骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第121話 「謎のモンスターとシャルティアの決意」

 山を進むうちに洞窟に入ったアインズ一行は、建造物が広がる空間に出てから三グループに分かれて捜索活動を始めた。と言うのもぼっちさんの索敵スキルを使用した結果、ニグループの存在を感知したからだ。一方は一体だけ坑道で作業をしているドワーフ。もう一方はユグドラシルのモンスター情報になかった為に、この世界の独特のモンスターなのだろう。

 

 アインズの背後には30を超える魔獣と同数のアンデット軍勢が控えていた。この建物の大きさからゴブリンの都市だったものは広大な広さがあった為、ゲートを使って呼び出すには最適かと判断して呼び寄せたのだ。

 

 「ふむ…本当に誰も居ないな」

 「軽く見ただけですか長年手入れをした様子がありません」

 「…汚い」

 「至高の御方には相応しくない場所ですね」

 

 ただ人影ひとつ見ないことに対して呟いただけなのだが、何故批判に繋がる?そしてルプスレギナよ。ぼっちさんが居なくなったからと言って言葉使いを丁寧にする必要はないぞ。

 

 そんな事を思いながらこちらに残ったアルベドとシズ、ルプスレギナを見つめる。ここにぼっちさんが居ないのは謎のモンスター鹵獲のほうを担当してもらったからだ。そちらにはアウラにシャルティア、ナーベを向かわせたから問題ないだろう。

 

 「坑道のドワーフにはルプスレギナとシズに向かって貰うとして私とアインズ様はここで…」

 「いや、私が行こう」

 「待ってください!!そんな御身自ら出向く事でしょうか!?」

 

 私の発言に対して慌てながら険しい顔を向けてくるアルベドの言葉を、聞きながら手をかざして止める。慌てたのはアルベドだけではなかった。が、全員が動作を見てから止まる。

 

 「あるのだアルベドよ。相手からしたらこちらは未知の相手。警戒し要らぬ発言ひとつで関係が最悪になる事もある。ゆえに私自ら行くのだ」

 「分かりました。では早速坑道に行く為の少数精鋭部隊の編成を行ないます」

 「行くのは私とシズだけで良い」

 「そ、そんなぁ!?」

 

 密かにガッツポーズするシズに対して、顔面蒼白したアルベドが泣きつくようにしがみ付いてくる。言葉を聞かなくともその瞳から「私も連れてってください」と訴えてきているのが分かる。が、一番言葉に敏感で自分達以外を劣等種族とでも思っているアルベドを連れて行くと、言葉にしなかったとしても表情に必ず出してしまう。カルネ村の時はフルフェイスで顔を隠していた為に悟られることはなかったが、今回は防具の類はなく顔は丸見えだ。

 

 「落ち着くのだアルベドよ。シズを連れて行くのは亜人種・異形種から見て人間種は格下、そして子供が相手と言う事で油断もする事からだ。勿論、私への危険もあるだろうが姿を消して細心の注意をする。もしもの時にはシャドーデーモンを盾とし撤退、お前と合流しよう。これで問題はなかろう」

 「アインズ様がそう仰るのなら…私はここにて救出隊の編成と防衛体制を整えておきます」

 「頼むぞアルベド」

 「ハッ!!」

 「よし、行くぞシズよ」

 「…はい」

 

 アルベドと配下の者を置いてシズと影に潜むシャドーデーモンとでドワーフが居る坑道へ進んで行く。

 

 

 

 交渉しようと坑道に向かったアインズとは別行動をとっているぼっちは物陰からどうしようかと悩んでいた。

 

 向かった先では百近いイタチかフェレットが二足歩行している。サイズもそれらと同じぐらいなら可愛かったかもしれないが、子供サイズちょいあって手は鳥の爪ほど鋭そうだった。そんなものが隊列を組んで百も居るんだから怖い。まぁ、対処できないもんじゃないが。

 

 見た感想なんかは置いといてどうしようか。あの群れはただ生息しているモンスターと言うより軍隊といった方が正しいだろう。ここを住処としていないうえに持ち込んでいる荷物が少ないことから偵察、もしくは強行偵察部隊か何かだと推測するが合っているのかどうか怪しい。はっきり言って勘でしかない。訊いて見れば早いんだが…。

 

 悩んでいるぼっちをシャルティアやアウラ、ナーベが指示を待って見つめてくる。

 

 「・・・シャルティア」

 「はい」

 「捕獲の・・・指揮を・・・任せる」

 「捕獲…私一人で全部ですありんすか?」

 「・・・ここにいる・・・四人を使って」

 「解りました!ご期待に沿えるよう…あれ?ひとり…ふたり…さんにん…」

 

 ひとりひとり指をさして人数を確認するのだがどうしてか三人で止まる。どういうことだろうか?今話していたぼっちが数に入ってない。ぼっちにぼっちしてろって事か!?良いけどさぁ、楽で。でも三人だと大変だろうに。

 

 自分自身をさしているシャルティアの手を優しく掴んでこちらに向けさせる。その行動よりもぼっちに触れられた事に驚き、顔を真っ赤に染めた。

 

 「・・・私も」

 「ぼぼぼぼ、ぼっち様もありんすか!?」

 「・・・(コクン)」

 「絶対的な支配者であるぼっち様をわ、わわわ、私の指揮下にぃ!?」

 「・・・ああ」

 

 守護者は至高の御方に仕える事を最大の喜びとする忠義の塊のような存在だ。それが立場を逆なると言うことは天地が引っ繰り返るような事があろうとも無い話だ。眼を見開いてぼっちを見つめるのはその場に居た全員だった。

 

 「そ、そんな事出来ないでありんすよ!!ぼっち様は至高の御方…そんな御方に命じるなど」

 「・・・私は・・・不必要か?」

 「―っ!?それはありえないです!!ぼっち様は必要不可欠の御方です!!」

 「なら・・・」

 「え、あの、す、少し待って欲しいでありんすが宜しいでありんすか?」

 「・・・(コクン)」

 

 考える時間が欲しいと言う事だろう。頷いてから少し距離を開けて腰を降ろしてアイテムボックスより、『黒山羊の卵』と書かれた小説を読み出した。守護者達の感情なんて気付かぬまま…。

 

 

 

 「どうすればいいでありんすか!?」

 

 突然の言葉に慌てふためくシャルティアは、同じ守護者であるアウラに助けを求める。一時的とは言え守護者が至高の御方との上下関係が逆転など前代未聞、それを対処出来るだけの知恵を持ち合わせていない為だ。しかし、それはアウラも一緒で首と手をブンブンと音が鳴りそうなぐらい振って否定をしめす。

 

 「そんな事あたしに言われたって解るわけないじゃない」

 「だったら命令すれば良いでありんすか!?」

 「至高の御方に私達守護者が?普通ありえないでしょう」

 「では、やんわりとお断りした方が…」

 「それはそれで至高の御方の申し出を断る事になるでしょう」

 

 パニックになって瞳は世話しなく動いていたがアウラ以外にも居る事を思い出してギョロっとした目で助けを求める。求められたナーベはその表情に一瞬たじろぐが意図を理解して口を開けた。

 

 「お断りした場合…ぼっち様は不必要と思われ悲しまれるのでは…と」 

 「いや、それは…あ~、どうしたらいいでありんすかぁ~」

 「いっその事、参謀とか補佐役みたいな感じで指示を貰えば良いんじゃない。そうすれば指揮官として命令を出したことにもなるし、どう動いて良いか分かるじゃん」

 「そ、そうでありんすね」

 「デミウルゴス様に知恵をお借りするという事も良いのではないでしょうか?」

 「確かに…ならすぐにメッセージで…」

 

 アウラの案に縋ろうとしたが確かに知恵者であるデミウルゴスの話を聞いてからでも遅くは無い。ぼっち様がこちらを見ていない事を確認しつつメッセージを繋げる。向こうも忙しいらしかったがこちらの事情を話せば手を止めて聞いてくれた。

 

 話し終えると数秒の間が空く。その数秒がやけに長く感じ、一秒だけでも精神を病む感じがする。

 

 『ぼっち様は確かにそう仰られたのだね』

 「先に言ったとおりでありんす。アウラが言った事を実行したら良いと思うでありんすか?」

 

 確認を取ったデミウルゴスはシャルティアの発言に呆れたようなため息で返す。その対応にシャルティアだけでなくアウラまで不安がる。自分達はなにかやらかすところだったのかと。

 

 『良いかい。まずは君に指揮権を渡した事を考えてみるんだ』 

 「私に指揮権を渡されること…」

 『正直に言うと私にはデメリットしか考えられない』

 「なぁ!?デメリットしかないと言うのはどういうことでありんすか!!」

 『ワールドアイテムによりぼっち様が暴走した件…』

 

 あまりの一言に怒りを露にしたが返された一言で黙った。忘れたくても忘れる事の出来ない事件。あの時、迂闊に森の突き進まなければぼっち様はあんな目に合う事はなかった。自分の大きな失態。

 

 『ブレインという男に自分の名を教えておきながら取り逃がした件に、ゲヘナ時にはその尻拭いをぼっち様にして頂いた件』

 

 ひとつひとつが深く突き刺さる。アインズ様からの命令を完遂できずに取り逃がし、危うくホニョペニョ子というモモンの敵を作ったと言うのに居たのは私というアインズ様の計画の破綻させるような事になっていた。ぼっち様が機転を利かせてくれた事で私はホニョペニョ子の知り合いと言う設定を作る機会を与えられ何とかなった。

 

 どんよりとした空気を漂わせながら俯き、言われた言葉を脳内でリピートする。確かにこんな失敗だらけの守護者にメリットではないではないか。

 

 しかし、何故ぼっち様は自分に指揮権を委ねられた?

 

 そう考えていると自然にデミウルゴスが何を言おうとしているのか理解した。

 

 「私に…名誉挽回のチャンスを与えてくださった…」

 『おや…まさか先に気付くとは君も成長したという事かな。ぼっち様はお許しにもなったし、ゲヘナの時にはあの戦いで満足されていた。けれど君はぼっち様だけではなくアインズ様にもご迷惑をかけた。ナザリック内にも不満を抱いてる者も居る』

 「本当に…ありがたい事でありんす」

 『なんと慈悲深いことだ。ゆえに君は事後慈悲に報いなければならない。今回君がしなければなら無い事は…』

 「不敬に思われるかもしれないけれど、ぼっち様を含めた四人を最大限有効な方法で指揮する事…でありんすね」

 『もう私がアドバイスしなくて良いね。詳細は後で教えてもらおう』

 

 メッセージが切られるとヤル気と感動で肩を震わしたシャルティアは二人を見る。慈悲深さを知ったナーベとアウラは涙を浮かべながら見つめ返す。

 

 「作戦会議をするでありんす」

 

 決意に燃えたシャルティアは遠くにいるモンスターの群れを睨みつつ立ち上がる。

 

 ただひとり状況を理解してないぼっちはシャルティアの態度を見て首を傾げていた。


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