骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第102話 「何故か評価がウナギ上がり」

 ラナー王女と『蒼の薔薇』との打ち合わせを終わらせたモモンは明日の用意があるのでと退室し、王都で最高級の宿屋のベッドにて腰を降ろしていた。

 この宿屋の主人に「私に見合った部屋を」と告げると案の定、中でも一番高い部屋を提供された。防音用の魔法を始めとした幾つかの魔法を付与された部屋に装飾目立つ家具、三食豪華な食事付きときたもんだ。

 頭部の鎧を外しながら大きなため息を付いた。

 

 「王都最高級と言ってもこの程度か…」

 

 魔法が付与されていると言っても低位階の魔法などアインズにとっては在ってない様な物であり、装飾が目立つ家具もナザリックにある物と比べると見劣りが激しすぎる。

 

 「こんな部屋に大金を払うぐらいならもっとほかの事に使いたいものだな」

 

 宿屋に宿泊する度に悩んでしまう議題を持ち出しまたも悩み始めてしまう。ぼっちから貰った肉体付属用スライムのおかげで食べ物の味を楽しんだり出来るが別にアンデットなのだから意味無いよななど考えてもアダマンタイト級冒険者なら周りにも見せる為にこれぐらいしないといけないんだろうがと答えを出すのに…

 先ほど付いたため息は何もその事だけではない。視線が痛いのだ。ナーベラルより向けられるキラキラとした視線が痛いのだ。

 これも上に立つ者の役目なのか…

 

 

 

 十日前…

 モミより大事な話があるとのことで玉座の間に集まったのが始まりだった。

 右側の列にアルベド、デミウルゴス、コキュートスが。左の列にシャルティア、アウラ、マーレが並んでいた。その皆が深々と頭を下げる中、ゆっくりと玉座へと歩を進めて見苦しくならないように余裕を持って座る。何度練習したか分からないほどした甲斐があり、問題なくやれたと思う。

 

 「面を上げよ」

 

 声に重みを含ませ言い放つ。左右に並ぶ守護者はもちろん、中央で右膝右手を床に付けたモミも顔を上げる。黒のだぼだぼの服でもジャージでもなく、しわひとつない黒のワイシャツに黒のズボン姿の上にアインズのと似ている黒のローブを羽織って真面目な顔をしていていつものだらけた雰囲気が影を潜めていた。と言うか…誰だあいつは!?

 普段と違いすぎるモミに驚いたアインズだがいつまでもそのままでは不審がられると思い口を開く。

 

 「モミよ。話を聞こうか?」

 「はい、アインズ様」

 

 呼ばれて再び頭を下げ、顔をあげるモミに余裕を感じる。何故いつもそうしないのだろうか?ああ…めんどくさいからか。

 

 「お忙しい中お集まり頂き感謝致します。今日はアインズ様により命を受けた件の準備が出来ましたのでご報告に」

 「う、うむ。出来たか…あの件か」

 「はい。あの件で御座います」

 「そうか」

 

 あの件とは何だ?と言うか俺は何かモミに頼んだか?ここは何とか覚えてない事を悟られないように聞きださなければ。

 視線を動かし左右の守護者達の表情を窺うとどうやら他の守護者達も知らないようだ。

 

 「モミよ。皆に説明してやりなさい」

 「畏まりました」

 

 軽く頷き立ち上がったモミはアインズよりも守護者達に身体や顔を向ける。

 

 「私がアインズ様に命じられた件と言うのは先日アインズ様とぼっち様で意見が対立された件の中間策の事です」

 「意見の対立と言うと殲滅するか裏で操るかと至高の御方々で意見が違われたことだね?」

 「ええ。なのでお二人の意見で重要な所であるナザリックの名を知らしめ裏で操れると言う計画です」

 「え!?そんな事出来るの?」

 「お、お姉ちゃん最後まで聞こうよ」

 「だって裏で操るのにナザリックの名を知らしめるなんて出来ないじゃん」

 

 アウラの言う通りだ。裏で動くのなら表に出ないようにしなければならないのに表で名を知らしめることなど出来はしない。

 疑問符を浮かべたい所をぐっと堪えて話を聞きながらばれないように皆の顔を窺う。

 

 「裏で操るのとナザリックの名を知らしめるのは別の事なのですよ」

 「別……ああ!そういうことですか」

 「なんでありんすか!?ひとりだけ納得して」

 「簡単な事だよ。ナザリックと裏で操る者は別と言う事だよ」

 「さすがはデミウルゴス。言った通りに裏で操るのはぼっち様演じるアルカードであり、ナザリックではない。だから堂々とこちらは動けるのだ」

 「確かにそれで問題のひとつは解決するのだけど名を知らしめるのはどうするのかしら?」

 「デスナイトを使うよ」

 

 デスナイトを使って名を知らしめる?意味が分からなかった。それは他の守護者も同様のようだった。

 

 「まずデスナイトを使用して事件を起こす。ナザリックと結び付けられないように首謀者も用意してね。大人数の前で立ち回りでもすればデスナイトの力は分かる。最低でも100名ぐらいの死者は出ますが」

 「死者ガ出ルノハ不味イノデハナイカ?ボッチ様ハ無闇ナ殺シニハ反対ノヨウニオ見受ケシタガ」

 「ぼっち様が反対したのは大虐殺などの戦いに関係ない人を無闇に殺すことで今回死ぬのは兵士。それも戦いに向かって来る者です。『撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』。これはぼっち様が口にした言葉です。逆に殺しに来たやつを殺したって問題ないって事でしょう」

 「フム…シカシデスナイトノ強サヲ立証スル事デ何故ナザリックノ名ガ知レ渡ルノダ?」

 「すでに帝国はワーカーの件もありここの事を少なかれ知っている。作戦の第一段階で帝国と王国にデスナイトの存在と力を思い知らせる。その後、ナザリックはひとつの国家として名乗りを上げればこの辺りを領土としている王国はもちろん知っている帝国も接触を求めるでしょう。その両国が立ち並ぶデスナイトの群れを見たら…」

 「この世界ではデスナイト一体で国を滅ぼせる。それが軍隊規模で存在するなら戦を起こさずとも名を知れ渡らせると言う事ですか」

 「アインズ様の命で作戦の一部を先行して法国にアルカード伯が聖獣を持っている事を伝えた為に向こうから接触を求めておりぼっち様は身動きが取れないようにしました」

 「さすがはアインズ様。本作戦の主であるデスナイトの強さをアピールするだけでなく、今回のことで法国とのパイプを持ち繋がりのない王国内での立場は今以上に重要視させてぼっち様の計画の強化。そして王国で有名な武勇を上げたぼっち様が動けないとしたら現れたデスナイトの相手は自然と最も強い冒険者であるモモン、つまりはアインズ様が討伐してモモンの名までも上げると。」

 「私は最初から分かっていたわ。皆は分かっていたかしら?」

 

 ドヤっと言わんばかりの笑みを浮かべるアルベドにデミウルゴスが何ともいえない表情を浮かべる。

 本当にどういう事なのだろうか?話を聞いている途中で思い出したのだが確かモミが「ぼっちさんとアインズ様の中間策作るけど良い?」と行き成り聞いてきた事があったがそれ以降話を聞いたり命令をした事なんてなかったのだが…

 頭に浮かんだ疑問を処理しようと考えようとしたがする前にモミが真剣な眼差しでアインズの瞳を見つめてきた。

 

 「アインズ様。計画の準備は整いました。実行のご命令を」

 「うむ、良いだろう。計画を始めようじゃないか」

 

 深く頷いたモミを除く皆の視線はキラキラと輝いた物になっていた。

 

 

 

 何度思い返してもどうしてこうなったか分からずにため息を付く。

 

 「モモンさ――ん」

 

 最早、毎度お馴染みになってしまった『さ――ん』呼びにも反応するほど頭も回っていない。

 入り口から金色の装飾が施された二段のサービスワゴンを押しながらナーベがベット脇まで来るのを眺めていた。

 

 「宿屋の主人よりサービスだとこれを」

 

 ナーベラルが持って来たサービスワゴンの上には中央にバニラアイスが置かれ周りごとチョコレートソースがかけられた大きな皿(アイスは小さい)と四角くカットされた氷が浮かぶワイングラスに注がれたアイスコーヒーが二人分乗せられていた。

 

 「折角だ。頂こう」

 

 これがどれほどナザリックで食すアイスより劣ってようと構わなかった。とりあえず甘い物でも食べて落ち着きたかった…

 

 

 

 リ・エステーゼ王国 国境内山岳部

 緑と土色のローブを纏った集団が山々に聳え立っている木々の間を身を潜ませながら進む。

 一般人では見つけるのも難しいほど上手く身を隠している。ブレインやガゼフほどの腕利きが発見したとしても軽率に手を出すことが出来ないだろう。

 気配が無いのだ。無いと言ったら言いすぎだろうが気配を押し込めてかなり薄くしている。それが出来る連中など一部の猛者かアサシンなどの闇の仕事に従事している者だけだ。そんな連中が50名ほど山を進んでいる。王国の兵士100人居ても足りるかどうか怪しいレベルである。

 先頭で潜んでいた男が後ろを振り返り小さく合図を送る。合図を受け取った者は同じように身を潜めながら近付く。

 

 「見つけたぞ」

 「あれか」

 

 懐から前と後ろにガラスの膜が張ったような円柱二つがくっ付いたようなアイテムを取り出して指差された方向へと向ける。

 一団が息を忍ばせていると一人の男が姿を隠すのを止めて堂々と歩みだす。誰も咎めず黙って同じく立ち上がり追従する。

 白いロングコートを風で靡かせ、左右の腰に下げてある日本刀が金属音を響かせる。

 

 「…法国のお偉方は?」

 「件の貴族と会合中です」

 

 男は短く切り揃えられた金髪を掻き、頬の傷痕をひと撫でする。

 

 「聖獣を使役していると言うのは本当でしょうか?」

 「…事実なら法国が動くだろう。私はさして興味がない」

 「そうなのですか?てっきり私は…」

 「…興味が出るとすればその者が……プレイヤーだった場合のみ」

 

 首に下げた十字架を大きく揺らしながら振り返った大柄の男は優しげな笑みを浮かべる。

 

 「……さて、王都首脳陣はデスナイトの対応と王国内に入った法国のお偉方に忙しくて足元がお留守になっている。この機に我らは我らの成すべきことを成す」

 「我らが命は貴方様と共に!」

 「…気を引き締めろよ。相手はプレイヤーかも知れないのだから」

 

 目的の場所を睨みつけるぼっちが刀を抜くと後ろに続いていた集団がそれぞれの武器を構える。


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