棺桶内から呼吸音が聞こえるだけで何のアクションも無い。

 

 「・・・作るか」

 

 立ち上がり冷蔵庫から材料を取り出す。今日作るのはキャンディとクッキーだ。大きさや個数を分けるのではなく大量に作る必要がある為のチョイスなのだがキャンディは作ったことが無かったから少し不安だ。

 作る事になった元凶を思い出しながら足元の棺桶に軽い蹴りを入れる。中から「イテッ」と声が聞こえたが気にしない。

 

 

 

 数時間前…

 耳元で奏でられる静かで規則正しい寝息で意識を覚醒させられたぼっちは真っ暗な室内で重たい瞼を開けて目を覚ました。

 索敵スキルを使えば一発で分かるのだが寝惚けている頭はそこまで働かず手を伸ばしてスタンド型の照明を探すが手は何も掴む事無く空ぶってしまう。

 未だに耳元から自分のものではない寝息の方へ顔を向けると穏かな表情で夢の中を彷徨っているであろうマーレの寝顔があった。右腕に身体を擦り付けるように手と足でがっちりロックされていた。左手で頭を撫でてやると「えへへへ」と笑みを浮かべる。

 そこで昨日マーレにお願いして一緒に寝た事を思い出した。

 そろそろベットから起き上がろうとした時ドアが思いっきり開けられた。音に気付いたマーレがアウラが来たと思ったのかバッと飛び起きた。が、入ってきたのはモミだった。

 

 「トリック・オア・トリート」

 「・・・はぁ?」

 

 いきなり言われて意味を理解できずに見つめる。

 

 「トリック・オア・トリート!!」

 

 二度目の言葉でやっと理解した。

 そうか…今日はハロウィンか。お菓子をくれないとイタズラするぞってやつか。

 

 「トリック・オア・トリート!!トリック・オア・トリート!!トリック・オア…」 

 「うるさい!!」

 「エンドラ!?」

 

 なんだトリック・オア・エンドラって。ムサイ級軽巡洋艦の発展型、もしくはイタズラするってもはや意味が分からん。

 後ろから蹴り飛ばされたモミは空中で回転しながらベットの方へ。

 

 「あ、危ない!!」

 「バウッ!!」

 

 ぼっちにぶつかる前にマーレがバットを振るうように杖をフルスイングしてモミを壁まで吹っ飛ばす。それでベットでまた一緒に寝ていた事を視認したアウラはムッと顔を歪める。

 

 「マーレあんたねぇ…」

 「ヒッ!?ご、ごめんなさい」

 「・・・眠い」

 「「ひゃ!?」」

 

 ちょっと騒がしいのが来たが眠気の方が強かった。怒りながら近づいたアウラの肩を右腕で抱き寄せ、マーレを左腕で抱き締めて再び横になる。二人が顔を赤らめてキュっと抱き締め返してくる。このまま睡魔に誘われるまま夢の世界に…

 

 「…寝るなぁ」

 「うぉっ!?」

 

 お腹目掛けてダイブされて目を覚ますしかなく顔を向ける。

 

 「トリック・オア・トリート」

 

 どれだけ必死なんだコイツは!?

 

 「・・・今持ってない」

 「…ならイタズラ」

 「・・・イタズラ?」

 「ナザリック全員にお知らせ済みだったり」

 「・・・分かった」

 

 ベットから起き出してやる事を決める。皆が知っているという事はそれだけお菓子がいるだろう。NPCの皆は子供みたいなものだしね。特にアインズさんは用意しないとヤバイ。主にアルベドのイタズラとか…。

 

 

 

 そんなこんながあってお菓子作りを行なっている。ちなみにアウラとマーレの部屋を出た後すぐにステラにモミがサボっていると伝えたから今頃説教中だろう。

 

 『あの…まだですかね。これ』

 「あ・・・忘れ・・・コホン」

 『今『忘れ』って言いました!?まさか忘れてたんですか!!』

 

 くぐもった声が棺桶内から聞こえてくる。

 あの棺桶の中にはアインズさんが入っている。ナザリック全員分の数を揃えるのは大変なのでアインズさんの型を取ってホワイトチョコで固めようと型作り中なのだ。

 正直に言うと忘れていたが…。

 

 「・・・クッキー」

 『はい?』

 「・・・型抜き中」

 『だから?』

 「・・・待って」

 『良いから出してください!!』

 

 棺桶から出したアインズは肩を回しながら睨むように視線を送ってくる。脱いでいたローブを渡して着替えている内に型の様子を見る。問題なく綺麗に形が出来上がっている。

 

 「では、ホワイトチョコを用意しましょうかね」

 「・・・ん・・・こっちは焼くか」

 

 

 -至高の御方 調理中-

 

 

 三体目にホワイトチョコを流し込んで固まるのを待っているアインズを調理場に残して、出来上がったクッキーとキャンディをそれぞれ袋に詰めて運んで行く。山のようなお菓子の山を通りざまのメイド達が期待の眼差しで見つめてくる。

 専用調理場から一般メイドが食事をとっている食堂に着くとそこには多くのNPCが並んでいた。モミから聞いたのかそれぞれコスプレをしている。

 魔女コスのアルベド、狼男のデミウルゴス、南瓜の殻を被っているコキュートス、化け猫のマーレ、包帯男のアウラとコスプレをしているのは良いのだが吸血鬼が吸血鬼コスをしているのはどうなのだろうかシャルティアよ。

 コスプレ姿を眺めてるばかりではいけないと思い中央までお菓子を載せているカートを押して行く。すると皆が声を合わせて…

 

 「「「「トリック・オア・トリート」」」」

 

 と、叫ぶが中に異質なものが混ざっていた。

 

 「トリック・オア・トリック!!」

 

 『何故ベストを尽くさないのか』

 その『トリック』じゃねーし、それタコの鷹巣の台詞じゃねーかモミ!! 

 

 「じゃあ・・・配るぞ」

 

 ひとりひとり手渡ししても良かったのだが掴んだ袋を上へと放り出す。餌に群がる金魚みたく動くNPC達と反対方向に今度は放る。数はNPCの総数の倍以上作った為にこれでも皆に渡るであろう。力の加減を変えて遠くに投げたり、近場に投げたり、右に左にとお菓子の袋がなくなるまで投げ続けた。

 

 「凄い事になってますね」

 「・・・来ましたか」

 

 召喚したデスナイトにアインズ形のホワイトチョコを乗せたカートを押させながら登場したアインズは奇妙な光景に呆れ顔をぼっちに向けていた。

 

 「皆よ。私からもお菓子を用意した。それぞれ取るがいい」

 

 中央まで運ばれたホワイトチョコにNPC達が集まっていく。手で取るのは不敬かと誰かが言い出し箸でつまんでいく。

 

 「ぼっちさん」

 「・・・ん?」

 「なんでしょうかね。この光景に見覚えがあるんですが」

 「私も・・・」

 「壷を用意したほうがらしいですが縁起でもないですよね」

 「・・・うん」

 

 微妙な思いを抱きつつ二人はその光景を見つめる。けれど喜んでいる皆の表情を眺めているとそんな感情は失せて喜びで満たされた。

 

 

 

 ハロウィンのお菓子配りを終了させたアインズは私室にて休んでいた。

 ふいにコンコンとドアをノックされて視線を向ける。こんな夜中に珍しいなと思いつつドアへと向かう。ベットに入る前ならメイドが付いているのだがベットに入ったら下がるように行ってある為に今は自分しかいない。ゆっくりとドアを開けるとそこに立っていたのは魔女のコスプレのままのアルベドだった。

 

 「どうしたのだこんな時間に」

 「お邪魔でしたか?」

 「いや、そんな事はないが…とりあえず中に入るが良い」

 

 なにか言いたげに俯いているアルベドを不審がっていたがまずは部屋の中に入るように促して中に迎える。執務用の椅子ではなくソファに座り込む。

 

 「それで何用かアルベド」

 「トリック・オア・トリート」

 「ん?それは先ほど…」

 

 先ほどお菓子を渡した筈だがと答えようとしたが未だ俯いていることを気にして止める。もしかしたら手に入る前になくなってしまったのかもしれない。

 

 「すまないな。お菓子を持っていないのだ」

 

 取れなかったのならまた作ってやろうと続ける前にアルベドは顔を上げた。嬉しそうだが少し恥かしそうな表情で…

 

 「では、イタズラですね」

 「え?」

 

 後頭部へと手を回されたアインズは反応する事無くアルベドの方へと引き寄せられ胸の谷間に顔を埋めることに。

 

 「な、なにをする!?」

 「イ、イタズラです///」

 

 内心この状況に喜びつつ、焦り塞がれて居いない左目で辺りを見渡す。いつもの暴走時とは違うようだが今襲われたら不味い。なにかないか探す為だったが扉から除いている視線と目が合った。

 

 「モミ…何している?」

 「記録……終了」

 

 記録用スクロールをしまったのを確認したアルベドを恥かしさで顔を真っ赤にしてそそくさとドアへと駆けて行く。そのまま通路を駆けて行く。

 

 「…じゃあね」

 

 手を振りながら後を追ってモミも居なくなった空間にてアインズはポカーンと口を開いたまま呆然としていた。


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