骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 前回のあらすじ
 王国でぼっちが演説をして政府中枢が大幅に変わった。


第117話 「戦勝パーティ」

 王都リ・エステーゼ

 日が落ち街に出ていた人々は帰路に着く。それでも大通りなどには多くの人が居るものだ。しかし今日の大通りには人影どころか気配さえ消えていた。

 一台の馬車が通る。

 多くの兵と騎士を連れた貴族の馬車のようだがそれは生者の一団ではなかった。

 騎馬の跨るデスナイトに魔法を付与された武具で身を固めたスケルトンなどが護衛する馬車に乗るのはアインズ・ウール・ゴウン。そんなアンデット100体の行進を見ようと出て来る者は居なかった。

 馬車は王宮敷地内の大きな建物の前で止まった。門には警備の兵士に数名の冒険者が待機していた。この建物は昔から王国主催のパーティを執り行って来た由緒ある建物で今回のアインズ・ウール・ゴウンと親睦を深める為のパーティ会場として使われている。警備と言う名目で兵士や冒険者を配置しているが彼らでは何の役にも立たないのはほとんどの貴族が知っている。ただの気休めだ。

 ドアが開いた瞬間、警備を行っている者全員が警戒した。が、そんな警戒は2秒も持たなかった。

 頭には大きな角を生やしている事から人間でないのは解る。純白のドレスに包まれた怪しげながらも優しげな微笑を浮かべる妖艶なる女性に心奪われたのだ。

 続いて馬車を降りたのは黒きマントとローブ、可笑しな仮面などで素肌の一部も晒さない大柄のアインズ・ウール・ゴウンだった。姿を聞いていた兵士は直ちに姿勢を正して整列する。

 上等なスーツを着て口髭を生やした初老の男性が素早く近寄る。

 

 「ゴウン魔導王陛下にお妃様のアルベド様ですね。どうぞこちらへ」

 「うむ、ご苦労」

 

 威厳のある声がその場に響き一層緊張感が舞う。ただ『お妃様』と呼ばれたアルベドは平静を装うように努力していたが羽が多少震えていた。

 兵士達が守護する門を潜り、彫像品のならぶ廊下を歩いて奥に行くと大きな扉の前に立った。

 「少々お待ちを」と継げた初老の男性は脇に居た兵士に耳打ちしてから道をあける。

 

 『アインズ・ウール・ゴウン魔導国、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下、ご到着』

 

 会場内で仰々しく名を叫ばれ大きな扉がゆっくりと開かれる。

 内心ため息を付きながら歩を進める。ここまで大仰にする事ないだろうに。それに周りの貴族の目は怯えや奇異な者を見る目をしている。

 あまりキョロキョロしては格好がつかないので目線だけで居るであろうぼっちを探すのだが姿が見えない。代わりに会場内の警備をしている蒼の薔薇と離れた位置で警備しているモモンとナーベを視認した。

 頼むから変なことするなよ…

 モモンを演じているパンドラズ・アクターを不安に思い心の底から本気で願う。

 

 「お久しぶりですね。ゴウン魔導王陛下」

 「これはラナー王女…いや、リ・エステーゼ王国ラナー女王陛下と呼んだほうが宜しいかな」

 

 唯一近付いて来たのは今や王位に着いたラナー女王だった。後ろには鎧ではなく純白のスーツを着て気恥ずかしそうにしているクライムが付いていた。

 ぼっちが気にかけている少年少女を見て微笑む。彼を養子にしたとの話が出た時はナザリックでは大変な騒ぎだった。本当に…っと言うか何でぼっちさんの問題を収めるのに胃が軋むような思いをしなければならなかったんだよ!まぁ、胃なんて無いんだけど…最終的に『アルカード』の養子であって『ぼっち』の養子じゃないと言うことで納得してくれたが…

 

 「いいえ、ラナー王女のままでも構いませんよ。ゴウン陛下」

 「なら、私のことはアインズで構いません。王国とはより良い関係を築きたいですから」

 「それはわたくしどもも同じ気持ちです。絶対的な力をお持ちでありながら対等に接して下さるアインズ陛下には頭が上がりません」

 「力は振るうばかりではないですからね。それに私は争いばかりを好むものでもありませんから」

 「そんな陛下と同盟を組める事を私を含め多くの国民が喜んでおります。魔導国が帝国へ睨みを利かせてくれくれたおかげで平和を手に入れました。感謝致します」

 「それは何より。戦時より平和が一番ですから」

 「しかし残念ですわ」

 「何がです?」

 「多くの貴族がアインズ陛下に近付く為に娘さんを連れて来たと言うのにそれほどお美しい奥方様を連れて来られて目論んでいた方々は肩を落としたでしょうね」

 「ははは、確かにそれは悪い事をしてしまいましたかな。ははは」

 

 久しぶりな気がするな。こうやって過剰すぎる忠誠や尊敬を持った感じではなく普通に話す相手に出会う事が。仮の姿の冒険者モモンも敬われるばかりで対等の相手など居なくなってしまった。同じアダマンタイト級の蒼の薔薇でさえヤルダバオトの一件で上に見られてしまったことだしな。

 

 「そう言えばぼっ…、我が友人のアルカード伯は?」

 「少し遅れてくるそうですが…」

 『リ・エステーゼ王国王室付き相談役、アルカード伯爵、ご到着』

 

 自分の時と同じように仰々しく名を呼ばれた仮面を付けてないぼっちは見覚えの無い女性と共に現れた。

 

 

 

 『パーティを行なうから来てくださいね』と招待状が来て最初は自由参加かと思っていたら強制だった件について。しかもペアで。

 貴族が集まるパーティに連れて行ける人…

 ナザリックの誰か…人に良い感情を持ってない+人間型が少ないと言う事で却下。

 ヘルシングの社員…社員の名簿は記録しているが仲が良い訳ではないので却下。

 カルネ村の住人…ほとんどが王国に悪感情を持っている上に悪感情を持ってないエンリはこのパーティに招待客として居るんだよなぁ…

 バルブロ第一王子の勝手な命令により襲われたカルネ村に対して特使などではなくラナー女王自ら謝罪しに行ったのだ。もちろんぼっちも謝りに行ったがラナーの謝罪は本当に丁寧なもので二度とあのような事がないようにすると言う事でエンリと和解したのだ。

 自分が女王陛下であっても相手が村人だろうと謝罪するというひとつの美談としてぼっちは認識していたがそんな訳は無い。カルネ村の戦力は王国を脅かすほど大き過ぎる。

 ほとんどの貴族が気付いてないが今の王国は正直に言って火薬庫のようなものだ。帝国が弱体化したといってもそれはこちらも同じで多くの農民や兵士、大貴族達を失った。損失的には王国のほうが多いぐらいだ。代わりに得たアインズとの同盟だがどれだけ信頼できるか解らない。アルカードが居るから絶対に大丈夫などとはラナーは考えている筈は無く、結果を出し続けねばならない。容易に頼る事は出来ないし、下手に失敗をする訳にもいかない。斬り捨てられる可能性はあるのだ。帝国以外にも法国の動きに王国内部で燻っている連中など対応しなければならないと言うに新政策などで手一杯でそれどころではない。すでに導火線に火がつきそうな状態でカルネ村と事を構えるのは火薬庫に火炎瓶を投げ込むぐらい危険なことだ。あの村の戦力だけでも問題なのにアインズもアルカードも関わっているとなったら国が一瞬で崩壊してしまう。それを防ぐ為にラナーは迅速に行動したのをぼっちは理解してなかった。

 そのカルネ村から招待されたエンリとンフィーレアは着慣れないドレスやスーツを着てテーブルに置かれていた料理を楽しんでいた。警戒の欠片もないのは護衛としてマインが居るからだろうか…

 

 「久しぶりですね。アルカード伯」

 「ええ、アインズさん」

 

 微笑を浮かべてアインズの前で立ち止まったぼっちに一緒に来た女性は小声で何かを伝えるとひとり離れていった。

 

 「おや、挨拶も無しに行ってしまわれましたね」

 「貴方が怖いそうですよ」

 「え?」

 「冗談…というわけではありませんが少し会場内を歩きたいそうなので」

 「アルカード様の彼女さんでしょうか?」

 「彼女ではなくアルカード領の将軍になる女性ですよ」

 

 彼女の名はレイナース・ロックブルズ。

 元帝国四騎士で『重爆』の異名を持っていた騎士だったがカッツェ平野の戦いにて帝国を裏切ってアルカード伯へと寝返ったのだ。アルカードより呪いを完全に解除するアイテムを受け取って使用した彼女はそのままアルカードの騎士となった。そもそも実力はあれど故あれば寝返る人物を欲する貴族も居なかったが。

 元の美しさを取り戻したレイナースは注目の的となっていた。

 長いブロンドの髪に整った顔立ち。全体的にスレンダーな身体のラインを引き立てるように作られた漆黒のドレス。ラナーは可愛い系だがレイナースは綺麗系である。未だに右半面は髪で隠れているが今はおしゃれとしてそのままにしているそうだ。

 

 「さて、アルベドよ。私達も踊るか」

 「!!はい、喜んで」

 

 ワルツを踊っている中央へ向かうアインズとアルベドを見送ったぼっちはレイナースへ視線を向ける。ちょうど彼女に多くの男性が声をかけていた。嫌がっているなら間に入るつもりだったが満更でもなさそうだ。

 と言うかあの相手に顔を見えなくなった瞬間のドヤ顔止めい!まぁアルカード領でユリを見たときの美に対する憎しみの顔よりはマシだけど。

 

 「クライム。私達も踊りましょう」

 「え、いえ、そのぉ…」

 

 ラナーとクライムの会話が耳に入って振り向くとクライムがしどろもどろになっていた。まさかと思いつつ口を開く。

 

 「まさかと思いますが練習を怠りましたか?」

 「そ、そういう訳では…」

 「では私と踊るのは嫌なのですか?」

 「いえ!身に余る光栄です!!…ただ自分がラナー様と踊れるほど上手くないので…その」

 「つまり練習不足ですか」

 

 大きなため息を付いたぼっちに対してクライムは申し訳なさそうな顔をする。

 

 「女性からの誘いを振るとはねぇ」

 「うぅ…」

 

 申し訳なさそうに俯くばかりでは話が前に進まない。辺りを見渡してこちらを見てそわそわしている女性陣を見つけた。見かけた覚えも無いことから当主が代わった事によりパーティに初参加する貴族のご令嬢達なのだろう。

 当主が消えた事を嘆く者より這い上がろうと分家の者が本家を乗っ取ったなんて事が多く報告されているそうだ。

 内容すべては聞き取れないが相手をからかうように「貴方が声かけなよ」なんて言っているのが微かに聞こえる。逆に彼女達は聞こえないとでも思っているのだろうか?

 

 「…手本を見せるから覚えなさい」

 

 クライムにそう呟くとゆっくりとご令嬢達の元へと歩んで行く。アルカードが近づいたことに気付いた彼女達は慌てて姿勢を正す。

 

 「見ない顔ですね」

 「あ、いえ、その」

 

 いきなりアルカード伯に声をかけられて緊張したのかさっきと様子が変わった。

 

 「ははは、そんなに緊張しないで下さい」

 「は、はい」

 「ご一曲如何ですか?」

 

 笑顔を浮かべて膝を突いて手を差し出されたことに対して恥かしさで真っ赤に染まった少女はそのままワルツの輪の中へと誘われた。

 王国で注目の的のアインズとアルカードに皆の視線が注がれる。このあとの食事会も恙無くこなした二人はマナーを教えてくれたアルシェと精神安定の効果にそれぞれ感謝した。




アルベド 「わたくしがアインズ様の妻として…クフー!!」
アインズ 「アルベドが態度に出さないか冷や冷やものだった…」

 

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