骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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遅れて申し訳ありません!!



第093話 「ぼっちと領地での揉め事 其の四」

 ぼっちが領地入りしてから三日目の午後二時。山より6名のケット・シーが下山して来た。先頭は代表代行であるミュラン。出迎えるのはコルを合わせて5人の村長会議議員である。睨み合いが続く中、両者は一言も喋る事無くアルカードの屋敷へと向かった。

 入り口ではユリが待っており全員を確認すると大広間へと誘導して行った。長机には左右に分かれて五つずつの椅子が並べられていた。

 

 「ミュラン様はこちらへお越しください。ジェイル様がお待ちです」

 「うちだけか?」

 「はい。どうぞ」

 「待たれい!!」

 

 言われるままに付いていくミュランを制したのは白髪頭の優しそうな老猫人だった。小さな眼鏡が光ってどのような形相をしているかは分からないが敵意を抱いているのは確かである。

 

 「代行御一人でなぞ認められませんぞ!!」

 「止せ、イノ」

 「ハゲザル如きが我ら呼び出しただけでも腹立たしいと言うに護衛すら付けさせないとは…」

 「そこまでにしてもらえませんか?」

 

 怒号を飛ばし続けようしたイノの前に出たのは刀を壁にかけたマインだった。

 

 「アルカード様の命でここから先にミュラン様以外の方を通すわけに行きません」

 「小僧…丸腰で儂に…代行補佐の儂の前に立ちはだかるか?」

 

 毛皮で出来た上着を脱いだイノの身体は筋肉隆々で年老いた生き物の身体ではなかった。ガゼフよりも鍛え上げられている。武器無しで接近戦を挑む人間など普通はいないがマインは引くことは無い。

 

 「はい。怪我はさせるなとの事で難しいですがこれ以上進むのでしたら実力で止めます」

 「面白いハゲザルじゃ。良かろう。如何せん埋める事の出来ない人間と猫人の肉体能力の差をどうするのか見せてもらおうか?」

 「身体の構造が人間と同じならば…参ります」

 「来るが良い。ハゲザるあ!?」

 「「「「はぅあ!?」」」」

 

 腕を組んで余裕を見せていたイノはたった一撃で悶絶した。周囲にいた男達も間の抜けた声を上げてイノが喰らった場所と同じ両足の付け根の間を押さえていた。

 何をしているのか理解できないミュランは首をかしげながらとりあえずユリに付いていく。

 

 「えーと…とりあえず席に付いて貰えますか?」

 

 残りのケット・シーに支えられてイノを含む10人が席に付いた。それを確認し終えたマインは満足そうに微笑む。

 

 「今日、皆さんにはアルカード様がお店に出す料理の試食をして貰おうかと思っております」

 

 皆がピクリと険しい顔をして反応する。今日は人間と猫人の共存の会議を行なうと聞いていたからだ。 

 

 「共存の話し合いだと聞いたが?」

 「その通りなんですけどアルカード様がお決めになられたので…」

 「馬鹿馬鹿しい。私は帰るぞ!!」

 「ハゲザルと食事など不味くなるだけで得る物なぞ無いわ!!」

 

 早々に退場しようとするが背筋が凍るような感覚に捕らわれて動かなくなった。別に魔法やスキルが発動した訳ではない。ただ濃厚過ぎる殺気と怒気で部屋を包んだだけで。

 

 「我がマスターが御手を煩わしてまで作った料理に手も付けずに帰るだと?先に捌いてやろうか?」

 

 誰一人喋ることも出来ず腰を再び椅子に戻すことしか出来なかった。いつの間にか戻ってきたユリはテーブルに蓋付きの湯飲みを置いていく。10人分が並べられた所で蓋を開けたコルは中身を見て困惑した。中には見たことの無い黄色がかったものが詰っていた。

 

 「なんじゃこれは?」

 

 思った言葉がそのまま口から出てしまった。コルは若い頃は冒険者で稼ぎもそこそこだったからいろんなものを食べてきたがまったくと言って良いほど見覚えのないものだった。

 

 「茶碗蒸しと言う料理です。お手元のスプーンでお召し上がりください」

 

 スプーンを手に取りすくうとプルプルと揺れる。ほおと息を漏らしながら眺めてから含んだ。目が見開かれた。

 

 「何だ、この味はッ!?」

 

 いきなり立ち上がったコルに皆の注目が集まる。

 

 「味もそうじゃがこのまろみに舌触り…美味いぞ!!」

 「おお!本当ですな」

 

 次に口にしたのはコルの反応を窺っていたイノであった。それから皆が口にしてそれぞれ感想を漏らし始めた。クスリと笑ったユリが次の料理を運び始める。肉じゃが、きんぴらごぼう、お吸い物、竜田揚げ、魚を使用した蒲焼に照り焼きに煮付けなどが並ぶたびに手を付け目を大きく見開き、驚きと共に味わっていく。

 

 「儂はこんな料理初めて食べたわい」

 「ふむ、この野菜を使った料理もいけますな」

 「こちらの魚料理は養殖が成功した所より持って来た物で野菜類はこれより栽培してもらう予定の物を使用しました」

 「ほぉ、この魚は養殖で育てた物ですか」

 「はい。養殖技術はケット・シーへ。領民には栽培や村々の支援などで同じ技術を教えることはありません」

 「…それはどういう意味ですかな?」

 「そのままの意味です。共存の道を選べばお互いに分け合え、拒絶するのなら二度と得ることは無いだけです」

 

 ユリはニッコリと笑い、コルとイノは苦虫を潰したような表情をしたが最後には渋々そうだが納得したようだった。

 

 「では皆様。共存の祝いと言う事でアルカード様より今日は楽しく飲んでくれとのことです」

 

 今度はユリだけでなくマインも手伝って持ってくる。日本酒をメインとして肴に刺身の盛り合わせに野菜類の天ぷらが運ばれてくる。大広間は種族を超えた宴会場へと変わってしまった。

 

 

 

 客間にはミュランとジェイルが向かい合って座っていた。二人の間にある机にはぼっちが入れたお茶とイチゴ大福が置かれていた。

 赤髪に白服のミュランに対してジェイルは白髪に黒服だった。幼さを残す少年で呪いのせいで弱っていた事もあって頬がかけていた。

 

 「少しやつれたね」

 「うん、ちょっとね」

 

 呟いた二人を少し距離を開けた椅子に腰掛けたぼっちが見つめていた。

 なんだろうこの裏切られた感は…。もっと、こう…青春みたいなのを期待していたんだけどこの通夜みたいな状況なによ?さっきから一言二言喋っては沈黙の繰り返しは?ミュランちゃんは恋してたんじゃないの?ジェイル君も会えると聞いた時には薄っすらと頬を染めてたからてっきりそうなんだと思ったけれど…

 ずずずとお茶を啜りながら何か展開がないか見守っていたがもう我慢できずに二人に近付く。

 

 「ミュランちゃ…さん」

 「な、何だよ?」

 「ジェイル君の事、好きなんだよね(ぼそぼそ」

 「はぁ///あああああ、あんたにゃに言ってんの!?」

 「ど、どうしたんですか?」

 「…なんでもない///」

 

 顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 

 「ジェイル君。ミュランさんとは何時知り合ったのですか?」

 「え、何時と言われましても…」

 「ここの人たちとケット・シー達に聞いた所では君が生まれる前から交流は断絶していた。だがミュランさんは何処で君の事を知ったのかな?」

 「ジェイルは何も悪くねぇからな!!」

 

 心の底から困った顔をしたジェイルを助けたのは先程までそっぽを向いてたミュランだった。

 

 「5年前だったか、山を降りて食いもん盗りに来たら罠にかかってよ。それをジェイルが助けてくれたんだ」

 「ほほう」

 「うちが猫人と分かってても助けてくれてさ。それからちょくちょく目を盗んでさ…」

 「逢引していたと」

 「なっ!?逢引ってそんなんじゃねぇし///なぁ?」

 「――///」

 「何か言えよぉ///」

 

 俯いたまま真っ赤になるジェイルをミュランは真っ赤になりながら縋り付く。見てて微笑ましく思い頬が緩む。気付かれてジト目で睨まれるがスルーして再びジェイル君へ。

 

 「人の目を気にしていたからあの雑木林に向かったのかな?」

 「―ッ!?」

 

 真っ赤だった顔が一気に元に戻り目を見開いてこちらを見ていた。

 

 「ミュランさんはジェイル君が呪いをかけられていた事を知っていますか?」

 「呪い!?ちょっと大丈夫なの!」

 「落ち着いて。アルカード様のおかげで治ったから」

 

 呪いって言ったら呪詛や怨念とかホラー系を想像する人が居るだろうがこの世界では長期的に続くデバフも呪いの類に入るのだ。理由はポーションが効かないからだそうだ。ポーションや回復系魔法が通用すれば怪我や病気。デバフは状態異常なので効かないんだよね。

 なんでぼっちがその事を知っているかと言うとたまたま出会ってしまったのだ。ケット・シーが暮らす山へ向かうには村の門を潜って山に向かって行くルートがあるのだがそこまでの道に隠れられるようなところは無く、簡単に村人に見つかってしまうのだ。そして少し遠回りになるが雑木林を抜けて行くルートがある。この雑木林は山までは続いてないが村からは見えない山の入り口へ行くことが出来るのだ。この雑木林は先日ぼっちとステラが切り開いた葡萄畑になったところである。

 最初に木々を切っているとそれと出くわしたのだ。猿と蜥蜴が混ざったようなモンスターで出会った瞬間驚いてデバフをかけてきたのだ。どうやら小心者で相手を状態異常にしている内に逃げるのだろう。状態異常になる確率は5%以下でそもそもデバフ対策しているぼっちには意味は無かった。そのモンスターは雑木林ごとステラに焼き払われていたが…火を消すのは大変だったな。やっぱり火を使うならそれを消す方法も知ってからじゃないとどこかの狐様も言ってたし。

 

 「ずっと会いに来てくれないからてっきり嫌われたかと…」

 「そんなこと無いよ」

 

 って何か考え事してたら二人だけの世界入ってるし…まぁ、良かった良かった。

 ここに居ても邪魔になるだろうから気配を消して部屋の外へ出る。もうあの二人は良いから他の村長たちの様子を見に行く。

 

 「うひゃひゃひゃひゃ。いや~愉快愉快」

 「うはははは、いやはやこんな楽しいとは」

 

 中を覗いたぼっちは目を疑った。険悪だと聞いてた両者がそこらかしこで酒を飲んで潰れている。料理は食い散らかされ、酒ビンはそこらに転がっている。中央では筋肉ムキムキのネコミミを生やした爺さんと村長会議議長の肩書きを持った爺さんが腹に人の顔を書いて腹踊りしていた。そして部屋の隅では酒気にやられたのかダウンしたマインを介抱しているユリの姿。

 

 「マスター!?このような状況では如何したら…」

 

 ぼっちが来た事に気付いたステラが助けを求めて来たが最後まで聞く事無く戸を閉めて眉間を押さえる。

 今閉めたこの扉は開けたくないと思い引き返そうかと思ったがそっちの部屋も入り辛い。悩んだ結果、どちらかが終わるまで廊下に座り込むことにした。




次は本編ではなく外伝を進めようかと。とりあえず3話ほど。

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