骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 前回のあらすじ
 アインズに話し合いという事で呼び出しを受けた帝国の皇帝と王国の王女は強大な技術力と戦力の差に驚いた。
 話し合いだったが言われた事は両者の戦争に勝った方と同盟を結ぶというものだった。


第107話 「バーベキューの準備&とある貴族のトラウマ」

 王国と帝国からのお客人が帰った後は城壁近くの広場に全員が集まっていた。ステラは王国へ向かい、ハイネはナザリックと帰還したが代わりにモミがこっちに来た。

 

 「…このナザリック(偽)が完成したお祝いの準備をしようと思います」

 「あれ?ぼっち様は?」

 「アルカード伯爵として王国に帰ったよ。報告が終わったら急いで戻ってくるって」

 

 ぼっちが参加する事にほっと胸を撫で下ろす。前に完成したらぼっちの手料理で祝おうと約束してあったのだ。

 

 「えーと…バーベキューをするらしいので炭や鉄網などのバーベキューセットを持ってくる人は…」

 「荷物運びなら私がやりましょう。いったい何処に置いてあるのですか?」

 「…ぼっちさんの部屋」

 「ぼぼぼぼぼ、ぼっち様の部屋!?」

 「あ、シャルティアはゲートね」

 「そ、そんなぁ…」

 「肉は現地調達って事でコキュとアウラでよろ」

 「狩リカ。イイダロウ」

 「どっちが多く狩れるか競争しようよ」

 「それは森の生態系が壊滅するんじゃあ…」

 「マーレとアルベドは野菜を切る係りで良い?」

 「は、はい。僕は構いませんけど」

 「私はアインズ様と…」

 「男性がお嫁さんを選ぶトップ10には料理の腕前とかあるらしいよ」

 「やります!!」

 

 間髪居れずにやると宣言したアルベドは好からぬ妄想にトリップしそうだったがモミの一言で一気に引き戻される。

 

 「私はアインズ様と暇つぶしっと…」

 「な!そんなの認められないわ!!」

 「そうでありんすよ!!」

 「って言うかあんたサボる気でしょ?」

 

 女性人三人の咆哮を浴びたモミは涼しい顔してシャルティアに小声で何かを告げる。アインズはとりあえず立ったまま眺めているだけだ。話が終わったのか怒りを表していた表情が満面の笑みに変わった。

 

 「私は認めるでありんすよ」

 「「はぁ!?」」

 

 意見が百八十度変わった事に驚き二人が声を上げる。男性人はアインズに合流して関わる事無く見守る。

 

 「私は絶対に認めないわ。アインズ様と二人っきりなんて!!二人っきりになるなら私が!!」

 「…あまりに一緒に居すぎると新鮮味がなくなりマンネリ化が進むって聞いた気が(ぼそぼそ」

 「…え?」

 「何でもないよ♪選んでくれて良いよ。調理の腕を披露するか一緒に居るか」

 「………調理を選ぶわ」

 

 断腸の思いで凄く渋い顔をして答える。最後にアウラの耳に口を近づけて呟く。

 

 「ぼっちさんに膝枕して欲しくない?」

 「―っ!?そんな事頼めるわけ…」

 「…頼んであげようか?理由も用意できるし」

 「…ほんとに///」

 「ほんと、ほんと」

 「分かった。私も認める」

 「……フヒ」

 

 納得してくれた三人から離れて一直線にアインズへと駆け出して手を取って走り出す。その様子を見たアルベドが歯軋りしながら追いかけ様としたのを守護者全員で何とか止めた。 

 

 

 

 急に手を引っ張られ森の中へと連れて来られたアインズは驚きはしたがいつも通りの態度を取ろうとしていた。

 

 「で、こんな所まで来てどうするんだモミよ?」

 「ここらなら良いか」

 

 質問を無視され何かを納得している守護者に対して思う所はあるのだが別段言う事でもないので無いので黙って付いて行く。

 アルベド達からかなりの距離を離れた場所にドラム缶が置かれていた。この世界には無い筈の物だからもしかしたら誰かが作ったのか?と疑いつつ見ているとタオルを渡される。

 

 「これは?」

 「五右衛門風呂って知んない?」

 「風呂?」

 

 良く見たらドラム缶の下には石が窯のように詰れており開いた所では火が付いていた。中で張ってある水もお湯になっている。と言うかこいつ玉座の間に来なかったのは湯を沸かしていたからじゃないのか?

 不審な目で見つめていると湯の温度を確めたモミは入るように促す。

 

 「入れと言うのか?」

 「オフコース!!」

 「いやいや、こんな所で…」

 「折角作ったのに…」

 「うっ…」

 

 涙目で見上げてくる表情を見てたじろぐ。

 

 「喜んで貰えると思って用意したのに…」

 「くっ…」

 「ぼっちさんの資材をこっそり借りて作ったのに」

 「分かった。受け取ろう……ん?最後なんと言った?」

 「ナ…ナニモイッテナイヨー」

 「あとその目薬は何だ?」

 「…涙の…元?」

 

 ははは…と渇いた笑いをしながら目を逸らすモミにため息を付いてさっさと入る用意をする。説明をされてなかった為にもろにドラム缶に触れた時は火傷するかと思った。骨の身体だがら水ぶくれなどが起こる事はなかったが。

 タオルを頭に乗せてゆっくりと身体を付けて行く。温度は熱めに設定されており骨身に沁みる。熱の混じった吐息を漏らし辺りを見渡す。

 木々が生い茂る大自然の真ん中でゆっくりとお湯に浸かる。心が落ち着く…こうしたのんびりした時を過すのは久しぶりだなぁ…

 フー…フー…フー…

 だらしないほどだらけた態度を取っていたが下で火に竹筒で空気を送っているモミに気付き姿勢を正す。

 

 「良いお湯だった。モミよ感謝するぞ」

 「あー…めんどくさいなぁ…」

 

 予想外の回答におどr…いや、こいつの場合いつもの事か。

 いつものにへらではなくにやりと笑いながら見つめてくる。

 

 「別にそんなキャラ作んなくて良いよ。疲れるっしょ」

 「な、何を言っている」

 「ブラック企業のリーマンだったのに王様演じるのは大変だったでしょう?」

 「―っ!?」

 

 思わぬ言葉に今度は驚いた。何故と言う言葉の前に思考が停止した。

 

 「ゲームの世界に飛ばされそのまま異世界に…まぁ、元の生活に比べたら良いか」

 「ど、どうして知っている!!」

 「情報源…ぼっち」

 「あー…」

 

 頭を押さえつつ頭痛の元を思い浮かべる。もしかしたら他の守護者達にも話を…

 

 「あぁ…他の守護者は知らないし、王として振舞うモモンガさんしか知らないから大丈夫大丈夫」

 

 ほっと胸を撫で下ろし真剣な眼差しでモミを見つめる。にたりと笑っていたのがいつものにへらに変わっていた。

 

 「私と居る時ぐらいは素で良いんだよ」

 「そうか…いや、そうですか」

 

 いつもの力を込めた声色ではなく優しげな素の声を出す。この声を聞かれるのは初めてじゃないだろうか。

 

 「意外と優しそうな声だね。そっちの方が私は好きかな」

 「ははは、嬉しいですね。と言うかそんな事初めて言われましたよ」

 「ほう…私がモモンガさんの始めて…」

 「誤解を招く言い方は止めてください!!」

 

 アルベドが居たら大変な事になっていたであろう言葉に対して抗議するがへらへらと笑って流された。

 少し気になったので辺りに誰か居ないか魔法で探ろうと唱えようとする。

 

 「…何してんの?」

 「探知系の魔法をかけようと思って…」

 「皆にばれたら問題ありそうな会話を何もせずにする訳ないじゃん。ただでさえ守護者達が裏切らないかびくびくしてた人が居るのに」

 「そうなんですよね。皆の忠誠心が高いのは重々承知しているのですがもし私が上の者として相応しくないと判断されたらと思うと………ってなんで知っているんですか!?」

 「いやぁ…表情で」

 「分かるんですか!?」

 「何言ってるんですか。髑髏なのに表情読めるわけないじゃないじゃん」

 「このっ…」

 

 イラッとするがこう気軽に会話できる事に対して喜びを感じる。何か心のつっかえが取れたような気がするのはモミのおかげなのか、それともこの状況でなのか分からないまま精神安定化が働き精神が落ち着く。それの方が苛立ったが今は言いたい事があった。

 

 「ありがとう」

 「…何が」

 「何でもだ」

 「…???」

 

 首を傾げて疑問符を浮かんでいるが答える事無く湯船を楽しむことにする。

 この後、用意を済ませた皆に何をしていたかを聞かれて『二人だけのひ・み・つ♪』と言った結果、アルベドに嫉妬の視線で睨まれる心の中でアインズがびびるという出来事が起きた。

 

 

 

 

 脳を蕩かすような甘い香りと弱々しい蝋燭の灯りでは払いきれない暗闇の中、六大貴族がひとりであるリットン伯は佇んでいた。

 生気の抜けた表情で灯りのみを目で確認する彼に過去の権勢はなりを潜めていた。頬は痩せこけ、着替えるのも億劫で身なりは数日前から同じ物、何かに怯えるように小刻みに震えている。

 脳裏から離れない。

 刺々しくも禍々しい鎧と雰囲気を纏ったアンデット。

 率いた私兵やワーカー達が一振りで数人の命を刈り取る者。

 馬車に逃げ込んだ自分を逃がさないと手を伸ばしてくる。

 もしかしたらこの暗闇の中にもあの『デスナイト』が居るかも知れない。不安に駆られて辺りを必死になって見渡す。すると壁に設置してあった蝋燭の火が風もないのに消えた。

 リットン伯が居るこの部屋は扉には鍵がされていて鍵がなければ中からも外からも開けられない。その上、窓も閉められ雨戸で風どころか光まで遮られている。

 何故唐突に火が消えたのかと言う疑問を抱く前に恐怖で身体が動かなくなり思考が停止する。すると次々に蝋燭の灯りが消えて行く。

 

 「ま、待て!!消えるな!!」

 

 停止していた思考と身体を無理やり動かして最後に灯っている蝋燭へと駆け出したが、リットン伯の願いを無視するように灯りは消えた。真っ暗になったことで不安が倍増してその場に蹲り、頭を抱えて恐怖から身を護ろうとしていた。

 暗闇の中に奴が居る…

 ただ震えながらその場で動けなかった。

 何も見えない暗闇の中で唐突に灯りが灯った。気付いたら一直線に駆け出し灯りへと駆け寄り、台があるであろう場所を掴む。硬い物ではなく柔らかい感触を感じ、確めると燭台を手にした人の手だった。

 

 「どうしましたかリットン伯?」

 

 漂う香りよりも甘い声色が頭に響く。

 

 「頼む!助けてくれ!!」

 「何からでしょうか?」

 「何からって…」

 「貴方が恐れているものは私如きで護れますか?」

 

 その質問に答えることは出来なかった。人類であいつを倒せる者など限られるうえ、自分を絶対に守ってくれるほど余裕を持っている相手でないと限られると…

 

 「…あ!」

 

 思い当たる節があった。

 たったひとり思い当たるが奴は敵対関係にある…

 

 「思い当たる節があるのですね」

 「…あるが…奴は…」

 

 言葉が詰る…だがこの不安から解放されるなら…

 

 「その不安から解放されるんじゃないんですか?」

 

 心を読まれたかのように言葉にされる。

 

 「護ってくれるかも知れませんねぇ?」

 「しかし…私は彼にいろんな事を…」

 「してしまった事は戻りませんからね。どう彼に許しを請うかを考えた方が良いかと」

 「許しを…」

 

 最初は悩んでいたようだったが持っていた灯りが揺らめいたのに焦って表へと駆け出そうとする。振り向いた瞬間に扉が勝手に開いた。外から入って来た光を浴びながら駆け出していく。

 中に残っていた男は立ち上がり出入り口へと向かって歩き出す。入り口付近には一人の女性が立っていた。

 30代前半の健康的な女性は彼女には似合わない派手すぎる真っ赤なドレスを着ていた。首元や手首に数多くの宝石を付けている事を抜いても貴族と分かる。

 

 「これはリットン夫人」

 「あら?神父様。うちの人は…」

 「先ほど駆けて行きましたよ」

 

 リットン伯爵の結婚した夫人はため息を付いて肩を落とした。

 

 「やっぱり神父様でも無理だったのですか…」

 

 夫人は意識不明の状態から復活したのだが千年公とデスナイトのトラウマからあのように暗闇やちょっとした物音などに驚きすぎて仕事どころか日常生活にも支障が出ているのだ。何とか治せないかといろんな学者に見せたが結果は残念にも手の施しようがないと断られた。もしくは何年もかかるが治せる…かもという者しか居なかった。六大貴族に数えられる貴族の当主がこの状態で居るのは問題がある。最後の手段と言う事で貴族の話に度々上がる神父に頼み込んだのだ。しかし、結果は同じだったかと思い残念に思っているのだ。

 

 「いえ、彼は立ち直りましたよ。あとは伯爵自身次第です」

 「!?…信じても宜しいですわよね」

 「ええ」

 

 礼儀正しく頭を下げた神父が頬を緩めた笑顔で顔を上げた時にドキリと顔を赤らめる。焦りつつそっぽを向いて隠そうとしているが誰が見ても隠しきれてない。

 

 「お、お礼はいかほどかしら///」

 「お礼など…ただ…」

 「ただ?」

 

 途中で途切れた事に振り向いた所で神父は片膝を着いてリットン夫人の右手をスッと近寄せる。

 

 「またのお越しをお茶を用意してお持ちしておりますね」

 「―っ!?し、失礼致しますわ///」

 

 夫と違い、若く美形な青年に手の甲にキスをされて顔を先ほど良く赤くして慌てて立ち去って行く。

 神父…ローズレット・ベルローズ神父はほくそ笑む。

 

 「誘導もろくにしてないのに勝手に思ったとおりに動いてくれるなんて楽すぎて話しにならないですね」

 

 つまらなさそうに駆けて行くリットン夫妻を遠めで眺める。

 これがどう転がるかは知らないが面白そうなので報告しないで置く。

 

 手の甲にキスをする瞬間をシスター達に見られていて、後に大勢のシスターにねだられるとは考えもしなかっただろう。




モミ  「私と二人っきりのときぐらいもっと楽にしなよ」
アインズ「私の素を理解してくれている…楽に出来るって良いですね」
モミ  「二人の秘密が出来ました!!」
アルベド「許すマジ」

リットン「アルカード伯お助けを~」

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