骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 投稿日と投稿ペースを変更します。
 投稿日は月曜と水曜の0時の週2にとします。


第141話 「アイン馬車内にて」

 「ねぇねぇアイン君はどんな魔法が使えるの?」

 「フールーダ様に会ったんでしょ?どんな感じだった?」

 「どんなところから来たのかな?」

 

 アインと名乗っているアインズは自己紹介を終えたのちの質問の集中砲火を浴びていた。クラスに新しい生徒が入ればこうなるよなと覚悟はしていたが、思っていたのより喧しい。それでも丁寧に対応して行くしかないのだが。人数にすれば15人ほどの男女に囲まれているが隙間からモミに目をやる。

 

 「シュバリエさんはどんな魔法が使えるの?」

 「そうですね。《ライト・ヒーリング》や《リペア》。攻撃系なら《エレクトロ・スフィア》でしょうか」

 「《エレクトロ・スフィア》って第三位階じゃないですか!?凄いです」

 「ありがとうございます。けれど出来るだけでまだまだ使いこなせていないので精進せねばなりませんわ」

 「もしかしてだけど貴族だったりするの?気品があるというか優雅と言うか雰囲気が高貴っぽいけど…」

 「いえ、わたくしは貴族ではありませんわ。おじ様は貴族に加えられるらしいですが」

 「どんな所に住んでいるんですか?」

 「元お屋敷だった所を宿屋にしてそこで宿の経営を」

 「あ、あの…あの!」

 「駄目ですよ焦っては。殿方ならもっとシャキとしないと折角の男前が台無しですわ」

 

 誰だよアレ?

 いや、モミだってことは知ってるよ。知ってるがあんなに綺麗なモミは知らない。ひと目見ようと休み時間に押し寄せてきた50を超える生徒に囲まれながら笑顔を絶やさずに優しげに変事を返していく。

 

 視線を感じたのかこちらに振り返り笑顔を振り撒いてきた。一瞬ドキリと心臓が高鳴った気がしたが気のせいだ。そもそも心臓なんてないから気のせいしかないのだが。何時までも見ているにも変なので視線を戻してこちらもこちらで返事を返し始めた。

 

 質問に答えていく作業にほとほと疲れて始めるとチャイムが鳴り響き授業が始まった。助かったと思いながら教師の話に耳を傾ける。アンデットの肉体になると眠たくなる事が特殊なアイテムでも使わない限りありえないから授業中居眠りする事などない。しかし出来るならもっと確信に触れた授業を行なって欲しい。新しくクラスに入った私達の為に今日は軽め授業になっているから明日から期待だ。別にフールーダに聞けばいろいろと教えてはくれるだろうが、あいつは魔法の話となると長い上に興奮してきてなんと言うか怖い…。

 

 ひたすら教師の話に耳を傾け、ノートを取り続けていると時間が過ぎ、いつの間にか昼休みになっていた。ここで昼食の準備を何もしていなかったことに気付いた。聞いた話では購買があるらしいから金さえあればそこで帰る買えるがアイテムボックスに入っている金は王国ものだ。帝国でも使えるだろうが今まで廃村で暮してきた人間が金貨を出すことは違和感しかない。どうするかと思案していると影に覆われ顔を上げる。そこには座ったままのアインに微笑みかけるモミの姿が。

 

 「アインさん。昼食忘れて行ったでしょう?」

 「え、あ、あぁ…すみません」

 「お口に合えば良いのですけど」

 

 渡された木で作られたサンドイッチケースを受け取ると困惑すると同時に周りの男児より殺気に溢れた視線を向けられた。心を隠して笑顔でお礼を言ってあけると中にはたまごやハムのサンドイッチとたこさんウインナーにプチトマトと可愛らしく、色合いにも気を使っているものが多く入れられていた。ハムサンドを手にとって一口含んだ。時間が経っているのに瑞々しくしシャキシャキのレタスが口内を潤わせ、ハムとちょっとスパイスの効いたタレが食欲を進ませた。ハムサンドは4つほど入っており次のに頬張ると先のと違ってタレが照り焼きなどで使用されるタレになっていた。どうやら飽きないように全ての味を変えているようだった。

 

 モミは席に戻ると私とどんな関係なのかを聞かれていた。普通に宿を取られているお客と答えて、小さくサンドイッチを含んで、片手で口元を隠して咀嚼していた。

 

 本当にあいつは誰だ?

 

 そんな事もあって授業を終えたアインはモミと一緒に帰宅するのだが、人ごみがモミを中心に動いていた。男児の話ではすでにファンクラブモドキが出来上がっているらしい。内面を知っている分なんとも言い難いが…。

 

 道端に止めてある馬車に近付いて行くと人ごみが慌てて離れていく。帝国の紋章が描かれている馬車にもたれて立っているのは透き通るような長い銀髪を靡かせたカストル・トレミーだった。兵士採用試験で採用されてから第7騎士小隊長、そして今や帝国四騎士に加えられると噂されている人物である。魔法学院といっても中には騎士になりたがっている生徒もおり、声をかけたいのだがあの人を殺せそうな視線の前には誰一人近づけずに居た。

 

 「お待たせしましたおじ様」

 「……乗れ」

 「相変わらず無口ですのね。では皆様、ごきげんよう」

 

 笑顔を振り撒き馬車に乗り込んでいくモミの後に続いて乗り込み学園から離れていく。やっと質問地獄からは開放されたが向かいに座るカストルは黙り、モミは満面の笑顔を向けてくる。ひとりとは喋り辛いし、本性を知っているから片方は気持ち悪いし…。

 

 「モミよ」

 「なにかしらアインさん?」

 「何時までそれを続けるのだ?」

 「……飽きた」

 「なら何故やったし」

 「何となく?」

 「…何故私に聞く?」

 「それこそ何となくフヒヒヒヒ」

 

 先ほどの笑顔が嘘のようにケタケタ姿とあの学生達に見せたらどんな反応をするだろうか。内心見せたい気もするが、それは考えだけで留めてこれからの話を進めたほうが良いだろう。

 

 「さて、これからの話を―ってお前はなにしてるんだ?」

 「…ん?見てわかるっしょ」

 

 折角人が…骨だが…大事な話をしようとしている時に濡れタオルでメイクを落として目の周りだけメイクをし直していた。

 

 「メイクって面倒だよね。まぁ、軽くしかしてないけれど」

 「一応してたんだな。目の辺りにあったクマはメイクだったのか…って何故それを書く必要がある!?」

 「光の反射を抑えれるんだよ。知らないの?」

 「…そうなのか?私は気にした事ないが」

 「スナイパーなら常識でしょ」

 「狙撃者の常識など知らぬわ!!」

 「むぅ…クワイエットはしてたのに。あれ?ジ・エンドはしてなかったっけ?あんれ?」

 「そろそろ本題に入りたいんだが良いか?」

 

 目の下のくまを書き直したモミは短く返事をして顔を向けて聞く体勢になり、カストルは乗ってから聞く体勢になっていた。なっているのだが視線から早く話せと訴えかけてくる。どうしてぼっちさんのNPCは私に反抗的というか癖が強いのだろうか。まぁモミに至っては平常運転であるが。

 

 「二人は知っている通り現在ナザリックは帝国内の情報収集に重きを置いている訳だ。カストルは引き続き軍部に入り込み情報収集を」

 「………わかった」

 「で、モミは…」

 「使えそうな駒を今のうちに引き抜いときゃいいんしょ」

 「あぁ、あの幻覚を見抜くタレント持ちは必須だからな。そして私はこの世界の魔法の収集と貴族の引き込みだ」

 「昼は子供で夜は大人の二重生活ご苦労様です」

 「お前がやっても良いんだぞ?」

 「え~…メンドイ」

 「言うと思ったよ!!」

 

 頭を抱えながらため息をつく。やはり人選をミスったかと思うがそんな考えは即座に消し飛ぶ。どこに隠し持っていたのか束の資料を差し出してきた。

 

 「貴族一覧と調べた資金の流れにそれぞれの個性や特徴のデータ…鮮血帝は中々優秀な人材しか残してないから引き抜きは難しいと思うよ。馬鹿と鋏は使いようって事で落ちぶれた元貴族の所在の現在の活動報告書」

 

 本当にちゃんとすれば仕事出来るんだよな。命令してない事を自慢する事無くそつなくするんだよな。普段の態度だけなら普通に怒れるのだがこういう事をされるから怒るに怒れないんだよな。

 

 「ところで明日はなにが良い?」

 

 資料を捲りながら考えていたらふいな質問に首を傾げる。

 

 「何のことだ?」

 「明日の弁当の中身だよ。リクエストないの?」

 「そういう事か。そうだな…肉じゃが…とか」

 「肉じゃがね。ほいほーい了解」

 「以外にまめだよな。そういう所」

 「私はやれば出来る子だもん」

 「普段からやるようにしようか?」

 「善処します」

 「目線は逸らさずに言おうか」

 「ウス」

 「まったく。そこを直せば皆に好かれるだろうに」

 「私は別に皆に好かれなくても良いもん。たった一人にさえ好いてもらえれば…」

 「ほう。それはぼっちさんのことかな?」

 

 意地悪っぽく言った言葉だったのだがその言葉を聞いたモミは何時になく真面目な顔をしてアインズの手をぎゅっと握った。その行動に途惑いながら目を見つめる。

 

 「それは――アインズ様です」

 「―えっ!?」

 

 思いもせぬ言葉に頭が真っ白になる。頬は薄っすらと赤く染まり、何処と無く色っぽく見えた。飲む唾など無いがあればゴクリと飲んでいただろう。ドキドキしながらどう答えれば良いのか戸惑い口が開けなかった。静まり返った馬車内で二人の視線だけが言葉を成す。

 

 

 『うそだよん』と…。

 

 

 どぎまぎしながら自分にはアルベドが居るからと傷つけないように断ろうとしたアインズだったが、途中でニヤリと笑ってポケットから赤のファンデーションと濡れティッシュを取り出したモミに本気でイラッとした。

 

 「ねぇねぇどんな気持ち?信じちゃった系?ぷぎゃあああアビゴルバイン!?」

 

 現在装備している杖で思いっきり頭を打つ。蹲って頭を押さえるモミに一抹の不安を抱きつつも宿にしている屋敷に帰るのだった。その不安も夕食で出てきたシチューに舌鼓をうっているあたりで綺麗さっぱり消え去っていたが。


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