骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第124話 「クアゴア達と仮面の男」

 ヨオズは閉じられた大きな門を遠くから忌々しげに見つめた。門には多くのクアゴア達が殺到して壊そうと爪や歯で攻撃を繰り返していた。

 

 ドワーフの王国を攻めるべく集められた軍勢を指揮するヨオズはクアゴアの中で精鋭中の精鋭であるレッド・クアゴアとブルー・クアゴア達を集めた。彼らはクアゴアの中でも貴重な戦力のひとつである。幼少期の食べた鉱石により強さが変わって、彼らのような色を持ったクアゴアが出来るのだ。

 

 アインズ一行に本隊と称されているヨオズ率いる部隊は大規模ではあるが先遣隊に他ならない。主力は元ドワーフの王都で準備を行なっている。ゆえにここで彼らが行う事は本隊到着前に敵を片付ける事ではなく、聳え立つ門をどうやって攻略するかの一点だけだった。

 

 「指揮官!」

 

 門にくっ付いていた突撃隊に所属している隊員が駆け寄ってくる。眼前まで寄ると頭を下げて敬意を表してくる。軽く手を挙げて受け取る。

 

 「で、どんなぐあいだ?」

 「門は固く我々では突破は不可能かと」

 「近くに空洞のようなものは?」

 「突撃隊の中から半数以上を当たらせていますが未だ発見の報告はありません」

 「ふむ…仕方ないな。どこか掘れそうな所を探して―」

 

 門の破壊や抜け道などを諦めて、穴を掘って突破する事を指示しようとすると何かを引き摺る音が響いた。あまりの音の大きさに驚き眼を見開いて振り向く。

 

 「何事か!!」

 「も、門が開いております!!」

 

 部下の回答にヨオズは耳を疑った。自分達を圧倒できる敵が迫っているのに門を開くなど自殺行為でしかない。確かにドワーフはクアゴアの弱点を知っているが、それで対抗出来ない事は知っている。弱点である電撃系の攻撃を行なう為には二種類の方法が考えられる。一番ありえないと思われるのが電撃系統を扱える魔法詠唱者である。今まで何度も戦ってきたがどんな戦況でもドワーフにそのような者が居た報告はなかった。次に電撃を放てるアイテムであるが、ドワーフ達と帝国の取引は当の昔に終わっている為にないだろう。

 

 ならば何故門が開く?頭に過ぎるのは降伏するか、最後の意地で戦いを選んだか。どちらにしてもやる事はひとつだ。

 

 「突撃隊に伝えろ。一匹が通れるほど門が開いたら突撃せよと。突撃まで相手には気付かれるなよ」

 「ハッ!!」

 

 ニタリと歪んだ笑みを浮かべた隊員は急ぎ足で突撃隊に知らせに良く。声は小さくして誰が行くかを決めている。皆どの一族が行くかで先陣を誰がやるのかを奪い合っている。

 

 話し合いで決めていく中、門がようやく一匹が入れるぐらい開いた。突撃隊のひとりのクアゴアが奇声を上げて突っ込んだ。同時に一気に全員が殺到する。

 

 ………筈だった。

 

 「はぐああああ!?」

 

 飛んだ。

 

 3メートルは浮き上がったクアゴアは何かに引っ張られるように壁へと激突した。勢いがあり過ぎて、落ちる事無くめり込んでいた。

 

 あまりの出来事に思考も録に周らずただ唖然としていた。

 

 「失礼。突然来たものでついやってしまいました」

 

 しーんと静まり返った場で発せられた声は遠くに居るヨオズまで届く。声を発したのはメイドと質素な服に美女を連れた白い面を付けた男だった。片足を伸ばしていることから蹴りで飛ばしたのだろう。

 

 「私、リ・えすてーz」

 「こ、殺せ!!」

 

 理性で判断するより恐怖心や勘を頼りに命じる。あの身長や体格から人間と呼ばれる生物である事は分かるが、今の一撃はどう考えても異常だ。命じられた突撃隊が男目掛けて突っ込んで行く。が、その前に側に控えていた二人が前に出る。

 

 「この痴れ者が!!」

 「…排除する」

 

 質素な服の女の指先が光だし電撃が放たれ、メイドが投げた石つぶてが爆発して20匹ほどが感電死、もしくは爆死した。辺りには生き物が焦げた何とも言えない臭いが漂う。

 

 「まったく、至高の御方の言葉を聞かないなんて生きる価値もないわ」

 「…許せない」

 

 あまりの殺気に勇猛果敢な戦士達が後ずさりする。それでも戦う覚悟までは捨てないところは一流の戦士だと思う。静かになったことで男は前に出る。

 

 「名乗り直させて頂く。私はリ・エステーゼ王国の貴族、アルカード・ブラウニー伯爵と申します」

 

 礼儀正しくアルカードと名乗った男はきょろきょろと辺りを見渡し、私と眼を合わせた。

 

 「貴方が指揮官ですね。お話があるのですが少々お時間宜しいでしょうか?」

 「あ、あぁ…良いだろう」

 

 相手の出方を見た方が良いとギリギリの理性で判断する。先の二人の攻撃も異常…異常尽くしの相手を前に門を開けた理由を理解した。こいつらはドワーフ達が雇った何かしらの切り札だ。そこまで自信に余裕を持つ態度からはっきりと断言できる。出切ればこちら側に引き入れたい。

 

 「私どもは貴方達の撃退をお願いされております。が、私は別に全滅させる必要はないと考えております。ドワーフを襲わないと言うのなら貴方達が望むことをしてあげますよ」

 

 望むこと…クアゴアに産まれたのなら誰もが思う事がある。共存と表向きは良いが奴隷程度にしか考えてないあの傍若無人のドラゴン達をどうにかする事だ。だが、クアゴア全員で戦った所で全滅は確実である。今回ドワーフの王国を攻撃した目的は鉱山の独占だ。ドワーフも鉱山の鉱物を使用する種族。その鉱物を独り占めして子供達などに食べさせて一族の強化を図る。もしかしたらドラゴンを倒せる個体が生まれるかも知れない。

 

 目の前に居る奴らも確かに強いがドラゴンほどではない。

 

 「貴様達に何が出来ると言うのだ…貴様らに何が…かまわん!相手は強者と言ってもたかが3人。数で押して殺せ!!」

 

 期待と絶望の入り混じった顔で命じたヨオズを、じっと見つめたアルカードは悲しそうな感情を片方だけ覗く瞳で表し、今度は力強い瞳を持って一歩を踏み出した。

 

 突撃隊に加え、ヨオズと共に出てきた部隊も一斉に飛び掛る。

 

 「《解除》」

 

 呟くと同時に風が吹いた。それは軽くそよ風のようだった。

 

 急に身体が重く感じる。呼吸をするのも難しいぐらいの重圧を感じる。その発生源はアルカードから発せられ、距離の離れているヨオズにまで届いていた。

 

 これはアインズよりフールーダとの出会いを聞いて出来るかなとぼっちが思った技だ。いや、技と言うほどのものでもない。以前アインズがフールーダと初めてであった時にアイテムを外して隠していた魔力は解き放ったのだ。普通の人は気付かないが見えるタレントを持っていたフールーダはその強大さに平伏したと聞く。ならば勘にすぐれている獣がレベル100の気配をもろに受けたらどうなるのか?

 

 一斉に襲い掛かろうとした群れが白目を向いてバタバタと倒れ始めた。ざっと確認しただけで半分以上が倒れている。横にならぶレッドもブルーも同様に汗を滝のように流しながら苦しそうにしていた。

 

 化け物…

 

 そうとしか表現できない人間がゆっくりと近付いてくる。脳内が危険と警報を鳴らすが、足が震えてまったく動かない。こんな恐怖はフロスト・ドラゴンの前に立った時でも味わったことが無い。足どころか瞼ひとつ動かせなかった。眼前まで迫った男から手が伸ばされる。死を覚悟したヨオズは眼を閉じる。

 

 肩にとても力強く、そして温かい感触が伝わってくる。死はいつになっても訪れず、不思議に思い眼を開けると男、アルカードは眼と眼を合わせる。

 

 「よほど辛かったのだろう。悔しかったのだろう。耐え難い日々だったのだろう。すべてを話してくれないか。我々がお前達を救ってやる」

 

 言葉一つ一つがすとんと心に落ち、涙が流れた。ヨオズは跪いて祈りを捧げるように手を重ねてアルカードを見上げる。

 

 「頼む。あのドラゴン達をどうにかしてくれ…我が一族を救ってくれ」

 「分かった。聞き届けよう、その願い」 


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