骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第137話 「後処理とお楽しみ」

 貴族の王国に対しての攻撃はこの城での戦いで終了した。

 

 おかしな話である。反乱貴族連合の最大拠点を潰した訳でも。補給線を断った訳でもないのに内乱が終結したなどありえないはずなのだ。数ある拠点の一箇所の戦闘で情勢の流れが変わることがあっても勝敗がつくことはない。

 

 ないはずなのだが…。

 

 王国軍の指揮を執っていたガゼフ・ストロノーム将軍にリ・エステーゼ王国女王のラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ女王陛下、アルカード伯爵の養子でありラナーの婚約者となったクライム・ブラウニー親衛隊長に今回の戦を決したアルカード・ブラウニー伯爵…つまりぼっち達は城の中央広場に集まっており、そこには引き摺り出された反乱貴族を率いていたウロヴァーナ伯爵にぺスペア侯爵、そして彼らの大義名分になった第一王女などの反乱貴族連合の上層部が捕縛されていた。

 

 この戦いの終結というのは敵の頭を押さえたことに他ならない。だが、貴族連合と言っても勝手に動く連中もいるだろうから小規模戦闘はあるだろう。だが、大規模の攻勢はない筈というのが王国側の認識である。

 

 クライムはラナーをいつでも守れるように待機しながら話に耳を傾ける。

 

 「これで敵の大将を抑えられたのは良かった。これで戦いも終わる」

 「いえ、それは逆ですよガゼフ将軍」

 「どういうことですかブラウニー殿?」

 「敵の首謀者は捕らえれましたが相手にはまだ余力がある。それにあの二人が纏めていただけで服従していた訳ではありません。小規模の戦闘、地の利や奇襲を生かすゲリラ戦…これからの戦いは泥沼化するでしょうね」

 「そうなると大群を率いての軍隊では厄介。機動力を生かせれる分だけ向こうが有利…となると実に厄介ですね」

 「でも、まぁ大きな指揮系統と大義名分を失った彼らなら交渉だけでこちら側に引き込めますけどね」

 「どれぐらいいけそうですか?」

 「アルカード伯の活躍も含めれば八割は余裕かと」

 

 微笑みながら答えるラナーの横顔に見つめながら、義父であるアルカード・ブラウニーの活躍を思い返す。たった三人で正面から向かって行くと降り注ぐ矢を剣一本で打ち落とし、大鎌で大群をひとりで無双し、門を一本の矢で貫通させてハンマーの一撃で粉砕した。これだけでも異常な事態なのにフロスト・ドラゴン三匹をいつの間にか手懐け、今までになかった『降下作戦』なる作戦を実行した事だ。

 

 どれも常人離れした偉業であり異常だった。前々から良くして貰ったし、貴族として、義父として、人として信頼も信用もしている。けれど時々怖くなる。あれだけの力を持つアルカード伯がもしも王国を裏切ったら…。考えるだけでもぞっとする。ありえないとは思っているのだが。

 

 「放しなさい!!わたくしを何方と心得ているのですか!!」

 

 劈くような甲高い声が辺りに響き渡る。何度目か分からない声を耳にして視線を向けると案の定第一王女が喚いていた。ウロヴァーナ伯爵にぺスペア侯爵は兵士に囲まれて大人しくしているが第一王女だけは立場や状況など理解していないようで王族である事や夫がどれだけの貴族かを先ほどから喚き散らしている。

 

 ヒステリックな叫びに辺りの兵士も呆れたような眼差しを向けているがラナー様やアルカード伯は聞こえていないかのように会話を続けていた。

 

 「ゲリラ戦を仕掛けてくるのでしたらクレマンティーヌの隊をお貸ししましょうか?彼女の隊なら夜襲や奇襲から破壊工作まで行なえるでしょう」

 「宜しいのか?こちらとしてはありがたいがアルカード伯は領地を独自で守らねばならないのではないか?」

 「大丈夫ですよ。本隊及びにフロスト・ドラゴンが待機している状態で攻めて来たところで返り討ちですよ」

 「さすがはアルカード伯ですね。何時の間にフロスト・ドラゴンを手懐けられたのですか?」

 「アゼルリシア山脈にハイキングへいった際に」

 

 まるで龍を出かけた先で拾った程度に話しているのはどうなんでしょう?そんな話をしている最中も第一王女はヒステリックに喚き続ける。さすがに気にし始めたのかアルカード伯が立ち上がり、刀を片手に第一王女に近付いて上から見下ろす。

 

 「無礼者!わたくしを見下ろすとは…貴方名前は?」

 「アルカード・ブラウニー伯爵と申します」

 

 礼儀正しくぺこりと会釈もして答えたアルカード伯を嗜めるように見て軽く笑った。

 

 「たかが伯爵がこんな事をしてただですむとお思いですか?まったくわたくしを何方だと…」

 「先程より気になっていたのですが…何方なんでしょうか?」

 「はぁ?」

 

 アルカード伯の質問に第一王女と付近の兵士、ガゼフ将軍に私も無意識に声を漏らしてしまった。それもそうだろう。リ・エステーゼ王国第一王女であり、六大貴族であるぺスペア侯爵の嫁である彼女を知らない貴族は居ないだろうと思っていた。今日今日までは。

 

 ぼっちとしてはスキルを使えば分かるのだが別段調べる気にもならず、だったら聞けば良いや程度の相手なのである。そもそもレエブン候以外の六大貴族には興味が無く…いや、あってもその者のみで血縁者や近親者を調べるなんてことをしてこなかったが。

 

 「わたくしを知らない?」

 「ええ、まったくもって」

 「本当に?」

 「ですからそう申し上げておりますが」

 

 唖然とした表情で固まってから30秒が経った頃に小さく息を付いた次の瞬間には刀を振り上げ、何の躊躇無しに振り下ろした。短く悲鳴のようなものと一緒に他のものまで漏らして地面を濡らした。刀は人を斬る為に振り下ろされたのではなく、手を縛っていた縄を斬って自由にする為に振り下ろされたのだ。

 

 「去れ」

 

 刀を眼前で振り下ろされた恐怖で失禁してしまい、羞恥で顔を真っ赤に染める第一王女にその一言だけ告げると背を向けて元の席へと帰っていった。別段その行動を咎める者もおらず、第一王女は担がれただけとして罪の一切を咎められずにぺスペア侯爵の屋敷に帰らされた。

 

 首謀者であるぺスペア侯爵にウロヴァーナ伯爵は領地のほとんどを没収。貴族の階級も取り上げられて力のほとんどを失った。残った土地を売り切りして生活するしかない。一般人なら今まで通り生活を一生困らないだけの額は手に入るが、贅沢に贅沢を重ねた暮らしに慣れてしまった彼らは満足のいく生活は送れないだろう。

 

 『城』で立ち止まっていた兵士達はアルカード候の活躍と敵首謀者の捕縛と言う戦果で士気を取り戻し、各地で抵抗する貴族へと向けられた。特に決死の覚悟で抵抗する貴族にはクレマンティーヌと『バスカヴィル』隊が向かって戦力のみを殲滅した。ラナー女王は抵抗している貴族に『城』での一件を大々的に広め、交渉だけで多くの貴族達を引き込んだ。

 

 この調子なら内乱もすぐに落ち着くだろう。ラナー王女と共に王宮内の仕事に戻ったクライムは休憩時間に調べ物をするようになった。『城』内部を調べている時に天守閣と呼ばれる部屋に書かれていた『長門武士団』というグループについてだった…。

 

 

 

 戦を終えたぼっちは大きく息を付きながらフロスト・ドラゴンが運んでいる兵士移送で使った『木箱』で帰路についていた。

 

 今回の戦は暴れられたし、フロスト・ドラゴンを使った降下作戦も実施出来たし、何より日本の雰囲気を漂わす『城』を見れたのは一番良かった。なのにため息を付いたのは試作の武器が原因だった。中々の完成度だったがアレでは売れないし、生産性に欠ける。

 

 クレマンティーヌを降ろした為に空いたスペースに腰掛けるぼっちは横に目をやると、渡した大鎌をルンルン気分で磨いているマインは本当に嬉しそうで良かった。ニグンは『バスカヴィル』の副官としてクレマンティーヌと一緒に残してきたから居ないけど居たら居たで何をしてたでしょうかね。

 

 まぁ、いいか…と考えを放り出して別のことを考え始める。手にした龍の死骸という実験体。アインズさんはやる事があるからと別件に気を取られたのと、提示した実験に興味を示されたのでそちらを行なう事になった。帰ったらデミウルゴスに頼んでいろいろしてもらわなくちゃ。

 

 「アルカード様!!」

 

 急に大声で呼ばれたのでぼっち以外にも距離を置いて座っている兵士もマインを振り向いた。大鎌を大事そうに抱き締めたまま満面の笑顔を浮かべるとは何とも違和感の残る…不気味とも言っても良いほどの絵になっているのだが本人に言った方がいいのだろうか?

 

 「お手合わせ願います!」

 「・・・・・・今?」

 「い、いえ、後で」

 

 ですよねー。こんな狭い空間でそんな武器振り回すとかマジ勘弁ですよー。

 

 ホッと胸を撫で下ろしながらそれも面白そうかと胸中を躍らせる。それに最近は稽古をつけれてなかったし、本気の実力を見てみるというのも良いかも知れない。

 

 「・・・良い・・・ですよ」

 「本当ですか!?やったー♪」

 

 喜ぶマインを視界に納めつつどの獲物で遊ぶかでこれからの楽しみへの期待を膨らますのであった。

 


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