骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第140話 「アイン学校に行く」

 ゆっくりと瞼を開けたアインズは天井を見つめる。ナザリックの私室とは違って安い作りの洋室に困惑する。ここは何処だろうかと辺りを見渡すと、家具も必要最低限のシンプルかつ質素な見覚えない部屋…。

 

 「あぁ…そうか。そうだったな」

 

 何故こんな部屋に居るのかを思い出して息をつく。

 

 帝国魔法学院。

 バハルス帝国にある魔法詠唱者を育成する機関で今回アインズが入学する学校である。入学自体はフールーダをこちら側に引き込んでいる為に容易であったが、問題はナザリックで起きた。

 

 魔法学校に入学すると伝えて真っ先に皆が反応したのがお供を誰がするかだ。一番に名乗りを挙げたのはアルベドだったが、名の通り『魔法』学校であることから魔法詠唱者ではないアルベドは速攻で除外された。次に名が挙がったのはマーレだった。魔法詠唱者であり見た目の年齢は学生と少し幼いが問題ないだろう。だが、プレアデスや何人か階層守護者が出ている現状で防衛上の都合で却下。ナーベラルはモモンとの連絡係で王国に残っている。

 

 布団を除けて、ベッドから降りる。気分の問題であったが着替えた寝巻きから学校指定の学生服に袖を通す。最初は幻影の魔法で姿格好を偽ろうとしていたんだけどアルシェからの情報で幻術を見破るタレント持ちの少年が居るとの事で変身用のスライムで見た目から変えているのだ。身長も変わった事には精神の安定化が起こるほど驚いたが…。

 

 ショートカットの黒髪を軽く弄りながら階段を降りて行く。この建物は西洋の屋敷を思わせるような概観なのだが中身は小さな宿泊施設になっている。二階には六畳半の個室が10部屋とトイレが一つ、一回には食堂と大浴場、寮長の部屋と書かれた大部屋にまたトイレとなっている。階段を降りた先は玄関となっており、その手前にある右の部屋が食堂となっている。まだ時間に余裕があるので朝食をとろうと席につく。

 

 食堂から見えるキッチンにはエプロンを着た少女が歌を歌いながら料理を作っていた。その少女こそアインズのお供として魔法学園に入学する魔法詠唱者で管轄がぼっちにあってアインズからナザリックの防衛に数えられない存在…

 

 いろいろ書いたがサボリ魔のモミ・シュバリエである。アインズが話しやすく気が楽というのも、ちょっとした言葉で過剰反応しない点などで重宝している。

 

 に、しても先ほどから歌っている歌は何か聞き覚えがあるのだがはっきりと思い出せない。確か夏の高校野球の大会で聞いた気がするけどもタイトルまではやはり思い出せなかった。しかも歌詞が違う気が…。

 

 「ぼっち、ぼっち、ここにぼっち♪あn………ん?どった」

 「いや、本当に居るのかと」

 「予想外の反応にビックリだお」

 

 キョロキョロと辺りを見渡して確認するがぼっちはここには居らず、何も知らない人が見れば不審な行動以外には見えない。キッチンから蜂蜜とバターをたっぷりかけたホットケーキをアインズの前にと持ってくる。

 

 「へい、お待ち!」

 

 声だけ気合の入ったモミを見つめる。いつも通りにへらと笑みを浮かべて、目の下には濃いくまを作っていた。服装はいつものではなく先も書いたようにエプロン、下は白のスポーツブラに無地のパンツを…。そこまで見て二度見をしてしまった。

 

 「なんて格好をしているんですか!?」

 「…?」 

 「首を捻らない。というか捻りたいのは私なんですけど!?」

 「別に見られて減るもんじゃないし」

 「少女の台詞とは思えない」

 「あれ?褒められてる?」

 「褒めてない」

 

 大きなため息をつきながら淹れられたコーヒーを受け取り喉に流す。予想外に美味しかった。苦味が強かったが苦いだけでなく独特のコクと甘みがあり、コーヒー独特の香りが鼻腔を擽る。感嘆の声を漏らしつつ二口、三口と飲み込んでいたらいつの間にかカップが空になっていた。まだ欲しくてモミに視線を向けるとニッコリと笑いつつおかわりを淹れてくれた。

 

 「…フヒヒ、美味しかったっしょ」

 「ああ、凄く美味しかったよ。これはモミが?」 

 「私以外居ないしね。深夜まで起きてる事が多いからコーヒーがたまらなく欲しくて、自分で挽いて淹れていたらいつの間にか美味くなってた」

 「深夜までってアイテムは使用していないのか?」

 「使ってるよ。なに言ってんの?」 

 「殴って良いか?良いよな?」

 「れれれ、冷静になろう」

 

 慌てた振りをした笑ってキッチンに戻ったモミから目の前のホットケーキに視線を移す。味わって頂こうと時計を見るとまだ一時間以上時間があった。ならゆっくりと食べれると思ったがすぐにその考えは変わった。

 

 「モミよ」

 「…コーヒーのおかわり?」

 「そうではなくあの柱時計なのだが…止まってないか?」

 「柱時計?あぁ…そんな物置いてあったんだ」

 「と、言う事は…」

 「私は何もしてないよ♪」

 「今何時だ!!」

 

 慌てて時間を確認すると15分しかなく慌てて立ち上がる。だが、ホットケーキだけは食べようと口の中に無理やり放り込んだ。やはりというかこれまた美味かった。出来れば味わいたかったが現状そんな事は言えない。二階へ鞄を取りに走り、そのまま外へと飛び出して行く。

 

 「いってらっしゃ~い」

 「ってきます!!」

 

 ゲートを使う訳にも行かずに走って登校する。そもそも焦ってそこまで頭が回ってなかったのもある。冷静なら護衛兼お供であるモミがついていない事に気付いた筈だ。予定の時間には間に合ったもののモミを忘れた事に気付いたのは職員室に入ってからだった。

 

 担任の教師らしき人物は自分の自己紹介と学校の簡単な説明を行なうと早速教室へと連れて行く。廊下を歩きながら自分のプロフィールを確認する。名前はアインで長い間ひとりで廃村で生活していた所をフールーダに見付かり、その魔法適正より魔法学園に行かされる事になったというのがアインという少年の設定である。この設定なら第三位階の魔法を使用しても今まで誰の目にも止まらない事にも、帝国の一般常識に疎くても世間を知らないという理由で納得してくれるだろう。

 

 教室の扉の前で待機させられ教師は先に入り、軽く説明しているらしい。人前での自己紹介など入社以来で少し緊張する。少しでも緊張を和らげようと大きく胸を動かして深呼吸を繰り返していると扉は開かれて入るように促される。歳の離れた同級生から視線の集中砲火を浴びながら教卓前に立つ。

 

 「始めましてアインと申します。今までひとりで暮してきた為に、いろいろ至らぬところが多々あると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 

 営業で鍛えたスマイルを久しぶりに使用しつつ、優しげな口調でクラス全体に聞こえるように言葉を発する。モミに『いつものように偉そうに言っても友達は出来ないよ』と注意された。別に友人が欲しくて入学したわけではない、この世界にしかない魔法がないかどうかの調査と帝国の内情の調査の一環である。この学園には貴族に通ずる者も多くおり、交友関係を結べば自然と情報は入ってくるだろう。最初はお供をするであろう者に任せようと思っていたのだがあのモミでは難しいだろう。その結果やはり友人を作る事になるな…。

 

 挨拶を済ませて一礼すると割りと受けが良かったのか、予想以上の笑顔と拍手で出迎えてくれた。微妙に少女たちが何か話し合っているのは何なのだろうか?指定された席に腰掛けて教材を机の中へ仕舞いこむ。

 

 「先生、二人入ってくるって聞いたんですけど…」

 「あぁ、それなんだがまだ来てないようなんだ」

 

 やれやれと肩を竦める教師とは違って男子生徒諸君はもうひとりは女の子という事を前もって教師により明かされており、どんな子かなと期待に膨らませていたようだ。すまないな、その予想を裏切って…。別にモミが嫌いな訳ではない。むしろリアルで会った女性よりも話しやすく、絡みやすいのだが男性の女性像をブレイカーしていく性格が何とも…。

 

 (そういえばペロロンチーノさんが言ってたっけ。こういうのを【残念な美少女】と言うのだろうか)

 

 当時は残念な美少女って何だ?と疑問符を浮かべていたのを思い出した。そのまま昔の思い出に浸りたかったが扉を叩くノック音ですぐに現実に引き戻された。扉を開けた人物と目が合った教師の動きが止まった。開けたのはモミでその姿に呆気をとられたのだろうと思った。が、反応が違う。動揺や驚きで固まったというよりは見とれているというのが正解ぽかった。

 

 「すみません。少し遅れてしまいました。申し訳ありません」

 「あ、あぁ…君がモミさんかな?今君と一緒にこのクラスの仲間になったアイン君の自己紹介が終わったところだからちょうど良かった…かな」

 「そうなのですね。では、わたくしも自己紹介をさせて頂いても?」

 「お願いしよう」

 

 声色から心から謝罪しているのを感じ取ったまではいいが予想していた人物とかけ離れて教材を入れる手を止めて扉より入ってきた人物をマジマジと見つめてしまった。

 

 透き通るような長い黒髪が艶やかに揺れ、男女問わず見る者の目を引き付ける。姿勢は不自然さを感じないほど正されており、優雅に、そして慎ましく歩く姿は百合の花。可愛らしく微笑み表情にアインを除く全員が見惚れてしまっていた。

 

 「では改めて自己紹介をさせて頂きます。わたくしはモミ・シュバリエと申します。趣味はピアノに料理を少々。多少抜けている所もあり、皆々様にご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが、これからどうぞ宜しくお願い致しますわ」

 

 挨拶を済ませると同時にしわひとつ無い制服のスカートの端を摘んで礼儀正しくお辞儀をして顔を上げた。

 

 (誰だこいつはあああああ!?)

 

 こうしてアインズもといアインの学院生活は驚愕と心の叫びから始まるのであった…。

 


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