一昨日のもちつきは楽しかった。と思いつつぼっちはコタツに足を突っ込む。
正月最初にもちつきをした次の日には守護者各員は通常業務に戻っていたのだ。それはモモンガさんも同じで現在暇を持て余していたのだ…
ユグドラシルプレイヤーであればただただ他のギルドを襲っていただろうがこの世界でそんな気も起きなかった…
「ぼっち様失礼いたします」
「失礼いたします」
今日は御付の者としてナーベラル・ガンマとルプスレギナ・ベータが来たのだ。…あれ?今日はナーベラルの日じゃなかったっけ?
始めて見たコタツを不思議そうに眺める二人を手招きする。
「入れ・・・」
「いいんすか?」スパーン
「ルプスレギナ!申し訳ありませんぼっち様…」
最近よく思うのだがルプスレギナを叩く時のプレアデスが容赦が無い…良い音が響くんだよなぁ…
「構わない・・・」
「そーと…おぉ…あったかい」
誘われたまま同じようにコタツに足を入れる。その光景を見るナーベラルは困ったような顔をする。
「ナーベラルも・・・」
「ナーちゃんも一緒にはいるっすよ」
ちなみに俺の前で「~すよ」と話しているのは許可したからであってモモンガさんの前ではしないようにしたのだ。
「しかし至高の御方と…その…」
真面目だからなのか照れているのか分からないがもじもじし始めるナーベラル。かわいいよなぁ…いつもはきりっとしてて綺麗なんだけどたまに見せてくれる可愛らしさも良いんだよな。
『お持ち帰りぃ~』
してもいいのかな?かな?って何幻聴と会話してんの俺…しかもお持ち帰りも何もここ俺の部屋だし。
「至高の御方であられるぼっち様のお誘いを断るって言うんすね?」
「!?そ、そんな事は…では、入らせて頂きます」
ルプス…ああ、長い!これからはルプーで通します!!ルプー…それって半分脅迫じゃないかな?まあ、入ってきたんだから良いんだけど。
緊張して辺りをキョロキョロしてからすることも無いのでじっとしている。
物を取りに立ち上がろうとするとふと頭に浮かんだ。このままコタツの毛布をめくるとナーベとルプーのスカートの中が見えるのではと…思ってもそんな事しないんだけどね。したらモモンガさんに殺されそうな気がするし…出会い頭に《リアリティ・スラッシュ》ぐらいされそう…だれも『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪』って速攻で治してくれないだろうし…
「何処かに行かれるんすか?」
「!?……」
面白い…すっと立ち上がるとルプーも立ち上がるのだがナーベは一瞬名残惜しそうにコタツを見た。出たくない気持ちは分かるよ。出なくていいんだけどね。
「物を取るだけ・・・」
漆器で作られた四角形の五段の重箱と徳利と盃を手に取った。中身は別としてこれらはすべてぼっちが揃えた物だった。他のギルドを攻めていた時に見つけたのだ。使う事はないと思っていたんだけど…
コンコン
ノック音が響いた。
「・・・どうぞ」
「失礼いたしますぼっち…様」
「…ルプスレギナ…見つけた」
「ぅぅ…ナーベラルとルプーずるいぃ…」
どうやらルプーを探していたのだろうソリュシャン・イプシロンにシズ・デルタにエントマ・ヴァシリッサ・ゼータが入って来た。そこまでは良かったのだが最後のユリ・アルファは見逃さなかった。
「貴方達は何をしているのかしら?」
声に怒気を感じる。ナーベとルプーが慌てて直立に立つ。それもそうだろう…ユリから見ればメイドである二人が座っている中、主人であるぼっちが物を運んでいるのだ。良い様には見えまい。
「こ、これは違うんです!?」
「そお、そおっすよぼっち様のお誘い…」
「問答無用です!」
おぉう…部屋の空気が冷たくなる。れれれ冷静になれ! と心の中で叫びつつそんなユリにも手招きをする。
「ユリ達もゆっくりして行け・・・」
「いえ、しかし私達にも職務が…」
反応する三人を余所にユリは丁寧に断ろうとするとルプーの目が光った…
「あれ~ユリ姉さんはぼっち様からの直々のお誘いを無下にするんすか?」
「な!?…では失礼いたします」
ルプーよ…俺を脅迫手帳のように扱うの止めてくれない?この部屋内で「~すよ」言葉は許可するがそっちは止めて。罪悪感がくるから…
ユリが誘われるまま入ると他の三人も入ろうとするがソリュシャンが立ち止まった。このコタツは長方形で入れる定員は6名。プレアデス+ぼっちで定員オーバーなのである。なので…
「ソリュシャン・・・俺の上でよければ座る?」
「「「「「!!!!!?????」」」」」
「!?よろしいのでしょうか!」
何だろうこの天国と地獄みたいな光景は?ソリュシャンはとてつもなく嬉しそうな顔をして残りの5人が羨ましそうに見つめている。シズとエントマは良いじゃないか、よく膝に乗っけているんだから…
「…ソ、ソリュシャン…大きい…代わる」
「ぼ、コホン…私が代わります」
「ユリネエも大きいからわた…」
「何言ってるすか!?エントマがこの前膝に座らせて貰っていたの見てたっすよ!」
「な、ならばここは私が…」
「い、嫌よ。代わる訳ないじゃない…それではぼっち様失礼いたします」
軽く会釈するとゆっくりと腰を下ろしコタツに足を入れる。最初に思ったのは柔らかいと言う感想だった。女性特有の香りと柔らかさが嗅覚と触感を支配する。次に思ったのが見難い…小柄なエントマやシズに比べて大きい分前が見難い。元々長身に馴れるから問題無いと言えば無いのだが。
そんなことを思いつつ手に持っていた重箱をコタツの上に広げる。
「・・・お前達も食べろ・・・」
五段の重箱を開く。一の重には祝い肴三種である三種類を入れようと思っていたのだが地方により一種類変わるので四種類になったが… 黒豆や田作り、数の子にたたき牛蒡である。
二の重には酢のものや口取りと呼ばれる3品から9品まで奇数で入れている。中身は伊達巻、栗きんとん、紅白なます、紅白かまぼこ、酢蓮など。ちなみに北海道では口取り菓子を入れるらしい。
海の幸や焼き物を入れる三の重には鯛の昆布じめに海老の焼き物、鰤の焼き物を入れている。最近ではいくらも入るようだがそれは無しにと言うか入らなかった。
四の重ではなく与の重には里芋や人参を使った煮物に昆布巻きなどを入れている。数字の四ではなく与と書くのは四では「し」=「死」といて縁起が悪いのだ。こういう言葉遊びみたいのは日本らしいと思う。めでたいがめで「鯛」とか。
皆が声を上げる。ナザリックでは西洋の料理がメインの為、こういう日本料理のようなものは珍しいのだろう。
「あれ?ぼっち様、この器には何も入ってないんですが…」
「・・・あぁ、五の重を控えの重として空にしておくんだ・・・確かまだまだ増える余地がある事、将来に余裕がある事と言う意味がある・・・」
何だか大仰に感嘆の声が聞こえてくる。なぜにアウラもそうだったが俺らの一言一言にそこまで反応出来るのか…将来さらに繁栄し富が増えることを願ってのことだったか記憶が曖昧だが…
「これは何方が作られた料理なのでしょう?」
「・・・私が作ったが?・・・」
「!?ぼ…っち様の手作り…」
「さすが至高なる御方です。このような料理見たことがありません」
「…すごくおいしそう…」
「食べていいんすよね?…はっ」スパパーン!
「・・・召し上がれ」
ぼっちはコックなどのスキルは持ってない為、何の効果も持たないただの手作りだったが皆口々に褒めてくれる上、次々と料理が皆の口へと運ばれていき無くなって行く。…目の端に涙が溜まりそうになる。元々外に出るのも店に入るのも嫌っていたぼっちは通販で食材を買い漁り自分でいろいろ作っていた事がここにきて役に立つとは…一人で正月気分を味わおうと最初に作った時は何か寂しさを感じたっけ…
ただ見ているだけのぼっちに気付いたのか斜め隣に位置するユリが杯と徳利を手に取りこちらを向く。
「ぼ、ぼっち様!そ、そ、そ、その…お注ぎ致します」
何時に無く緊張しながら真っ赤になるユリに皆の視線が集中した。
「・・・ああ、頂こう」
杯に注がれる酒を一気に飲み干す。すると再び注いでくれる。すると反対側のナーベが
「あ、あのぼっち様…お食べにならないのですか?」
ソリュシャンが上に座っているせいで料理に手をつけてない事に気遣ってくれたのだろう。
「・・・鯛の昆布じめとか食べたいが・・・」
「では…失礼いたします…」
ナーベが箸で鯛の昆布じめを摘み口へと持ってきてくれた。
ここに居ない母へ。俺、異世界でリア充していまーす!録画機材で録画したい!緊張と照れで顔が真っ赤と言うより茹蛸のようだ。
「・・・あーん」
味なんて分からないがすごく嬉しかった…そういえばコレって…
「!?ナーちゃんそれ使ってなかった!?」
「!?」
「・・・間接キス・・・」
思ったことを言うと皆の鋭い視線がナーベに向かう。まるで肉食獣が小鹿を見つけたようだ。てか怖っ!そして恥かしい!この空気どうにかしてぇぇぇぇ!!
コンコン
ぼっちの叫びを天が聞いたのか悪魔が聞いたのかドアをノックされる。
「失礼致しますぼっち様。こちらにプレア…デ…ス…」
セバスの鋭すぎる眼光が光った。次にはにこやかな顔になった…
「何をなさっているのですか皆さん?仕事はどうなさったのですか?」
「す、すぐに戻ります!」
まるで逃げ出すかのように皆去っていく。逃げ出すようにと言ってもぼっちには失礼が無いようにだが…そしてなぜにナーベまで出て行くし…焦りすぎでしょう
ため息をつきつつ出て行こうとするセバスを止める。
「セバス…少し良いか?」
短い返事と共に近くまで歩いてくる。直立したままでは困るんだが…
「・・・まあ、座れ・・・」
「ハッ!失礼致します」
コタツに入ることなく正座する。いちいち言わないと駄目かなぁ?
今度は杯ではなく猪口をセバスに差し出す。
「!?ぼっち様!それは…」
「・・・良いから・・・」
一瞬躊躇ったセバスに猪口を渡し酒を注ぐ。その後にセバスがぼっちの猪口に注ぐ。
「・・・これからもよろしく頼むぞ・・・セバス」
「!?これは勿体無きお言葉!恐悦至極にございます」
いつもぼっち達…いや、ぼっちが手を焼かせてしまっているのだ。今日ぐらい労うのも良いだろう…
こうして三日目はセバスとゆっくり過ごして終わりを告げた。
この後プレアデスからこの事を聞いた守護者達は羨み、モモンガさんからは「何で呼んでくれなかったんですか?」と抗議された。
家のおせちには別皿で肉巻がついてきます!
次回は5日でまた二日おきの更新です。
予告としては原作には無かったオリジナルの話です。