リ・エステーゼ王国
長きに渡りバハルス帝国と戦争を繰り返していたが、敵陣での伏兵に奇襲、裏切りも相次いで勝利を得た王国は理性的であり絶対的な力を持つアインズ・ウール・ゴウン魔導陛下と同盟を結ぶ。帝国は王国に手痛くやられた上に強大な魔導国が王国側に周った為に戦力の回復も兼ねて手を出せなくなった。
勝利した王国だったが六大貴族と呼ばれる大きな力を持った貴族も含めて、大半の貴族の当主と多くの兵士を失ってしまった。されど王国にとっては転機でもあった。王に反発していた貴族が居なくなって動きやすくなり、王が身を引いた為に発足された新政権が動きやすくなったのだ。
こうして新政権の打ち出した新たな政策と王国と帝国の境に存在するアインズ・ウール・ゴウン魔導国と共に平和に過ごしていくのでした。めでたし、めでたし…
……とはいかなかった。
新しく打ち出された政策の中には領民の負担軽減と税の一括化も含まれており、自身の財政を脅かす税の軽減策には反対派の貴族が多くいたのだ。中には別の考えを持つ貴族もいた。六大貴族のウロヴァーナ伯爵は第一王子の王位継承を望んでいた。しかし、当の王子はカルネ村で戦死なされた。このことで強くアルカード伯爵を恨んでいたのだ。アルカード伯は村を襲った王子の行動は許されるものではないと声明を発表しているが、前々よりカルネ村と接点があり、ただの村が王子が連れていた兵力を超える兵力を用意出来る訳がない事からアルカード伯爵が仕組んだ事ではないかと疑っているのだ。
ウロヴァーナ伯爵以外に六大貴族のぺスペア侯爵も不満を抱いていた。あの帝国との戦争で王は第一王子と第二王子を亡くした。これにより王位継承権を持っていた男児は全員死んでしまった事になった。そう、男児はなのだ。男児が居なくなったということで娘のラナー王女が王位を継いだのだ。だが、王女はラナーだけではない。ラナー王女には姉がおり、その姉である第一王女はぺスペア侯爵が娶っているのだ。ゆえにぺスペア侯爵は「第一王女にこそ次の王位継承権は与えられるべき」と考えている。
されどその不満・不平を持った貴族達が動かないのはアルカード・ブラウニーが悪魔の像《ガーゴイル》の如くに睨みを利かせていたからだ。本人にはそんな自覚はなくとも周囲にはそのように捉えていた。敵対するとなると知略や戦術で戦場を支配した男を恐れない訳はない。王国で唯一独立性を持つアルカード領そのものも恐れの対象にもなった。
元が商人で《ヘルシング》と言う店もすでに王国全土に展開されている。物流のほとんどを支配して傭兵や警備などの事業にも手を出しているだけに資金は豊富。噂では王国の財政を超えるとまで言われている。雑兵でも盗賊、夜盗でも気概がある者は自衛の為と引き込んでいる。兵力も財力もあれば装備も充実した軍隊が出来上がっていた。しかも指揮官である将軍には元帝国四騎士の『重爆』の異名を持っていたレイナース・ロックブルズが行なっている。それだけでなく、王国最強と謳われ、帝国のフールーダ・パラダインと互角以上に渡り合ったアルシェ・イーブ・リイル・フルトも脅威であった。魔法で空を飛ぶ相手に対して有効的な手段を持たない兵士はただ上から放たれる魔法の餌食になる。ひとりで一国の軍隊とも渡り合える少女なんて冗談にしか聞こえない。
アルカード伯が居るから動けなかった貴族達だったが転機が訪れた。なんとアインズ陛下とアルゼリア山脈に向かうと言うのだ。しかも二週間の予定で。一度行けば追いつく事など出来ない険しい地形に空より飛来してくるモンスター群。伝令など辿り着くはずもない。アルカード領の兵士達はざわめくだろうが独立性を持っているが為に王国から命令は出せず、アルカード伯が居ないから動けるはずもない。
こうして生き残った六大貴族三人中二人が新政権に敵対する形で反旗を翻したのだ。勿論不平・不服のあった貴族達もこれに呼応。私兵だけと言ってもかなりの数がおり、大きな脅威に膨れ上がったのだ。
対して王国側はガゼフ・ストロノーフ将軍に敵対貴族討伐の命を下した。確かにアルカード伯不在は不安な点も大きかったが勝算は大きかった。相手の兵力のほとんどが金で雇われただけの私兵で、こちらは錬度も士気も高い戦士達。忠義よりも己の命を大事にする者と命を捨ててまで忠義を貫き通す者では戦いの勢いが違った。
各地で散漫的に起こる貴族の反乱を尽く撃破していく王国軍の活躍は毎日のように聞こえて、各戦線でも敗北という結果を聞く事無く勝利を重ねていった。当初から勝機があると踏んでいた王国側は少なくとも一ヶ月以上かかると思っていた試算を二週間もあればかたがつくと発表した。ラナー女王以外はアルカード伯が居なくても勝てると考えていた。
だが、結果はラナー女王が懸念したように難航した。連戦連勝した王国兵は小規模なものを含めても何度も戦を行い疲弊していった。進軍速度は落ちて思うように動けなくなり、戦線維持するだけで手一杯になり、さらにはガゼフ将軍の本隊が敗北すると言う事実が広がった。
昔から存在する『城』と呼ばれる砦に篭ったぺスペア侯爵に返り討ちにされたのだ。別に彼に軍略の才があった訳ではない。『城』は守るに易く、攻めるに難い要塞だったのだ。城門を突破して中に雪崩れ込んだ兵士達は迷路のような構造により分散され、行き止まりや罠、高所からの攻撃に晒されて撤退をしたのだ。
『城』を落とせば敵の大将格を捉え、最大の敵拠点を抑える事が出来るのだが手を拱く事しか出来ない。さらに状況は悪化。帝国で動きがあったと報告を受けたのだ。ラナー女王はこれはこちらの状況を理解した皇帝が王国に仕掛けたブラフと理解したが他の者が分かるわけはなかった。不安にかられて敵前逃亡を図る部隊まで現れ始めた。さらに追い討ちをかけるようにアルカード伯の帰りが伸びたのだ。二週間程度の予定がドワーフやクルゴアとの連日にかけての宴会につき合わされ、鉱山の発掘作業などの手順などの資料製作で遅れたのだ。
で、アインズと一緒にナザリックに帰還する前に領地に少しだけ寄ろうという気持ちで向かったぼっちは館前で待ち焦がれていたらしい王都よりの使者に捕まったのだ。とりあえず会議室で話を伺う事になって使者に警護者を含んだ者達のそんな話を聞かされ現状を理解して大きく息をついた。ちなみに会議室内には館に居たマインがぼっちの護衛として待機していた。
「それで私に参陣せよという事ですね」
「ハッ!そのように聞いております」
フロスト・ドラゴンで皆を驚かせようと思って寄っただけなのにこの状況はなに?何か俺に恨みあんの?いや、ひとりはあるようだったけどさ…。
『粉バナナ』
おい!待て幻聴!!台詞どおり「これは罠だ」って言うかせめて「こな罠だ」って言えよ!!いきなり聞き間違いを叫ぶなし!
『反省はしているが後悔はしていない』
しろよ!少しで良いから。それに元ネタ解らんもんだすな。
幻聴に突っ込みいれながら視界に入ったマインにこっちにくるように手招きした。目をキラキラ輝かせながら駆け寄って来たマインをなんとなしに撫でてみた。思いの他さらさらして気持ちよかったので続けながら使者に視線を戻す。
「他に指示はあるかい?例えば兵力は何人出してとか、こういう事をして欲しいとか」
「いえ、ただ『城』を攻略して欲しいとの事で」
「ふ~ん」
ばれないように麓近くに隠したフロスト・ドラゴンをどうしようかと悩んでいると面白そうな事を思いついた。ニヤリと嗤った事を仮面を被っているが雰囲気で察した使者達は怖がることなく、心強く感じていた。
「準備も含めて四日後に行きましょう」
「了解しました」
嬉しそうに部屋を後にする使者たちを見送ったぼっちは撫で続けていたマインに視線を移した。アウラやシャルティアのようにトロンとした表情はしてなかったがとても嬉しそうであった。
「戦争ですね。ボク頑張りますね」
「私も・・・出る」
「やった♪アルカード様の戦いが見られるなんて」
「・・・そんなに・・・嬉しい・・・のか?」
「勿論ですよ♪あとでアウラさん達に自慢できますし、何より戦い方の習う事が出来ますから」
「そうか・・・」
戦支度をする為に立ち上がると、他にもやってみたい事を見つけたぼっちは急ぎレイルの元へ向かうのだった。