骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第142話 「アイン友人を作る前編」

 アイン(アインズ)は帝国魔法学園入りして一週間が経ったある日。まだ珍しくもない魔法ばかりの授業で飽き飽きする日々だが昼休みは楽しみで仕方がない。昼休みが楽しみと言うよりはモミが作った弁当が楽しみというのが正解だが。

 

 話が合わない事とフールーダ関係者という事で皆が積極的に関わらず、こちらをカバーするはずのモミは学園中は日っきりになしに非公式に作られた親衛隊(ファンクラブ)に囲まれっぱなしでひとりぼっちの学園生活にも慣れた。ただモミとの二人暮らしには慣れが見えない。最初の下着姿エプロンが優しく見えるくらいだ。良くて寝起きに布団ダイブされ、悪くてスクール水着で入浴中に突入してきたりといろいろ大変だ。

 

 つまらない授業と帰ってからの精神的疲労を回復しようと中庭の木陰に向かう。あそこならひと目も気にせずに弁当を楽しめる。しかも今日の弁当は昨日頼んだから揚げ弁当だ。ナザリックの料理長が作った料理みたいにステータスアップされることは無いが、腕も良い上に自気兼ねなく食べれるのが本当に良い。ナザリックで食事を取ると周りの目を気にしてマナーに気をつけねばならないし、意味があるのかどうかわからないが毒見をする為に料理が冷めてしまう。

 

 「てめぇ、調子に乗るんじゃねぇぞ!!」

 

 人通りの少ない通路を歩いていると敵意を感じる怒鳴り声が耳に入った。別に関係ないので無視しても良かったのだが気になったので通路を曲がった先へと目を向ける。そこには容姿の整った少女と少女を守るかのように立つ少年、そして二人に不敵な笑みを浮かべたり、睨みを効かせる少年達が対峙していた。元々なのかオドオドした少女が尻餅をついていたので虐めか何かだと思う。

 

 「これは俺達のチームの問題だ。口出しするんじゃねぇよ」

 「チームの問題で済まされる事ではないと思うが?」

 「平民風情が俺達に刃向かうって言うのか?どうなるか解ってんだろうな?」

 「ぐぅ…」

 

 話を聞くに苛めていたのは貴族の子供で少年少女ペアは平民なのだろう。格差というのはどこにいってもあるものだなぁ…。にしても醜いものだな。親の力を自分の力のように振舞う姿は。

 

 「お前もコイツの仲間かなにかか」

 

 考えなしに眺めていたら何故か少年の仲間と認識されたらしい。ここで逃げるのも癪だし、軽い弁明だけして昼食にしよう。

 

 「いや、私は―」

 「彼は関係ない」

 

 言葉を遮った少年は関係の無いアインをも守るかのように前に出た。その心意気には感心するが少年が立った所には中庭に抜ける通路の入り口なのでふさがれたら困る。慣れたといっても学園内を完全に把握したわけではない。迂回路もわからないから出来れば通りたいのだが。

 

 そんな事を思って平然と見ていた態度が気に入らなかったのかアインを睨みつけてくる。完璧に仲間認定されたと認識してため息を着く。そのため息で余計に相手を苛立たせている事になっている事は気にしない。

 

 「少し聞きたいのだが先ほど言っていたチームというのは何かな?部活やサークルのようなものか?」 

 「昇級試験のチームに決まってるじゃねぇか!!」

 

 二日前にその話を教師がしていたのを思い出した。何でも進級のときにペーパーテストと実技試験を行なうのだと。ペーパーテストには問題は無いが、実技試験は帝国騎士合同でモンスター狩りを行なうもので、魔法学園生徒は五人のチームを編成しなければならない。今思い出したら早くメンバーを揃えなければならないな。

 

 「しかし試験とはいえ命を預ける仲間を苛めるとは理解しがたいな」

 「なんだと!?」

 

 仲間とは心よりの信用と信頼が必要なはずだ。それだけではないが大きなものである。かつての仲間達を想っていたらつい口が動いてしまった。

 

 「俺達は何の役にも立たないそいつをわざわざ入れてやってるんだ」

 「だから何だというのだ?その程度の仲間意識などのほうが役に立たんな。人一人では何も出来なくとも仲間と補う事で行える事は格段に広がる。君らからは役立たずに見えているのかも知れないがそれは彼女の事を君達が何一つ理解してないからじゃないのか?」

 「そうだ。俺達のチームに入らないか?」

 

 アインの言葉と睨みで怯んだ貴族達を余所に少年は優しげに少女に問いかける。嬉しさを瞳の奥に潜ませて申し訳なさそうな表情を向ける。

 

 「で、でも私は何の役にも…」

 「俺のチームは今二人なんだ。メンバーが集まらなければ終わりなんだ。君が入ってくれただけ、ほら役立たずじゃない」

 「え、でも…本当に」

 「勿論」

 「メンバーが三人なのか。なら私も入れてくれないか?」

 「ああ、これで四人だ」

 

 少女の手をとって立たせる少年と共に貴族達に睨みを利かせる。苦々しい表情をしながら「後悔するなよ」などと捨て台詞を吐いて貴族達は去って行く。その後姿が通路の先に消えた頃、少年と少女がほっと胸を撫で下ろす。

 

 「その…助けてくれてありがとうございます」

 「さっきも言ったとおりメンバーが足りなくて困っててな。もしかしたらメンバーが足りなくて迷惑をかけるかも知れないが」

 「いえ、そんな…」

 「ところで自己紹介を良いかな?」

 

 まだ何も知らない為に名を聞こうとしたアインの言葉に少女はハッとなって立たせてもらったときから繋いでいた少年の手を離して真っ赤になる。あわあわと慌てながらアインにも頭を下げる。

 

 「私はアイン・シュバルツ 。君達の名を聞いても良いかな?」

 「私はオーネスティ・エイゼルです」

 「俺――私はジエット・テスタニアです。でもまさか話題のアインさんに会えるとはね」

 「さんはつけなくて良い。それより話題というのは?」

 「かの有名なフールーダ様の最年少の愛弟子って噂になってるけど…違ったかな?」

 

 初耳である。確かに設定上拾われていろいろ面倒を見てもらっているという事にはなっているが、愛弟子という設定を作った覚えはない。まぁ、単なる噂を気にしても仕方がない。もしかしたらモミが言った事かも知れないが。

 

 「否定も肯定もしないでおこう。ところで君は誰かと組んでいるように言っていたが」

 「ジエットで良いよ。もうひとりは教室に居るから時間を割いてもらってもいいかな?」

 

 オーネスティは二つ返事で答え、内心弁当を食べる時間がと思っているアインも表面上だけ二つ返事をする。中庭から離れて進むことに多少苛立ちを覚えてはいるが、冒険者の仕事ではなく試験とはいえちょっとした旅にワクワクしている自分が居る事に微笑んでしまう。チームメンバーの把握もしなければと意識を弁当から先の冒険に変える。試験の話をしながら歩いていると…

 

 「恥を知りなさい!!」

 

 何かを思いっきり叩いた渇いた音と相手を叱咤する凛とした声が響き渡った。今度は何事かと角を曲がって覗き込むと後悔が押し寄せて来た。

 

 高価そうな身嗜みの貴族の少年が頬を押さえて呆然としていた。周りには人だかりが出来始めており、その中心には少年とモミの姿が。立ち位置や振りぬいたと思われる手の位置からモミが少年の頬を打ったのが推測される。動揺して身動きを止めてしまったがジエットが何かに気付いて人ごみを別けて進んで行くことに気付いて、オーネスティと共に後を追っていく。

 

 最前列まで行くとどういった状況なのか理解した。モミの後ろには貴族に手を出したことへの驚愕を表情で表しながら、少年から自分を隠すようにモミに隠れる少女が…。

 

 あれ?デジャブ…といか先のジエットとオーネスティの立ち位置じゃないか。そしてまた貴族…。

 

 今度は巻き込まれないように少し身を引く。呆然としていた貴族はようやく我に返ったのか親の仇でも見るかのように睨みつける。

 

 「何をするのか君は!?」

 「それは私の台詞です。か弱き女性に詰め寄って――涙を流すほど嫌がっているのが解らないのですか!?」

 「ボクはただ彼女と話していただけだ」

 「嫌がる相手を逃げれないようにして話しかけるのが貴方のやり方なのですか!」

 「―ッ!!君はボクが誰だか解ってないようだね。ボクはランゴバルト・エック・ワライア・ロベルバド。君が手を挙げた貴族様の名さ」

 「そうやって自分が仕出かした事を親に尻拭いして貰うのが貴族ですか?」

 「このッ!!」

 

 すでに切れ掛かってた堪忍袋の尾が切れたのか思いっきり殴りかかろうとした。が、レベル100のモミが喧嘩には素人の少年に遅れをとる筈がない。右足を引くと同時に身体を少しだけずらす。大振りの拳は空を切ってバランスを崩してふらついた。

 

 「親の力が通用しなかったら暴力ですか。それでも男ですか軟弱者!!」

 

 二度目と思われる平手打ちが頬を打った。ふら付いていたのもあってそのまま地べたの顔から突っ込む。強く打った顔を抑えながら睨みつける。その睨みには先ほどの怒りではなく恐れが見て取れる。

 

 「き、貴様…二度もボクを打ったな。父上にも打たれた事が無いボクを!!」

 「殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!!」

 

 立ち上がる前に首元を捕まれ引き寄せられ少年は何も出来ずにただ怯えている。殴られるとでも思ったのか両手は顔を守ろうと必死だった。

 

 「わたくしはモミ・シュバリエ。気に入らないなら後日正々堂々正面からいらしてください。例え貴方が貴族であろうとわたくしは逃げも隠れも致しません」

 

 そう怒鳴りつけると手を離す。解放された少年は涙目ながらに睨むがもはや何の意味もないだろう。

 

 「それと親の名を出して弱い者苛めはお止しなさい。自分の品位を地に落とすだけですわ」

 

 すごすごと貴族を堂々と退けたモミに辺りの人だかりは歓声を上げて讃えた。ジエットは少女に駆け寄って深刻そうに何かを話しているところから顔見知りだったのだろう。ジエットから周りの反応に少し照れくさそうにするモミと目が合った。一瞬手に持っている物を見て不思議そうな顔をした。そこで思い出した。

 

 あ、弁当食べれなかった…。

 

 アインの唯一の楽しみである昼食の時間は騒動と移動で消え去り、予鈴のチャイムが鳴り響いた…。


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