骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第125話 「とりあえず飲もうか」

 アインズは驚きと呆れ顔をこの世界で唯一のギルメンであるぼっちに向けながらため息を付いていた。

 

 戦果としては悪くない。圧倒的力の差を見せ付けて敵を殲滅してきて下さいと頼んだが、高レベルの圧倒する気で周りの者を無傷で戦闘不能と言う離れ技を成し、距離を開けて見ていた前でクアゴア達に平伏させるなどインパクトが強い。そしてドラゴンをどうにかすると言う条件でこちら側に引き込むと確約を取り付けるなど、頼んだ事よりかなり良い方向へと進んでいる。

 

 同行したナーベラルにシズは長々と話してくれたが、要約すると力で従わせたのではなく心情をわし掴みにしたと言う。それは良かった。力による支配は反発を呼ぶ恐れがある。崇拝などの心から尽くす者はちょっとやそっとでは揺らぐことは無い。

 

 ここまでは最高と言っても過言ではない。ただ…

 

 ドワーフの国にクアゴアの一団を引き入れたのは悪手であるとしか言いようが無い…。

 

 「ドラゴンのご機嫌伺い共が何の用じゃ!!」

 「我らはそちらのアルカード伯に用があるのであって、貴様らみたいなゴブリンもどきになど用はないわ!!」

 「言いよったな毛むくじゃら!!」

 「やるかドチビ!!」

 

 思った傍から喧嘩が始まりそうなんですけど。しかも機嫌が悪いのはドワーフとクアゴアだけでなく隣にも居るのだが…。

 

 「アインズ様の目の前で低レベルで見苦しい言い争いを…。アインズ様、この者達を駆除しても?」

 「いや、止めておけ」

 

 短く返事をして抑えるアルベドを横目でチラリと見つつ、この場に居ないぼっちさんを恨む。目の前の騒動よりも横のアルベドのほうが怖い。ドワーフとクルゴアが本気でぶつかり合わないようにシズとナーベラルが目を光らせている。シャルティアはゲートを開いてナザリックに送ったクアゴアの部隊を呼び寄せ中だし、アウラはぼっちさんとどっかに行っちゃうし…どうしろと言うんですかぼっちさん!!

 

 喧騒飛び交う中でそう願う前に現れたぼっちは人が入りそうなタルを抱えていた。後ろに続くアウラを先頭にした魔獣たちも同じタルを持って、喧騒飛び交うドワーフとクアゴアの中間へと進んで行く。

 

 ドワーフには話の分かる総司令官が、クアゴアには先遣隊の指揮官を務めていたヨオズが先頭に立っており、堂々と中央をあるくぼっちを見つめる。タルを大きな音を立ててど真ん中に置くと背筋を伸ばして双方を見つめる。

 

 「さてここには長年戦い続けた両種族が居るわけだが………これから共存して行く両種族が血で血を洗うような戦いをするまいな?」

 

 片目だけでギロリと睨まれた両種族は黙って、沈黙で答える。

 

 すでにアインズ・ウール・ゴウンの事とドラゴン退治に両種族の共存計画などはすでに話したが、強者の我々がいるから納得するしかない状況であり、心の底から納得してはいない。この蟠りをどうする気なのだ?

 

 「と言っても昨日今日ではなく年単位で争っていた者達に仲良くしろと言っても難しいだろう。ゆえに勝負の機会を設けた」

 

 そう告げると置いたタルを叩いて、蓋を割った。中から水らしきものが飛び散り、匂いからお酒だということが分かる。

 

 「さぁて、これから諸君らを縛っていたフロスト・ドラゴンと対峙する前にひと勝負と行こう!!より多くの酒ダルを空にしたほうの種族の勝利とする!!」

 

 宣言した瞬間、先まで罵り合っていた者達が我先にと酒に手をつける。アルカード領のみで作られている日本酒を初めて飲んでお互いに感想を言いながらがぶ飲みして行く。

 

 展開に付いて行けずポカーンとするアインズにアルベドが酒の入ったビンとグラスを持ってくる。

 

 「アインズ様もお飲みになられますか?」

 「ん、あぁ…頂こうか」

 

 先に肉体付属用スライムを装着して、渡されたグラス中に注がれた酒を喉に流し込む。軽やかかつ芳醇な味わいが広がる。

 

 「美味いな」

 

 グラスを傾けながら呟くと近寄ってきたぼっちに一枚の紙を渡された。何か解らずとりあえずで受け取ると…

 

 「後・・・任せた」

 

 一言だけ呟やいたらさっさと何処かに行ってしまった。紙に書いてある事を読みつつ、頭を悩ます。まさか、これを言えと?

 

 

 

 ヨオズは数で負けている上に酒を大好物とするドワーフに苦戦を強いられていた。

 

 すでにタルの数にも大差を付けられこちらの半数以上が酔いが回り飲むのを止めている。酔いが回ると言っても千鳥足になるほどは飲んでいない。今まで敵対関係にあったドワーフの本拠地で酔い潰れる戦士はクアゴアには居ないからだ。偵察隊として出していた部隊もアルカード伯が返してくれたので数はいくらか増えたが不利には変わりない。

 

 ガブガブとジョッキに注いだ酒を水の如く飲み干していくドワーフは勝負の事など忘れて普通に飲んでいるようだった。あまり自身は酒を楽しんだりしないが美味しい事だけは分かる。普通に飲むだけでもいいかと思い始めた頃にいつの間にか去っていたアルカード伯が戻って来ていた。

 

 一言も喋る事無くまだ空いていないタルを両手で掴んで口元まで持ち上げる。呼吸をする事無く、間を空けずに一気に飲み干した。その異様さに両種族が目を見開いて驚く。9Lもある中身を飲み干すなんて最大で4L程しか入らない人間ではありえない。

 

 短く息をついて大きな音を立ててタルを置く。周囲を見渡して静かなのを確認して、少し離れたアインズに視線を向けてから口を開く。

 

 「長年暮らしていた都市を追われた悲しき思いをしたドワーフ諸君!

  フロスト・ドラゴンに隷属するしか生き残れなかったクアゴア諸君!

  アインズ・ウール・ゴウン魔導国、アインズ・ウール・ゴウン陛下よりお話がある。両種傾聴!!」

 

 視線がアルカード伯からアインズ陛下に移る。理性を持つアンデットとは珍しいと印象を持った堂々としたアンデットがアルカード伯の横に並ぶ。後ろには頭に大きな角、腰には黒い羽を生やした絶世の美女を引き連れていた。

 

 どうやって音を発するのか解らないが、ローブをまとった骨しかない身体の王は口を開いて大声を発した。

 

 「鷲は舞い降りる!

  これはドワーフ・クアゴア両種族にとって大きな飛躍なのである。

  リ・エステーゼ王国のアルカード伯、そしてアインズ・ウール・ゴウン魔導国王である私は決断した。

  両種族独立開放劈頭、我々は正義の剣をアルゼリア山脈へと打ち込んだ。

  然るに フロスト・ドラゴンの者共は未だ己の怠慢に呪縛され惰眠を貪っている!

  私は諸君らに約束した。

  最早我が腕により 正義の鉄槌を下すため 対龍戦線を形成すると!

  真の自由の為に 我々はドラゴンの巣へと舞い降り、この地の解放を約するものであると」

 

 宣言された言葉に興奮した。私はクアゴアの現在の王であるペ・リユロこそが至高の王だと思っていた。だが、今日一日でその考えが180度変わった。

 

 単なる貴族の一人であると名乗ったアルカード伯に、魔導国王のアインズ陛下を眼にして真なる王の資質を持つ者は彼らなのだと心から理解した。大きな器から異常な実力まで何から何までを持っているかの者こそ至高と称される方々なのだろう。

 

 興奮しているのはヨオズだけでなくクアゴア全軍、ドワーフの者全員がそうだった。誰かが音を立てるように地面を踏み締めた。それが一人から二人、二人から三人と増えてから最終的には全員がタイミングを合わせて鳴らし続けていた。あの方々が我らすべての者を開放する事を願いながら。

 

 

 

 全員で音を鳴らし始めた時は驚いたが、とりあえず上手くいったようで良かった。今すぐに飛び出そうとしている連中は部隊再編で忙しそうなので離れた所で一息つく。同じく連中からぼっちさんも離れて横に並んだ。

 

 「ありがとうどざいます」

 「・・・?」

 「何が見たいな顔しないで下さいよ。さっきの演説を書いた紙のことですよ」

 「・・・どう致しまして」

 「ところで…何処にあの酒は入っているのですか?」

 「身体の・・・一部に」

 「貴方は酒で出来ているのか!?」

 

 これからドラゴンと戦う事よりそちらの方が重要だった。9Lを肉体に変換しても姿は少しも変わってない事については、また今度いろいろと検証させてもらおう。まぁ、デミウルゴスに頼むだけなのだが。帰ってやることを考えながらこちらの配置を伝える為にアルベドをつれて魔獣たちの下へ向かうのであった。


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