チェリオは滑れないけどな!!
「・・・寒い」
ぼっちは雪山の頂上でそう呟いた。
現在ぼっち達はコキュートスが担当するナザリック第5階層「氷河」に属性耐性を解除して来ている。
皆スキーウェアにそれぞれの道具を持っている。
いつものローブではなくスキーウェアを着ているアインズがゆっくりと近づいてくる。
「寒いってぼっちさんが言い出したんですよ」
「…ぼっち様が言うから寒いのに出てきたのに…」
「貴方はなぜ雪蔵の中でコタツを使用しているのですか?それとぼっち様に対して無礼でしょう」
ここに居るのはぼっち、アインズ、アルベド、デミウルゴス、アウラ、マーレがスキー板もしくはボードを持っている。その近くでかまくらの中でコタツで温まってるモミ。ちなみに装備はジャージと布団…そして…
「あのー…何でコキュートスさんとステラさんはこんな所で斬り合いをしているのでしょうか?」
「・・・?」
少し離れた場所でマーレが言うようにステラとコキュートスが斬り合いをしていた。それを聞いたモミが口を開いた。
「あ~…多分ステラは滑れないんじゃないかな?」
モミの台詞が聞こえたのかステラは動きを止め振り返った。
「ギク!?そそそそそんな訳あるはずないじゃないですか!」
「そんなに動揺していて信じれると思うでありんすか?」
「ソレデアンナニ必死ニ頼ミ込ンデ来タノカ…」
皆の視線がステラに集まる。当のステラは肩を震わせながら斜面に立つ。
「なっ!?では滑れるところをお見せしましょう!!」
勢い任せに斜面に飛び出したステラは転がりながら雪玉になって行った…
「あれが『すきー』なんですねぼっち様」
「いや、違う・・・」
「ですわよね…」
あんなのがスキーだったら死人が大勢出ちゃうよ…そもそも見た事しかないがどうやって滑るのだろうか?まあ、モモンガさんなら何とか…
「ぼっちさんがお手本を見せてくれるだろう。ね?ぼっちさん」
ホワッツ!?この骸骨、俺に振りやがった!滑れるわけないやろ!?って言えない。言える訳ない…守護者達の輝く視線が一斉に襲い掛かってくる。
ぼっちは覚悟を決めゆっくりと斜面の前に立ち…跳んだ。
「!?!?!?!?!?」
半ばパニック状態であった。空中でボードに足を乗せ滑って行く。風と凍土による寒さは喜びで掻き消えた。
すげぇ!?滑れた!!コナン君のように滑れた!!ってこれどうやって止めんの?
そんなぼっちに雪玉状態から脱し滑ってる(?)ステラが視界に入った。
「来い!アロンダイト!!」
ファ!?何聖剣呼び出して…ああ…雪にぶっさして止めるのね…でもそれって…
剣を地面に刺して止めようとしたがあまりの切れ味の良さに止まらずそのまま滑っていった…
「…では我々も滑るか?」
「アインズ様!宜しければ私にお教えくださいませんか?」
「スキー板デハ小サスギルノデスガ」
「ならばこのそりと言う物を使えば良いと思うよ」
「私はぼっち様の所に行くでありんす」
皆がそれぞれ滑り始めた。その中…
「あたしも行こ」
「あ、ま、待ってよお姉ちゃん…」
小鹿のように震えるマーレは怖がって滑れないのだろう。呆れたようにアウラがため息をつきながら少しだけ待つことにした。
三分経過
五分経過
十分経過
さっきの位置から少ししか進んでいないマーレにイライラが限界に達したのか怒鳴った。
「もう、マーレ!男の子でしょ!?」
「そうだけど…」
「…手助けしようか?」
中々滑らない二人に近づいてきたのはモミであった。その言葉にマーレは安堵した。が…
「えい」
何の躊躇もなく後ろから押された。
何とも声にもならない音を発しながらマーレは滑らされていく。その光景を一人笑顔で楽しむ。
「確かどっかの借金執事も同じことしてたよね?」
「って!あんたマーレに何してんのよ!!」
スパーン!!と良い音を鳴らしモミを叩くと「おー」と声を上げながら転がっていく。
「あ、あれー?あ!あの方向には…」
ぼっちは合流したシャルティアと中間地点で滑っていた。
「さすがはぼっち様でありんす」
「・・・・・・シャルティアも上手だな・・・」
シャルティアは本心で言っているがぼっちの心境は別であった。どう見てもシャルティアの方が断然上手いのだ。本当に初心者か!?って突っ込みたくなるほどだ。
「・・・とりあえず下に行くか」
「お供するでありんす」
共に滑り出そうとしたとき後ろから悲鳴が聞こえ振り返る。
「わぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」
「マ、マーレ!?何してるでありんすか」
何してるって止まり方知らないんだろう?まあこのまま下まで行っても問題はなさそうだけど……!?マーレの後ろから大きな雪玉が!!
急いでボードを外して上から滑ってくるマーレを横から抱きしめ跳躍する。しかし雪玉を飛び越すことは出来ず落下する。雪玉に落ちる事を覚悟するが何かを踏みつけてもう一度跳ぶ事が出来た。
「ふもっふ!?」
声の元を探そうと振り返り雪玉を凝視すると頭だけ雪玉から出ているモミの顔に足型がついていた。
………そっとしておこう…
そして腕の中に居るマーレを見ると顔を赤らめしがみ付いていた。
「・・・マーレ?」
「すごく…温かい…です…」
「いや、そうじゃなくて大丈夫か・・・」
「!?ひゃい!だ、だ、大丈夫です!!」
さっきよりも赤くなりぼっちより離れようとするが再び後ろより声が…
「あ~避けてぼっち様ぁ~!!」
「ぼ、ぼっち様!危ないでありんす!!」
「・・・ぐぅ!?」
背後よりマーレを追って来たアウラが特攻して来た。マーレを降ろそうとしゃがんでいたのが幸いしたのかアウラは背中に乗る感じで止まった。ダメージはデカかったが…主にぼっちの…
「も、申し訳ありませんぼっち様…」
「・・・い、いや大じょ…」
「アウラ!マーレ!ずるいでありんす!!私も」
「な!?あんた何してんの!?」
「・・・・・・」
何この状況?マーレを抱きしめ、アウラ・シャルティアを背負ってんの俺。てかおも…
「ぼっち様の迷惑になるでしょ!ぼっち様重くありませんか?」
「大丈夫だ・・・軽いぐらいだ」
あっぶねー!あと一文字言ってたら俺OUTじゃねーか。
兎も角この状況…よりも下にはモモンガさんが居たはずだから取り合えず様子を見に行くか。
そう思い先ほど脱ぎ捨てたボードを見るとモミだるまに吹き飛ばされ在らぬ方向へ。そんな中ある者に気付き手を挙げる。
「どうかなされましたかぼっち様?」
「…三人共何ヲシテイルノダ?」
来た!ヘイ、タクシー!!じゃない大型そりに乗ったコキュートスと一緒に滑っているデミウルゴス。
手短にコキュートスに事情を話しコキュートスの後ろに乗せてもらうことに。その間後ろ二人と前一人はしっかりとしがみ付いていた。
「ア、アインズ様離さないで下さいね!?」
「うむ…分かった。ゆっくりと…な?」
アインズはまったくと言っていいほど滑れなかったアルベドの手を引いて歩いていた。いつもなら顔を赤らめてご機嫌なのだろうが今回は違った。アインズ様のお手間を取らせてしまったと訳なさそうな表情をしている。
逆にアインズはそんな新鮮なアルベドを見て嬉しかったりする。
じっと見入ってしまう。いつもは暴走気味だったり、改ざんしてしまった罪悪感でこの世界に来てからマジマジと見た事はなかった。
黄金の瞳に漆黒の髪が麗しく、スタイルも良く絶世の美女と言える。そんな彼女の手を自分は握っている…
いかんいかんと顔を横に振る。彼女に自分がしてしまった事を考えてしまう。
「どうしましたかアインズ様?」
「ん?あ、いや、何でもない」
つい考えたまま立ち止まっていたらしい。今はアルベドにスキーを教えなければと再び手を引き始めたその時。
「よ~~~け~~~て~~~」
声が聞こえ振り返ると雪玉化したモミが転がってきた。先ほどぼっちが見たときより一回りも大きくなっていた。
「あぶない!」と叫びつつアインズを守ろうとしたアルベドは馴れないボードを付けている為に動けない。アインズはそんなアルベドを抱え横っ飛びに回避した。
何か声を上げながら転がっていくモミを見送り安堵する。
「ア、アインズ様…」
自分の下より弱々しくアルベドの声がして振り向く。
顔を赤らめ恥らっているアルベドが…
頭が真っ白になる。避ける為に抱き抱えて横に跳んだ結果、アインズがアルベドを押し倒したかのような状況になってしまったのだ。
暴走する事無く恥かしがっているアルベドが愛おしく思えてくる。
豊満な胸に艶かしい表情…
アインズに喉があればゴクリと鳴っていただろう。二人の視線が合わさりゆっくりと…
「大丈夫で…あー…申し訳ありませんアインズ様」
「デミウルゴス。モウ一滑リ行クカ?」
「そうですね。行きましょう」
「私も行くでありんす」
「あのーぼっち様?」
「何であたし達に目隠しされているんですか?」
「・・・・・・いいから、いいから」
心配して降りて来た皆が急ぎ足でその場を離れる。
「え!?ちょ!ち、違うんですよぼっちさん!!」
「私…アインズ様に押し倒…ア、アインズ様!私失礼致します」
「は!?ま、待てアルベド」
アインズはぼっち達を追うかアルベドを追うか一瞬悩むと今まで以上に顔を赤らめるアルベドを追って行った。
モミは転がる。ただただ転がる。
自分に非があることは分かっている。
マーレを押した結果自分も押されてこの雪玉状態になった。
その後マーレを追い回し、ぼっちを轢きかけ、アインズではなくアルベドを狙って転がり続けた。アルベドを狙ったのは防御特化の彼女なら止めれるかもと言う期待からである。
しかし止まる事はなく転がり続ける。
そろそろ吐きそう…そう思っていると正面よりよく聞く声がした。
「姉さん?」
「!?」
先に雪玉になって転がり降りていったステラだった。
「おお!ステラ助けて~」
心の底から期待を込めて叫ぶ。
ステラは真剣な眼差しを向け短く息を吐く。
「来い!ガラティン!!」
目が点になり血の気が引いて行く。
右手にはアロンダイト、左手にはガラティンを握り締め、構えたステラに嫌な予感しかなかった。
「…やっぱ助けなくても…」
「今助けます!!」
モミの頭の位置から身体の位置を特定し、傷つけないように二本の剣を振り雪玉を切り裂く。
傷つく事なく雪玉から開放されたが勢いは殺せておらず、抜け出したと同時に斜め下へと頭から突っ込んだ…
モミ 「おー…私が知らぬ間に恋のキューピッドに」
チェリオ「?故意の?」
モミ 「ちがっ!?」
ステラ 「……姉さん?」
モミ 「れれれれ冷静になれ!いえ、なって下さいお願いします」
チェリオ「頼むから聖剣を振り上げないでぇ~!!」