今回の主体はアウラで…
とある一室に9名の女性が集まっていた。
これは守護者統括アルベドがこの前に起こったことを整理するために行う会議である。
参加者は守護者統括のアルベドにシャルティア、プレアデスのユリにナーベラル、エントマにシズ、ソリュシャンにルプスレギナ。そしてあたし、アウラ・ベラ・フィオーラの9人である。
テーブルの上には所狭しにお菓子や料理が並んでいる。
これは会議と言うか女子会じゃないって突っ込みたくなるけれども代わりに資料が並べられるよりかは良いのであたしは突っ込まない。そう思いながらケーキに手を伸ばす。
「では、始めましょうか。ユリ、お願い」
アルベドの言葉で会議が始まった。この前起こった報告を指名されたユリが語り始める。
「はい。ボク、いえ私から報告させていただきます。今回の議題はモモンガ様とぼっち様の件です」
と言うのもこのナザリックが転移した初日に至高のお二人が姿を消されたのだ。
正確には姿を消したのでじゃなく、誰にも告げずに出歩いたのだ。至高の御方なのだから許される件なのだが、現在ナザリックは非常事態として警戒レベルを上げている。上げていなくとももしものことを考えるとあたしたちとしては心配でならない。もし残られたお二人に何かがあれば……考えたくない物事が込み上げてくる。
「まずはモモンガ様の報告ですが、ナーベラルに一人で極秘で行いたいことがあると単独で第一階層にてデミウルゴス様と合流。その後マーレ様のもとへと陣中見舞いへと向かわれました。その際にマーレ様にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを褒美としてお渡しになられました」
視界にうっとりとした状態で指輪を撫でるアルベドが入った。
マーレは褒美としてだがアルベドは統括守護者の立場上必要という理由で頂いたのだ。本当に羨ましくて堪らなかった。
その逆に落ち込んでいるナーベラルにも目がいく。後でユリにしっかりと叱られたらしいのだ…
そんな思いを抱いていると皆の視線が集まっていた。
「アウラ様、いかがなされました?」
「うん?えーと、なんだっけ」
考え事をしていて話を聞いていなかった。いけない、ちゃんとしないと…
「いえ、マーレ様は頂いた後はどうなさっているのですか?」
ユリの言いたい事を理解した。視線の先のアルベドを確認したからだ。
モモンガ様から褒美を頂いて気持ちは分かるが統括守護者があの状態では不味いだろう…
「マーレも最初はアルベドと同じ状態だったよ」
「?『最初は』というのは……」
「ああ、気にしないで」
「???」
まあ、あんなこと言われればああなると思う。ぼっち様が言われたように「…そっとしておこう」
「さすがは慈悲深き我らがモモンガ様でありんすね」
「そうなのよね。モモンガ様は支配者の器だけではなく…」
シャルティアとアルベドのモモンガ様談義が始まった。あたしもモモンガ様がどれだけすばらしいかは理解している。けれどもそんな話を出すと長くなることに気付けばいいのにシャルティアも…結果的に…いや、必然的に話が逸れる。
二人の会話を中断させるように部屋に机を叩く音が響いた。音源はユリだった。
「話を戻させて頂きます。では次にぼっち様の報告をシズ、お願いね」
「うん、わかった……」
今度はシズが立ち上がった。
シズはぼっち様の御付きとして働いている。ここにシズが居るのは現在ぼっち様がモモンガ様の側で待機しているに他ならない。御付きとしてセバスが居るから大丈夫だろう。
「ぼっち様は隠密で行動すると仰り…第九階層から第一階層まで走破……誰にも気付かれずに…」
内容を知っているあたしとアルベドは良いとして他は驚いていた。何せ来られた事すら知らないのだから…
「あら、言ってない事があるのでは?シズ」
ユリが意地悪そうに笑っている。
言えばどんな反応が返ってくるのかを理解しているのだろう。
「…ずっと…ぼっち様に抱えられた…ままで…」
「なんすか、それ!」
「ブー、シズだけずるいー」
「抱えられてとは、ま、まさか抱きかかえられてでありんすか!?」
「な、なんと羨ましい…」
ほら一斉に嫉妬の集中砲火だよ。まあ、これがモモンガ様だったらアルベドも参戦していたんだろうな…
シズは表情がいつもは読めにくいんだけど雰囲気ですっごい照れているのがわかる。
「アウラ様とマーレ様しか気付けなかった…」
必死に考え話題を変えたかったんだなあ。って言うかあれは気付いたのではなくぼっち様から声をかけられたのだ。
「お疲れ様、マーレ」
「お姉ちゃん、ただいま」
ナザリックの隠蔽が終わり帰ってきた弟に対して労いの言葉をかけた。
モモンガ様の指名されたうえでの重大なお仕事。「あたしも至高の御方の為に働きたいなあ」と呟くと同時にマーレの指にはまっているアイテムに目が留まった。
「ちょ、マーレ!それってもしかして」
「う、うん。モモンガ様が褒美にって…」
直接の指名に大きな仕事を任され褒美までって…
「えへへへへへへ」
本当に嬉しそうなんだから…羨ましい…いつか私も…
「・・・・・・その指輪・・・」
「ふわあ!?」
「ひゃ!?」
声をかけられ振り向くとぼっち様が不思議そうに首を傾げながらマーレの指輪を見つめていた。
…さっきのマーレのように嬉しそうな表情をしているシズを抱えたまま…
ぼっち様は依然と気配を感じさせることなく首を傾げている。索敵が得意な者達が近くに居るのに誰一人気付いていなかった。本当にそこに存在しているのかを疑いたくなるぐらいに。
「あ、あのモモンガ様に…」
ぼっち様の言葉を理解したのかマーレが言葉は足りないが説明をし始めた。その一言で理解したのかコクンと頷いた。
「・・・・・・婚約指輪か?」
「こ、こ、こ」
「婚約指輪!?」
いきなりのその発言で三人が驚愕した。モモンガ様とマーレが!?
ぼっち様が薬指を指差しながら
「・・・薬指に指輪はそういう意味では?」
知らなかったのだろうか、マーレの顔が見る見る赤くなってきた。挙句にはシズにおめでとうと言われる始末。
「え、いや、そうでは無くてですね……モモンガ様も薬指に…」
「・・・モモンガさんは右薬指だから心の安定、安心感を高める・恋をかなえる・想像力・インスピレーションを高めるなどの意味を持つ」
すらすらと出てくる説明の言葉に三人が感心して聞いているとぼっち様はそのまま言葉を続けた。
「ちなみにモモンガさんは左薬指だけには指輪ははめていない・・・左薬指は愛の進展、絆、婚約などの意味を持つが一般的には婚約もしくは結婚が知られているがね」
感心して顔色が戻ったマーレが再び赤くする。
そこでぼっち様の指を見る。5個の指輪をつけられていた。
「ぼ、ぼっち様はどういう意味でつけられているので?」
すっとシズを降ろすと右手を前に突き出した。
「親指は指導力の向上・行動力の持続。人差し指は集中力・執着力・行動力・夢の実現。中指は邪気を払う行動力・直感力を高め、迅速さを発揮」
右手の指輪を言い終わると今度は左手を前に出した。
「左手中指は協調性・人間関係改善で薬指は絆という意味でつけている」
本当に感心する。何も迷うことなくスラスラと「いろんなことを知っておられるんだな」と。
「さすがぼっち様…博識」
「知識量もすごいんですね!」
何の反応も示すことなくぼっち様は再びシズを脇に抱え消えた。何事もなかった…いや、何者も居なかったように…
ふとあたしはぼっち様が最後に言われた言葉を口に出していた。
「ぼっち様が仰ってたんだけれど右手中指の指輪には恋人募集中の意味もあるんだって」
なぜこんな一言を言ってしまったのだろう。
アルベドの中でくすぶっていた火にガソリンを投下してしまった。
「なんですって」と大声で部屋を飛び出していった。たぶんモモンガ様のところへ向かったのだろう。
失礼があってはいけないと思い廊下に出るとセバスと話していた。二人ともその顔は真剣だった為、何かが起こったことは確かだろう。シャルティアとプレアデスを呼び向かっていく。
会議が始まる一時間前
俺は人生最大と思われる危機から生還して部屋で一息入れていた。最大の敵は身内だったとは……
想像してみてよ。
あの物静かで優しげな視線を向けてくる老執事であるセバスが俺の部屋の前で仁王立ちして待ってるんだよ。
スキルはなかったはずなのに何か絶望のオーラみたいなのが見えてくるし、何より笑っているんだもん。こらあかんわって思いましたよ。
始まったのは説教だった。
もしものことがあったらとかいう内容だった気がする。良かった体罰系だったらぼっち速攻で泣いちゃうもん…
そしてシズには本当に感謝したなあ。
俺らが通った道のりを全部覚えてるんだもん。
そのおかげで「これは!?すぐにアルベド様とデミウルゴス様にご報告いたします」と最後には逆に謝られるし、アルベドとデミウルゴスも来て「我々のミスをお許しください」ときたもんだ…俺はミスを指摘した小姑か何かか?いや、それとさすがは至高なる存在と褒め称えるのもやめて。
見られたくないから見つめて欲しいって意味のある左人差し指と自己アピールの右手小指に指輪をしてないのに!
なんにしてもシズ、ナイスです。思わず「百万年無税」って言いそうだったよ。
あとはモモンガさんと合流してシズを会議に送り出して休もう。
そういえばあんなに喋れるとはな……。指輪をはめるんならと調べてて良かった。けれどもう今日は喋らない。アレで一生分は喋っただろう……もう、ゴールしてもいいよね…
カルネ村到着まであと二話ほど