3月3日
日本で行なわれる行事の一つ『ひな祭り』
女の子の成長を祈り、雛人形を飾り、白酒や寿司を食べたり、雛あられや菱餅を備えたりする物である。
この行事に関してぼっちは今まで関わった記憶はない。娘も妹も居なかったから当然といえよう。ゆえに上記に書かれた事しか知らないのだ。
それにナザリックで女の子と言ったらアウラだけであった。女の子だったらシャルティアもと思うかも知れないが「シャルティアは女の子が良い?それとも大人の女性が良い?」と問うたら「私は大人のレディでありんす」と言った為に除外されたのだ。後から何の話かをするととても残念そうな顔をしていたが…
とりあえず今はひな祭りの準備をしているのだ。
「・・・・・・・・・」
「…………」
黙々と作業を行なう者がここに二人居た。
小さな人形用の服を縫っていくアルベドと人形を作っていくぼっちだった。
いろいろとぬす…コホン、拝借してきたぼっちだったが雛人形は持っていなかったのである。だから最初から作ることとなり裁縫が得意なアルベドに手伝ってもらっているのだ。
しかし二人とも共通の話題を持っておらず沈黙のまま作業を始めてかれこれ二時間になる。
「服縫い終わりました」
二時間経ってアルベドが喋ったのはこの一言であった。
コクンと頷き服を受け取り着替えさせていく。素早く着替えさせた二体を渡す。
「・・・これを一番上に置いて・・・並べて」
「はい。分かりまし…たぁ!?」
礼儀正しく落ち着いていたアルベドが変な声を上げた。先ほど渡した男雛と女雛を手に息を荒くして震えている。
「ぼぼぼぼ、ぼっち様!これはもしや私とアインズ様では!?」
「・・・・・・(コクン)」
「あぁ、私とアインズ様が並んで…」
どこか遠くへ意識が飛んで行ったアルベドを余所に次々と服を着せていく。
この雛人形達は現在のナザリックメンバーを模して作っているのである。
「ぼっちさん作業の具合は……何をしているのだアルベド?」
「・・・そっとしておこう」
「……そう…ですね」
暴走したままの守護者統括をスルーしてアインズは雛人形を見る。
「ほぉ。ナザリックの皆がモデルですか」
「・・・(コクン)」
「もしかして私のもあるんでしょうか?」
「・・・(指差し)」
「あ、察し…あー、アルベド?アルベド!」
「は、はい!あ、アインズ様!!これは失礼を…」
やっと妄想の世界から帰ってきたアルベドにアインズが軽く注意している。っと眺めてる場合じゃなかった。まだ他にも用意することは多々あるのだ。
席を立ち「・・・ここは任せます」と告げ部屋を後にする。
歩きながら用意すべき物を考える。
寿司の準備はプレアデス達が。
白酒はコキュートスが取りに行ってくれている。
会場の用意はデミウルゴスが…
あれ?ぼっちする事がない。
何かしなければと出てきたのだが実際はない事にどうしようと悩んでいると声が聞こえてきた。
「何してるでありんすか!?」
「だってこうでしょ!?」
「……二人とも落ち着いて…」
なにやら騒がしく慌しいと思いつつ扉をノックして開ける。普通は声をかけるのだがナザリック内でノックして声をかけないのはぼっちであると常識化している為、中に居る者はすぐさまぼっちと理解したであろう。
声をかけなかった事を後悔した。
普通に振り返ったシャルティア。
不機嫌そうにこちらを見つめてくるモミ。
何の反応も出来ず目が合うアウラ。
帯は解け、胸元の着物がはだけ、足を隠す為の布地がまとまっておらず幼くも艶やかな生足が布地から覗いていた。
見る見るうちに赤く染まっていき、悲鳴を上げる瞬間
「なにやってんの!!」
先にモミが叫び何かを投げつけてきた。慌てつつ回避してそのまま扉を閉める。部屋の中ではアウラの悲鳴のような物が聞こえてきた。自分の顔も赤くなっているのを感じる。アニメで見ていたラッキースケベってのは心臓に悪いことを認識し辺りを見渡す。悲鳴を聞いてきたマーレと目が合った。こっちにおいでと手で合図を送り近づかせる。近づいた所でマーレの頭を撫で回し自分の心が落ち着くまで撫で続けた。
10分後
別に待つ必要なかったのだが心が落ち着くのとアウラに謝る為にここに居る。
キィィィ…とゆっくりと扉が開く音がした。現れたのは赤と白の着物を身に着けたアウラだった。
二人とも先ほどの光景を思い出し膠着する。
少し間を空けて何か喋らないとと口を開く。
「綺麗だな・・・」
「ッ!?そ、そうですか///」
ここには5人居るはずなのに二人だけの世界に入っているぼっちとアウラに頬を膨らませるシャルティアはモミに目をやった。こちらからではよく見えないがマーレに何かしているようだった。
「何してるでありんすか?」
「いやぁ…幸せそうだなぁ~と思って」
「?……!?どうしたんでありんすかマーレ!」
突如の叫び声に振り返るとマーレが「えへへへ。えへへへへへ」とふやけた笑いを浮かべつつゆらりゆらりと揺れていた。
「ちょ、大丈夫なの」
「あ~?お姉ちゃん…大丈夫だよ~」
「…駄目だこりゃ…」
「何があったでありんすかえ」
「・・・撫ですぎたか?」
この発言よりぼっちは5分を超える撫で撫でを禁止されたのである。解せぬ…
会場では雛壇がセットされ雛あられや白酒が持ち込まれていた。
アインズもアルベドもこちらに移動してきており主役であるアウラ待ちであった。
「あら?やっと来たのね」
「お待たせしました。アインズ様」
「うむ。よく似合っているぞアウラ」
慣れていない手付きでアウラを撫でるアインズを見ていると
「…羨ましいと思ってたり」
心を読まれた!?何時の間にサトリの能力まで得たし!
そんな事を思っていると杯を差し出された。
「ドウゾボッチ様」
「・・・ありがとうコキュートス」
「イエ」
手には白酒を持ちアウラを囲むように皆が集まる。
「ではひな祭りを始めようか」
「はい!」
作法は間違っていると思うが乾杯をして酒を飲み干す。そこで気になっていたであろうデミウルゴスが口を開いた。
「ところで…マーレはどうしたんだい?」
「えへへへへへへ…」
「先ほどから笑ってばかりで反応がないのだが…」
「確カニ様子ガオカシイ」
「気にしないであげんなまし」
「…そうそうぼっち様が撫で続けた結果だから」
「なんと!?(ナント!?)」
「頭を撫でられ続ける!?アインズ様!私の頭を撫でてもらえませんか!?」
「落ち着けアルベド!頭をこすり付けるな!!」
いつも通りの光景をため息を付きつつ眺めるアウラはぼっちの隣に立った。
微笑を向けてくるぼっちを見て微笑みを返すように見つめる。
そっと手が頭へと添えられる。優しく包むように撫でられていく。
心地よい温かさで心が満たされて行く。今日はあたしが主役なのだから我侭聞いてもらえるのだろうか?あとで言ってみよう。何が良いかな?マーレが良かったんだから添い寝とか頼んでみようかな。
この後の事に心躍らせつつアウラはこのひと時を楽しんでいた。
「あれ?そういえばお寿司がないような…」
アインズの言う通り、ここには寿司がなかったのである。その言葉を聞いたぼっちがプレアデスが居る方向を振り返った。
「・・・ルプスレギナ」
「がってんっす!」すぱーん
呼びかけに勢いよく答えたルプスレギナは勢いよくナーベラルに頭を叩かれた。
「なにするっすか!?」
「あたりまえでしょ?至高の御方々の前で…」
「こちらで宜しかったですよね」
「あー!!ユリ姉、それ私の仕事っすよ!!」
ルプスレギナがナーベラルに抗議している間にユリが頼まれた物を運んできたのだ。
運んできたユリは少し頬を染めて
「そのぉ…僕も撫でてほしいのですが…」
緊張していたのかいつもの訂正が入らずにおねだりしてきた。
それに続くようにエントマとシズ、ソリュシャンが次々に持ってくる。
「・・・後で」と告げると上着を脱ぎシャツの袖を捲る。持って来てもらった水入りの桶で手を湿らす。
「・・・ではアウラ何がいい?」
何かは知らないがぼっち自ら作る料理に目を輝かせるアウラと羨む周りの中、アインズ一人が首を傾げていた。
「ぼっちさん、ぼっちさん」
「・・・何?」
「なんで握り寿司なんですか?」
「?・・・・・・寿司って」
「寿司は寿司ですけど確かちらし寿司ではなかったでしたっけ?」
「・・・・・・そう?」
「ええ、確かですけど…」
曖昧なまま寿司を握っていくぼっちは次回があるなら次までには調べておこうと心に決めたのである。
ちなみにアウラはぼっち独り占めの添い寝でぐっすりと眠ったと言う。
次回には戦を開始しようと思います