骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第132話 「酔ったのなら仕方がない」

 アウラは宴の席より離れてひとり黄昏ていた。

 

 今回アルゼリア山脈では何も出来てない気がする。シャルティアはクアゴア先遣隊の捕縛、アルベドは条約作成から交渉、ナーベラルはアダマンタイト級冒険者『モモン』との繋がりの為に居るだけで意味がある。シズは食料調達の際に褒められていた。ルプスレギナは私と同じで褒められたという記憶は無いが、彼女はプレアデスとはいえメイド。対して自分は階層守護者と立場が違う。

 

 大きく息を付きながら手にしていた肉を頬張る。ぼっち様が調理したと思うだけで何十倍にも美味しく感じる。そして自分はこれを食べるだけの働きをしただろうかとまた悩む。さっきからこの繰り返しだ。

 

 宴を行なっている方から大きな歓声が上がる。歓声の中心にはぼっちの姿があった。ドワーフやクアゴアと親交を深めるべく飲み比べを行なっているのだ。さすがにタルごとでは相手を圧倒しすぎてしまう為に大きな木の器で飲んでいる。

 

 「参加しな~の?」

 「ぅわぁっ!?」

 

 何の気配もなく現れた相手に驚きつつ距離をとる。そこにはここにはなかったチャーハンが盛られたフライパンにせっせとレンゲで口へと運ぶモミの姿が。

 

 「なんであんたが居るのよ!?」

 「ほほひほほーははら」

 「飲み込んでからでいいよ」

 「んぐ…ゴックン。面白そうだから」

 「そんな理由で勝手に来ない」

 

 ふひひと笑う同僚を見て余計にため息が出る。彼女みたいに楽天的だったら今の思いも変わってくるのだろうが、自分達は至高の御方に仕える事こそが最高の喜びなのだ。ゆえに何も働けてない自分は…

 

 「はぁ…」

 「さっきからため息ばっかでどったの?」

 「…なんでもない」

 「なんでもないことないっしょ。このお姉さんに言ってみ」

 

 何がお姉さんよ!っと突っ込みを入れようかと思ったが溜め込むよりも言ってみるのも良いかも知れない。とりあえず自分が思っている事を端的に話すとフヒヒと笑われた。

 

 「…皆大変だよねぇ。だったらもうすぐ役にたてると思うよ」

 「どういう事?」

 「いいからいいから」

 

 言っている意味が分からず首を傾げていると軽くぼっちの方へと押し出されていく。

 

 「ちょ、ちょっと!?」

 「いいからぼっちさ――まの所に行って適当な理由で連れ出したって」

 「それってどういう…」

 「さっさと行く」

 

 押されるがままに歩き出し、飲み比べで圧勝しているぼっちの元へと辿り着く。まだ挑戦者がいるらしかったがそれらを押し退けて前に出る。

 

 「ぼっち様…その、えっと…少し宜しいですか?」

 「構いませんよ」

 

 周りの奴らに失礼と言葉を残してその場を離れる。なんで連れ出す必要があったのかは分からないのでモミの元へと向かったのだが、すでに姿はなかった。首を傾げながら辺りを見渡す。今居る所は宴より離れており、向こうからは意識しないと視界にも入らないだろう。

 

 ふと右肩に温かく柔らかい感触が伝わってきた為に振り向くと一瞬にして真っ赤になった。

 

 肩にのしかかったのはぼっちだった。頭が働かずに口も動かなかった。

 

 「助かった…少し酔った」

 「酔った…んですか」

 「ああ…」

 「えと、あーと、その…」

 「部屋まで運んでくれるか?」

 「は、はい!」

 

 酔いで力が入らないらしく何とか背負って運ぶ。身長差がありすぎて引き摺らないようにするのが大変だったが、それよりも至高の御方が背に乗っているという緊張の方が大きかった。やっとの事で元王宮の一室に辿り着いた。

 

 王宮といっても仕えている執事やメイドも居らず、部屋を使用する者もフロスト・ドラゴンが巣にしていた為に近づく事もほとんどなかった。ナザリックに比べて粗悪な作りで至高の御方が過ごすに値しないのだが、アインズ様もぼっち様も構わないと言われたからには使えるようにプレアデスの三人が綺麗にはしたけど…。

 

 「やっぱりこんな部屋にぼっち様をお泊めするのは失礼だよね」

 

 と、なるとシャルティアに話してゲートでナザリックに送り届けてもらおう。それが一番だろう。あそこ以外に至高の御方が過ごされる場所など存在しないだろう。それにここでは守りが薄い。

 

 なれば早速と言わんばかりに踵を返そうとしたがその前に意識を取り戻したぼっちがもぞもぞと動いた。

 

 「起きられましたか?」

 「ん・・・ベッド」

 

 もそもそと背から離れたぼっちはのそのそとベッドへと向かう。その姿を見て「失礼します」と一言残して退室しようとしたのだが、背後から物音がして振り返るとベッドに辿り着く前に力尽きた至高の御方が…。

 

 「大丈夫ですかぼっち様!?」

 「・・・眠い」

 

 心配して駆け寄ったアウラは返ってきた言葉でほっと胸を撫で下ろす。何事も無かったようで本当に良かった。安心したのは良かったのだがいつまでも床に転ばせる訳にはいかない。抱き抱えるようにしてベッドに転ばせる。ベッドに転んだぼっちはかけ布団へと手を伸ばしていた。今度こそ退室しようとドアの方へと向き直った。

 

 突如手が使えないようにホールドされ、引っ張られた。なす術もなくベッドに横にされたアウラは現状を確認する。

 

 ホールドした物はぼっち様の腕で、引っ張られて背にぼっち様の胸板が押し当てられ、動こうにもぼっち様の足が自分の足に絡んでいて不可能。そして頬に押し当てるようにぼっち様の頬が…。

 

 状況を理解したアウラはボンっと音を立てて真っ赤になった。もがこうにも熟睡し始めたぼっち様の邪魔も出来ず、そのまま居るしかなかった。

 

 「ノックしてもしも~し」

 

 変な挨拶と共にモミが入って来た。一瞬の沈黙の後に恥かしさで何か言おうと口を動かすが声が出ない。ニヤリと嗤ったモミは記録用媒体を取り出し記録する。余計あわあわと口を動かすが「起きちゃう。起きちゃう」と現状を再認識させられて動けずに好きにさせるしかなくなる。

 

 「ん~・・・良い・・・匂い」

 「――ッ!!」

 「…天然か?これ」

 

 耳元で囁かれた言葉でさらに真っ赤になり、茹蛸状態のままアウラは意識を失った。

 

 朝方ジトーとした視線に囲まれた中で目を覚ましたのは仕方がないことだろう。

 

 

 

 アルベドはアインズに続いて会場を後にした。いつの間にかアウラもぼっち様も姿を消しており、そろそろお開きというながれになったのだ。なったのは良かった。

 

 突如現れたモミにクラッカーを鳴らされてからどうも調子がおかしい。少し足元がおぼつかないのだ。ステータスには何の問題もない。そもそもアイテムを装備しているからそれらを無効にするアイテムなどこの世界には可能性としてはかなり低いだろう。

 

 考えようにも思考にもやがかかったような感覚に襲われてうまく考えがまとまらない。

 

 「どうしたのだ?」

 

 愛しい御方の声を耳に入れ、俯きかけた顔を上げる。そこには表情こそ分かり辛いが心配そうな雰囲気を出しているアインズ様が立ち止まられていた。

 

 「いえ、なんでも…」

 

 御方に心配させまいと「なんでもありません」と言おうとしたのだが、足がふらついて倒れそうになった。踏ん張りもきかずにその場に倒れる前にそっと受け止められた。自分が前に倒れ掛かった事もそうだが、大きく動けなかったアインズは受けるしかなく抱き締められる形となってしまった。

 

 最初は頭がぼーとしてなにがなんだか理解できなかったがそれは長くは続かなかった。冷水でもかけられたかのように頭がさえたアルベドは頬を赤く染めながら飛び退く。

 

 「し、失礼いたしまきゃ!?」

 「アルベド!!」

 

 勢い良く飛び退いた結果、今度は足がもつれて後ろに倒れそうになった。アルベドよりも慌てたアインズは腕を伸ばして掴んだアルベドの手を引っ張る。結果的にさっきより抱き締めるような格好になってしまったがそれどころではない。

 

 「どうしたのだアルベド?どこか調子が悪いのか?」

 「その…少し気分が優れないのです」

 「なに?アイテムは使用しているのだろう。何者からの仕業か?」

 「分かりません。足が言う事を聞いてくれません。それに頭に靄がかかったようで」

 「バッドステータスか?…ぼっちさんを集めて警戒する必要があるな。もしもの時は即座にナザリックに帰還することも視野に入れなければ」

 「申し訳ありませんアインズ様。このような時に」

 「いや、アルベドが悪いわけではない。そうだ。何かアイテムを使われた心当たりはないか?」

 「そういえばモミにクラッカーを鳴らされてから体調が優れなくなったような気が…」

 「クラッカー?…あいつ」

 

 何か思い当たる節があったのか呆れた顔をしていた。どういうことか理解出来なかった為に首を傾げる。

 

 「敵対勢力という考えはなくなったな。モミのイタズラだ。まったくあいつにも困ったものだ」

 「モミのイタズラだったのですか」

 「ああ、一時的に食欲や感覚無効のアイテムなどの効果を無効化しただけだ。パンドラズ・アクターに改良させたものを使ったようだな」

 「ではこの症状は?」

 「酒に酔っただけだろう」

 「そうでしたか」

 「まぁ、その…なんだ。酔っているなら仕方ないな。そのままもたれてるが良い」

 「ありがとうございます。アインズ様」

 

 コツンと頭をアインズの胸元に預けて暫しの幸福の時間を味わう。後日怒りもしたがモミに対して一日だけ甘くなったアルベドの姿が目撃された。


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