骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第099話 「トブの大森林の主」

 「カハッ!?」

 

 短い呻き声と共に血飛沫が舞い散った。短く切り揃えられた青々とした芝生に何かが横たわると流れ出した血により血溜まりが出来上る。その様子を瞳の無い空間から見つめていた。

 横たわった剣士から目を離してこちらへと駆けてくる村長になった少女へと移す。

 

 「マインちゃん大丈夫!?もう!ロートルさんもやり過ぎです!!」

 

 この村の村長であるエンリ・エモットはいつものように治療薬を持って瀕死の重体となったマイン・チェルシーの治療に当たっている。治療と言ってもナザリックより届けられたポーションをかけてベットに移動させて休ませるだけなのだが。

 妹のネムと治療を行ないながら怒りを露にする。これくらいいつもの事なのに何故そんなに怒るのか理解が出来ない。五月蝿く感じてその場を去ろうと歩き出しす。ふと、とある小柄なゴブリンと目が合った。

 ゴブリンよりも知性を持ったホブゴブリンのアーグとかいう子供。最近森で勢力図が変わって森より部族数人と逃げてきたのだ。エンリがアインズ様より頂いた笛にて召喚されたゴブリンのジュゲム達ににエンリは「本気になれば悪霊犬を片手でひねり、絞り出した血をコップに入れて飲む」などの嘘を信じて居る為に敬っている。ホブゴブリンは賢いと聞いていたがたかが10レベルに近付いたぐらいの人間がここのゴブリン達より強いなどの嘘を信じるようでは賢いという方が嘘だったのかもしれない。

 騎士の鎧を着込んだ髭を生やしたスケルトンでマインの師匠であるロートル・スケルトンは剣を腰に提げていた鞘に収めながらそのような事を思っていた。その考えは間違ってないのだがアーグが信じている理由の中には段違いの強さを持つロートルがエンリのいう事を聞いている事も含まれている。

 

 「ヒィっ!?」

 「え?あ!お出かけなんて珍しいですね」

 

 このカルネ村を囲う壁の出入り口を潜ると馬車の荷台で籠を用意している少年。ンフィーレア・バレアレと最近村に来た新入りと出合った。

 新入りは王国で冒険者をしていたブリタと言う褐色赤毛の女。とある任務中に出合った吸血鬼と戦闘になり、あまりの恐ろしさから冒険者を辞めてカルネ村に移住してきたのだ。

 それにしても自警団の一員を勤め元冒険者であるブリタがンフィーレアの後ろに隠れるのはおかしくないか?

 声を発することの出来ないロートルは頷いて軽く手を振って森へと向かって歩みだす。

 地に落ちた葉や草を踏み締めながら森の中を見渡すが目的の者が見つからない。すぐに見つかるとは思ってなかったが。

 

 カルネ村…

 帝国の兵士に扮した法国の者達に殲滅されそうになった村のひとつ。運よくアルカードを名乗るぼっち様とアインズ様の目に留まらなければ他の村と同じようにほとんどが殺されて焼き払われていただろう。

 減った村人の分、移住者を募っているのだがンフィーレアにブリタ、ンフィーレアの祖母のリィジー・バレアレの三人の人間に対してアインズより渡された笛で召喚されたゴブリン19名にアーグと共に逃げてきた数名の部族にオーガ数匹と亜人の方が多いのはどういう事だろうか?

 ぼっち様から聞いたこの世界からすればこの村は異常なのだろう。戦力的にも考えても小さな村には大き過ぎるし、亜人と共に暮らしていること事態おかしいのだ。後者については召喚されたゴブリン達のおかげである。彼らは普通のゴブリンと違い人間の言葉を話せるし、知識や理性も持ち合わしている。彼らは村人に対して暴力的なことはまったく無く、逆に笑顔で接したり手伝いを自ら率先したのが良かったのだろう。

 

 ロートル・スケルトンは召喚したぼっちから幾つかの命令を受けている。

 ひとつ、村で暮らすからには最低限村長の言う事を聞く事。

 ふたつ、善良な村人の殺傷はしない事。

 みっつ、バレアレとエモッタの両家の人間は絶対に守る事。

 などなど他にもいろいろあるが主だったものはこれらだろう。そして最優先命令はマイン・チェルシーの強化である。これは武装やスキル的なことではなく技術とレベリングでしかない。先に村長であるエンリに「やり過ぎ」と言われたが最優先命令を考えると聞くわけにはいかない。ただでさえ人間は短い時間の中を生きているのだから死ぬ程ではなく何度も死ぬまで訓練を課さなければぼっち様の目指すレベルには至らないだろう。人間は私と違って時間が止まっている訳でもエルフのように長寿と言う訳でもないのだから…

 

 普段は村から出ることの無いロートルが森の奥まで来ているのは村長からお願いされたからだ。トブの大森林で《三大》のひとつに数えられていた《森の賢王》と呼ばれる魔獣がモモンと一緒に出て行った事が原因なのか解らないが最近は森で縄張りを巡った争いが多発しているのだ。本人はただぼやいただけだったのだがロートルはお願いされたので最低限聞き届けようと出向いたのだ。

 《森の賢王》の縄張りを抜けた辺りで気配を感じて身を伏せる。視線を凝らして先を見やると多数のオーガとトロールが雑な整列をして行進していた。一番後ろにはリーダーであろう威圧感を放つトロールが居た。

 相手に対して身を潜ませる意味をなくして堂々と彼らの進行を妨げるように前に立ちはだかる。

 現れたロートルを警戒してトロールやオーガが立ち止まる。

 

 「なんだお前は?スケルトンか」

 「――」

 

 顎骨を動かして鎧の中の空気を口から漏らす。人には聞こえないが相手がモンスターの類ならこれで会話が出来るのだ。その声を聞き取ったトロールが笑った。

 

 「ここから先に進むなだと?たかがスケルトンがよく吼えたな」

 「――?」

 「俺の名か?俺は東を統べる偉大なる王『グ』だ」

 

 一瞬聞き間違いかと思い聞き直そうかとも考えたがどうでも良い事なのでそのままにする事にする。また口から空気を漏らしつつ、腰の剣と背にある盾の下に隠してある斧を取り出し構える。

 

 「ガハハハハ。名も無いスケルトンの警告をこの勇敢なるグ様が聞くと思ったか?」

 

 大声で笑ったグは手で合図して手下であるオーガとトロールに攻撃命令を出した。大きな斧や棍棒を片手に持ち猪突猛進に襲い掛かってくる。こんな事なら弟子であるマインを連れてくればよかった。領地にいた筈のマインが今朝方いきなり帰ってきて「もっと強くなりたいので手合わせをお願いします」と言ってくるものだから本気で斬りあって切り伏せた。当分起きないだろうな。どうやら領地で騎士に召抱えられた者達の意欲を感じて自分もと思い来たのだろう。

 オーガなどのモンスターはスケルトンには脅威であった。大きさから重みに力と勝てる要素は特殊なスケルトンでもない限り数で押すしかない。が、レベル30でこの世界では国を滅ぼすレベルのロートルが負ける道理は無かった。

 駆け抜けながら相手の攻撃を受け流し斬りつける。殺すことはせずに動きを封じるか致命傷をさけた攻撃ばかり行なっていく。

 オーガを六匹ほど動けなくした所で新たな影が襲って来た。迷うことなく斬りつけたが斬りつけた箇所が再生を始めた。

 よく見ると出てきたのは再生能力を有するトロールだった。傷口を見たトロールはニタリと笑ってから襲い掛かってきた。

 己の再生能力を過信して負ける事は無いとでも思っているのだろう。確かに再生能力は厄介であるが対処でき無い事は無い。

 スキルにより火炎を纏った刃で斬りつける。悲鳴を上げたトロールは蹲り、傷口を凝視するがいつになっても治らない傷口に焦りを感じ始める。

 再生と言うのは傷口から無くなった細胞を増殖させて元通りに復元する事である。ならば細胞が増殖できないように傷口を焼いてしまえば良い。ただこれは焼かれた部分を毟るか斬るかで普通の傷口に戻せば再生するので完全に防ぐ方法ではないのだが彼らはそこまで頭が回らないようだ。

 その光景から残った者達が三歩ほど引いた。

 

 「この臆病者共が!!俺がやる!!」

 

 引いた者達を押し退けて突撃してくるグを正面から向き合った。だが、別に斬り合う気もなかった。左手で持っていた斧をグノ右足目掛けて投げた。回転しつつ飛んで行った斧は狙い通りに右足を切断してグを転倒させる。倒れこんだ事を確認して剣で右腕を貫通させて地面に深く差し込む。次に背にあった槍を右腕同様に左腕に差し込む。大の字で動けなくなったグから視線を外して何かを探す。怯えるオーガやトロールではなく先程から隠れてこちらを見ていた者を探す。

 視界に映らないということは魔法かスキルで姿を隠しているのだろう。

 最後まで背に残っていた弓矢を手に持ち何もないであろう場所へと放つ。短い悲鳴を上がり空中で矢が止まった。そこには透明化を解いて刺さった矢を痛がる下半身が蛇の体で上半身が痩せ細った老婆のナーガと呼ばれるモンスターだった。

 近くに居た怯えたままのトロールにナーガをここまで持ってくるように言うが動かない。仕方ないのでうつ伏せになっているグの背中に矢を打ち込む。痛みによる悲鳴が上がり、動かなかったトロールが慌ててナーガを連れてくる。

 

 「待て!待て待て待て!!待ってくれぇ!!」

 

 痛みのせいか恐怖のせいか泣き喚きながらここへと引きずられて来るナーガを見つめつつ斧を拾い上げる。

 

 「な、何故わしの透明化をどうやって見破った!!…見破られたのですか」

 

 ナーガの問いに首を傾げる。意味が解らない。透明化したぐらいで気付かれないと思っているのだろうか?姿は見えなくてもその場には居るのだから痕跡は現れる。音や風の流れなど挙げれば限がない。とりあえずこのナーガの素性の方が重要だ。

 

 「――?」

 「名ですか?西の魔蛇と呼ばれているリュラリュース・スペニア・アイ・インダルンと申します…」

 

 《三大》と呼ばれる森の縄張り争いを行なっている者は《森の賢王》に《東の巨人》、《西の魔蛇》…賢王はもう居ないからここに森の主とも呼べる二匹が居るわけだ。ひとり納得して頷いていると泣きながらナーガが頭を地面に擦りつけながら伏した。

 

 「何でも致しますので…どうか!どうか命だけは!!」

 

 懇願してくるナーガを見てニコリと笑う。説得する手間が省けた。下で蹲っているグはどうか聞いてみると首を横に振った。今度は二本連続で矢を放った。再生能力を持つ為に矢が刺さった瞬間、怪我を修復しようと細胞が増殖して血肉が作られるのだが作られた血肉が矢に触れて傷口を何度も抉るような結果になってしまう。

 あまりの痛みに首を横に振ったグではあったが縦に振るしかなかった。

 

 「―――」

 「わし…わたしが配下になれば命はお助けくれるのですか!?」

 「俺もか…くっ!分かった…」

 「――――」

 「わたしが参謀でグが将軍ですか?か、畏まりました」

 「どうして俺がこんな奴の」

 

 何かを言おうとしたグだったがロートルと目が合い押し黙る。もうどちらが格上かを理解したのだろう。

 これで縄張り争いの被害を被ることはない。矢を無理に抜き取り立ち上がる。もうここには用はないので帰ろうとするとナーガ…インダルンが呼び止める。

 

 「わたしが参謀でグが将軍と言うことは貴方様の指揮下で動くと言う事なんですよね?でしたら貴方様がどこに住まわれているか聞いておかないと」

 

 ここでロートルはめんどくさがった。自分は騎士であり指揮官ではない。

 

 「―――」

 「はぁ!?貴方様の上が居られるのですか!!」

 

 驚きを隠せない二人に背を向けてさっさと帰路に着く。

 

 「では、後日ご挨拶に向かわせて頂きます。《森の賢王》の縄張りを突っ切った先にあるカルネ村ですね?村長であるエンリ様へには宜しくお伝えくださいませ」

 

 知らぬ所でエンリはトブの大森林の主へと昇格してしまったのであった…

 




 熱いですね…今年の夏は。
 海に行きたい。でも、外に出たくない。
 という事で(?)次回特別編で海へ行きます。特別編を三回投稿しようと思います。

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