骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第123話 「ドワーフ王国での交渉」

 少し眠い…。

 

 それが今ぼっちが思っている事であった。

 

 アインズ一行は捕獲したクアゴア達をナザリックに転送して、ドワーフの王国へと辿り着いた。本来ならもう数日かけて進む予定だったが捕まえたクアゴア達の情報では王国を滅ぼすべく本隊が向かったと言うことだった。ならばそれを助けて恩を売るのが最善と判断したアインズの指示に従って魔獣によって山を駆けて数時間で到着した。

 

 ドワーフの廃棄した街から出た時と違って、アインズ一行にドワーフがひとり加わっていた。ゴンド・ファイアビアドと言うルーン開発家だ。本当は開発家なんてないらしく、本職はルーン工匠なのだと言う。廃れていくルーンを復活させてやろうと交渉したところ、すっかりナザリック側になったらしくキラキラした目でアインズさんと話していた。

 

 とりあえず危機を知らせる為にドワーフ達の関所に到着すると、案の定アンデットに魔獣軍団で警戒されて待たされる。将軍を名乗るドワーフによって王国の待合室へと案内され、また待たされる。そしてようやく王国の議会を運営している者達と会合を果たしているのだが、王国の貴族であると説明してからはずっとアインズさんのターン。正直に暇なのだ。アイテムの加護も受けてないからか眠気が襲ってくる。スキルを使ってばれないようにして少し居眠りする事にする。

 

 そして今、めちゃくちゃアインズさんを警戒しまくっている会議の中でぼっちが居る。

 

 なんでだああああぁー!!ドワーフ達は別に良いよ。レベル低いし気付かれることは無いだろうから。アインズさんや守護者達も一緒に会議場に入ってたじゃないか!!何故起こさずに放置されたし!?

 

 いろいろ思った事はあったが未だにアンデットであるアインズを信じるかとか、多分提案されたアンデットを防衛の為に魔導国より借り受けるかなどの後のことを話している阿呆どもを止めるのが先決か…。

 

 「すまないが宜しいかな?」

 

 スキルを解除して突如、室内に居るぼっちを認識してドワーフ達が一斉に立ち上がって驚きを露にする。逆にそんな反応をされてぼっちも驚いている。

 

 「なぁ、い、何時からそこに!?」

 「アインズ魔導王と入った時から居たが」

 「馬鹿な!だったら何故誰も気付かなかったのだ!!」

 「論議に熱が入っていたからではないでしょうかね」

 

 驚き慌てていたドワーフ達も会話をする内に警戒しつつも落ち着きを取り戻した。落ち着いて貰わなければ話も出来ないからな。

 

 「貴方達は何故そんな論議をしているのでしょうか?」

 「何?」

 「アインズ魔導王が信頼足る人物か、アンデットを防衛に借りるか、などどうでも良いではありませんか。今貴方達が議論すべき問題はクアゴアの軍勢からどうやって国民を守るかでしょうに」

 

 腕を組んで睨みつけて言い放つと誰一人黙ってしまった。将軍を名乗った人物だけはその通りだとでも言いたそうに頷いていた。

 

 「ドワーフの戦力で守りきれないのなら借りるしか無いと思いますが?まぁ、ドワーフ全員が滅んでも良いなら話は別ですが」

 「そんな訳あるか!!」

 「では、早急に戦力を借りるで話を通せば良いではないですか。クアゴアを塞き止めている門が強固と言ってもやりようによってはすぐに突破されますよ」

 

 眠気でうつらうつらだったとは言え少しは聞いていた。クアゴアの本隊はドワーフ達が『絶対』の信頼を置いていた砦を突破して王国入り口である洞窟まで迫ったのだ。そこで戦う事ではなく防衛の為に設置していた門を閉じて進行を食い止めたのだ。門はクアゴアでは破る事の出来ないほど強固な素材で出来ている。しかしそれだって『絶対』ではないのだ。門が駄目なら付近を掘り進んで行けば良いのだから。

 

 危険が自分達の種族に迫っていてもアンデットに助力を請うなどしたくないらしい。ここは助け舟をだすか…。

 

 「良ければクアゴア進行はこちらで食い止めましょうか?」

 「なんじゃと!?」

 「リ・エステーゼ王国の私が手を貸すと言いましたがどうでしょう」

 「人間がクアゴアを止めるじゃと?馬鹿は休み休みにせい」

 

 たかが人間が発言したらそういう反応を見せるだろうが俺は人間ではなく、吸血鬼でスライム種でレベル100だから何の問題もない。だがそんな事知らない彼らに信用させるには力を見せるしかないだろう。アイテムボックスより一本の剣を取り出す。

 

 「その剣は何だ?いや、どっから出した!?」

 

 説明するのが面倒だったので質問をスルーして剣を中央の机に突き立てる。小声でレベル壱と言うと剣から電気が放たれ始めた。ぼっちには中級のギミックだけの剣だがドワーフを驚かすには十分すぎる物だった。

 

 「これはレベル指定する事で電撃の放つ範囲と威力を高める事が出来る。私はこれを数百本と所持している」

 

 嘘である。こんなデスナイトの足止めにならない武器を百本も持つ事などありえない。保管用に一本あれば十分である。なんでこんな剣を取り出したかと言うと、クアゴアが電撃系が弱点で電撃を範囲攻撃が出来る事とこの世界では伝説呼ばれるレベルの武器を持っていると知らしめる為だ。

 

 「もう一度言う。私に頼んでみないか?」

 「……………何を望む」

 「・・・ん?」

 「そんな宝具を使うというのじゃ。何か要求があるのではないのか?」

 

 んー…別段なかったのだがどうしよう?何か要求した方が良いのか。興味があるルーン工匠たちはアインズさんが引き抜くからドワーフの王国には関係ないし…。

 

 「でしたらドワーフが採掘する際のノウハウを教えてもらう。と言うのでどうでしょう」

 「そんな事で良いのか?もっとこう…属国にとか、奴隷になれとか言ってくるものと思っておったが」

 「いえいえ、属国は兎も角、非人道的なことは言いませんよ」

 「少し…10分ほど待ってくれんか」

 「分かりました。では別室で待たせて貰いましょう」

 

 会議室を出てアインズ達が待機している一室に入るとキラキラとした眼差しを向けられたのは何故だろう。

 

 

 

 会議室を出て待合室に移ったシャルティアはそわそわしていた。理由は会議室に残られたぼっち様にあった。退席する際にアインズ様が顔を向けると無言で頷いて隠密スキルを使用したのだ。そのまま何も言わずに退室されたのでアインズ様と一緒に出てきたのだ。

 

 「アインズ様。どうしてぼっち様は残されたのでしょうか?」

 

 解らない事は解らないのでアインズ様に教えて頂こうと思って質問したのだ。どうやらシャルティア以外に同室していたシズやアウラも同じ気持ちだったのだろう。ナーベラルは…時々頭を触っては頬を赤く染めている。

 

 「それは交渉をより効率よく行う為だ」 

 「効率良くでありんすか?」

 「お前達は何とも思ってないと思うが生者に憎むとされるアンデットである私の発言がすんなり通ることはない」

 「そんな!?アインズ様の慈悲を無碍にするなど」

 「良いのだ」

 「何故ですかアインズ様」

 「彼らの反応としては間違っていないからだ。そしてそこにぼっちさんが残られた意味がある」

 

 至高の御方の慈悲を無碍にすると言うドワーフに対して咄嗟に出た殺気を納めて耳を傾ける。

 

 「どう考えてもドワーフは我々を頼るほか無い。ぼっちさんの索敵ではここを防衛しきることはドワーフ達では無理だからだ。会議ではアンデットの私を信じるか否かで荒れるだろう。だが、そこでアンデットではなく帝国と関わって知っている人間という種族から救援の申し出が出たらどうする?」

 「…知っている分、人間を選ぶ…と言う事ですかアインズ様」

 「うむ。誰しも悪い噂しか聞かない得体の知れない者より知っている種族を選ぶだろう。私が最初に話を持って行ったことでぼっちさんは幾分簡単に話を通せるだろう。待ち時間も短縮されるし、何よりドワーフの重役達が私の事をどう思っているかが解るわけだしな」

 

 それでぼっち様はスキルを使ってあの場に残られたのか。と感心しているとひとつ疑問が浮かんだ。

 

 「しかしそれではアインズ様の交渉が難しくなるんではありんせんか?」

 

 攻めてきている部隊をぼっち様が撃退すればそれはぼっち様の活躍であり、ナザリックにルーン工匠を招き、ドワーフの王国と友好関係を築こうとしているアインズ様は交渉に有利に立つ活躍の場を失うことになる。

 

 心配したシャルティアを見てふふと笑う。

 

 「門を攻めて来ている奴らはどうでも良いのだ。私が活躍するのはその後。ドワーフが放棄した都市を奪還する事にあるのだから。そこにはドワーフやクアゴアなどでは太刀打ち出来ないフロスト・ドラゴンが住んでいる。そいつらを対処した方が恩は大きい。そこまでぼっちさんも解っているのだ」

 

 そっかあの時の頷きはその事を表していたのかとまた感心して意思を小さな動作も無しで伝え合える至高の御方をキラキラした目で見つめる。

 

 実際は眠りかけて船を漕いだだけなのだがそれを守護者達が理解する事はなかった。

 


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