骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第130話 「ドラゴン討伐:⑤」

 龍の巣…

 

 文字通りで龍…この世界ではドラゴンの住処を表す。アゼルリシア山脈に巣食っているフロスト・ドラゴンの一族はかつてのドワーフ王国の王都であったフェオ・ベルカナの王宮を住処としていた。

 

 ドワーフ・クアゴア連合軍はクアゴア本隊の合流もあって万単位まで膨れ上がり、その先頭を進むのはアインズ・ウール・ゴウン魔導王である。

 

 対するは最高位の年齢段階である古老種にまで到達した白き竜王オラサーダルク=ヘイリリアル。

 かつて白き竜王と縄張り争いを繰り広げていた王妃ムンウィニア=イリススリム。

 唯一第一位階の信仰系魔法を使える賢妃である王妃キーリストラン=デンシュシュア。

 青白い角が一本突き出した気品溢れる王妃ミアナタロン=フヴィネス。

 王に三人の妃、そして14匹の子供達が並んでいた。

 

 数で勝るが一匹が数十万の戦力に勝るフロスト・ドラゴンが18匹と絶望的な状況であるが彼らには希望があった。方や対峙するだけでフロスト・ドラゴンをひれ伏させた王に、人間でありながら対等以上の力を見せ付けた貴族。勝機は十二分にあると思われていた。

 

 …貴族の男が興味を失うまでは…

 

 ぼっちはその場で胡坐を組んでつまらなさそうにオラサーダルクを見つめていた。

 

 「やる気出しましょうよぼっちさん」

 

 依然として立ち上がろうとせずにため息をついた。

 

 別に相手が弱かったり残念なステータスだったとかでヤル気を失ったわけではなく、勝手な期待をして勝手に落ち込んでいるのだ。

 

 「龍の巣って言うから………飛行石がないとこれないところだと思ってたのに」

 「キーアイテムありのイベントですか。皆といろんなのに挑みましたね…ん?そんなアイテムありましたっけ?」

 

 ぼっちの呟きに首を傾げているとオラサーダルクが大声でアインズ達をあざ笑い始めた。個人の大きさと大まかな種族でしか強さを測っていないのだろう。その反応に守護者各員は眉間に血管の筋を浮かび上がらせていた。そんな守護者各員を宥めつつアインズは胸を撫で下ろした。アルベドがフルフェイスの防具で身を包んでいて良かったと…。

 

 「ドワーフが助力を得たというのがこんな人間と骨とは…クハハハハハ」

 

 一族全員で馬鹿にしたように笑うと今すぐにでも飛び出そうな三名の前に立ってアインズはただただ見上げる。胡坐をかいていたぼっちも立ち上がりつまらなさそうに見上げた。

 

 「クアゴアの王よ。貴様が何故そいつらの仲間になったのかなど問わん。せいぜい楽しませろ。あとそこで隠れている我が息子もな」

 

 そう言われた本人は頭を大きな建物で隠しながら縮こまっていた。残念ながら全身を隠せる建物はなく、頭かくして尻隠さず状態であるが。

 

 「にしても脆弱な人間にいとも容易く折れそうな骨がよくこれだけの数を従えたものだ。どうだ無力な貴様らにチャンスをやろうではないか。我が従僕になれば助けてやろう」

 

 ふてぶてしい態度を少しは許してやろうと思っていたアインズもぼっちもそろそろ我慢するのが面倒になって来た。

 

 「たかが子龍の分際でこの私を卑下にするとは…呆れを通り越して笑えるではないか」

 「笑って許せる範囲は超えたがな。さっきから無力だ脆弱だの癪に障るしな」

 

 さっきと態度がうって変わった二人に目を向ける。すでに戦闘態勢に入ったアインズとぼっちは狙いを定めている。

 

 「まぁそりゃあ生物の頂点に立つフロスト・ドラゴンから見れば俺ら人間なんて蟻んこ同然でしょうがね。蟻んこが無力で弱いだなんて誰が決めたよ?」

 「なんだと?まさか脆弱で惰弱な貴様らが俺より強いとでも言う気か!!」

 「頑丈で長生きなのが力だと思ってんならお前こそおつむが弱い」

 「デカイだけで勝てると思うなよトカゲもどきの王よ」

 

 自分より格下と思っていた相手に馬鹿にされて怒り狂ったオラサーダルクは頬をいっぱいに膨らませブレスを吐き出した。慌てる事無くアインズの前に出ていたぼっちはアイテムボックスより剣を二本取り出した。軽く振るうとブレスは消え去りその場にそよ風が吹くのみだった。

 

 二本の剣を目にした武器を作っていたドワーフは勿論、鉱物を食して大抵の鉱物を知っているクアゴアに部屋に閉じこもって知識を蓄えていたヘジンマールはフロスト・ドラゴン一族の前に対峙しているというのに見とれてしまった。その剣が光を反射さしたの輝きは美しく怪しかった。まるで魂を抜き取られそうな感覚に陥るほど…。

 

 「魔剣グラムに魔剣バルムンク。龍が居るとして用意させてもらったんだが…オーバーキル過ぎたな」

 「はははは、龍殺しの剣を持ち出していたんですか」

 「止めはお任せしても?」

 「そうですね。あんなのを手元に置いておく気もありませんしね」

 

 まるで虫を払うかのようにブレスを無力化されたオラサーダルクは唖然とした表情で話し始めた二人を見つめていた。ありえない。このような事があろう筈がない。そう言い聞かせたかったがこれが現実。奴らは全員を殺しきれるだけの実力があった。今は後悔の念に押しつぶされるより現状を打破しなければ。戦って勝つのが無理なら交渉して少しでも…。

 

 「わ、私は…」

 「《心臓掌握》」

 

 何かを握りつぶす動作をアインズが行なったのと同時にまるで糸が切れたマリオネットのように力無くオラサーダルクはその場に伏した。なにが起こったのかまったく理解できなかった妃達だが王であるオラサーダルクが奴に殺されたのは理解出来た。まさかこんなにあっさりと殺されるなんて夢にも思わない。歯が振るえ、冷や汗が滝のように流れ、思考が上手く動かない。

 

 「アレは後々実験に使うとしてだ。ヘジンマールよ」

 「ひゃ、ひゃい!?」

 

 目の前で起きた事に思考が追いついてないのは相手だけではなくヘジンマール側も同じであった。急に呼ばれて飛び上がりそうになったヘジンマールは慌てて頭を下げて平伏する。

 

 「お前の母親もあの中に居るのだろう?どうする助けるか?」

 「もし叶うならお願いしたく存じます」

 

 別に無理にでも助けようなどとは考えていなかった。だから出来ればという意味を込めて言ったのだ。この言葉は一匹の妃から安堵と二匹の妃から絶望を感じ取れた。しかしアインズはどれがヘジンマールの母親かを知らない。当然、ヘジンマールに尋ねるのが普通だろう。

 

 「どれがお前の母親だ?」

 「「「私です!!」」」

 

 打ち合わせた訳でもなく生きたいが為に必死な三人が食い付いたのである。それに対してアインズは…。

 

 「ヘジンマールよ。お前には母親が三人居るのか?」

 

 そんな事は無い。と答えるのが簡単なのだが死んで欲しいとは思っておらず、それに生きたいという気持ちはアインズ一行に会って一番に抱いた感情だったので気持ちが痛いほど分かった。

 

 「はい。その通りです」

 「そうか…このやり取りを見てもまだ戦う気概のある者は…居ないか。これにて終わりだな」

 

 首を縦に振る者など居らず、ここにフロスト・ドラゴンからクアゴアとドワーフの解放を宣言するのであった。

 


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