骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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久しぶりの本編前にまずは前回より誤字報告で誤字を教えてくれました、
矢沢様、九尾様、もっさん3666様、きっゃまだ様、CHIKUWA大明神様、DENROK様
感謝申し上げます。

それと活動報告のタグ募集にてお答えくださいました
炬燵猫鍋氏様
本当にありがとう御座いました。早速使わせてもらいます。


第094話 「ぼっちと領地での揉め事:其の伍」

 ケット・シー達や各村の村長と別れて静けさを取り戻した深夜のアルカード領の屋敷ではせっせとユリ・アルファが洗い物に精を出していた。あの試食会が飲み会に変化した後が大変だった。酔いつぶれた村長達を各村へ運ぶ為にその村々の者を呼びに行った。最初はアルカード領の騎士となった者達に運ばせようとしていたらしいのだが騎士初任務が酔っ払いの輸送ではあまりに可哀想かと止められたのだ。酔っ払いを各村人に引き取って貰ったら次に食い散らかされた部屋の掃除に部屋中の換気、最後に集めた食器類を綺麗に洗って今に至るのだが思いの他、多大な時間を食ってしまった。その間、至高の御方であるぼっち様の身の回りの世話も十分に出来なかった。

 大きなため息を付きながら考え込む。普段であれば付きっ切りでお世話をしないといけないのは当然なのだが今回は別である。

 

 「決してぼっち様にこの件をお話しすることはなりません。決してです。意味は理解できましたね」

 

 出発する前にデミウルゴスに言われた言葉を脳内で再生する。あってはならない事だが至高の御方に隠し事をしている現状ではあまり接触したくない。罪の意識で話してしまいそうだ。

 再び大きなため息を付くとある部屋から光が漏れている事に気付いた。

 この時間ならマインは寝ているし、ステラは与えられた部屋でいつでも動けるように待機しているだろう。首を傾げつつ向かってみるとまだ完璧とは言い難い荒れた庭が見渡せる客室にぼっち一人寛いでいた。

 窓から入った月明かりを浴びながら、丸みを持ったウッドチェアに腰掛てただゆったりと時を楽しむぼっちに魅入ってしまった。

 ふと我に帰るといつの間にか振り向いたぼっちと視線が合っていた。

 

 「これは大変失礼致しましたぼっち様」

 

 隠し事をしている罪の意識も相俟って深々と頭を下げつつ謝罪を口にしつつ部屋から離れようとする。が、ぼっちは顔を向けたままこちらに来るように手招きする。至高の御方からの指示に笑みを浮かべながら斜め後ろに立つ。

 

 「如何致しましたか?」

 「・・・ここに座り」

 

 ゆっくりと頷いて指差されたぼっちの横に姿勢を崩さないように正座する。それを確認したぼっちは何も無い空間から黄金のワインカップ二つとピッチャーを取り出す。ワインカップのひとつをユリに手渡しするとピッチャーを注ごうとする。

 

 「そんな至高の御方から注いで頂けるなど恐悦至極に存じます」

 

 両手で支えるように持つとカップに綺麗な色をした赤ワインが注がれていく。注がれるとピッチャーを渡してもらいぼっちの分を注ぐ。

 

 「今日は・・・お疲れ」

 「ぼっち様ほどでは御座いません。ぼっち様こそ本当にお疲れ様で御座いました」

 

 カップを一度傾けるとタイミングを合わしたかのように二人ともが口にした。芳醇な葡萄の香りを漂わせ、口の中にはいままでに味わったことの無い澄み切った酸味に程よすぎる甘みが口の中に広がっていく。ナザリック内にもいくつかの酒類があり、ユリもたしなむ程度に飲んではいたがこれほどの物は口にしたことが無い。

 

 「これは美味しゅう御座いました」

 

 ほう。と吐息を漏らしながら感想を口にするぼっちがニコリと笑った。いつもなら仮面を着けていて表情など片目でしか判断できないが今のぼっちは仮面を外し、幼さを残す顔を晒していた。

 

 「領地に・・・ユリを連れて来て・・・良かった」

 「勿体無きお言葉」

 「ナザリックには・・・属性が悪の者が・・・多い」

 「はい。私やセバス様しか属性が善の者は居ませんから」

 「だから・・・良かった」

 

 カップに映った月を眺めながら話し続ける。

 

 「他の者では人間に害意を向けてしまう。だが、ユリはそんな衝突もせず、皆が思いつきもしない意見を出してくれた。教育機関などまず出ないだろう」

 「しかしながら差し出がましい事を申してしまいましたと思っていたのですが…」

 「そんな事は無い。あれもあれで良い案だった・・・」

 

 何時になく止まる事無く喋っていたぼっちは三回ほど咳き込んで息が荒くなった。背を擦りながら調子を聞くと問題ないと答えられたがとてもそうは思えない。後でアインズ様にメッセージでご報告しなければ…

 ポンっと頭の上に手が置かれ優しく撫でられる。

 何度かアウラ様やマーレ様が撫でられているのを見たことはあるがされるのは始めての体験である。ふんわりと優しい温かさに包まれるよな感覚。胸の奥がポカポカとして凄く落ち着く。

 

 「だから・・・ありがとな・・・ユリ」

 

 ゆっくりと手が頭より離れて再びカップを手に取り月を眺める。

 今の会話に姿を見て決心を決めた。後でどれほど罵られようと、どれよど責められようと、至高の御方であるぼっち様に隠し事など有ってはならない。

 

 「ぼっち様。お話したい事が…」

 

 ぼっちは話を最後まで聞き終える事無く、ユリと庭へと投げつけたカップをそのままに屋敷を飛び出して行った…

 

 

 

 猫人が住まう山にようやく帰ってきたミュランは台車に積んでいた酔い潰れた老猫達を入り口に転がしてさっさとぼっちが警戒した洞窟の中へと入って行った。

 普通は狭苦しく真っ暗な洞窟を想像するだろうがそんな事は無かった。

 入り口から中を見ると下へと続く大型の階段が中央にありその周りには畑や食料の貯蔵エリア、作物担当の猫人が住まう居住エリアが見受けられた。もちろん警備担当が詰めている居住区が入り口近くに配置されている。

 合計で六つの階層に別れており、上から警備&食料エリア、戦闘班のエリア、居住エリア、第二食料エリアと娯楽施設エリア、神殿と精鋭班の施設や居住エリアになっている。

 

 「代表代行殿」

 

 入り口付近に詰めていた槍を持った猫人が声を張り上げて呼びかけて来た。「ん?」と一言だけ漏らして振り向く。

 

 「代表が御呼びです。至急『屋敷』へお願いします」

 「分かった。すぐ行くよ」

 

 最下層の『屋敷』と名付けられたエリアは各班長や代表代行、代表代行補佐など幹部しか入れないエリアになっている。そこに居るのはもはや生きる伝説と化している『代表』と呼ばれる猫人。

 人間なら降りるだけで数日かかるが猫人は大型階段の中央を飛び降りて所々ショートカットできる。時間短縮になって良いのだがあまりに高すぎて正直馴れた今でも怖い。

 最下層に入るにはその前のエリアである神殿で検査されるが代表に至急にと伝達されており、今日は顔パスだけで通過できたのはラッキーだった。いつもなら1時間以上かかる事がある。

 柳が並ぶ川沿いを歩いて行くと木々の温かみを持った大きな屋敷がある。

 ミュランは知らないが日本家屋そのものである。中にはヒノキで出来た風呂や茶室などがある。まぁ、使ったなどの話を聞いたことは無いが…

 屋敷に寄る事無く、咲き誇った花々が並ぶ庭を通り抜け、屋敷の裏手にある竹林を抜けた先に向かって行く。竹林以外何の壁もなく、大きな大きな露天風呂が姿を現した。

 

 「代表来たよー!!」

 

 湯気が漂う中、目を凝らしながら大声で叫ぶ。 

 足元付近からパシャリと水が跳ねた音が聞こえ、見下ろしてみるとそこに鮮やかな桃色の髪が特徴的な少女猫人が湯に使っていた。

 

 「やっと来たかにゃ」

 

 人間で言うと18歳ぐらいの見た目なのだが彼女こそがこの山の主であり、『山猫』の代表その人なのである。

 

 「で、代表は何を聞きたいので?」

 「人間の報告にゃ」

 「人間達との共存については話を受けようと思ってます。不足していた食料問題の解決や金銭の入手も何とかなりました」

 「いざこざも無かったのかにゃ?」

 「何も。イノ爺も人間と飲んで潰れましたよ」

 

 最後の一言がツボに入ったのか噴出してから馬鹿笑いし始めた。タオルで隠していない凹凸の少ない姿態をあらわにしながらのたうち回っている。ここは周りに遮蔽物も何も無いから竹林まで来れば誰でも見えるというのに。

 

 「にゃははは。何が「代行御一人をハゲザル共の元へは行かせれません」だ。イノ坊は相変わらずだにゃ」

 「確かにそうですね…」

 

 イノ坊って…。まぁ代表から見れば小僧もいいところなんだろうな。あの爺が…

 猫人族の寿命は人間とさして変わらないが代表は覚えているだけでも200年以上生きているのだ。各国が完全に機能する前から存在して一時期には六大神とも行動を共にしていたや、六大神や八欲王が亡くなった後に起きた大戦で有名になった伝説の吸血鬼とは旧知の中だったなどいろんな話があるが事実は定かではない。代表自ら語ることはなく、皆も遠慮して近付かないのだ。

 何度目かの軽いため息を付きつつ目の前の少女を見つめる。

 見た目通りの少女猫人ならただの噂や性質の悪い冗談で済ませれるのだが代表のスペックは化け物染みている。まずはその戦闘能力。たった一人で戦闘班と精鋭班の総勢350名を相手にしても息切れもせずに圧勝。曾婆が話してくれた話では1000人規模で攻めて来た人間の軍隊をひとりで追っ払ったとか。これだけでも化け物染みているのに本人曰く戦闘は苦手なそうだ。得意なのは索敵。何気なく生活しているが彼女の頭にはこの山の至る所の情報が読み取れるらしい。資源の在庫から誰が何処に居るのかなどなど…だから最初に報告を催促された時には「結果は知っているでしょ?」と言いたくなった。今更さとりの妖怪でしたと言われても驚かない自信がある。

 

 「イノ坊や共存の話はどうでもいいにゃ」

 「どうでも良いって…」

 「あの男の子とは会えたのかにゃ?」

 「―っ///ななな、何のことを言ってやがるんでしょうか///」

 「顔真っ赤で説得力ゼロにゃよ。恋する乙女そのものにゃ」

 「そんなうちとジェイルは…」 

 「ほほう。ジェイル君かにゃ♪」

 「あ、誘導尋問だ!!」

 「勝手に喋っただけだにゃ」

 

 涙目で睨みつつ唸り声を上げる。

 いつもからかわれたりするがどうしても憎めない。天真爛漫で軽い感じだが誰よりも優しくて温かい。それはここに住まう猫人全員がそうだろう。イノ爺なんかは初恋相手は代表だったなんて言ってたっけ。きっぱりとふられたらしいけど。

 

 「私は相手が人間だろうと祝福するにゃよ。ただ相手はちゃんと選びなさいよ?」

 「フン。私が選んだんだから良いの。代表は恋愛なんかしたこと無いんでしょ」

 「それは失礼にゃ!!」

 「え!?じゃあ、相手が居たの?」

 「居たにゃ…片想いだったけど…」

 

 先程までの天真爛漫さが無くなり穏かな表情で天井を見上げる。

 

 「どんな猫だったの?」

 「猫人じゃないにゃ。人間にゃ」

 「意外…詳しく教えてよ」

 「あの人は凄かったにゃ。私が知っている誰よりも強く、心優しく、温かみを持った人…。どんな時も私の話を笑顔で聞いてくれるし、許されざる裏切りをしても許してくれる度量があったにゃ。そして仲間の事になったら本気で怒ってくれる」

 

 そこでミュランは代表のでこに手を当てる。当てられた代表は疑問符を浮かべる。

 

 「なんにゃ?」

 「お婆が耄碌したのかと…」 

 「耄碌してないにゃ!!あとお婆って言うにゃ~!!」

 「ひはい、ひはい(痛い、痛い)」

 

 頬を膨らませた代表はむにむにとミュランの頬を引っ張る。しばらく経つと怒りも収まったのか抵抗しなかったミュランから手を離してまた湯船に浸かり天井を見上げる。

 

 「会いたいにゃ…ぼっちさん」

 

 代表の言葉が静かなその場に広がった。


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