職員日記 作:りんご飴
真面目にシリアルという謎行為はこうなった。
ルウィーの中心街から離れた倉庫が立ち並ぶ区域にアレンはいた。
「リアルに拉致られたなう」
アレンは薄暗い倉庫へと押し込まれ、そう口にする。
逃走劇の説明は面倒なので省くが、それなりの傷も負いながら街中を縦横無尽に走り回ったのは確かだ。
「俺を縛ってどうするつもりだ?」
アレンは目の前に立つ、紅髪の女性ーーマジック・ザ・ハードに疑問を投げかける。
「あ、わかった。俺に乱暴する気でしょう?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
余計なおまけ付きで。
「でも、ちょっと雰囲気がクレイジーだけど綺麗なお姉さんだし、むしろこっちからお願いします!」
もっと余計なおまけもあった。
一方、対峙しているマジックは開いた口が塞がらなかった。アレン・エドワードをここへ連れてきたのは良い。だが拘束を外した途端にペラペラと止まることなく喋り続けているのだ。あまりのマシンガントークに呆然とする他なかった。
そうして暫くの時を過ごし、思考が復活すると同時に自分が知っているアレン・エドワードとの食い違いに戸惑う。直接会ったわけではないが部下の報告や、同じ四天王であるブレイブとトリックに聞いた話とはあまりに別人すぎる。
僅かな時間だけ話したというトリックはともかく、かなり突っ込んだ話もしたと言っていたブレイブの言葉には信憑性があるはずだ。
ブレイブ曰く、凡庸さと才気のどちらも持ち合わせないが、確かなカリスマと明晰な頭脳を持ち合わせた傑物であると。
だが目の前の男はどうだ?
ネットスラングなどのネタを口々に発し、こちらを煽ってくる。一言で言えばその辺りの道端に転がる石ころ並の凡人だ。
これのどこに国を運営するカリスマがあるのだ?
これが今まで散々犯罪組織に辛酸を舐めさせてきた神算鬼謀の天才だと?
マジックは顔が引き攣っているのが自分でも分かった。なんとか平静を装い、声をかける。
「お前がアレンで間違いないな?」
「あらやだ、なんか名前知られてる。お姉さん、俺のファンなの?」
対してアレンはなぜかオネエ口調で驚きを表した。それにファンだと認識されたのか、わずかに頬を赤らめながらサインとかいる?と聞かれてしまう。無論、いらないが。
ハッキリ言って気持ち悪い。
「合っているということだな。ならば聞こう、お前は一体何を考えている?」
犯罪組織を徹底的に潰そうとする者と違い、この男はブレイブの思想に賛同したという。それだけでなく、願いを叶える為の手伝いまでしているらしい。しかもだ、ほんの一時とはいえマジェコンの生産工場で働いていたとの情報もあがっている。
一体全体何を考えているのか分からない。この男の目的が知りたいのだ。ブレイブに恩を売って何をしようとしているのか、敵対姿勢をとりながらなぜ?
マジェコン工場の件も聞けるならば聞いておきたい。己を囮にしたと言えばそれまでなのかもしれないが、あまりに不自然だ。事実、彼が行方を眩ましたその時のプラネテューヌ上層部の慌てようは相当なものだったらしい。どう考えても事前に計画されていたとは思えない。
「ふぇぇ……冷静に考えると知らない人と2人っきりだよぉ……」
「は?」
問われた彼は質問に少しも掠らないどころか、180度逆の話を始めた。
「グイグイ来るのも良いけど、俺は人見知りだから困るよぉ……。まずは自己紹介とかお互いの長所を探すところから始めない?」
急になよなよし始め、自己紹介を促す。
「チッ……マジック・ザ・ハードだ」
「アレン・エドワードです。22歳、彼女いない歴=年齢のDTで、趣味は読書。あとは可愛い女の子とか好きです」
そろそろこの男は自分の額に浮かぶ青筋を認識しても良いのではないかとマジックは思い始めた。
誰も彼女いないとか聞いてないのだ。
「ねぇねぇ、マジックさん。好みの男性像とかは?俺とかどう?」
「………少なくともお前は嫌いだ」
「いやん、振られちゃったZE☆」
……もう一度だけ言おう、この男がプラネテューヌの執政官なのか?あり得ないだろう。この知性を感じさせないアホな言動。どうやったって国を背負う者の行動ではない。
しかし、ここでマジックの頭に一つの可能性が浮かび上がる。
もしかして自分は拉致する対象を間違えたのではないかと。同性同名の別人を連れてきたのではと。顔写真などさらっとしか見ておらず、あまり詳しく顔を知らない自分なのだ。間違えた可能性はあるハズだ。それに誘拐に備えての影武者を用意しているというのもあり得る。
「おい、お前の仕事はなんだ?」
「机に座って書類にハンコを押すことです」
「いや、違う。具体的な仕事名をだな」
「公務員!」
「もっと細かく言えッ!!」
やはり馬鹿だろう、この男。
真面目に答える気あるのか?
それ以前に拉致されてきたにも関わらずリラックスし過ぎだろう。いつ殺されたっておかしくないのだぞ。
「えーっと確かこの辺に……あった!」
彼はポケットに手を突っ込み、ごそごそと何かを探して引っ張り出した。
「名刺…か?」
「はい、どーぞ!」
丁寧に両手でこちらに差し出してくるアレンに合わせ、こちらもキチンと受け取ってしまった。
そしてそこに書かれていた名はアレン・エドゥアルド。教会職員であることの他にも色々書かれているが、マジックは狼狽していて入ってこない。
狙ったのはアレン・エドワード。しかしこの名刺を見る限りこの男はアレン・エドゥアルド。
………………………。
「やはり、人違いだったか」
「ん?」
マジックは独りごちた。
己の排除すべき怨敵と定めたアレン・エドワードがこのような俗物であるハズもなかった。きっと、それはそれは威厳ある奴に違いない。まだ見ぬ敵を思い浮かべ、彼女は口角を吊り上げた。
人違いでこの誘拐は徒労に終わったにも関わらず、マジックは安堵していた。このふざけた男がアレン・エドワードではなかったことに。そして本物に出逢った時はこの無意味な時間を過ごした当てつけも行うと心に決めて。
「ふはははッ!!もうお前に用はない。何処へでも行くと良い」
喜色満面でそう告げるとマジックは何処かへと去ってしまった。
そして、アレンは首を傾げていた。
「うーん、あの人って犯罪組織の人だよなぁ。てっきりお前を排除するッ!(キリ。とか恐ろしい展開になると思ってたんだけどなぁ」
「あ、渡す名刺間違えた。これゲイムギョウ界語で読んでないやつやん」
「ネタで外国語読みの名刺作ったの忘れてた。エドワードって、外国語で読むとエドゥアルドなんだよなぁ(不思議」
「というか日記がないでござる。日記を失くしたのと拉致られたストレスで外用のクールな俺をやれない件」
雑ですね、申し訳ございません。