骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第120話 「自然の中で」

 ドワーフの王国へ向かう途中、アインズ一行は山肌険しい所で休憩を取っていた。長年を出てきた水が山の合間を縫って小さな川を作っていた。その川の端にある岩場の上にアウラは正座して眺める。

 

 「・・・」

 

 川の真ん中でズボンの裾を捲り上げ、上着をすべてアウラに預けてカッターシャツ姿のぼっちは足を肩幅に広げて、右手を垂直に横向けたまま数分間固まっていた。

 

 栄養分豊かな川を大きな魚が泳いでいた。その一匹が股の間を通る瞬間に垂直に伸ばされていた手が魚を川の中から陸地まで叩き出した。宙を舞う魚はアウラの近くに居たルプスレギナがキャッチする。

 

 「さすがぼっち様」

 「まるでクマみたいっす!!」

 

 横で失礼な発言をしたメイドの足を払って川に落とす。が、戦闘メイドプレアデスの一人であるルプスレギナ・ベータがそう簡単に落ちる訳もなく、片手をついて体勢を維持した。

 

 「ふっふっふっ、そう簡単にはやられないったぁ!?」

 

 自慢げにドヤ顔を向けるがその顔に二匹目が直撃して今度こそ大きな水飛沫を上げて川に落ちた。

 

 「まったく何がそう簡単によ」

 「ぼっち様にやられたっす…」

 「・・・すまん」

 

 魚が直撃した時は本当に怒ったのかと思ったがそんな事無く、申し訳なさそうに頭を下げている。至高の御方なのだから謝らずとも良いと思うのだが、ぼっち様らしいと言えばらしい。

 

 「お返しっす!!」

 

 ルプスレギナは度々言葉使いで注意されることがあった。ぼっち様は気楽に話しかけられた方が楽で良いと言う事で構わないと許可を出しているらしいのだがこれはやりすぎだと思った。至高の御方に川の水をかけたのだ。事故ではなく狙って。さっきの今でさすがに血の気が引いて行った。

 

 頭から被ったぼっち様は腕を組んで頷いて拳を握り締める。

 

 「刻むぞ血液のビート!水中の為のターコイズブルーオーバードライブ!!」

 

 下から上へとアッパーのように繰り出された一撃に触れた水が一直線にルプスレギナに直撃した。「わぷっ」と声を出しつつも楽しそうに笑っている二人を見てほっとしたのと同時に羨ましく感じた。

 

 「あたしも混ぜてぇ」 

 

 岩場から飛び降りてかけ合いに参加してびしょびしょなるまで遊び尽くした。この川に来た目的を忘れて…。

 

 水遊びを開始してから1時間が経過してから川から上がったアウラは、食料調達の為にここに来ていた事を思い出してどうしようかと悩み始めた。別に食料はアイテムでなくても良いのだがドワーフはよく酒を飲むとの事を聞いたぼっちが料理を振舞おうと道中で言い出したのだ。それでぼっちとアインズの二グループに分かれて集めていたのだ。

 

 悩んでいたアウラは自分の服がどのような状態かも考えておらず、見かねたぼっちがコートを渡す。

 

 「え?あの、ぼっち様。これは」

 「・・・そのままでは・・・寒いだろ?」

 「でも濡れてしまいますよ?」

 「・・・かまわない・・・着なさい」

 

 渡された真っ赤な上着は川に入る前に渡された奴でまったく濡れてなかった。至高の御方の服を濡らしてしまう罪悪感もあるが、嬉しさで顔が弛みそうになる。至高の御方の勧めを断るのも失礼に当たる。あとで文句を言ってくるであろう守護者を想像しながら言い訳を何度も頭の中で言い聞かせる。それにぼっちは今渡された赤いコート以外に黒い上着を着ていらっしゃった。だからぼっち様も着替えられているだろう。

 

 「アウラ様はコートを借りたんすね」

 「うん♪…あれ?その黒い上着…」

 「ぼっち様のっすよ」

 

 眼を疑った。ルプスレギナは濡れたメイド服を脱いで下着姿の上に見覚えのある黒い上着を着ていたからもしかしてと思ったのだがそのまさかだった。

 

 「ちょっと待って!上着をルプスレギナが着てるって事は…」

 「あぁ、ぼっち様なら換えを持ってるって言ってましたよ」

 「へ?そうなの…なら良かった」

 

 さすが至高の御方。準備周到だ。こんな事もあろうと用意されていたのかと感心しつつ少し離れた位置に居るぼっちの元へと向かう。

 

 着替える為に居た岩陰から出ると木々に寄りかかり、尖らせた石を木の棒にツタで結びつけている上半身裸のぼっちが…

 

 「な、え、あ…って、ぼっち様!?」

 「・・・ん?」

 「何をしているんですか!?」

 「・・・槍作り」

 「いや、そうじゃなくて…」

 「換えを持っているって言われましたよね?」

 「換えたよ・・・」

 

 首を傾げながら指を刺す先は水滴ひとつ無い真っ白の仮面が。

 

 慌てて服を脱いで返そうと二人同時に思ったがその前に止められた。

 

 「脱ぐな・・・そのまま」

 

 槍を地面に突き刺して立ち上がり、二人の頭をなでる。

 

 二人は御身よりも自分達を気遣ってくれたと感極まっていたが、コートや上着を返されたら下着姿になられてしまうのでそれは不味いよなと言うのがぼっちの考えだった。下手したらアインズに盛大な誤解と共に説教を喰らってしまう。

 

 刺した槍を手に取ったぼっちは四つん這いになり、耳を地面に当てて眼を瞑る。何をなさっているか分からなかったが、とりあえず汚れるからお止めしようと声をかけた。が、集中しているのか返事がまったくなかった。3分も経たない内に立ち上がり、人差し指を口の中に突っ込んだと思ったらすぐに出して上に向かって突き立てる。

 

 「ひと狩・・・行こうか」

 

 中腰で森の中を進むぼっちの後を追っていくと、その先には猪より一回り大きいモンスターがキノコを食らっていた。背後から歩んでいると言うのに気付かれず、そのまま脳天へ槍が突き刺さってそのモンスターは絶命した。

 

 「今のどうやったんですか!?」

 「すごいっすよ」

 

 微笑を浮かべてモンスターを担ぎ、歩き出したぼっちにアウラとルプスレギナが駆け寄る。スキルも魔法も使わずどうやったのかと興奮状態にあったアウラだったが、またしてもルプスレギナの行動で固まってしまった。

 

 「うわぁ~、凄く硬いっすね」

 

 ぺたぺたと細身でありながら筋肉質の身体を触り始めたのだ。「何してるの!!」と怒鳴ろうと思ったが前に自分も同じ事をした事を思い出して言うことは出来なかった。

 

 モンスターを担いでいた為に碌な抵抗が出来ないのを良い事に左側に抱きついたのを見た時にはさすがに黙っておられずに、右側に抱き付いたのであった…。

 

 

 

 ぼっちはどうしてこうなったと何度となく自問自答していた。

 目の前には唖然としているアインズに私もアインズ様にしたいですと欲望の眼差しを向けるアルベド、捕まえたであろう兎の耳を掴んで首を傾げているナーベ。まぁ、呆然となるのは分かる。下着姿の上にコート、もしくは上着を着た少女と美女に左右から抱き締められ、途中で出会ったシャルティアに後ろから抱き締められている猪を抱えた上半身裸の男が居たらそうなるだろう。

 

 「何をしてたんですか?」

 「狩り・・・の筈」

 

 うん。狩りだよ。多分…肥えた魚にこの猪と。

 

 自分達の収穫物を思い浮かべながら答えるけども勘違いしている事は分かる。だから何とか解かなければならない。しかし子供であるアウラが居る以上、発言には気をつけねばらならない。

 

 「鳥の会話・・・のような事は・・・してない」

 「鳥?…あぁ、そう言う事ですか」

 

 鳥とだけで理解してくれて良かった。これ以上の案は出てこなかっただろうから。と、ここでシズが居ないことに気付いた。

 

 「・・・シズは?」

 「シズならあそこです」

 

 ナーベに示された草むらに眼をやると、狙撃銃の手入れをしているシズを見つけた。その横には鹿に翼が生えたペリュトン五頭が脳天に風穴を開けられ絶命していた。こちらに気付いたシズは狙撃銃をその場に置いて駆け寄って来た。

 

 「…ぼっち様」

 「・・・良くやってくれたな」

 「はい。五頭仕留めました」

 

 見れば分かる。しかもご丁寧に脳天に二発も撃ち込んでいるね。どんだけ確実に仕留めてんだよ!?あ!心臓にも撃ち込んでるから一頭に三発か。

 

 「シズが・・・一番か・・・なにか・・・して欲しい事は・・・あるか?」

 「ぼっち様の手料理を一緒に食べたい」

 

 ふむ…手料理か。食材は保存の魔法をかけるから賞味期限は無視して良いからどれから食してもいい。魚の内の一匹を刺身にして一緒に飲むか。そんな事思いつつモンスターを降ろす…前に抱きついている三人を何とかしなければ…


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