骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第135話 「絶望…(相手側のみ)」

 降り注ぐ矢の雨を涼しい顔をして三人が行く。召喚したイフリートを盾にするニグンとマイン、そして自分に降り注ぐ矢を剣で斬り落としていくぼっちの三人だ。斬り落とすといっても剣を振るのではなく剣を回転させて落としているのだ。レイルに作らせた剣で柄と刃の間がリング状になっており、そこに指を入れて遠心力を用いて回転させやすく、そして怪我をしないようにリングはツルツルに磨き上げられている。

 

 使い勝手が良い様なら商品化も考えていたのだが中々難しく、人間には扱い辛い武器になってしまった。慣れればそうでもないかもしれないが…。

 

 「やはりヴァンさんのようには行きませんか」

 

 タキシードを着たとある主人公を思い出しながらため息をつく。矢を落としながらゆるりと歩を進めると城壁上に居る指揮官から忌々しげな睨みを受けた。軽く手を振ってやると顔を真っ赤にして何かを叫んでいる。こちらにではなく門の内側に向かって叫んでいる。

 

 木で出来た門が開いて騎馬兵の一団が姿を現した。数にして20騎ほどだろうか。剣を鞘に収めて次の武器である大鎌をニグンより受け取る。この大鎌も試作品である。使いようが使いようだけにお金のかかる武器となっている。

 

 この大鎌の最大の特徴は鎌がついている棒の先端に発射口が存在する事だ。ぼっちの《ナイフバット》を応用した剣のマークが刻まれた球により発射口より第三魔法《ファイヤーボール》が放てるようになっている。これにより従来の近接武器で中距離戦闘が可能となった。ここまではこいつの利点だ。しかしデメリットも存在する。まず最初に出るのが資金だ。これには発射後の球を棒内より出す機関がスライド式で手動で行なう細工が施されている。細工や大鎌だけの代金だけでも高いというのに撃てば撃つだけ補給する球代がかかってくる。それに重量も馬鹿にならないし、射撃時の反動も中々で下手をすれば手首を捻るか、最悪骨折してしまうだろう。

 

 とある作品で見てから再現したかった武器で、本来なら鎌の部分を収納式にしたかったがそこまでの技術力はないし、それにしたらしたで金がまたかかって売れなくなる。すこし考えものの武器である。

 

 駆けて来る騎馬を見据えながら大鎌を構える。迫る騎馬の見つめて振るう。遅すぎる振りだと見て分かった騎馬兵は恐れる事無く槍を突き出しつつ突っ込み切断された。柄と二騎目が重なったところで撃ったのだ。射撃の反動で加速した振りが加速した鎌が一騎を切り裂き、二騎目を先端から放たれた《ファイヤーボール》で焼いた。

 

 「これは中々…アハハ!!どうしてこうも…いやはや良いね。面白い」

 

 鎌を回しながら片手でスライドバーを弾いて撃ち終わった球を輩出させる。途惑いながら見つめる騎馬兵を見つめながら鎌が後ろに来るように構える。

 

 「おおお、恐れるな!!大将首ぞ!!」

 

 隊長らしき者が叫び新たな武器に、仲間の死に怯えた兵士を奮い立たせて攻撃を再開させる。だがここで焦りは無い。自分が本気を出せば圧倒できるからという理由でなく。この武器は一対一ではなく一対多数の武器。囲まれようとたかが20程度の敵の突撃など物ともしない。

 

 背後に向けた大鎌より《ファイヤーボール》が発射され、反動と近場で爆発した爆風でぼっちは前に飛びながら加速して接近してくる。騎馬よりも速い速度で突っ込んだぼっちは球を輩出して二射目を放つ。今度は前方に飛ぶ為ではなく自身を横回転させる為だ。通り様に騎馬ごと切断されていく。だがそれだけでは終わらせない。地面に足がつくのなら数歩かけて再び撃っては加速、大鎌を振るい、球を輩出し、切り刻む。もはや人間の目で追えるものではない。横だけではなく縦にも回転して真っ二つにして空中を舞う。

 

 最初は20いた騎馬隊が2騎減って18になったと思ったら目にも止まらぬ速さで5騎になるまで刻まれた。いや、この数も正確ではない。最後尾に居た騎馬兵が付近に居る自分以外に四人居ると認識したときにはその中央に返り血すら浴びてないぼっちが立っているのだ。大鎌を横に振るいながら何発も発射する。騎馬も兵もだるま落としの如く落とされていく。最後には肉片を残さないぐらい焼かれ、ぼっちの周りには焦げた地面と空から降って来た球が降り注いだ。

 

 「凄いですアルカード様!!」

 

 人がばらばらにされるという惨状を目の当たりにしたというのにマインは天真爛漫という言葉が似合うような笑みを浮かべた。微笑みながら10発ほど球が入るマガジンを外して、腰につけていた予備のマガジンを取り付ける。

 

 「さすがはアルカード様。その武器も凄まじいものがありましたな」

 「私的には重畳だがやはり使い手を選ぶ」

 「肉体的にも技術的にも資金的にもですね」

 「ボクも使ってみたいです」

 「ならばこれはお前に送ろう」

 「良いんですか!?」

 「使いこなしてみせろよ」

 「はい!見事使いこなしてみせます」

 

 笑みを浮かべるマインに大鎌を渡すとまだ向かって来る兵士を見てため息をつく。試す武器は二点ほどあるがそれは大鎌のように対多数武器ではない。数だけの集団は面倒なので一気に片付ける事とする。

 

 「第666拘束機関解放、次元干渉虚数方展開」

 

 ぼっちが片腕を突き出しながら呟いた一言で何をしようとしているのか理解して、ニグンの手を引いて離れる。近場に居ては邪魔になる事を使用したマインが一番よく分かっている。大体の事を察したニグンは何も言わずにただついて行く。

 

 「コード《ソウル・オブ・ランゲージ》碧の魔道書、起動!!」

 

 足元から手袋の下に描かれていた剣を中心にした紋章が広がって、碧色のオーラに包まれた。コートの下に隠していた3メートルもある鎖を一本ずつ手にする。先はヘビの頭を模した鎖にも碧のオーラが纏わり禍々しい雰囲気を放つ。

 

 「シャアアアア!!」

 

 騎馬以上に群れた私兵達が我武者羅に突っ込む。それは忠義や生きる為といった目的ではなく、金や権力の追加を言い渡された欲をかいた突撃だった。甘い蜜に踊らされた彼らは今度はその二匹のヘビによって踊らされる。軽い一撃であるはずなのに触れたものは肉体が吹き飛ぶか身体が吹き飛ばされた。

 

 「マイン、行くぞ」

 「ッ!!はい♪」

 

 うずうずしていたマインの様子を知ったぼっちの一言により大鎌を構えたマインも参戦。戦場には悲鳴だけが木霊した。敵は恐怖で震え上がり、王国軍は歓喜の叫びを上げた。

 

 門から出撃した兵士があまりの惨状に勝手に撤退を開始したのを待つ事無く門を閉めようと動き出した。大の虫を生かす為に小の虫をとは言うものの見ていて気持ちの良いものではない。見捨てる側も見捨てられる側も。

 

 「ニグン…弓を」

 「ハッ!どうぞ」

 

 反り返った剣の柄をくっつけた様な弓と矢を手に取り、敵兵が殺到する閉じられた門へ向かって構える。この矢も《ナイフバット》の技術を応用している。矢には《雷槍》、弓には《ライトニング》がかけられている。

 

 放たれた矢は空中で電撃の槍となりて、《ライトニング》で押され加速して門を貫いた。直径50センチほどの穴を開けた事を確認して欠陥品である弓を捨てる。《雷槍》になる矢はまだ使い捨てと考えても良いのだが、弓は最低でも鉄製でなければ爆散し、鉄製でも《ライトニング》に耐えれず割れる。今使った弓はアダマンタイトで補強していても、割れないだけでもう使い物にはならない。一発放つごとにアダマンタイトの弓を買い換えるなぞありえないほどの出費だ。それも戦場で使用するのだから命を預ける武器としては信用できない。

 

 「ふぅ…もう終わりか」

 

 敵の抵抗ではなくこの戦の終わりが来た事を呟く。その幕引きを行なう者達を肉眼で捕らえた敵兵は騒ぐどころか両膝をついて呆然と眺めるか涙を流し後悔の念に押しつぶされていた。

 

 太陽を背にして三匹のフロスト・ドラゴンが『城』へ向かって行く…。


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