骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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特別編12:デミウルゴスの思い

 「ふぅ…」

 

 夜間の周辺警備から帰ってきたデミウルゴスは蛙の頭に蝙蝠の羽に変化させていた身体をいつもの姿に戻しつつ溜め息をつく。

 別にこの仕事が嫌と言う訳でついた訳ではない。そもそも至高の御方から承った仕事に不服・不満を持つ者など生きる価値もない。

 では何の溜め息かと言うと自分自身の不甲斐無さである。

 デミウルゴスは攻撃力や防御力、魔法や索敵などに特化している訳ではない。最も秀でているのはその頭脳であろう。ナザリックでもトップクラスに入る頭脳の持ち主は至高の御方を除けばアルベド、パンドラズ・アクター、そして私の三人である。しかしながらその頭脳を現在は活かせる状態ではないのだ。本来なら外に出て多くの実験を行なう予定だったのだがそのほとんどを第11階層が起動した事で白紙になってしまい、残りの実験はとうの昔に終了してしまったのだ。で今は待機か持ち場と付近の見回りである。

 ふと、自分の服装に目がいった。少し注意散漫だったらしいく乱れが生じていた。目に見える範囲を見苦しくない程度に急ぎつつ直していく。この様子だと…急ぎ近くの鏡のある場所まで移動する。やはりと言うかなんと言うか髪も乱れていた。いや、乱れているというよりは伸びていたが正しいだろう。

 

 「こんな姿を至高の御方に見せる訳には…!?」

 

 多少とは言えこのように乱れた姿を見られる訳にはいかないと呟きながら直そうとした時、鏡に写った背後に立つぼっち様と目があった。

 すっと自然に伸ばされた右手が髪に触れられた。

 

 「・・・少し伸びてるな」

 「!!申し訳ありません!このようにお見苦しい所を…すぐになお…」

 「・・・少し良いか?」

 

 身嗜みが直せないままぼっち様に連れられて私室まで誘われていく。部屋に入ると片付けられている室内を突っ切り洗面台まで移動する。そこで洗面台の付近に配置されたアイテムボックスより椅子と大きい布などを取り出し無言で設置し始めた。手伝いましょうと申し出るものの断られてしまいただ立ち尽くす自分を情けなく思う。

 

 「・・・(ヒョイヒョイ)」

 

 手招きをされて近づくとそのまま席に座るようにジェスチャーで伝えられる。一瞬躊躇われたが断るのも失礼と思って席につく。席につくと首にタオルをかけられ、その上から顔より下を隠すようにケープをかけられる。思いもしなかった事態にさすがに途惑ってしまう。

 

 「ぼ、ぼっち様コレはいったい?」

 「?・・・散髪・・・眼鏡取るぞ?」

 

 まさかこんな事態になるとは思わなかった。自分の不甲斐なさを感じていたはずなのにこのような事で至高の御方のお手を煩わせて仕舞うとは…

 そんな事を思っている中に眼鏡を外され、髪にシュッ、シュッと霧吹きで少し湿気を与えられる。続いてゆっくりと髪がはさみで切られていく音が耳に入ってくる。

 

 「・・・」

 「………」

 

 無言の時が流れていく。今は何を話せば良いのか分からなかった。ぼっち様とは何度も話した事がある。しかしそれらは仕事の合間に話しかけられた物で自分から話しかけた物ではなかった。とういか未だに知らないのだ。どんな趣味を持ち、何が好きで…それにぼっち様は静かな時を過ごす事が多い為に今話しかけて良いのか分からないという二重苦を味わっている。

 当の本人は必死に話題を考えていたのである。もしくは何か話題をくれ!!と心の中だけで懇願していたのであった。

 それからしばらくの沈黙の間があったがデミウルゴスが口を開いた。

 

 「私は…私はナザリックの、至高の御方の役に立っているでしょうか?」

 

 沈黙の間にそんな想いがぐるぐると頭の中を巡った結果、口から出たのはそんな言葉だった。

 ぼっちの手が止まり、再び真剣に耳を傾けてきた。その間にデミウルゴスは先ほどから胸中の中に溜め込んでいた気持ちを洗いざらい吐いてしまった。鏡越しではあるがぼっち様は真剣な眼差しでデミウルゴスの瞳を見つめている。

 話し終わると一度頷き、白い面を外して口を開いた。

 

 「自分で自分が何をやっているか、実は分かっていないんじゃない?」

 「!?」

 

 いつもと違う感じで喋られるぼっち様に困惑しながらお言葉を待つ。

 

 「攻撃力はシャルティアに劣り、防御力はアルベドに劣り、魔法ではマーレに劣り・・・生き物別でも固体固体でも向き不向きがある」

 「その通りでございます」

 「確かにデミウルゴスの言う通りで頭脳だけで言えばアルベドやパンドラズ・アクターも居る。でもナザリックや私達には君が必要なんだ。それは皆にも言えることだがね」

 「私が?」

 「・・・(コクン)。デミウルゴスは三人の中で一番冷静で時には何かを捨ててでも何かを得る事も知っている。私はナザリック内で指揮官として、参謀としてこれほど頼りになる者は居ないと確信している」

 「そこまで私を評価され感謝の極みでございます」

 「そんなデミウルゴスがこのナザリックに控えていてくれているという事だけでも私やアインズさんには大きな安心感を抱いている事もある。だが、その一方でそんなに思い悩んでいる事に気付けないとは私は私が情けないな…」

 「そんな!?ぼっち様は…」

 「ゆえにだ。明日から別の任務を頼みたい。良いかな?」

 「!!…畏まりました。私の命何なりとお使いください」

 

 そこまで話すと再び白い面を付けたぼっち様ははさみで髪を切り始めた。今までそこまで気にしてなかったが一定の間隔を空けて髪を切られる音が心地よく聞こえてきた。先ほどとは違うと確信できた。それほど自分は思いつめていたのかと思いつつその後のシャンプーとドライヤーが済むまでその身を預けたままだった。

 髪が乾き終えるとコーヒーをぼっち様が淹れて下さった。それを受け取り、ゆっくりと口に含んだ。程よい苦味が口の中に広がっていく。

 

 「大概の問題は、コーヒー一杯飲んでいる間に心の中で解決するものだ」

 

 その言葉と先ほどの言葉を心に刻みつつ、ゆっくりとコーヒーを味わった。ぼっち様と一緒に飲む間の沈黙が心地よく感じた。

 飲み終わって部屋から出て行く際に

 

 「疲れたとき、悩んだとき そして、つらいとき、苦しいとき・・・・ また、いらっしゃい 私はいつだってここにいるから」

 

 微笑みながら大きく頷きデミウルゴスは歩き出した。その瞳はいつも以上に力強く、輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 早朝

 

 「マーレ!あんた何時まで寝てんのよ」

 

 アウラはいつも通りに自宅の階段を上がる。毎日の習慣となってしまったマーレを起こす為に床をどす、どすと踏み締めながら部屋の扉を開ける。扉を開けると中から冷気が広がっていく。最初のうちはこれも注意していたのだが今では寝ているかどうかの確認に使っている。結果は寝ているで確定だった。どうせ揺らしても『あと五分…』と延長を言ってくるだろう。聞く気はないが…

 ベットまで近づき布団を半分ほど剥いだ。思考が停止した。

 そこにはマーレが居た。

 マーレが居るのは当たり前なのだがおかしいのだ。

 自分と同じ身長だったマーレが今は165前後まで伸びているのだ。それだけではない。艶やかな金色の髪は腰の辺りまで伸びており、触ったら指に絡む事無く梳けるぐらいなのが見て分かる。その綺麗に整った顔に髪を見ていたら女性のように思える。もちろん胸は無い。パジャマとして着ている黄緑色の服がダークエルフ特有の褐色の肌を際立たせている。

 

 「う~ん…」

 

 布団を半分剥ぎ取られ寒かったのか、唸りながら寝返りをうった。

 服のボタンに余裕があり、寝返りをうつ度に服が肌蹴ていく。凝視していた視線を元に戻す。冷静になる為に大きく深呼吸する。

 情報を整理しよう。朝、マーレを起こしに来たら成長していた……いや、どう考えてもぼっち様だよね?

 すぐに正解に辿り着いたアウラは目的だったマーレを探し始めた。マーレは剥ぎ取られてない残り半分で寝ていた。ため息を付きつつマーレを起こそうと手を伸ばすと…

 

 「・・・寒い」

 「っ//////!!」

 

 抱きしめられた。

 この寒い部屋で布団を剥いだ為に温かい物を無意識ながら欲していたのだろう。だからアウラが捕縛されてしまったのだ。ぎゅうと抱きしめられ身動きが取れないだけではなく、大人なマーレの姿をしているとは言えぼっち様に抱きしめられていると分かってしまったらドキドキで動けなくなっていた。

 

 「・・・温かい」

 

 そのまま永遠に過ぎればいいのにと言うアウラの想いは寒さで起きたマーレが現状を把握した瞬間に瓦解したのであった。 




 変身型スライム種はパンドラズ・アクターのドッペルゲンガーの変身と違い、姿形のみの変身となる為に能力コピーは出来ない。その代わりに人にも物にも変身できるのである。
 ちなみに気配や匂いはぼっちのスキルで再現している。

 次回から本編に戻りまーす。

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