骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 体調不良と手が寒さで悴んで書くのが遅れました。ニ連続ですみません…。


第128話 「ドラゴン討伐:③」

 もしもの事を考えてドワーフの王国にナーべラルにシズを残してドワーフ・クアゴア連合軍を率いたアインズと共に進軍してきたぼっちは気配を感じて立ち止まる。

 

 「どうされましたかぼっち様」

 「…居るな」

 

 スキルで位置とステータスを読み取ってその者らが居る所を睨みつける。岩の柱や大きな建物に身を潜ませるフロスト・ドラゴンは二匹。大した獲物でもない事にため息が出る。いつぞやのようにレベルを30以下に落として戦えば楽しめるかも知れないが今はそんなに時間をかける訳にも行かないしね。

 

 ため息を感じ取ったシャルティアは残念そうであり悲しそうな目を向けてきた。

 

 「ぼっち様のお眼鏡にかなう価値も無かったのですね」

 「ああ…時間があれば楽しめたかも知れぬがな。それでもシャルティアとの戦闘ほど楽しめはしまいに」

 

 現在後ろからドワーフ・クアゴア連合の視線を浴び続け、精神の安定化が随時行なわれている状態であるから口が良く回る。

 

 確かに低レベルからしたら硬い鱗に覆われ、空を飛ぶ事の出来るドラゴンは厄介だが手はいくらでもある。鱗が駄目なら瞳を、口内を、爪の隙間を狙えば良い。最悪口内に飛び込んで中から切り刻んでも勝てる。後は空を飛べるといってもここは平野でも草原でもない。人工物の多い洞窟のような場所。斬りかかれる自身はある。

 

 ドラゴンとの戦い方を模索している間、褒められたと喜ぶシャルティアは不敵な笑みを浮かべてトリップしまくっていた。アインズは見なかったことにするがアウラは羨ましそうに睨み続ける。

 

 「あたしだって…」

 「フフ…フフフフ」

 「アンタはいつまで笑ってんのよ!!護衛としているんだからしっかりしなさいよ!!」

 「まったく…」

 

 呆れた声を漏らしたアルベドは惰弱な相手であろうともいつでもアインズを…アインズのみを守る為に前に立つ。一匹のフロスト・ドラゴンがゆっくりとこちらに向かって来る。

 

 大きい………特に腹回りが。

 

 寒い地域に住まうから皮下脂肪を溜め込んでいるのだろうか。スキルを使って隠れているのと比較して見てみたが多分目の前の奴だけ肥えてるんだろうなと納得した。

 

 「お前ひとりか?」

 

 何気なく訊いた言葉に肥えたフロスト・ドラゴンはたじろいだ。隠れているであろうもう一匹を言い当てられたと焦っているのかと思っているのだろうがアインズの考えはまったくの別のものだった。

 

 「数を揃えて進軍しているというのに迎撃に来たのはお前ひとりか…。私の知識ではドラゴンと言うのは歳を重ねるごとに大きくなるはず。お前はさほど強くはないだろう」

 

 尋ねたとおりにユグドラシルではドラゴンの強さ=大きさに比例していた。目の前の奴ではプレアデスひとりでも苦戦する事はない。アインズや階層守護者などの100レベルにしたら物足りなさ過ぎる相手だ。

 

 戦う相手としたら格下過ぎるが食材としてみたらどうだろうか?脂の乗った肉…。

 

 「霜・・・降り肉・・・」

 

 つい呟いてしまった一言に身震いしていた。やっべ、聞かれた!と焦るより早く始末しようとアインズが手を伸ばす。

 

 「《心―」

 「お待ちを!!」

 「―臓…なに?」

 

 カルネ村で10レベル以下の兵士に行なった即死魔法を行使しようとしたが、詠唱を終える前に相手が犬の伏せと同じポーズを取ったので皆が困惑の色を浮かべているのが見て分かる。特にクアゴアとドワーフは腰を抜かすように驚いていた。絶対的強者であると信じきっていた一族の一体が自分達-正しくはアインズにだが-に頭を下げているのだ。無理もないと言うものか…。

 

 「わ、私はヘジンマールと申します!貴方様のお名前をお伺いしても?」

 「…私はアインズ・ウール・ゴウン。魔導国の国王である。それでヘンジマールよ。お前のそのポーズは何だ?」

 「ハッ!ひと目見たときから貴方様とお隣にいる御方が只ならぬ方と理解しこのようなポーズを取らせてもらっております。このポーズはドラゴン最大の敬服のポーズであります」

 「…服従するというのか?」

 「ゴウン様が許可をくださるなら」

 

 ヘンジマールと名乗ったフロスト・ドラゴンは、困惑しているこちらにあまり間を与えないように喋り続けていた。許可をと聞いた辺りで前に出ていたアインズが少し下がって来た。

 

 「アレをどう思う?加えるべきと思うか?」

 

 率直な質問に守護者達は疑問符を浮かべた。相手は格下のモンスターで別段珍しそうなモンスターでも特殊能力を持っている訳でも無い。それで質問してくると言う事は何かしらの使い道を言ってみろと言う事かと判断する。

 

 「この世界ではドラゴンは上位種に入ると思われます。彼らを従う事で魔導国に威光を広げる事が出来ると判断します」

 「ちょっと食費はかさむと思いますけど…」

 「え、えと…物資移送や乗り物として使えば長距離までの移動を行なえるようになるでありんす」

 

 皆の言葉を頷きながら聞いたアインズは言葉を発してないぼっちを見つめる。

 

 「ぼっちさんはどう考えてますか?」

 「引き入れるべきだと判断しています」

 

 悩む事無く即答だった。表情には出してないが詳細なステータスが見える分、内心この中で一番驚いていたのはぼっちだった。

 

 あのドラゴンはひと目見てこちらの実力差を知った。敵の情報収集を主としていたぼっちはありえないと思いたかった。なぜなら自分が相手を判断してきた基準はスキルや魔法によるところが大きい。他には自分が知りえた武装や装備で判断していた。だがヘジンマールには索敵が行なえる魔法もスキルもない。と言うよりそもそもそれ以外もないような存在だ。こちらの武装や装備で判断する知識も無いだろう。

 

 それなのに『ひと目見てこちらの実力差を知った』のだ。その事に脅威を覚えるよりどうやって知りえたのか知りたい想いが強かった。ゆえの即決だった。

 

 「ふむ…デメリットよりメリットの方が大きいな。それにヘンジマールという奴は意外に頭が回るらしいしな。損にはならないか」

 

 不安げにこちらを見つめるヘジンマールに振り返り「良いだろう。我が配下加わる事を許す」と言うと安堵の笑みを浮かべつつ喜びの言葉を返してきた。

 

 その様子を眺めてながらも少しはなれた位置から眺めていたぼっちは霜降りの食材が手に入らなくなった事に残念に思っていた。

 

 「この恥さらしが!!」

 

 大声で怒鳴りながら接近する者を感じて振り返る。

 

 『デギン公王』

 『なにか?……うおっ!?』

 

 いや、それソーラ・レイで焼かれる人やんけ。

 

 『上から来るぞ気をつけろ』

 

 頭の中で幻聴と会話していると確かに上から何かが来るのを感じて見上げる。これは足の裏?

 

 考える間もあまりなくして巨大なドラゴンの足が振ってくる。不可抗力や事故ではなく明確な悪意を感じる。

 

 『バイオライダー』

 

 意味は分かるが反応に困る!!

 

 身体を液体化させて地面の中へと溶け込む。別に足で移動しても良かったのだがここは驚かせてやろう。目で追えるとは思っていないがね。

 

 「こんなちっぽけな虫けら共に敬服のポーズを取るとは何を考えているのだ!!なにが知識はあるだ。無能の臆病者が!!」

 

 背後で地表に湧き出た水分から身体に戻している事にも気付かずに大口を叩いているドラゴンを見上げる。ヘジンマールが街のほうに横たわっていたがあちらからはこちらは見えないようだ。何も考えず姿を出した事の危なさを感じながらホッと安心する。

 

 誰も居ない地面をぐりぐりと踏み弄るドラゴンではなくぼっちを見ていたアインズはあまりの可笑しさに笑い出した。正直ぼっちも笑いたいが驚いた顔を見たいので我慢だ。

 

 「何が可笑しい?」

 「ハハハハ、ん、コホン。いやぁ、すまない。あまりに滑稽だったものでな」

 「滑稽だと!?この俺に向かって言ったのか!!」

 「ああ、そうだとも。お前はヘジンマールを無能呼ばわりしたがそれは自分だと気付かないとは」

 「偉そうに言うな小さなアンデット!!見よこの足を。貴様の骨だけの柔な足とは違い巨大な足に立派な爪。これを受けて五体満足でいられると思うなよ」

 

 そんな足自慢されてもなぁ…内心笑っていたぼっちも足を振り上げてアインズに攻撃しようとしている所でもういいかと声をかける。

 

 「あ、そうなんだ。で、それが何か問題?」

 

 主任の台詞を口走りながら背後から足の下へと移動する。恐る恐る足を別の位置に下ろしたドラゴンと目があった。信じられないものを目にしたといった感じで驚いていたが、思いの他反応が薄いのでがっかりする。

 

 「次はこちらの手番かな?」

 

 さぁて、では先の仕返しと行きますか。

 

 自身は普通に笑っているつもりなのだが、ヘジンマールには残忍な笑みとして認識されているとは気付かずに攻める事を宣言する。

 


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