骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第104話 「…モミ」

 暗い…

 身体が動かない…

 何も感じない…

 私は何をしているのだろう。

 

 

 

 目を開けたモミは辺りを認識する。辺りは闇夜に包まれた輝く花畑の中に立っていた。目の前には黒いスーツの上に赤いロングコートを着た男がコンソールを弄って作業を続けている。表情は仮面で読めないが何やら楽しそうだった。

 男の名はぼっち。

 私…モミを創った創造主であるらしい。

 外見が出来上がった所で白いシャツに短パンの簡易的な初期服から黒のワイシャツに黒のズボン姿へと変えられ最後には漆黒のローブをかけられる。

 服装が整った所で理解する。

 私は器だ。

 この人に求められるままの設定と役割を果たすだけの人形。

 ナザリックを第一に考えあらゆる事態に対処する。

 モモンガをモデルとして作られたこと…

 最初のは分かったがモモンガって誰だよ!?

 身体が動くのであれば突っ込みたいほどだったが動かないのでは仕方ない。

 創造された初日はこんな感じだった。

 

 二日目。

 唐突に現れたぼっちは行き成り「進め」やら「曲がれ」など命令をして花畑から二階建ての建物に移動させられる。

 着いたと思ったら行き成り語りだした。何でも子供の頃に自分を救ってくれたお爺さんの家をモチーフに作ったらしいのだが…徹夜して作ったってマジ?10分もしたら仕事をしに会社なる所に向かわなければならないとか笑って言っている場合か。寝ろ!さっさと帰って寝て来いよ!!いらん話をする前に帰れ!!

 

 三日目

 この人は暇人なんだろうか?

 昨日帰ってから14時間後に戻ってきたぼっちは嬉しそうに話し続ける。

 こんなアニメがあるんだよ。

 あのゲームは楽しかった。

 会社はきつい…

 面白い漫画を手に入れたんだ。

 などどうでもいい話をずーと続けるのだ。どういう表情をしていいのか分からないんだけど…

 

 創造された日から一週間が経った。

 どれだけ話し続けるんだよ。あれから14時間仕事に行ってはこっちに戻って話し続けるってこいつ絶対寝てない。最初の頃は長い間を開けて喋っていたのが変なテンションで滑らかに喋りだした。

 最近会社で言われた事や昔の話など…

 重てぇえよ!ブラック会社の過酷さに家庭内ぼっちなんて聞きたくないよ。そんな話をするぐらいならアニメや漫画の話でもしてくれれば良いのに。

 

 あれからいろんな出来事があった。

 弟を創りだす時は自分より種族値が高く設定されたらどうなるかを知った。

 妹を創造するって言った時の期待と私よりスタイルが良い事に絶望した。

 昔所属していたギルドでの出来事や失敗談や実家でどのような事があったとかブラックな事から大好きな趣味のことなど多くを語られた。

 

 …なんでこの人は楽しそうなんだろう?

 母親には見捨てられ、父親には居ないかのように扱われ、兄には見下され、妹には軽蔑され、愛すべき人も頼れる友居らずに、家を捨てて就職した先には都合の良い事だけを言って扱き使っている上司に同僚…信頼出来る人間なんて三人とアインズ・ウール・ゴウンに所属しているプレイヤーのみ。しかもギルドメンバーのほとんどはナザリックを捨ててリアルの世界を選んだ…

 残ったのは創造された人形であるNPCとモモンガと言うらしいまだ会った事のないプレイヤーだけ。

 

 なのにこの人は笑っていられるのか?

 もうこの疑問にも何の意味も無いと言うのに…

 あと数分もすればこの世界『ユグドラシル』が機能を停止するという。意識だけの存在だったけど楽しかったのかな。こんな時にあの人は何しているのだろう。

 まぁ…良いか…

 悲しみを含んだ意識で部屋に飾られている時計を見つめる。後数秒だ…

 

 23:59:57 

 23:59:58

 23:59:59

 00:00:00

 00:00:01

 00:00:02

 

 

 「…あんれ?」

 

 聞いていた時刻を過ぎても意識がある。サーバー終了とやらは延期したんだろうか?いや、今はそれよりも…

 自由に動いている手を握ったり開いたりを繰り返して感覚を認識する。

 

 「こいつ…動くぞ!?」

 

 つい創造主であるぼっちの言ってた台詞をそのまま口にしてしまう。

 足も、手も、首も、関節も人間らしく稼動部分がすべて動く。とある童話の木造人形が動けるようになった時もこんな気持ちだったのだろうか。興奮しきって心が躍って今ならなんでも出来る気がする。

 

 「いやっふうううう!!」

 

 とりあえず飛び跳ねて興奮しきった身体を動かす。

 楽しい。

 嬉しい。

 血が騒ぐ。

 

 「なじむ!実に!なじむぞ!最高にハイってやつだああああいたああああああ!?」

 

 叫びながら暴れていると机の角に思いっきり小指をぶつけて悶絶しながら床を転がりまわる。騒ぎを聞きつけたステラとハイネが扉を開けて心配そうに覗き込む。

 

 「物凄い叫びが聞こえましたが…」

 「大丈夫ですか姉さん?」

 「だ、だ、だ、だいじょばない」

 

 涙を浮かべながら足を引き摺りドアの前まで立つとそのままドアを閉めた。

 

 「ちょ!?姉さん!!」

 「…少し一人にしてくれる」

 「わかりました」

 

 声色から二人が疑問を浮かべているのが分かるが痛みにより理性が働いた事でやるべき事を理解して実行に移す。今居る中央家はこの第十一階層全域のコントロールルームであり監視施設である。

 階層守護者専用の机にあるパソコン型のデータ端末より現在の階層の状態から存在する兵力、備蓄品を確認する。

 

 第11階層 総勢:6名

       戦闘可能NPC:5名 

       備蓄…ゼロ

 

 生産エリアとして作られたはずなのに未だ施設は完成しておらず、防衛の事も何も考えられてない。施設の方は何も手を付けられないとしても防衛面の強化は必要と判断してメッセージを飛ばす

 

 『なんでしょうか?』

 「…この階層防衛計画を作成して提出して」

 『直ちに作製いたしますが戦力としては私の召喚物を?』

 「…入り口は設定どおりにステラに任せて大部分はそれでおk。後はカストルとザーバにはいつでも動けるように」

 『畏まりましたよ。で、姉さんはどうされます?』

 「…私は部屋でやるべき事があるから当分必要な用件以外での立ち入りを禁じるから」

 

 メッセージを切るとモミはにへらではなくニヤリと笑う。

 ゆっくりとした動きではなく早足で棚へと向かって行く。この棚はぼっちが課金やダウンロードなどして得た映像飼料などが置かれていた。それを片っ端から机へと移動させてヘッドホンを着けて再生する。

 ここでぼっちが置いていった映像資料の説明をするとようはアニメである。パソコン内の映像フォルダをユグドラシルに移して再生出来るように、移す為のアイテムに課金して何とか何千と言う作品を完備しているのだ。

 片手はコーラを握り締めて机にはポテトを薄くスライスして揚げたお菓子に独特な触感がするクッキーにチョコがかかったたけのこ型のお菓子を完備して映像を食い入るように魅入った。

 この後、ステラが違和感を覚えて突入する一週間後までモニター6つ同時再生のまま連徹を続けた。

 

 ぼっちが第十一階層にやってきたのはそれから三日後のことだった。

 施設の整備にNPCの様子を見に来たぼっちが中央家に入った瞬間、モミは抱き付くように飛びついた。避けることも出来たのだろうが避けることもせずに受け止められにへらと笑う。

 

 「…ふひ」

 

 ぼっちが楽しい・面白いと言った数々の物を見ていろんな知識を収集したモミは満足そうに笑う。

 そうだ。

 私は第十一階層守護者のモミ・シュバリエ。

 ナザリックを第一に考えて最善と思われる選択の為にはどんな手段を用いても行動を行なう存在。

 ここには気配からモモンガと言うギルドマスターも存在する。いつかはこの創造主を殺して排除しなければならない日が来るかもしれない。

 だからこそか。それも、これも、あれも、どれも、今も、未来も楽しもう。自分の命が尽きるその瞬間まで…

 

 楽しかったんだ。本当に楽しかったんだ。

 最初の頃を思い出したモミは暗く冷たい地の底で力を抜いて行く。

 ハイネにはユグドラシル金貨が勿体無いし、ある台詞を言ってあるから蘇生はしないでくれるように働きかけてくれるだろう。

 あー…ぼっちさんは悲しむんだろうな…

 モミはゆっくりと瞼を閉じた…

 

 

 

 崩落した山に神父とフードで顔を隠した二人の男が立っていた。

 片方は王国で評判の神父であるローズレット・ベルローズ。と名乗っているザーバ・クンスラァとナザリックから出ることの無い第11階層防衛総長シュバリエ・ハイネンスの二人が並んで立っていた。

 目を閉じて祈りを捧げるザーバより前に出てハイネが崩落した現場に見下ろす。

 

 「姉さん…貴方の言った通りで宜しかったのですね?絶対にぼっちさんは悲しみますよ」

 

 優しげに告げるがそれに答える人物は誰も居ない。それでも言葉は続けられ瞳は悲しみに溢れていた。

 

 「まったく…自分の命よりナザリックの財の事を考えるとは貴方らしいです」

 「正直に仰ったら宜しいのでは?馬鹿なのではないかと」

 「確かにそうですね。ユグドラシル金貨は回収手立てが出来ますから。多大な物資を用意すればですが」

 「実際は命云々の言葉でしょうがそれを誤魔化すのが金貨とは」

 「本当に馬鹿です。馬鹿でいい加減でちゃんとする時はちゃんとする自慢の姉で…」

 

 何処から出したのか真っ赤な薔薇を投げ入れる。

 

 「では、また会いましょう」

 「さよなら姉さん」

 

 二人は来た時と同じようにゆっくりと歩いて帰っていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ!部屋の残っている貴方のコレクションは全部焼却しときますから」

 「なんとおおおおおお!!」

 

 爆発音のようなけたたましい音を立てて崩落した岩盤やらが地上へと飛び出してきた。同時に砂塗れのモミも飛び出して来た。

 

 「やっぱり生きてましたか。生命力が恐怖k…コホン、ゴキブr……逞しいですね」

 「…自分の姉を台所の黒い悪魔みたくゆーな」

 「生きていらっしゃいましたか…残念でしかたありません」

 「おい」

 「おっと失敬。つい本音が」

 「さらに悪いよ。せめて冗談って言いなよ」

 「いえいえ、貴方が死んだことでいつも表情を表さないぼっち様の顔がどのように歪むか楽しみだったのですが」

 「変態だああああ!!」

 「腐った貴方に言われたくないですね」

 「…腐った言うな」

 

 ため息を付きつつ服についた砂を払って行く。やり取りを終えた二人はニヤリと笑う。

 

 「どうでしたか姉さん。引っ掛かった鼠は?」

 「どうもこうも駄目だねあれは。私の魔法でHPを改竄したことにも気付かないし、魔法を消すスキルも反射能力が間に合わず7割程度しか使えてなかった。ぼっちさんを真似て反射速度押しにした為に攻撃力や防御力は圧倒的に低い。特に魔法耐性は最悪だった。どれも対策を組んでたから中途半端すぎて大ダメージ喰らわないけど小ダメージに変換できないってどうよ?」

 「どうよって聞かれても困りますがバランス的とでも答えれば良いんですか?」

 

 ハイネの回答にモミは鼻で笑って答える。

 意外に大物が釣れたと思って最初は喜んだものだが実際は酷いものだった。

 指揮官として指揮は行なえていないし、攻撃も馬鹿正直に突っ込んでくるだけ。ぼっちの真似をしているがぼっちには常人離れした身体能力があったゆえの戦闘法だからそれを持たないアレが真似しても出来るわけがないのだ。

 

 「…追跡は?」

 「こちらで監視できております」

 「なら後は埋まった死体を持って帰って調べるだけか…あー…面倒くさい…」

 「では、死んでれば良かったのでは?」

 「鬼か!?…いや、どちらかと言えば悪魔か。命は、何にだって一つだって言うのに」

 「以前私が蘇生しない理由の話をしていた時は関係ねぇ、命はひとつだぜ!!って叫んでませんでしたっけ?」

 「細かい事気にしなーい」

 

 記録していた座標に魔法を発生させ認識も出来ないほど潰れきった肉塊を回収する。さすがに触るのは嫌だったのか重ねられた肉塊をフライの魔法で浮遊させながらゲートを開く。王都へ戻るザーバはその場に残るがモミとハイネはナザリックに帰還する為にゲートへと歩む。

 

 「…あ!ぼっちさんやアインズ様に連絡不要で。対処はこっちでするし、確認しなきゃいけないこともあるからね」

 

 思い出したように告げたモミを軽く頭を下げて見送ると赤い薔薇を撒き散らし姿を消した。




 前回のデスナイトの戦闘法のモデルはモモンと戦ったデスナイトはヒースクリフ、蒼の薔薇はBASARAの風魔 小太郎でした。
 まぁ、知識だけで経験が無い為にかなり弱いですが(この世界では通常のデスナイト以上に脅威)

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