骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 前回のあらすじ

 カルネ村が王国兵に攻められそうなのを阻止しようと一騎駆けを行なったマインは地に伏した…


 


第115話 「カルネ村防衛線!!後編」

 バルブロは負傷した為に近くに使えていた武官達が慌てて後方へと連れて行く。兵士達もそれに合わせて後退してから陣形を整え始めていた。

 

 「嘘よ…マイン」

 

 力無く倒れこんだマインを見つめながらエンリは呟いた。 

 幼い時から知っている少女は真面目で本当に良い子だった。素直で笑うと眩いばかりの笑顔を向けてくる。最近では良く男の子と間違われる事の不満をぼやいてたっけ。

 心にぽっかりと穴が開いた喪失感を味わうエンリだったがそれでも今やるべき事は放棄しなかった。

 この村を守る。そしてせめてあの場に横たわるマインを村へ連れて帰ること。

 

 「ブリタさん。ここをお任せします」

 「はぁ?お任せって!!ちょっと」

 

 返事を聞く間もなく階段を駆け下りて行く。待ってよと叫びながらンフィーレアは慌ててついて行く。門の前ではゴブリン達とロートル、剣や槍を持った村人が待っていた。彼らに頷くと涙を浮かべているネムを優しく抱き締める。

 

 「…ちょっとお姉ちゃん行って来るね」

 

 門の前にはレイルが馬に乗って移動して来ていた。前に会った時とは目が違った。

 

 「これからマインちゃんを迎えに行こうと思います。貴方はどうしますか?」

 「…行くよ」

 

 小さく呟かれた言葉を聞いて皆へと振り返る。

 

 「ジュゲムさん達は着いて来てくれますか?」

 「もちろんでさ!何処までもお供しやすぜ姐さん」

 「ぼ、僕も行くよ!!」

 「ワシらも行くぞ!!」

 

 泣きながらも喚くのをグッと堪えるネムをひと撫でしてロートルが前に出る。ロートルと村の皆を見て覚悟を決める。

 たった一人で戦ったマインはどう思うかは分からない。だけど彼女をあのままには出来ない。

 

 「開門!!」

 

 叫ばれると同時に一斉に走り出した。目的のマインの元まで…

 後退した王国兵士は距離を開けて、隊列を組み中だった為に動くのが遅れた。が、勿論騎馬兵も居る為に速度は王国側の方が勝った。

 

 「エンリ!このままじゃあ…」

 「大丈夫、まだ笛があるもの!!」

 

 せめて皆を守る為にアインズより頂いた二本目の笛を吹いた。

 

 

 

 また来てしまった。

 マインはいつもの白い空間に立っていた。

 今度こそ自分は死んでしまったと理解してここに立っている。

 今日はシャボン玉の数も輝きもいつもより増していた。

 そこで気付いた。あの岩の上にいつもの男が座ってない事に。辺りを見渡してみるとそこには一人の女性が立っていた。

 ナザリックで会ったパンドラズ・アクターと似た色違いの軍服なる物を着た女性。

 こちらに気付いたのか歪んだ笑みを浮かべながら透き通るような長い水色の髪を揺らしながら歩み寄ってくる。

 同性であるもののあまりの美しさに見とれていると…

 

 「フン!」

 「痛い!?」

 

 思いっきり頭突きをおでこに喰らってしまった。後ろに倒れそうになった私の胸倉を掴み、眼前まで引き寄せる。

 目と目が合い、痛みを忘れて見つめ返してしまう。

 

 「貴様、何故本気で戦わない?」

 「え?」

 「呆けた声をだすな。戦いは本気で行うものだろう。どうして手を抜いた」

 「そんな!ボクは全力で…」

 「だれが貧弱な貴様のステータスのみでの事を言った」

 

 言われて気がついた。自分の身体に埋め込まれた術式の事を。最近は身体を強くする鍛錬ばかりで忘れていた。あの力さえ使っていれば結果は変わっていたかも知れない。

 だけど時すでに遅し。死んでしまった後ではどうもしようがない。

 

 「でも、ボクは…」

 「なんだ?言い訳をして死のうって訳か」

 「そうじゃないんです。死んでしまった今となっては…」

 「勘違いをしているな」

 「勘違い?」

 「貴様はまだ死んではいない。死にそうではあってもな」

 

 死んでない?

 当たり前の常識のように思っていた事をあっさりと否定されて呆然とする。

 そう言えば今までここに来た時だって死にそうであって死んだ後ではなかった。死ぬとレベルとやらが下がるから死ぬ直前で止めとけって師匠に言われた事を思い出した。

 

 「ではボクはまだ戦えるんですね!!」

 「貴様に意思があるならな」

 「やったあああ」

 「起きたら身体中の痛みを味わう事になるがな」

 

 嬉しさのあまり話を聞かずに跳びまわるマインはふとある事に気がついた。

 

 「えーと…どうやって起きるんでしょうか?」

 「起き方を理解してないのか?…仕方ない私が起こしてやろう」

 

 親切そうに言った言葉ではあったが顔が嗤っている。良くない事が起きると思い後退するがあっさりと捕まり、顔面を思いっきり殴られる。衝撃で意識が薄れてその場に倒れる。

 

 「まったく。ぼっちさんに迷惑かけるなよ小娘」

 

 一人っきりの空間で女性は微笑みながら姿を消していった。 

 

 

 

 マインが目を覚ますと全身の痛みにより動けなかった。

 叫び声と何かが駆ける足音に気付いて薄っすらと開けた目でそちらを見やる。ゴブリンや村人を引き連れてエンリが駆けて来る。そこにはンフィーレアやレイルも居た。

 反対側に視線を向けると騎馬に跨った兵士が後ろに乗せていた弓兵を降ろしている所だった。

 

 「…体は剣で出来ている」

 

 アルカードに教わった起動呪文を目を閉じて口走る。右肩に描かれた紋章がが輝き始める。

 

 「血潮は鉄で心は硝子、幾たびの戦場を越えて不敗」

 

 痛みを堪えて剣を杖のように扱い自らの身体を立たせる。その光景にエンリ達は生きてた事を喜び、王国兵士は不死身の化け物と畏怖した。

 

 「ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし」

 

 呪文を唱える度に身体中に魔力が行き渡る。  

 

 「担い手はここに独り、剣の丘で鉄を鍛つ」

 

 降ろされた弓兵が急いで構えて、胸騒ぎを感じた騎馬隊は突撃を敢行する。

 

 「ならば我が生涯に意味は不要ず」

 

 『自分の心を形にしろ』

 アルカードに言われた一言が頭に過ぎる。そして目を見開き正面を睨みつける。

 

 「この体は無限の剣で出来ていた」

 

 右手を突き出すと正面に紫色の7枚の花弁のような物を展開する。それが飛んで来た矢と突撃してきた騎馬をすべて跳ね返した。術式を展開がちゃんと出来た事に満足そうな笑みを浮かべる。

 今回使用した右肩に仕込まれた術式は魔力…MPを使用して武器を作り出すものだ。第七位階魔法である《クリエイト・グレーター・アイテム》と上昇系魔法にスキル付属魔法を組み上げられた物で結構なMPを消費する。正直MPはあるものの剣士であるマインは低いのだが前回術式を使用した際に無理に魔力を増幅して暴走させた結果、激しい運動をして千切れた筋肉を補修して元より筋肉が増す超回復のような現象が起きたのだ。今のマインは同レベルの魔法詠唱者と対してMPの量は変わらないだろう。まぁ、魔法詠唱者ではないから気軽に使う事はないのだが…

 大きく息を吐いてから集中する。

 前に一度だけ見せてもらった鞘を思い出す。エクスカリバーと同じく黄金色に綺麗な蒼のラインが複数入った鞘を。光が収縮して形になって行く中、術式に埋め込まれた持続する回復魔法や強度を上げるスキルを付与して行く。

 光が物質として形になるとその名を叫ぶ。

 

 「アヴァロン!!」

 

 ステラが持っている対魔耐性に回復超過などのスキルを付与するアヴァロンに比べて天と地ほどの差がある物だったがこの世界では十分すぎるものだった。背負うと傷口が輝きゆっくりとだが治り始めていた。突き刺さっていた槍を抜いて王国軍に正面より向かい合う。

 

 「マインちゃん大丈夫?」

 

 駆け寄ったエンリは心配そうに身体を見つめる。傷がゆっくりと塞ぎ始めている事に驚かず呆れた顔をした。

 

 「あんな危ない事して」

 「すみません!!」

 「マインさん平気ですか?」

 「ンフィーさん。平気です。心配かけました」

 

 追いついたンフィーレアと横まで来たレイルと目が合った。

 

 「駄目じゃないかレイル。戦えないのに前に出てきちゃ」

 「うるせえ殺すぞ」

 「ひどい!」

 「人が気にしている事をズバッと言ったお前の方がひでえだろうが…まぁ、生きてんなら良かったよ」

 

 マインは嬉しそうに微笑み剣と刀を握り締める。後方のバルブロが忌々しそうに睨んでいるのがはっきりと分かった。

 

 「たった100人以下の戦力で勝てると思ってんのか!!楽には殺してやらねえからな!!」

 

 確かに5000人の敵にこれだけの戦力で挑んだ所で勝てる訳はない。

 だがそれは術式を使用しなかった場合だ。攻勢に出ようと思ったマインは跳び出そうとした足を止めた。後ろから大勢の足音を察知したからだ。

 ゴブリンが居た。10や20ではなく5000もの大部隊が隊列を組んでこちらへ行進している。先頭を進んでいる綸巾をかぶり羽扇を持った髭を蓄えたゴブリンが叫んだ。

 

 「ほっほっほっほ。我らエンリ将軍に召喚されしゴブリン軍団。エンリ将軍に仇名す者よ覚悟せよ」

 

 重装甲歩兵や聖騎士、衛生兵や魔法詠唱者まで数多くの武装を施されたゴブリンの登場にバルブロは唖然となった。数は同じぐらいだがあの少年が居るだけに不利に思える。周りの者も「何だあの軍勢は!?」「何処から出てきた!!」など騒ぎ慌てている。

 

 「ここは撤退いたしましょう!!」

 

 そう叫んだのはボウロロープ候より五千の兵士と共に来たチエネイコ男爵だった。諦めの悪い軍人なら無視して攻勢に出るかもしれないが戦場には出ない王族であるバルブロはその提案を受け入れ撤退を開始しようするがすでに遅かった。

 トブの大森林より大勢の者が出てきた。

 

 「あれだけのゴブリンを付き従えるとはさすがだな」

 「エンリ様!オーガ、トロール、ゴブリン総勢500程度ですが援軍に参りました!!」

 

 森から出てきたのは前にロートルにやられてエンリの配下となったトロールのグとナーガのリュラリュース達だった。背後には300以上のゴブリンに100以上のトロールとオーガが並んでいた。これだけでも王国兵士には最悪の状態だと言うのに大森林より出てきたのはそれだけではなかった。

 

 「リザードマン連合代表シャースーリュー・シャシャ。コキュートス様からのお頼みで援軍として参戦する!!」

 

 アインズとぼっちが重要視している村を襲っている奴らがいるとの話を聞いたがさすがにコキュートス自らが行く訳にもいかずにリザードマン達に言ったのだ。結果1000を超えるリザードマン達が出動する羽目になった。正面と大森林より向かって来る敵に恐怖して直ちに後退し始めると後方で待機していた部隊が土煙と共に消滅した。

 

 「ちーす、ってなんか凄い事になってるっすね」

 

 煙の中からメイド服を着た赤毛の女性…ルプスレギナが出てきた。

 兵士達はひとりの女が出て来たぐらいでは足は止めない。彼らは生きる為に必死になっているのだから。

 

 「とりあえずお届け物の配達に来たっすよ」

 

 砂煙が完全に晴れるとそこには魔法に完全な耐性を持つと言われる骨で出来た龍のスケリトル・ドラゴンが構えていた。

 前も後ろも塞がれた兵士は絶望でその場にへたり込む。

 

 「何でもぼ…アルカード様が念の為にって事でカルネ村にこいつを配置する事にしたそうっす。しかしさすがぼっち様。こうなる事を予測してたんですね。じゃあ初仕事行ってみようか」

 

 スケリトル・ドラゴンが叫ぶ。リザードマンもゴブリンもトロールも叫びながら王国兵士へと突っ込んで行く。なにやら豪華な鎧を着込んだ場違いそうな男がこっちに何か叫んでいるようだったが聞こえないのではしょうがない。軽く手を振ってあげてルプスレギナはエンリの元へと歩いて行くのだった。




ゴブリン軍師 「ゴブリン軍団総勢5000体参上」
リュラリュース「トブの大森林配下500体参上」
シャシャ   「リザードマン連合総勢1000名参上」
マイン    「ボク復活!!」
ルプー    「お届け物に来たっす」
スケルトア  「………」


バルブロ   「あ、詰んだ…」

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