骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第122話 「クアゴア捕獲作戦」

 イタチが二足歩行しているようなモンスター『クアゴア』が部隊を分けて辺りを警戒している。ここはドワーフの活動範囲だった都市付近と過去の話だが、敵地であることは変わらない。ゆえに十人ずつの先見偵察隊をニグループ編成して、周囲の警戒に当たらせている。部隊の士気も錬度もそこそこあり、ひとりひとりに油断という文字は存在しなかった。

 

 そんな連中の真っ只中をシャルティア・ブラッドフォールンは堂々と歩く。誰一人気にも留めず顔すら向けない。中には振り返る者も居たが首をかしげ、再び正面を向き直る。

 

 ニヤリと笑う。

 

 絶対的な強者が弱者の中を堂々と歩いて事にも気付かない間抜けな彼らではなく、現在の自分自身の状況に対してである。

 

 「・・・位置・・・送る」

 

 耳元で囁かれた声にゾクゾクと背筋が振るえ、興奮が鼻奥から押し寄せそうになる。

 

 シャルティア・ブラッドフォールンに自分の存在感を消すスキルは持っていない。本来なら誰にも気付かれず姿を晒すことなど出来よう筈がないのだ。

 

 指揮権を渡されたシャルティアは一番に考えたのはあのモンスターの群れを一網打尽にするものだった。持っている魔法には《集団全種族捕縛》と言うものがあって低レベルで耐性の無い奴らでは抗う間もなく拘束できるだろう。しかし、《集団全種族捕縛》には範囲がある。範囲外に出た者を包囲するだけの人員は居ない。それに奴らは部隊を分けて定期的に入れ替えをしつつ、偵察を行なっている。四人の中で一番レベルの低いナーベラルでもその部隊を壊滅させる事は余裕だ。だが、捕獲となると難しい。ならば戻ってきた瞬間に捕まえてしまえばいいじゃない。

 

 また笑みが漏れる。

 

 「・・・大丈夫・・・か?」

 「―っ!?は、はひ、大丈夫でありんしゅよ」

 

 興奮のあまりに呂律が回らなかった。傍から見れば頬を真っ赤にして、肩を小刻みに震わし、壊れたような笑みをずっと浮かべて歩いている。誰が大丈夫だと思うんだろうか。

 

 クアゴア達がシャルティアに気付かない訳はぼっちにあった。索敵系スキルは勿論、相手の索敵阻害系や認識を誤認させるものも持っている為に低レベル集団に感知されないなどお手の物である。ただ他の者もとなると別である。あるにはあるが範囲内に相手方が入ったりしたら解除されるものなどこう大勢の所で使用できるものではない。ゆえに自分だけに使用してシャルティアに纏わりついているのだ。

 

 変身型スライム種は木や土、人といろんな無機物・有機物問わずに変身できる。肉体や構造的なものだけで特殊能力などは会得出来ないが。その中でもぼっちは水などに変身する事を得意とする。いろんな隙間に入れるし、霧状にすれば眼くらましや逃げる為に役立つからだ。

 

 自分に認識阻害のスキルを使用した後で水状に変身してシャルティアを頭の先から爪先まで覆ったのだ。

 

 至高の御方に包まれるという夢のような状況に鼓動高鳴るシャルティアは作戦の事を行なう為に理性で足を動かす。司令官らしき者の横にぼーと立ち、索敵に出ている部隊が戻ってくるのを待つ。

 

 この時ナーベラルとアウラは逃げ道となる坑道を押さえる為に離れていた。二人はシャルティアの状況を知る前に出たのでこの事は知らない。今は…。

 

 「シャルティア・・・・・・シャルティア?」

 「は、はい!なんでありましょう」

 「・・・?・・・部隊・・・帰った」

 「っ!!では、始めます」

 

 覆っていたぼっちは身体をシャルティアの横へと集めて人型へと変化させる。突如現れた相手に驚き、一気に慌しくなる。喧騒に満たされるが冷静に自分のやるべき事を認識し、魔法を使用する。

 

 「《集団全種族捕縛》」

 

 騒いでいたり、慌てふためいていた者達がピタリと止まった。身体どころか指先ひとつ動かせない連中はただ動かせる瞳だけを向ける。

 

 「な、なにが起こっている!!」

 「て、敵だ!殺せぇええ!!」

 

 範囲外のクアゴアは爪をむき出し、眼を血走らせ、シャルティア目掛けて襲い掛かる。無駄な事とも知らずに…。

 

 「もう一度《集団全種族捕縛》」

 

 わざわざ範囲内に入って来たクアゴアに《集団全種族捕縛》をさらに発動して捕縛して行く。しかし範囲外に居た者の中には襲い掛かれずに立ち止まって居た者もいて、この異常事態に対して逃走を選んだのは正しい選択だろう。

 

 急いでこの場を離れようとするが足に細い線みたいなものが絡みつき、引き摺られて中央へ中央へ引き寄せられてしまう。

 

 「・・・これで・・・良いか?」

 「はい。ありがとうございますぼっち様」

 

 偵察隊が戻ってくるまでの間に水に変化した身体を根を張るように伸ばしていたのだ。おかげで一匹残らず捕縛する事に成功した。恐る恐るぼっちの顔を窺うといつもの姿になったぼっちはゆっくりと手をシャルティアの頭に乗せる。優しさと温もりを感じて、うっとりとした目で見上げる。

 

 「よくやったな」

 「はい♪」

 

 あまりの嬉しさに忘れていたが今は作戦行動中。コホンと咳き込んで表情を切り替える。それに気付いたぼっちは一歩下がり、いつでも動けるように待機する。この事からまだ指揮権は渡されていると気をしき締める。クアゴアの中でも一番レベルの高い者を聞いてその者に《全種族魅了》をかける。後は楽なものだった。魔法で完全にこちらを信頼している部隊長は洗いざらい喋り、部下を縛るのにも一役買ってくれた。部隊長も含めてすべて縛り終える頃にはナーベラルもアウラも合流していた。

 

 「呆気なく捕まったね」

 「それはぼっち様協力されているのですから抵抗など無意味でしょう」

 

 縛られたクアゴア達を見て至高の御方を褒めるナーベラルにぼっちの軽めのチョップが頭に降ろされる。どうしてチョップされたのか混乱しつつ振り向く。

 

 「これは・・・シャルティアの・・・手柄・・・」

 「ハッ!!申し訳ありませんでした」

 「私の手柄…」

 「あんたまさかご褒美のこと考えてない?」

 「そ、そんな事ありんせんよ」

 

 思いっきり視線を逸らして言うシャルティアに説得力はなく、アウラのジト目がシャルティアを貫く。大きくため息をつくと同時にふふと笑う。

 

 「ま、それも至高の御方の御心次第ってね」

 「それは…ってえ!?」

 

 これは名誉挽回のチャンスであり、褒美を求めるのは間違っている。間違っているのだがどうしても欲してしまう。期待の眼差しを向けるとぼっちがナーベラルをなで続けていた。

 

 まったくと言っていいほど慣れていないナーベラルは眼を見開いて、あわあわと口を動かして身体は膠着していた。

 

 「羨ましいでありんす…」

 「確かに…そう言えばさぁ」

 「何でありんすか」

 「ぼっち様と二人っきりのときになにか変な事してないでしょうね」

 「………」

 「したの!?」

 「私からはしてないでありんすよ」

 「ぼっち様から!?詳しく聞かせなさいよ!!」

 

 アインズが合流した時には撫でられ続けても慣れずにどうすれば良いのか解らないと表情で訴えてくるナーベに、アウラに問い詰められるシャルティア、そんな光景を呆れ顔で見つめるクアゴア達と…

 

 「なにがあった…」

 

 ポツリとそんな一言しか呟けなかった。


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