骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第092話 「ぼっちと領地での揉め事:其の三」

 ユリを屋敷に残してぼっちとステラ、マインは険しい山道を登っていく。とはいってもマインを除く二人にとっては楽々なのだが。

 あの盗賊共が降伏してから一旦村長議長の家にてお孫さんの病気を治しているときに聞いたのだがこの険しい山のどこかにケット・シーの住処があり、時折下りて来ては畑などを荒らして行くらしいのだ。

 お孫さんのジェイル・ヴァイロンは病気ではなく呪いの類を受けていた。内容は徐々にHPを削っていくものだった。毎日お爺さんが無理をして取って来た薬草を食べさせてきた事が良かったのだ。もしそれがなかったらとっくにHP切れで死んでいただろう。アイテムは大した物でもなんでもなかったのだがどうやらこの世界ではどんな状態異常も治すアイテムは秘法と言われるレベルだったらしくまた平伏されてしまった。帰ればまだあるから良いのだがね。ユリは盗賊達ひとりひとりの書類を製作中である。

 まぁ、とりあえずケット・シーに会いに行かねばっと…

 考え事しているぼっちに向かって矢が放たれた。それを見逃す者はここには居なかった。

 

 「他愛なし」

 「アルカード様、ここはボクが!!」

 

 簡単に弾き落としたステラの横からマインが矢を放ったであろうケット・シーに斬りかかろうとするがその前にぼっちが拳骨を二匹のケット・シーに喰らわしていた。

 

 「・・・危ない・・・だろ?」

 「あ、なんでもないです」

 

 倒れた二人を起こしてステラやマインを指差す。

 

 「私達はそちらの・・・代表と・・・話したいだけ・・・それともあっちの・・・二人に任せた方が?」

 

 一瞬で距離を詰めたぼっちの恐怖を覚えた二匹は指差された方向で分かり易い殺気を放ちまくり、炎を纏ったレヴァ剣を構えるステラと刀を抜こうとするマインを見て顔を真っ青にする。

 

 「案内・・・頼める?」

 

 頷く事しか出来なかった二匹は丁寧に案内をしてくれた。途中、一匹が先行して知らせに行くとのことで行ってしまったが迎撃の準備でもされたらどうしようか?

 領民は退治を希望していたが出来るなら殺したくない。アインズ・ウール・ゴウンに入る前の仲間だったケット・シーの少女を思い出す。

 

 「あんたらか!?うちらに用があるってんのは?」

 

 数匹のケット・シーを連れた少女が上から見下ろしてきた。いかも威圧感たっぷりで……戦わずに済みますようにと祈るばかりである。

 

 

 

 山の中腹にケット・シーが暮らしている集落があり、広場で腰を下ろしたぼっち達は多くのケット・シーが警戒して睨みを効かされていた。横の二人の方が斬りかかりそうだったのを無視して辺りを見渡す。

 洞窟がある。

 別段何かがある訳じゃない。もしかしたら倉庫のようなものなのかも知れない。だけど…

 

 「気持ち悪い・・・な」

 

 索敵スキルを使用するのだが洞窟と言う情報しか読み取れない。それで良い筈なのだが何か違和感を覚えてしまう。一応では対索敵用ジャミングを毎日行なっている。自分が使っているそれと同じ感じもするのだ。でも自然な感じもするから違和感なのだが違和感で済ませて良いものか?この世界の魔法やアイテムなら知りたいし回収してみたい。もしこれがプレイヤーなら…

 

 「如何なされましたかマスター?」

 「アルカード様?」

 

 先程の一人事が聞こえていたらしく二人して心配そうに顔を覗いて来た。

 

 「二人とも。あの洞窟には近付くな」

 「え?それはどういう…」

 「マスターの仰せのままに」

 

 途惑うマインを余所にステラは頭を深々と下げて了承の意思を表した。

 もしもプレイヤーならレベルは100ぐらいの者を想定しよう。それ以外は情報が無い。そんな相手との戦闘なんて馬鹿らしい。相手を知れば百戦危うからずって言ってましたっけね。ぷにっと萌えさん… 

 今日はギルドメンバーをよく思い出すなぁと思っていると先程の少女が現れて向かい側に座った。真ん中に机も何も無く、地べたに座っている。

 

 「うちはミュラン。ここらの猫人を束ねるギルド『山猫』の代表代行さ」

 「私はこの辺りの領主となったアルカードと申します。以後お見知りおきを」

 

 ミュランと名乗ったケット・シーをお辞儀をしながら観察する。靴は履かずに素足で服装は白い短パンに膝まで届くコート。寒いのか熱いのかどっちなんだよと突っ込みたくなる。しかし白い服装に対して真紅のショートヘアがよく映える。

 胡坐を掻いたまましかめっ面をするミュランはぼっちの言葉を聞いてピクリと尖った猫耳を動かした。

 

 「へぇ~。お見知りおきをって事は追い出しに来たわけじゃない訳だ」

 「私は貴方方と領民の共存を望んでいます」

 「はぁ?人間との共存だって…ばっかばかしい」

 

 興味を持ったかと思ったら今度は呆れられた。何故だ?

 大きくため息を付き、呆れ顔のまま話は続く。

 

 「そもそもこの土地に最初に居たのはうちらだ。それを後から来たあんたらが剣や槍を持って追い出そうとしたのを忘れないよ」

 

 えー…えー…。そんな事聞いてないんですけど。村長たち教えといてくれよ。どう考えても共存無理じゃね?悪いの人間じゃん。んー…今住んでない一帯を返しますっつてもなぁ…出て行けぐらいしか要求されない気が…

 

 「でもまぁ、ここまで来た領主なんて人間いなかったから条件を飲んでくれたら共存だってしてやんよ」

 「条件ですか」

 「ああ、そうさ。うちらはこんな山奥に住んでいてね。食べ物も少ないから下まで降りて食べ物を取って来るんだ。まずはそれを改善してくれたらねぇ?」

 「…主食は?」

 「何でも。猫人は文字通り猫と人の混血種。猫よりではあるけれども人間が食べれる物は何でも食えるよ」

 「と言う事は好物は…魚?」

 「そうだけど…魚を運んでくるつもり?ここまで運ぶまでに腐っちまうだろ」

 「いえ、ここで育てます」

 「は?ここで?」

 「はい」

 「こんな山の中でどうやって魚を!と言うか育てる?」

 「養殖をすればここで育てて食べれますよ。しかも増やすことも出来ますから食いすぎたり死滅させない限りずっと」

 

 ポカーンと呆気に取られるケット・シーに満面の笑みで返す。

 

 「他には何か要望はありますか?」

 

 同じく呆気に取られていたミュランはハッと我に返り、慌てて口を開く。

 

 「まださ!他にもここの権利にうちらの身の安全とか…」

 「良いですよ。山の権利と身の安全の保障ですね」

 「はぁ!?そんなにあっさり飲むのかよ!!」

 「はい?」

 「人間ってのは他種族を襲ったりするんじゃないのかよ!?」

 「ああ、中には居ますねそんな輩が。私はする気はありませんが」

 

 面食らったミュランは驚いた顔でぼっちを見ていたがずっと笑っていることから馬鹿にされているような気がしてむっとする。

 

 「あとは…」

 「貴様、まだマスターに要求する気か!?身の程を…」

 

 なんか先程からわなわな震えてると思ったらそんな事を思ってたか。ここはいさめなければ戦争…虐殺になるな。

 

 「ステラ」

 「はっ!」

 「ステイ」

 「は?…はっ!申し訳ありません…」

 

 剣を抜こうとしたが命令を受けてしゅんとなったステラを眺めてから向き直る。

 

 「申し訳ありません。続きをどうぞ」

 「え、あ、ああ。あとは金銭」

 「・・・お金?」

 「店で物を買うのに必要なんだよ。うちらが買い物したら悪いんか?」

 「いえ、ちっとも。では里山で働きます?ああ!ここで養殖した魚の一部を売ると言うのはどうでしょう?最初の費用はこちらで出しますから後の管理はお任せしますので」

 「売るってうちらみたいな猫人が持って行った魚を誰が買うんだよ?」

 「私ですが」

 「お前かよ!?」

 「私は商人でもあるんでここらに食事処をと思っておりまして。売ってくれたら魚料理も出来て助かるんですけど」

 「…分かったよ。共存の件をのんでやる」

 「そうですか。それは良か…」

 「正し次が最後だ」

 

 ようやく終わりかと思った矢先にミュランは強く言った。よほど言い難い事なのか間が空く。

 

 「ジェイルと話をさせろ…」

 「ジェイル?」

 

 今まで黙っていたマインが口を開いた。

 ジェイルって誰だ?初めて聞く名…あれ?聞き覚えがあるような。ないような…あ!

 

 「ジェイルと言うとジェイル・ヴァイロンですか?」

 「そうだよ。まぁ知ってんよな」

 

 知ってるも何も村長会議議長のコルさんのお孫さんじゃん。さっき会ったよ。

 

 「あんたは領主ってもいっつも居ないんだろ?そしたらうちらは村長達と話す事が多くなる訳じゃんか…だったら後々の事を考えたら議長の孫と話すってのも良いだろ?」

 

 なんかずれてる様なこと言ってるけど…

 腕を組んでそっぽを向いて隠そうとしているのだが頬が赤くなっているのは一目瞭然だった。念のためスキルを使用する。彼女の情報を読み取っていくと思ったとおりのものがあった。

 恋愛感情って惚れてんじゃん。青春だね。若いって良いね。

 

 「っんだよ!そのニヤケ面止めろ!!」

 

 ステータスを見てほのぼのとしたぼっちはいつの間にかにやけていたらしい。緩んでいた頬を引き締めて手を差し出す。

 

 「分かりました。ジェイル君との交渉の場を設けましょう」

 「ああ、頼むで」

 

 ミュランと固く握手したぼっちはどう段取りしようかと熱意を持って決意していた。


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