骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

173 / 233
特別編19:ナザリックでの大運動会:壱

 澄み切った青空と広大な大地が広がるとある階層に階層守護者は勿論一般メイドからポップモンスターまで集まっていた。軍隊見たく隊列を組んで並ぶわけではなく中央に楕円形の白線が書かれておりその周りにそれぞれ仲の良いグループを作って座っていた。

 白線の外側で楕円形の長い直線の中心に野外テントが作られそこに置かれた机の前には数名が腰掛けていた。

 

 「さて、始まりました!第一回ナザリック大運動会~!!実況は仕事は不真面目、趣味は大真面目のシュバリエ・モミ!!で解説は…」

 「よく解りませんがいきなり連れて来られたシュバリエ・ハイネンスです。よろしくお願いします…姉さんが元気なのは良い事なのでしょうが発言に気をつけて下さい。ステラが聖剣を抜こうとしてますから」

 「…あい」

 「今回開かれた大運動会は交流と娯楽を兼ねたものとして至高の御方々により提案されたものです。種目は7つでアインズ様チームとぼっちさんチームで行なわれます。」

 「ようは暇つぶしっしょ?…ファ!?ちょっとステラさん落ちつ…ああああ!!」

 「えーと姉さんが潰れたところで第一種目『借り物競争』を行ないます。参加者は位置に着いて下さい」

 

 テント内で聖剣を振り抜いた一刀を白刃取りで防ぐモミを無視して進行する。

 第一種目『借り物競争』に参加したのはアインズチームよりアインズ・アルベド・セバスを主力とする20名でぼっちチームはマーレ・ルプスレギナ主力の20名の合計40名参加である。

 出番待ちのぼっちは観客席より眺めていたのだが疑問があった。

 運動をするのだから男性陣はジャージ着用なのは分かる。女性陣体操着着用も理解した。しかし何故にブルマなのだ?元凶はあそこでしばかれたモミだろうが…

 内心グッジョブと叫びながら平静を装って始まりを待っていると横に座っていたシャルティアがジャージの裾を引っ張る。

 

 「ぼっち様宜しいでありんすか」

 「・・・?」

 「かりもの競争とは何でしょうか?」

 「読んで・・・字の如く」

 「と言うことは誰が先に相手を狩るゲーム…と言う事ですね」

 

 マジカ!!

 

 『あー…そこのぼっちさん。嬉しそうに刀を取り出して参加しようとするの止めて。狩られたら金貨に対するダメージでか過ぎる』

 「・・・違うのか」

 

 心の底から残念そうに呟くとその場に座る。もちろん刀は収納スペースに戻す。

 

 『借り物競争の説明を行ないます。スタートの合図と共に折りたたんだ紙が散乱している場所から一枚選んでもらいます。そこにそれぞれのお題が記載されております。そのお題を借りるか連れて来てゴールに向かうと言うものです』

 『取ったら返品付加だかんね~。んじゃ合図よろ~』

 

 説明が終了すると開始位置近くにユリとシズが並ぶ。二人は手伝いとして参加する為にメイド服である。ユリは落ち着いた表情で参加者を見渡し位置について居る事を確認する。

 

 「では、よーい…」

 「…ドン」

 

 シズがリボルバーをモミに向けて放つと同時に一斉に駆け出した。

 アインズの前だけ道を塞がぬように大きな道が出来ている為に悠々と歩いているが…

 

 「どうぞアインズ様こちらに」

 「アインズ様はどれにするのですか?」

 「アルベド…それにセバスよ。これは勝負事なのだ。何時までも私の後ろではなく行動せよ」

 「「ハッ!!」」

 

 忠誠心を向けてくれる事にはもう何も言わないがもう少し融通が聞けばなと二人が離れた事を確認すると手前にあった紙に手を伸ばした。

 紙を開く前に駆け出して紙を見て悩んでいる集団より離れた中にマーレが居た事に気付き見つめていると一直線にボッチの元へと向かって行った。手を引いて二人駆けて来る姿はまるで親子だった。

 

 『…一着目はマーレ&ぼっちさん。で、お題の方は何かな?』

 『えーと…さ、最近…』

 『最近?』

 『最近添い寝をした相手…です』

 『はい。条件クリアでマーレ一着おめでとう』

 『君はまたかね?』

 

 マーレの発言を聞いて反応した数名がマーレに詰め寄っている。必死に何かを言っているようだが聞こえはしないしぼっちさんが居るから大丈夫だろう。何かぼっちさんが呟いてヒートアップした気がしたが…

 

 「まぁ、人のことよりまず自分の事だな。私のお題は…」

 

 《シャンバリーレ》

 

 (シャンバリーレってなんだあああ!?)

 

 まったく予想どころか検討も付かないお題に口が外れそうになりそうなぐらい開いた。

 なんだシャンバリーレって。飲み物か?それとも食べ物か?食物なのか無機物なのかさえ解らん!!…あ!パリの大通りか?いや、アレはシャンゼリゼだったか。じゃあ天井に飾ってある奴か!?酒の種類か!?いったい何なんだ!!こうなったらセバスに聞くか。しかしどうやって聞くのだ?「シャンバリーレって何だ?」って聞くのか?もしも皆が知ってて当たり前の物だったら「そんな事も知らないんですね」なんてがっかりされないか?

 頭の中で悩んでいると何かを言いたげにしている事にセバスが気付き姿勢を伸ばして近付く。

 

 「どうなさいましたかアインズ様」

 「い、いや、少し気になってな」

 「これはアインズ様に心配をお掛けしてしまい大変申し訳ありません。されどご安心を。お題自体は難しい物ではありませんので」

 「そ、そうか。ところでセバスよ。シャンバリーレを持っているか?」

 

 自然な流れで言えたぞと内心ガッツポーズを取るアインズであったが返って来た反応は残念なものだった。

 

 「申し訳御座いませんアインズ様。私はシャンバリーレなる物を私は知りません。無知な私をお許しください」

 「良い。私はお前を攻める事はない。持っていればなと思って聞いたまでだ。そこまで気にしては居ない。さぁ、お題を完遂するのだ」

 「畏まりました」

 

 去って行くセバスを見送り思案する。執事であるセバスが知らないと言うことは部屋の中にはない物…掃除道具や衣類の類も消えるな。

 セバスはお題の『デュラハン』であるユリを連れて行き、アルベドはハイネからローブを借りてゴールしていた。すでに参加人数の半分以上がゴールしており、このままでは自分が最後になってしまう。それだけは何としても避けなければ…

 焦りで何度も精神安定が発動する。落ち着かせようと深呼吸を繰り返すがマイクでゴールした者の答え合わせが流れる度に焦りは募っていく。

 

 『次はルプスレギナ・ベータ』

 『はいっす。シャルティア様をお連れしたっす』

 『お題に吸血鬼なんてあったのかい?』

 『私もいきなり連れて来られたのでお題は知らないでありんすよ』

 『お題はこれっす』

 『えーと、ひんにゅ…姉さん…』

 『ひん…ルプスレギナ~』

 『ヤバッ。ここは逃げるっす』

 『おんどりゃ!待たんか~!!』

 

 コントみたいな惨状に見とれてたアインズはハッと自分の状況を思い出してお題を再び見る。

 

 《シャンバリーレ》

 

 駄目だ。検討も付かない…最後の手段と言う事でアインズはぼっちの元へと向かう。さっきからいろいろ借りられているぼっちは何かな?と顔を上げる。

 

 「ぼっちさん。シャンバリーレを貸して貰えないだろうか」

 「・・・ん」

 

 アイテムボックスより豆が付いた草を渡された。何でも良いからそれを持ってゴールに行くとあっさりと合格を貰った。後でぼっちさんに聞くとマメ科の植物でハーブや香辛料として使われるらしい。それにしても果ての無いおつかいにならなくて良かったですねとはどういう意味なのだろう。

 結果的にはぼっちチームが勝ったがアインズは誇らしげだった事にぼっちは首を傾げた。

 

 『第二種目パン食い競争!!』

 『参加者は開始位置へ移動してください』

 

 開始位置には両陣営で10名が並ぶ。その中央にはアインズチームのナーベラル&ソリュシャンとぼっちチームのアウラ&ステラが向かい合う。

 

 「今日はよろしくお願いします」

 「こちらこそよろしく頼む。剣の勝負ではないのが残念だがマスターの為にこの身の全力を持ってお相手しよう」

 「私もモモンさ―じゃなかった。アインズ様の為に」

 「そんなに肩に力入れなくても良いのにさ」

 「ふふふ、ではアウラ様。勝ちに行かせて貰いますわ」

 「勝つのはあたし達だよ」

 

 並んだ事を確認して再びシズがリボルバーで合図を出す。先ほど撃たれたモミは防弾チョッキを着ていたが同じところに六発も撃ち込まれて転げまわっていた。

 

 『いっつー…さぁて第二種目パン食い競争が始まりました。先頭はぼっちーむのアウラだぁ!!』

 『姉さん略さない。さすがいつも魔獣達と駆け回っているだけありますね。ですがナーベラルにソリュシャンも追いつかないにしても早いですね』

 『…で、最後尾は私達の妹と…』

 『あれほど鎧は脱いで来なさいと言ったのに』

 

 実況と解説と名乗った二人は自分達の妹にガクッと肩を落としてため息を付いていた。その間にも先頭を走るアウラは後続との距離を離しつつパンがぶら下げられているバーへと近付く。大人の身長でも跳ばないと届かない距離で子供であるアウラの身長は振りのようだがそれぐらいの高さは階層守護者には何の問題も無かった。力を入れて跳ぼうとする。

 

 『先頭のアウラが到着。さぁてパンを食べることが出来るのか!!』

 『あのパンってぼっち様がわざわざ早朝に起きて焼いていたパンでしたね』

 

 動きが止まった。

 至高の御方が手間をかけて焼いて頂いたパンをマナーを欠いた食べ方で食べても良いものだろうか?案外『・・・お食べ』とか言ってくれそうだが本当にそうかと聞かれれば返答に困る。聞いて確めたいところではあるが観客席に行けばコースアウトで失格。

 悩んでいる内にナーベラルとソリュシャンが追いつくがどちらもアウラと同じく膠着してしまう。

 

 「…どうしよう」

 「跳び付いて咥えてもいいものなんでしょうか?」

 「それは…不敬に当たるのでは。さすがにマナー違反でしょう」

 「だったら手でも使って食べる?」

 「マナー的にはセーフに出来るかも知れませんがルール的にはアウトですね」

 「魔法で取るのもアウト…じゃあどうするのさ」

 

 悩んでいる三人の横を遅れていたステラが跳び出してパンに食らい付いて一口でアンパンを頬張る。着地と同時に高速で咀嚼して飲み込んで勢いよく振り返る。

 

 「早く食べなければ冷めてしまいますよ!!」

 

 そのまま走り去っていくステラに対して参加者も観客のほとんどがポカーンと口を開けて呆けていた。モミとぼっちは頭を抱えていたが…

 結果はステラが一人ゴールした。パンはぼっちが降ろして三人がマナーを守って食しました。

 

 『えー…現在ぼっちさんが焼いたパンを盗んだ罪で連れて行かれた姉の変わりにアインズ様を御呼びしております』

 『よろしく頼む』

 『こちらこそ宜しくお願いいたします。では次の競技は二人三脚です』

 『チーム関係無しのランダムか。どんな組み合わせになるかな』

 『組み合わせによっては不利ですからね。身長差や体格差が激しい組み合わせも出来るでしょうし』

 『その点ぼっちさんは有利だな。変身型スライムで姿を変えれるのだからな』

 『ただそのぼっち様は用事があると言われて二人三脚には参加していないんですが』

 

 組み合わせを決める為にくじ引きを引く。早く引いた者が色別に別れてすでに走り始めている。この競技は参加者がほとんど自分で決めてやる為に実況や解説、お手伝いであるユリとシズも暇なのである。開始の合図に吊るされたモミにショットガンブッパしたシズはジュースを飲みながら観戦する。

 

 「やはりあのチームは安定しているわね」

 「…どれ?」

 「ほらあそこのデミウルゴス様とコキュートス様の」

 「本当…息がぴったり」

 「アウラ様とマーレ様が組んでいらっしゃるけれども息はバラバラね」

 「マーレ様。頑張ったらぼっち様に褒めてもらえるっすよ~」

 「あ…早くなった」

 「ルプスレギナ勝手に…はぁ…あとでお仕置きね」

 

 横にあった籠から二本目のドリンクを取り出してストローを口に咥える。それを呆れた顔で見られたが気にしない。

 チームは赤・青・緑・黄色と分かれており現在トップは赤で二位が青。特に青は出だしのデミウルゴス&コキュートスペアの走りが良かったせいもありまだ余裕がある。三位と四位の緑と黄色は周回遅れだ。勝負自体が目的ではないから楽しめれば良いのだが…

 

 「あれ緑がラスト?」

 「数が合わなかったのね。えーとあれはセバス様とステラ様ね。私的には優勝して欲しいところだけれども二週するのはさすがにアイテムが無いと疲れるわね。」

 「凄く息ぴったり…ルプーが抜かれた」

 「これってもしかして…」

 

 鎧を脱ぎ去ったステラとセバスのコンビが猛スピードで抜いていき周回遅れを取り戻していく。ちなみに疲労を無視するアイテムなどは現在外している。ゆえに体力に限界があるのだ。あの二人はペース配分ガン無視の全力疾走しているのだ。

 

 「周回遅れを取り戻したどころか追い抜いた…」

 「でも赤組ラストのアルベド様とシャルティア様が距離を縮めているわ」

 

 淑女、と言うか女性がしていい表情はしていない二人が雄叫びを発するステラと甲高い奇声を上げて爆走するセバスに追いつこうとする。あんなセバス様は始めて見た。

 奇声の甲斐もあってか何とか一着でゴールした。汗だくで肩で息をする二人だが騎士と執事の意地か膝を付く事無く着替えを取りに戻って行った。

 

 弐へ続く…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。