骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第105話 「王国での会議…議題は大墳墓」

 リ・エステーゼ王国宮殿玉座の間にて王国の総ての貴族たちが集まっていた。

 本日は王族と貴族を合わせた会議があるのだ。会議と言っても毎度行なわれている定例会議などではなく今回は緊急会議である。その為、王族も貴族もいつもと違った緊張感を持っている。

 ただし、六大貴族と対等以上の力を持ち、スレイン法国とのパイプを持ったアルカード伯爵…ぼっちは早く終わらないかなぁと内心帰りたくて仕方なかった。

 法国との接待はきついものがあった。相手は法国のお偉いさんで王様などからは法国との繋がりが欲しいと言う事で下に見られない程度に機嫌取りをしなければならない。しかし相手は口を開くたびに「六大神を崇拝しませんか?」とか「法国はすばらしい国ですよ」とか「聖獣はどこで出会われたのですか?」と質問攻め。仕舞いには「是非とも法国に来ませんか?」と勧誘一直線。一応王国貴族である事から断ったがしつこくて面倒だった。

 

 はぁ…疲れた。精神安定やアンデットだから疲れは残ってないはずなんだけどなぁ…。甘い物が凄く欲しいよ。あ!甘い物で思い出したけど葡萄が大変な事になってた。この世界のことわざは元居た世界と同じ物が多いんだけどなに『傷口に葡萄』って。意味は思いもしなかったものが意外な事に使えるってことで領地で栽培した葡萄が回復効果を持っており傷口にすり込めば青いポーション以上、ユグドラシルのポーション以下の回復力を発揮する。なんだかなぁ…

 実際ぼっちの領地で採れる葡萄は大きな問題となっている。種もなく大きく育った実は甘くて香りも良い。その上で回復効果などこの世界では高価な物のひとつとなるだろう。それが一週間で実をつけることが問題なのだ。元々ユグドラシルでは観賞用の置物で毎日の変化をつける為にとてつもなく早く実を成すのだ。結果、高価であろう物の生産が多すぎて市場の物より安くなってしまった。今では市場に流す量を少なくしたから値段は高くなったが危うく潰しかけた複数の葡萄農家が生き残ったからぼっち的にはセーフと思っている。

 

 と、ぼっちの葡萄の話になってしまったが今日の緊急会議の議題は葡萄ではない。王国領内にて確認された墳墓…ナザリック大墳墓に対してであった。

 つい先日ナザリック大墳墓のアインズ・ウール・ゴウンと名乗る者から使者が来た。フードを深く被って顔は隠していたが声色から20代後半といった感じであった。丁寧で礼儀正しい青年とだけでは兵士も相手にしなかっただろうがスケルトルドラゴンに乗って来たとしたら話は別だ。

 使者は『長年眠りについていた主が寝覚めたのだが世界は昔と変わっており、自分たちが住んでいた辺りが王国の物になっている。一度話し合う場を持ちたい。君らが言うトブの大森林にあるナザリック大墳墓まで来てもらいたい』と伝えて帰って行った。

 

 「アルカード伯爵はどうかな?」

 

 話を聞いておらず領地で次に何しようかと考えていたぼっちは何を答えれば良いのか分からず横に居るラナー王女に視線を向けると微笑を返された。

 その意味有りげな微笑みは何!?

 

 「何かナザリックについて知っている事はないかな?」

 

 首を傾げそうになったのを堪えて王様を見つめる。どうしてぼっちに聞くのかと疑問は王の横に立っているガゼフ戦士長を見て思い出した。

 ガゼフと出合ったカルネ村でアインズと行動を共にしていたっけ。確か設定では各国を巡っている途中で出会った…みたいな感じだったか?さすがにナザリックの事をぺらぺら喋るわけにはいかないし…

 

 「デスナイトが20体以上居る」

 

 これぐらいなら良いだろうと発した一言に皆の表情が固まる。表情どころか玉座の間全体が凍り付いたような気がする。特にボウロロープ候の顔色が優れない。

 

 「大丈夫ですかボロロロープ候?顔色が優れないようですが…」

 「当たり前だ!!あんな化け物が20体以上だと!!冗談も大概に…というか私はボ・ウ・ロ・ロ・-・プだ!!」

 「失礼噛みました」

 「わざとだろうが!!伯はあの化け物の恐ろしさを知らんのか!?」

 

 化け物と言われてもたかが30レベルぐらいのモンスターに何で怯えるんだろうと思い、この世界の平均レベルを思い出してしまったと後悔した。

 ちなみにこの前の王国で言う『千年公との戦い』をぼっちは知らない。だから目前で脅威を見せられたボウロロープ候の事など知らないのだ。

 

 「・・・知っている。ただ前はそう聞いただけで今は知らない」

 「今は知らないと言うことは20どころでは済まないと言うことか!?」

 

 ざわざわ…ざわざわ…ざわざわ…

 おい!誰が麻雀漫画の効果音を入れろといったか!!

 『リーチせずにはいられないな』

 違う、『倍プッシュだ』の方の麻雀漫画だよ!!

 脳内で突っ込みを入れるぼっちを余所に集まってきた貴族や王族はざわめき続ける。ある者は無謀にも戦おうと叫び、ある者は降伏しようともはや戦い必須で叫んでいる。

 

 「待ってください!!ゴウン殿は話の分かる方。話し合いをされるが得策かと」

 「ふむ」

 

 ガゼフ戦士長の言葉で皆が静まり王が思案する。少し前の会議でこのような発言をすればすぐに貴族たちが反発して口は弱いガゼフを言い負かすのだが今はそんな余裕もないのだろう。誰の口からも反発の声は上がらなかった。

 

 「ここは誰かを行かせるのが宜しいのではないですか?」

 「そうだな。誰を行かせるべきか…」

 「やはり王族から誰か行かれた方が宜しいかと」

 

 レエブン候の一言で第一王子と第二王子が青ざめる。

 誰だって大人しいからと言われても肉食動物の檻に入る者は居ないだろう。しかし一人だけ手を挙げる。

 

 「私が行きましょう」

 

 手を挙げたのはラナー王女だった。いつものように笑みを浮かべていた様子に皆が唖然とする。一番驚いているのは後ろで控えていたクライムだろうが。

 

 「危険ですぞ!相手はあのデスナイトを多数持つ者。下手をすれば殺されますぞ」

 「その通りです。どうなるか分からぬ相手に…」

 「でしたら貴方が行かれますか?」

 

 先まで危険だと騒いでいた貴族も黙り静かになった。

 

 「ラナー…危険だが任せるぞ。あとはアインズ・ウール・ゴウンを知っているアルカード伯。お願いしても?」

 「謹んでお受けいたします」

 

 王の前に出て片膝を付いて頭を下げるぼっちを見てまだ不安げだが少しだけ安堵の色を見せた王は会議を終了させ使者として向かわせる準備を指示する。

 

 

 

 クライムは震える手でコーヒーが注がれたカップを口元へと運ぶ。

 この震えはナザリックに行く事に対して恐怖しているのではなく姫の身に何かあったらと不安で震えているのだ。

 それを見られたのか優しく微笑まれる。

 

 「大丈夫。アインズさんは我が友人。悪いようにはならないしさせないよ」

 「あ!すみません」

 

 向かいの椅子にはアルカード・ブラウニー伯爵がコーヒーカップを片手に座っていた。

 今、二人が居るのは王都リ・エステーゼ中央通から外れた一件のカフェに居た。自分達以外の客は決して貧しい者と言う訳でもないが身なりの良い者もいないのも事実。

 

 「お待ちい、いたしまひた」

 「ありがとう」

 

 注文したサンドイッチを運ぶ店員はまさか伯爵が来るとは思っていなかっただろうに。声が上ずっている。

 別に気にした様子はなく受け取ったサンドイッチを口に運ぶと一口食べた。

 前から思っていたのだが食べたり飲んだりする時だけ口元が開くあの仮面はどうなっているのだろうか?

 

 「あのアルカード伯爵…」

 「やっぱりその呼び方の方が良かったかい?」

 「い、いえ…そういう訳では」

 

 呼び方…

 クライムは領地から帰って来たアルカードと話し合って現在はクライム・ブラウニーと名乗っている。アルカード・ブラウニーの養子になったのだ。どうも『お義父さん』と言うと気恥ずかしさもある事ながら失礼になるんじゃないかなと思って口にしづらいのだ。

 養子になってから暮らしも変わった。

 まず貴族の風習や習わしを覚え、マナーを教え込まれた。これはアルカード伯がラナー王女に頼まれたので一緒に居る時間が増えて正直嬉しい。問題は王国で有名すぎる貴族に近付きたいと婚約を求める貴族がこぞって押し寄せたことだ。最初は自分で何とかしようと頑張ったのだが剣術なら兎も角交渉力は低い訳で惨敗。最終的にアルカード伯が全部断ってくれた。

 と話が逸れてしまったが会話を続ける事にする。

 

 「なぜこのような場所で食事を」

 「豪華な宮廷料理が良かったか?」

 「こっちの方が普段どおりで楽でいいです」

 「その発言はある意味問題だが置いておこう。ただ一緒に食事したかっただけなのだが」

 

 この辺りは中央通りから離れている為に治安が良いとは言い難い箇所。普通の貴族は足を踏み入れるのも躊躇うというのにこの人は…

 追加で頼んだサンドイッチを受け取ると建物の角より物欲しそうにこちらを見つめていた子供達を手招きして呼んでサンドイッチを渡して行く。

 

 「墳墓の件なのだが私とクライム、王女の三人で行こうと思う」

 「ブッ!?」

 

 思わず飲んでいたコーヒーを噴いてしまった。アルカードはテーブルにあったサンドイッチとコーヒーを持ち上げ、テーブルを蹴り上げて盾をして一滴たりとも受ける事無く済ませる。

 

 「たった三人ですか!?」

 「護衛は二人だけで馬車の運転手や荷物を運ぶ者は除いているがね」

 「さすがに無謀すぎるでしょう!!」

 「では護衛の人数を増やせば安心できるかい?」

 「…それは…」

 「なら問題ないだろう」

 

 確かにデスナイト20体以上に王国の全兵士を連れて行っても無駄だ。納得はしながら不安に駆られるクライムであった。


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