骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

149 / 233
第139話 「師弟対決」

 ふむ、何でこうなったのだろう。

 

 ラナーちゃんより援軍要請を受けた戦を終わらせて、マインと共にナザリックに帰還したんだけどさ。帰りにマインが戦いたいって言ったもんだからここでやっちゃおうかと思ったんですよ。アインズさんに頼まれた指揮権とフロスト・ドラゴンの実験を纏めた紙をデミウルゴスに渡して早速殺り合おうと闘技場に来ました。なぜに客席が満員御礼?特等席には興奮気味のコキュートスとステラが見えるし…。この件は闘技場を使う為にアウラ、聞いてきたデミウルゴスにしか話してないんですが。

 

 ナザリックのNPCで観客席を埋め尽くされた第五階層の円形闘技場の中央でぼっちはひとりため息をつく。出来れば誰も居ない方が良かったのだが、周囲と眼前のマインのキラキラとした期待に満ちた瞳を見ていると中止することも出来ない。

 

 「師匠!今日はよろしくお願いします!!」

 

 大きな声でぺこりと頭を下げたマインは腰に下げた菊一文字や背負っているエクスカリバーではなく、この前の戦いで渡した大鎌《薔薇三日月》を構える。

 

 さぁて、こちらは何を使おうか?

 『丸太は持ったか?』

 誰があの島のマルチウェポンを使うかよ!!てか逆に用意するのが手間だよ。

 

 アイテムボックスから一本の剣を取り出して構える。ただの剣じゃない事を理解したのかそれとも勘で察したのかは分からないがかなり警戒されている。慎重なのも良いがマインの本気を知りたいから出来れば受けをしたいのだが。と、そこで審判や開始の合図を出す者を決めてなかった事に気付く。仕方なく懐から金貨を取り出して親指で軽く上へと弾く。回転しながら落ちて行くコインに皆の視線が集まる。ここが奇妙な冒険の世界なら誰かに砂をかけるところだろう。

 

 重力に逆らう事無く地に落ちたコインを合図にマインが駆けた。使っている武器が大きい為に動きが読みやすい。大剣や大鎌の類は振るか振り下ろす、突くの三つに動きが限定される。見て分かるように振り下ろさんが為に上段に構えて突っ込んでくる。多少がっかりしつつ半歩体を横にずらす。

 

 「せーのっ!!」

 「―ッ!?」

 

 思ったとおりの軌道を描いて鎌先が地面に向かって行った。が、ここで予想外な事が起きた。鎌先は地面に刺さる事無く、地に触れたのは鎌の丸みを帯びた背であった。その背を軸にして柄がマインごと大空へ向く。そして掛け声と同時に柄の先端より発射された《ファイヤーボール》が地面とぶつかって爆発を起こした。

 

 剣を握っている右腕で爆発で起こった土煙を払って視界を確保するが、辺りには姿すら見当たらないが黒い影が自分に被った事で位置を把握した。

 

 「・・・上か!?」

 「行っけぇええ!!」

 

 爆発で高く飛んだマインは二発ほど《ファイヤーボール》を放ちつつ加速して斬りかかる。上からの落下と付け足された加速、大鎌の重量と中々重い一撃が振舞われた。剣で受け止めるがステータスを落とすアイテムを複数使用して30レベル付近にしているぼっちには重すぎた。咄嗟に受け止めることを諦めて受け流す。受け流す際に剣を引いたのでマインが降って来たタイミングで振るう。狙いも定まってない浅い一撃は左腕を軽く撫でた。

 

 楽しそうに嗤う。

 

 軽いとはいえ袖と一緒に薄皮一枚斬られて薄っすらと血が流れているというのにあの子は嗤っている。

 

 楽しそうに、嬉しそうに、狂ったように嗤っている。

 

 その笑顔に引き寄せられそうになったが、嫌な予感がして後方に飛び退く。振り下ろした鎌を横向きにしたと思ったら《ファイヤーボール》を発射して急激な加速で振るってきた。何とか踏ん張りを利かせてよろめきながらも転ぶ事なく、後方へと撃ち出して加速して飛び掛ってきた。

 

 嫌な予感を今度はマインが感じるはめになった。飛び掛り途中で身体を軸にして回転しながら斬りかかろうと思っていたが、急遽体勢を崩して下方へと潜り込むように低くする。

 

 予感は的中しており、身を低くした剣の範囲外だというのに刃が真上を通過した。土煙を立てながら転がりつつ、鎌を地面に刺して急停止をかけて範囲外まで伸びてきた刃の正体を睨む。剣が幾重に分かれた間に紐のようなものが通っており、剣が鞭のように動いていた。

 

 「見たことない剣ですね」

 「・・・蛇腹剣・・・関節剣」

 「間合いに入るのは難しそうですね。ですがこの薔薇三日月なら!!」

 

 擦り傷だらけの身体を気にする様子もなく、立ち上がって躊躇する事無く《ファイヤーボール》を撃ち始める。蛇腹剣を振るって自分の周りを囲ませ防いでいく。刃の結界と言っても過言ではない守りを破れずに弾だけを消費して行く。

 

 「・・・無駄だ」

 「それはどうでしょう」

 

 どこぞのデュエリストみたいな台詞を吐いたなと突っ込みを入れたくなったぼっちの目の前で蛇腹剣の一部が吹き飛んだ。何事かと一瞬である時をスキルではなく目線だけスローな世界を追う。剣先を繋げていた繋ぎが焼き切れていた。どうやら反射能力と目の良さにものを言わせて蛇腹剣の弱点のひとつである刃の繋ぎを狙ってきたのだ。

 

 スキルもなしに自前のステータスだけでこんな芸当をするとは化け物かあやつは!?心の中で叫びつつ動きをより早くして防ぐ。ならばとそれに合わせて繋ぎ目を撃ち抜こうとする。刃が持ち手から離れた時には薔薇三日月の弾も切れでただの大鎌となっていた。薔薇三日月を投げ捨ててエクスカリバーと菊一文字抜いて突撃してくる。アイテムボックスよりレイルが打った刀を取り出して応戦する。

 

 擦れ違い様の一振りでマインは脇腹を切り裂かれた。さすがに内臓が飛び出るような傷ではないがかわりに血が溢れ出ていた。痛いはずなのに興奮しているのか剣を構えたまま嗤っていた。本来なら振り返ったと同時に防御ではなく攻めに出て、マインの防ぎ方を見ようと思っていたのだが…。

 

 着けていた仮面の頬に触れると薄っすらと線が入っている。勿論模様の類ではない。傷だ。しかも刀傷。

 

 「クハッ♪」

 

 不思議と声が漏れた。仮面が今日ほど邪魔臭く感じた事はない。仮面を外して描かれた空を見上げる。

 

 「クハハハハハハハハ」

 

 自然と出た笑い声と共に俺は今嗤っているのだろう。脇腹から血を垂れ流しているというのに嗤いに嗤い返してくるマインもぼっちも狂ってるように嗤う。アイテムボックスからもう一本の刀を取り出して斬り込む。二人の刃が何度も何度もぶつかり合って火花を散らす。

 

 マインのレベルは34に到達しており、吸血鬼の種族値もプラスされたレベル30ほどのぼっちのステータスは近かった。が、徐々にマインは傷だらけになっている。これはぼっちの超反応が大きな原因だろう。

 

 刀を右足に差込んで、次の刀をアイテムボックスより取り出す。左肩を切り裂かれようと、左足の骨が砕けようと、片目を潰されようとも剣を振るい続け嗤う弟子と斬り合う。試合というより殺し合いが終了したのはマインが袈裟斬りにされて倒れてからだった…。

 

 

 

 「うわぁああああ!?」

 

 死に掛けたマインはいつもの白い世界に行くとあの女性に合い、問答無用の迫る拳で目を覚ました。慌てて辺りを見渡すと前に一度だけ寝泊りした事のある部屋だった。

 

 「あれ?」

 「やっと起きたんだ。本当に死んじゃったかと思っちゃった」

 「そ、そんな失敗しないよぉ」

 「分かってるわよ。ただの比喩じゃない」

 「これはアウラさんにマーレくんッ痛ぁあああああ!!」

 

 ベッド脇に居たアウラとマーレに気付いて姿勢を正すと体のあちこちから悶絶しそうな痛みが主張してきた。ベッドの上で悶えるマインを心配そうにマーレは慌てるがアウラは呆れ顔を浮かべていた。

 

 「あんた死に掛けてるのに元気よね」

 「だ、大丈夫ですか!?」

 「だ、だだだ、大丈夫です…」

 「その状態で大丈夫だったら世界中のほとんどの重症患者はなくなるわね」

 「じゃあ、だいじょばないです」

 「じゃあって何よ。じゃあって」

 「だ、だいじょばないって言葉的に可笑しくなかった?」

 

 怪我を抑えつつ唸るが痛みがなくなる訳はない。荷物に入っている回復用のポーションを使用する前にマーレに回復されて痛みが和らいでいく。

 

 「ところでどうしてぼっ…アルカード様に勝負なんて挑んだのよ?」

 「へ?」

 

 質問の意図を理解しかねて首を傾げる。対して二人は何故と疑問を浮かべる。

 

 「だって勝負の結果なんて見えてたでしょ?」

 「えーと…だから挑まないんですか?」

 「普通はそうじゃない」

 「勝てないから勝つ為に挑むのが普通じゃないの?」

 「はぁ!?ぼっち様に勝つって本気で言ってんの!!」

 「勿論ですよ。いつの日か超えてみたいんですよ……ところでぼっち様って?」

 

 えへへと笑いながら答えたマインに向けられた感情は怒りだった。至高の御方を超えると口にする事自体がおこがましく、ぼっち様の弟子にしてもらったとはいえたかが人間がと睨みつける。

 

 「・・・そうか・・・超えるか」

 「「「うわっああああ!?」」」

 

 突如背後から現れたアルカードに三人共跳び上がって驚く。マインは再び痛みで蹲る事になったが…。そこにはさっきの怒気は消え去っていた。

 

 「やっぱりアルカード様は強いですね」

 「・・・」

 「でもいつか絶対勝って見せますから」

 「ああ・・・楽しみだ」

 

 堂々と本人に宣言する事に恐々とするアウラとマーレだったが嬉しそうにニッコリと笑って頭をなでるぼっちを見つめて困惑する。が、あの楽しそうな嗤いを浮かべていた二人思い浮かべてこの師弟はそれが正しいんだと認識した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。