骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 前回のあらすじ
 隊列が崩れて撤退を開始した中央部隊を立て直す為にもアルカード領の領民と兵士で何とか持たせるが…


 『帝国と王国からの使者』の内容を変更
 スケルトルドラゴンを配置から外す。
 ステラはアルカード領に居たので服装と面をつける。


第113話 「王国と帝国の戦:後篇」

 フールーダ・パラダインは驚愕の色を隠せなかった。

 高弟20人と共に援護を行なう為に空中に上がった。援護と言うが実質は虐殺に近い。《フライ》で飛んだ魔法詠唱者を撃ち落すような対空迎撃方法は存在しない。するとしても同じ魔法詠唱者との空中戦になるだろうが英雄の壁を越えた逸脱者であるフールーダとその高弟達に挑むなど自殺行為以外の何者でもなかった。ゆえに敵の攻撃など気にも留めずに帝国秘蔵の戦略を用いて攻撃を開始しようとしていた。《フライ》を使用した状態で《ファイヤーボール》を撃ち込むと簡単なものだが攻撃の届かぬ位置よりの一方的な攻撃。これほど簡単で強力なものはないだろう。

 放たれた雷光がひとりの高弟の肩を貫いた。

 光から放った方向は特定できた。が、遠すぎる。いかに英雄の壁を越えたとしても人間であるフールーダは同じ芸当は無理だと知る。ならば誰が…最初に過ぎったのはアインズ・ウール・ゴウンだがその考えは即座に否定した。あれほどの人物が第三位階程度魔法を使うとは思えない。

 フールーダは相手の魔力量、つまりはMPを見るタレントを持っている。距離はあるが色で識別される魔力量を測ろうとする。

 《ライトニング》を放ちながら接近してくる者の輪郭が徐々に視認出来てきた。似ている。自分と同じタレントを所持して帝国魔法学院に通っていた少女に。しかし魔力量は二年前と比べ物にならない。

 

 「《ファイヤーボール》」

 

 杖を前に突き出して反撃をするが相手は高速で接近しながら身を捻って無理な軌道で回避した。

 はっきりと認識した。こちらに向かって来る少女は人間ではない。

 

 

 

 「-かはぁ…ふー…ふー」

 

 肺に溜まった息を吐き出して薄い空気を吸い込む。高高度は地上に比べて酸素が少ない為にちょっと身体を動かすたびに呼吸が苦しくなる。高地トレーニングはその点を利用するが自分はそんなものしたくなかった。無理な軌道と速度で急激なGが発生して身体を締め付ける。臓器と言う臓器が締め付けられ不快感が込み上げて来る。

 ただそれだけだ。

 アルシェは涼しい顔をしたまま標的に《ライトニング》を叩き込む。

 アルカード…いや、ぼっちに吸血鬼化されたおかげで肉体は人間からかけ離れ、人間ならすでに死んでいるほどのGを受けても少し苦しいかな程度で済む。自分が化け物になっていることを実感する。

 ぼっちはワールドチャンピオンの大会で得た《ヴァンパイヤ・アイ》を得た。これはアイテムであって種族レベルに関係しなかったがアルシェは違った。

 《ワールド・ヴァンパイヤ・スレイブ》

 これが新たに得た種族だった。ギリギリまで血を交換した為に一発でレベル10も加算されステータスは元の倍以上である。シャルティアのような本物の吸血鬼を凌ぐワールド・ヴァンパイヤ。その眷属と言うだけでかなりの恩恵を得ていた彼女にはこの程度では死ねない。

 吸血鬼の力をアイテムで得ているぼっちは半端者で、眷属のアルシェは吸血鬼として半人前。それでも主人よりは吸血鬼らしいのは皮肉であろうか。まぁ、眷属である事から真祖のシャルティアより格は下がるが。

 

 『額にもうひとつ目があると思って撃て。人間と同じように撃ったら人間と同じようにしか当たらん』

 

 突然本陣に呼ばれて行き成り出撃頼んだと告げられた時のアドバイスを思い出す。

 出来れば人殺しはしたくない。だから肩や足を狙って撃ち落して行く。すでに当初の半数は撃ち落した。フルスピードのまま相手の中心地に突っ込んだ。ほとんどの者が唖然とした表情を浮かべているがひとりだけ違った。

 驚いた表情ながらジッとこちらを品定めするような視線。王国だろうがその名を知らない者はいないだろうフールーダ・パラダインが居た。帝国魔法学院に通っていた時に何度か会った事がある人物。

 

 「《ファイヤーボール》-《ライトニング》!!」

 

 躊躇いも無く中央に《ファイヤーボール》を撃ち込んで《ライトニング》で狙撃する。火炎の爆発と衝撃であたりに散った電撃で10人もの高弟がゆらゆらと地上に降りていく。爆風と放電を利用した技は有功だったようだ。

 

 「腕を上げたな」

 

 独り言だったのだろう。小さく呟いた一言は吸血鬼となった耳が聞き取るには十分な音量だったが。急旋回をして睨みつける。

 神々しい光がフールーダの前に降り注ぎ、純白の鎧に白鳥のように真っ白な翼を6枚も生やした天使が光臨した。《サモン・エンジェル・3rd》を使用して第三位階の天使を召喚したらしい。

 強大な天使に対して身体が震える。だけど自然と負ける気はしなかった。

 

 「-そんなこけおどし…怖くない」

 「ほう!ならば見せて貰おう。君の実力を!!」

 

 両手で握り締めた槍を向けてくる天使に対してアルシェは魔法を詠唱しつつ突っ込む。

 ぶつかり合った衝撃で空が輝いて地上で戦う者共を照らしつける。

 

 

 

 ~左翼side~

 

 中央が撤退しても相手に睨みを利かせ続けていた左翼で事は突然起きた。

 左翼に待機していた者が後ろから斬られたのだ。

 

 「じゃあ素早く斬り殺しますか♪」

 

 元漆黒聖典でありズーラーノーンでもあったクレマンティーヌだった。アルカードの指示でヘルシング極秘部隊『ブラックドック・バスカヴィル』と共に帝国騎士の格好をして潜伏していたのである。ただ紛れただけでなく前々から持っていた特殊なスティレットで小部隊の指揮官を操って侵入したから簡単に紛れ込めた。

 中央の騒ぎが収まりかけたのを合図に鎧を脱ぎ捨てて後ろから斬りかかる。何の抵抗も出来ずに斬りつけられた騎士が次々倒れて行く。

 剣技はクレマンティーヌから習った集団は王国の兵士より強く結束力は高かった。それに男性に対する憎しみは高い為に一撃一撃にとてつもない殺気が込められていた。

 少数精鋭で一対一ではかなりの勝率で相手を屠る彼女達だが数で攻められたら一瞬で壊滅するだろう。だが、アルカードより伝えられた戦い方で優勢に物事を進められていた。

 ひとりの女性が騎士に斬りかかったが何時までもやられるほど馬鹿ではなかった。細身の剣を軽く受けて反撃に転じようとする。しかし弾かれた女性の視線は騎士にはなく、その先の他の騎士に向けて走り出していた。何の躊躇いもなく背を向けられた騎士は唖然とすることもなく隙を見せ付けた女を殺そうと剣を振り上げる。が、それが下ろされる事は無かった。背後から迫った他の女が斬りつけて来たためだ。

 一撃離脱。当てても外れても一撃を行なったら走り抜けて次の相手へ向かう。それがアルカードの戦法。時間をかけては取り囲まれるなら取り囲まれる前に駆け抜ける。面ではなく点でしか戦場を見えない兵士視点では対応しきれないと踏んで行なわせたのだ。

 …それでも決死の作戦なのにクレマンティーヌを始めに彼女達は生き生きと笑っている。ぼっちも予想してなかった副産物として辺りに恐怖が広がって行く。

 

 

 

 第7騎士小隊は駆け抜けていく連中を見つけて殺気立っていた。

 

 「よし!行きます!!」

 「…待て」

 

 軽いチョップを受けてバイヤは頭を押さえながら抗議の目を向ける。

 

 「何故止めるのですか」

 「本当に貴様の目は節穴らしいな」

 「はい?」

 「…邪魔だ」

 

 首根っこを掴まれ放り投げられたバイヤは地面をニ回転ほど転がって立ち上がる。もちろん聞いてはくれないだろうが抗議の言葉をかけるためだ。

 鎧を着込んだ騎士が降って来た。

 跳んで来たのではなく10メートル上より降って来たのだ。カストルが放り投げなければアレが直撃していただろう。ゴクリと喉を鳴らす。

 

 「ガハハハハハ!こんなものかハゲザル共!!」

 

 年老いていても力強さを感じさせる笑い声が響いた。

 ただ広いだけの平野で奇襲など成功するはずが無い。絶対に誰かに気付かれる。なのに…なんでここに…ケットシーが居るんだ!!

 見た目は80の爺さんのケットシーが上半身の衣類を脱いで筋肉隆々の身体を見せ付ける。片手で騎士を払い除けると空高く打ち上げられた。文字通りの化け物だった。

 

 「イノ。歳を考えたら?」

 「ははは、これは可笑しなことを言われる。儂はまだまだ現役ですぞい」

 「あっそ…まぁ、ここで暴れてアルカードに恩を売れたら何でも良いけど」

 「ガハハハ、では頑張りますかな?」

 

 ケットシー一体に対して武装した人間5人が基本だが目の前のケットシーは十人が束になろうと無理だろう。その後ろには200ほどの鍛え上げられたケットシー部隊がすでに攻撃を開始していた。指揮官を務めている少女と目が合った。

 

 「んん?この臭い…貴様めs―っ!?ぬん!!」

 

 こちらに何かを言おうとした老いたケットシーにカストルが斬りかかった。一撃は重みがあったが弾かれ反撃を許してしまう。振り下ろされた一撃を決して右手を使おうとはせずに涼しい顔のまま剣で受け止める。

 

 「ハゲザルの分際で儂の一撃を受け止めるとは…ん、獣臭いのう。狼かの?」

 「―っ!!この私を前に喋っている余裕があるのか!!」

 

 押され気味の一撃を押し返すと同時に振り切る。押し返された瞬間に飛び退いたイノは余裕を持った笑みを向けてくる。

 

 「押し返すので精一杯のようですな」

 

 安い挑発だ。カストルは乗る事無く冷たい視線を胸部に向けていた。そこで自分の身体の異変に気付いた。

 血が流れていた。薄っすらとだが斬り付けられていたらしい。傷口と呼べるか怪しい傷とカストルを交互に見つめる。

 

 「どうした?避けるので精一杯か?」

 「クハハハハハハ」

 

 挑発を返されて大きく笑うイノを代行と呼ばれたミュランは少し心配そうに見つめる。

 

 「手を貸そうか?」

 「無用に願いますじゃ。この者は儂の獲物ゆえ…参るぞ狼!!」

 「バイヤ…部隊を後退させつつ援護に集中させろ。良いな」

 

 頷く事しか出来なかったバイヤはカストルとイノの攻防を見つめながら部隊に指揮を伝えていく。

 ヘルシング極秘部隊『ブラックドック・バスカヴィル』が後方から中央付近まで斬りかかっているのとケットシー達の乱入を馬上から見つめている者が居た。

 帝国四騎士のひとり『重爆』レイナース・ロックブルズである。

 この戦でアルカードの旗印が目に入る度にあの時の事を思い出す。この腫れ上がり膿を垂れ流す呪いを解くアイテムを持っていると言った一言を。帝国にはそんなアイテムも魔法も存在しなかった。普通なら眉唾物と思うところだが一時的にでも治せるアイテムの存在を知ったからには彼の言葉は本当だと信じた。別に帝国に思い入れがある訳でもない。ただ四騎士の地位に居れば治療法を探すのも一時凌ぎの治療を行なう為のお金に困らないからいるだけだ。

 一体に付き10人は必要と思われるケットシーが200に速度と殺傷性の高い少数精鋭の伏兵が50人。背後と側面からの奇襲と目の前で構えている王国兵士に対して構えなければならず左翼二万の兵士が十分に機能出来ず、空中ではあのフールーダがひとりの少女に手間取っている。中央は未だ隊列を組みなおせては折らず、右翼は動けずに居る。

 後ろを振り返れば自分に従う直属部隊100名…彼女は決意を胸に叫ぶ。

 

 「帝国四騎士がひとり『重爆』レイナース・ロックブルズ!王国のアルカード・ブラウニー伯爵に加勢する!!」

 

 突如発せられた一言に辺りの帝国騎士のみならず直属部隊が唖然とする。その隙を逃さず馬から飛び降りて剣と槍を振るう。帝国四騎士最高の攻撃力と謳われる事はあるだけの攻撃力を見せ付ける。重なった奇襲にて指揮系統に混乱が発生していた左翼帝国軍には止めとなった。帝国の四騎士の一人が裏切ったと言う事実は士気を下げるには大きすぎる戦果だった。隊長が裏切ったことで帝国騎士が敵意を向けて来ることで裏切る気がなかった直属部隊も身を守る為に戦うしかなくなった。

 

 

 

 

 ~王国本陣side~

 

 アルカードは相も変わらずチェスを打ち続けている。

 レエブン候は部隊の再編を済ませたのだろう。急いで本陣に戻ってきた。

 中央で500にも満たない兵が帝国を押し返す様にあのフールーダ・パラダインをとある魔法詠唱者が一騎打ちにて対等に渡り合っている現実を見て味方の士気は絶好調だった。

 やっとクイーンの動かし方を理解したぼっちはクイーンを打って戦場を見つめる。そろそろ撤退した部隊も隊列を組みなおしたのならそれらを引き連れて戦場へ赴こうとしていたのだ。

 そろそろクレマンティーヌが動くかなと思っていると伝令が本陣へと入って来た。

 

 「ご報告!左翼にてアルカード候の兵士が交戦中。多少の混乱が見られます」

 「よし。王国右翼を前進させ…」

 

 「ろ。隊列を直した中央部隊も前進。先頭は私が行こう」と言おうとしたのだが最後まで言う事無く新たな伝令が入ってくる。

 

 「ご報告!!帝国左翼に対してケットシーらしき一団が奇襲」

 

 はい?

 何を言われたのか理解出来てないぼっちを余所に肩を切らした伝令が駆け込んできた。 

 

 「ご、ご報告!!さ、左翼にて、て、帝国四騎士のレイナース・ロックブルズ裏切り。アルカード伯に加勢すると叫んでおります」

 

 ラナーはもちろんその場に居たすべての者がアルカードを見つめた。駒を置いてニヤリと嗤った。

 すべては最初っから計画されていたのだ。中央の心理戦にフールーダに匹敵する魔法詠唱者、帝国に忍ばせた伏兵に四騎士の懐柔及び裏切り。ケットシーはアルカード領に居る話を聞いた事があるからその者たちだろう。

 

 『合戦そのものはこれまで積んだ事の帰結よ。合戦に至るまでに何をするかが俺は戦だと思っている』

 

 ぞわわと背筋が凍り付いた。この戦場に居るすべての者は彼の手の平で踊らされていたのだ。野戦をすれば私なら勝てると挑発して邪魔な貴族派閥の者達を焚き付けて焦らし戦死させる事も、軍が乱れて指揮系統を自分が手に入れる事もすべて計算積みだったのだ。

 そんな相手に私は見当違いの言葉をかけてしまったのだ。失望された。それでは私の夢はどうなる。

 不安を笑顔で隠しつつ思考するラナーの視線を受けているぼっちは混乱の真っ只中に居た。

 何でミュラン達が居んの?ってかロックブルズって誰よ?何!?何が起こってんの?

 

 「どうなさいますかアルカード伯」

 

 混乱中のぼっちにレエブン候は興奮気味なのを隠すこともせずに弾んだ声で聞いてきた。立ち上がり手を前に伸ばす。

 

 「王国右翼兵団は前進して敵を薙ぎ払え。ケットシーとこちらに加勢してくれたレイナース・ロックブルズ殿は味方であることを伝えてな。

 隊列を整えた中央部隊は立て直しきれない帝国中央軍の事如くを打ち破れ!!

 王国左翼は突っ込む中央部隊を援護。帝国右翼を押さえ込め!!」

 

 下った命令を早馬に乗った兵士たちが前線に伝えて行く。帝国の倍以上の数と最高潮の士気を持った王国兵士は混乱したままで指揮系統を崩された左翼と中央を突破。帝国軍は撤退を余儀なくされた。

 多大な犠牲を払いつつ本当の勝利を得た王国の者は高らかに叫ぶ。その中でただひとりだけ戦場に出れなかった事に肩を落とした。




クレマン 「ああ、人を殺せる♪」
ミュラン 「この際に恩を売っておこう」
レイナース「この呪いを解けるのなら私は帝国を裏切る」

レエブン&ラナー
     「さすがアルカード伯。すべては計算の内だったとは…」

アルカード(ぼっち)
     「何故そうなったし…後、俺の出番は?」

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