骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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前回のあらすじ
 王国より帰ってきたぼっちを入れて皆でバーベキュー。


第109話 「避けられない戦と決意の剣」

 王都リ・エステーゼ中央通り

 ヘルシングの鍛冶屋の前にマントとフードで全身を覆う者が立っていた。手に持っていた紙と看板を何度も見直して大きく頷く。

 

 「頼もう!!」

 

 凛と響き渡る声を惜しむ事無く大声で発してドアを勢いをつけて開ける。店内には客は居なかったが店員は驚いて目を見開いていた。すぐに違う意味で目を見開く事になる。

 フードを取って現れた顔は美女そのものだった。綺麗に整った顔立ちにゆらゆらとなびく黄金の髪。引き締まった表情に皆が見とれて口を開けっ放しになってしまった。

 

 「この店にレイル・ロックベルと言う者は居るか?」

 「あぁ…ロックベルなら」

 

 口を開けていた店員の中で一番歳をとっている者が奥から現れたレイルを指差した。鋭い瞳で睨むように見るが怯える事もなく見返してくる事に感心した。

 

 「貴公がレイル・ロックベルか。私はステラ・シュヴァリエと言う」

 「ステラ…待っていました。どうぞこちらへ」

 

 いつも貴族であり、店主でもあるぼっちに対しては軽口をきくが今日はそんなことせず礼儀正しく招き入れる。促されるまま付いて行き奥に消えると店内で睨んだ時に発生した軽い殺気に当てられた数人が倒れた。

 奥は倉庫や職人それぞれの持ち場へと続いていた。中でもヘルシングの鍛冶屋トップのレイルの作業場は完全な個室となっており、鍛冶屋の裏にある一軒家が仕事場になっている。一軒家には何本もの刀が転がっていた。どれもこれもこの世界では特上品と定められる品々ばかりだがそれらが無残に叩き折られたり、錆びても構わないとでも言いたげな感じで無造作に放り投げられていた。

 触れる事無く釜の前に立ったレイルは深々と頭を下げた。

 

 「本日は本当にありがとうございました」

 「そこまで畏まらなくても良い。私は貴公の為ではなく我が主であるマスターの命で来ているのだ」

 

 言葉を交わすと腰に提げてあった剣を大事そうに抜く。神々しい輝きを放ちつつ剣が刀身を表した。

 心が抜かれるような心境に陥った。剣と関わりのない一般人でも心奪われるような剣を詳しい職人であるレイルが見るとどうなるか。

 魅入っていた。

 刃の角度にぶれる事無く直線状に伸びた刀身。

 金を使用した装飾品は剣に違和感を与えず神々しさと神聖さを知らしめる。

 人を殺す武器ということを本気で忘れて魅入ってしまう。

 

 「いつまで見ているのだ?」

 

 ステラに声をかけられなければ永遠に見つめる勢いだったレイルはハッと我に返って頭を下げる。別段気にする様子はなく凛とした態度を貫いていた。

 

 「では、お借りしm」

 「待て」

 

 受け取ろうとした手が届く前に剣を引っ込められる。え?と疑問符を浮かべながら表情を窺うと先の睨みではなく見定めるように真っ直ぐと瞳を見つめていた。

 

 「ここに捨てられている剣は何ですか?」

 

 示された剣は投げ捨てられた剣たちだった。

 一瞬目を伏してから口を開いた。

 

 「失敗作です…」

 「これがか?この世界では上物だと思うが?」

 「これじゃあ駄目なんです!!」

 

 怒って大声を出した本人が驚きつつステラを見つめる。別に驚きもせずに話の続きを促す。

 

 「俺は約束したんです。あいつが…マインが本気で命を預けれるような刀を打つって。でもこんなんじゃあ…」

 「しかし、それで何故模造刀なのだ?」

 

 ステラがマスターぼっちに頼まれたのはレイルに模造刀を打つ為に一番の宝剣を見せてやってくれと言うものだった。この状態で打ったとしても同じ末路を辿るのは目に見えている。

 

 「最近新しくステータスに《フェイカー》と言うのが増えまして」

 「《フェイカー》…元の物に近しい物を作れる…贋作か」

 「はい。《フェイカー》を使用して刀を打てば元々あったタレントで二段階引き上げれます」

 「ほう、それで剣の質を底上げしようと言うのか」

 

 マジマジと見つめる。言葉にうそは無かった。代わりに重みがあった。それに最初に放った軽めとは言え殺気を正面から受け止めたことから何かしら覚悟のある者とは思っていたが…

 

 「《フェイカー》のスキルは見ている状態でしなければ発動しない。この剣は私がマスターから頂いた中で最高の剣。貸し出しは出来ない。一回だけだぞ」

 「―っ、はい!!」

 

 ステラはエクスカリバーを台に置いて打つ様子を眺める。

 今持てるすべてを出し切るように熱した鉄を打ち続ける。二度とあいつに砕けるような刀は渡さないように。

 

 

 

 王都の高級街にある一件の高級料理店に今日は多くの貴族が集まっていた。最初は別々の部屋に通されるのだがそれぞれの部屋がある部屋に通じており、誰の耳にも入れたくない貴族たちが秘密裏に会合を開く場所のひとつとして利用している店のひとつだ。

 

 「糞が!!」

 

 中央に置かれたテーブルが叩かれた衝撃で傾いた。

 集まっていた貴族たちが叩いた本人を見つめる。

 

 「落ち着いてくだされボウロロープ候」

 「落ち着いていられるか!!」

 

 宥めようとした中級貴族はボウロロープ候の怒りを買って首元を掴まれる。

 

 「あの若造ごときがああああ!!」

 「ぐ、ぐるじい…」

 

 苛立ったまま掴んだ貴族を地面に叩きつけるように突き飛ばした。それでも怒りは収まることは無く今度は机を蹴り上げた。

 この店に集まっているのはボウロロープ候を中心とする貴族派閥のメンバーである。

 

 「まさかリットン伯が裏切るとは思いませんでしたな」

 「いったいどのような手を使ったのやら」

 

 すでに貴族派閥はボロボロであった。人員はラナー王女の手により何人も引き抜かれ、仕掛けた謀略はすべて倍返しで返される。その上、六大貴族のリットン伯の引抜など大損害の以外の何物でもない。

 貴族の呟きを聞き肩を震わしながら振り向いた。 

 

 「あんな腰抜けの事はどうでも良いわ!!これからどうするかだ!!」

 

 『私ならば勝って見せましょう。防衛線ではなく野戦のご許可を頂ければ勝利をお約束致します』

 脳裏にアルカード伯が言った言葉が脳裏に過ぎる。

 今までの戦いを馬鹿にするような言い草だ。商人上がりの若造が戦のいの字も知らないのにしゃしゃりでおって!!と皆、怒り心頭であった。王派閥は頼もしく見えたのか感嘆していたが。

 

 「まずは第一王子の件ですな」

 

 落ち着かせようと大きく深呼吸を繰り返し呼吸を整える。

 ボウロロープ候と関わりの深い第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフは戦争に参加せず待機命令を下されたのだ。総力を挙げた戦争であるからしてもしもの事を考えての事だろうがこれではアルカードに接近している第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフが手柄を立ててしまう。

 

 「それは何とかする」

 「何とかって」

 「バルブロ殿下にはカルネ村に行ってもらう」

 「カルネ村?」

 「アインズ・ウール・ゴウンと接触を初めて持った村だ。チエネイコ男爵は私が用意した五千の兵と共に向かえ」

 「五千ですか!?たかが村ひとつに多すぎませんか?」 

 「関係を持った連中だ。手中に押さえておけば使えるかも知れぬ。ゴウンにもアルカード伯にもな」

 

 あの村とアルカードも関係を持っていることをガゼフが前の報告で言っていた事を覚えていた。ゴウンに使えなくともアルカードとの取引程度には使えるだろう。使えないのなら…

 

 「アルカード伯と言えば前線への参加を進言したそうですが」

 「取り下げさせたよ。国民に多大な支持を得ている英雄に何かあってはならないと言ってな」

 

 思い返すだけでも忌々しい。どうしてこの私が自分の策の為とは言えあいつを持ち上げてやらねばならんのだ。

 

 「残りの者は私と共に前線に出るぞ」

 

 どよめきが起こるがひと睨みで黙らせる。

 

 「総指揮権はレエブンにあるが戦場に出てしまえばこちらのものだからな……見ていろよアルカード」

 

 その目には今までの恨みと憎しみが篭っていた。

 対象ではなく味方の筈の貴族達が冷や汗を掻きながらボウロロープ候の顔色を窺っていた。

 

 

 

 あ!死んだ…

 これで何度目だろうか。

 死ぬほどの深手を負う瞬間はいつもゆっくりに見える。

 刀が相手の剣で弾かれ、ゆっくりと軌道を描きながら斜め切りにされる。

 焼けるような痛みが身体に起こり、その後は力が抜けて地に伏す。遠退いて行く意識の中で慌てて駆けつけるエンリと慌てる事無くポーションを用意するロートルの姿を見つめる。

 マインはまたかと思いながら意識を失った。

 強くなろうとロートル先生と試合を行なうと斬り付けられるまで終わらない。

 その度にあの夢を見てしまう。

 別に悪い夢でも良い夢でもない。毎回の復活する際の儀式程度にしか考えていない。

 失った筈の意識が蘇えり辺りを見渡す。そこは黄金色に輝くシャボン玉がゆっくりと浮かび上がり続ける真っ白な空間。そこに傷もなく立っている。

 

 『また来たのか』

 

 居た。

 そこにだけ置かれた切株に腰掛けた大男。白地に松の絵柄を描かれた羽織を羽織って、手の届く位置には大きな大剣が立てられていた。背を向けていることから顔は見たことない。

 最初は「誰だお前は」と突っ掛かって斬りかかった事もあったが絶対的な力の差から返り討ちに合い、相手からは攻撃してこない事を知り話をするだけとした。

 

 「お久しぶりですね」

 『…久しく来なかったな』

 

 相変わらず声だけでは感情が読めない。たぶん表情も無表情なのだろう。

 

 「今日も負けちゃいましたよ」

 『だろうな』

 

 この人は応答はしてくれるが最初に声をかけてくることが無い。声かけをしてきた今日は本当に珍しいのだ。前に声をかけてくるかなと思って黙っていると終始無言のまま終わった事があるほどだ。

 

 「毎回勝てなくて嫌になっちゃうな…」

 『なら、諦めるか?』

 「え?」

 『嫌ならしなくても良いではないか』

 

 本当に今日はどうしたのだろう。いつもより喋っている。

 

 「嫌ですよ。諦めるほうが」

 『何故だ?』

 「だって僕はアルカードさんを目指しているので」

 『…そうか』

 

 初めて彼が笑った気がした。確認しようと顔を見ようとすると周りの空間が輝きだした。

 

 「…ン!マイン!!」

 「うぅ…」

 

 ゆっくりと瞼を開けると見慣れたカルネ村の景色が広がっていた。死ななかった事にほっとしながらエンリを見る。完全に怒っている。

 

 「うん、いつも通り」

 「何がいつも通りなのよ!!二人とも正座!!」

 「ひゃい!?」

 「…」

 

 一安心した瞬間、凄い剣幕で怒鳴られ正座をさせられる。エンリがアルカード伯から聞いたらしい座り方で長い時間していると足に麻痺と電気系統の攻撃を食らわされたようなダメージが長々と続くのだ。一種の拷問ではないだろうか。

 エンリの心配の混ざった説教を聞きながらこの日常を噛み締める。

 ここが戦場になる事を知らずに…




レイル 「あいつの為に最高の剣を作る!!」
マイン 「もっと強くなって見せる!!」

ボロ候 「見てろよアルカード。思い通りにはさせんぞ!!」

最後だけフラグの件について

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