職員日記   作:りんご飴

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新年明けましておめでとうございます(遅れ気味

予定がズレてブレイブの分しか載せられませんでした。
長くなるので……



第4話

 

 

 

 

ブレイブ・ザ・ハードはプラネテューヌにある何の変哲もない公園を訪れていた。目的はただ一つ、プラネテューヌの執政官であるアレン・エドワードに接触するためだ。

ブレイブは知りたかった。執政官として抜擢されるまで目立った功績などなかった紛れも無い一般人がどうして国を纏め上げ、率いるほどのカリスマと政治能力を有しているのかを。そして出来るならば犯罪組織に引き入れたいと考えていた。アレン・エドワードを取り込むことが出来れば間違いなく犯罪組織はゲイムギョウ界を支配することが出来る、そんな確信があったからだ。

 

そんな想いを持つブレイブは意気込んで彼に近づいたが、困惑していた。理由は簡潔。本当にこの男がプラネテューヌを運営しているのかと思ってしまったのだ。あまりにも何も感じない。一般人が持つ凡庸さも、天才が持つ才気もない。道ですれ違っても気づかないだろう。

 

「お前がアレン・エドワードで間違いないか?」

 

そう背後から声をかけ、振り返った彼はこちらを見て酷く驚いた様子を見せた。おそらくだが自分の外見についてだろう。

 

多少の困惑を隠す為だろうか、彼は努めて平静に答えた。

 

「その通りだが、あなたは?」

 

「俺の名はブレイブ・ザ・ハードという。お前という人間がどんなものなのか、それを知りたく声をかけさせてもらった」

 

下らない小細工など弄す気はない。ブレイブは単刀直入に話を聞く。

 

「俺がどんなもの?…よく分からないが立ち話もなんだ、座ると良い」

 

彼はベンチの中央に座していたが端へと動き、ブレイブに着席を促す。促されるままにベンチに腰をかける。

 

「で、俺の何が知りたいんだ?自慢じゃないが大した取り柄もない一般人だ、大層な答えは返せないぞ」

 

自嘲気味に彼は語る。

 

どの口が自分は取り柄もない一般人などと嘯くのか。ブレイブはそんなアレンの態度から喰えない男だと思った。

 

それから20分ほどの間だろうか、他愛のない話を2人はしていた。軽い自己紹介から始まり、果ては好みの女性像まで様々な話をした。

 

そうして、ブレイブは核心に迫った。

 

「アレン、お前は今の世界をどう思う?」

 

「ブレイブさん?」

 

あからさまに雰囲気の変わったブレイブに怪訝そうな声を上げたのはアレン。

 

「貧富の差は広がり、世界ではゲームで遊ぶことの出来ない貧しい子供たちが大勢いる。娯楽を与えられずに生活する者が多くいる。こんな世の中をお前はどう思う?」

 

ブレイブの真摯な問いにアレンはしばらく思案し、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ブレイブさん、あんたはマジェコンを正当化したいのか?」

 

戦慄を感じた。まさか、たったの一言で己の言いたい事を見抜かれるなど思ってもいなかったブレイブ。抑えられない動揺に身を震わせた。

 

「あぁ、話がズレてるな。この世界をどう思うかね……悪いとは思っている、良いとも思ってるがな」

 

何の事もないように彼は話を続けた。

さらに口を開こうとした彼を制し、ブレイブは問わねばならなかった。なぜ自分のあの言葉だけでマジェコンの正当化までたどり着けたのかを。

 

「俺がマジェコンの正当化をしたいとなぜ思ったのだ?差し支えなければ教えて欲しい」

 

「簡単なことじゃないか。ブレイブさんの言葉は裏を返せば貧しい子供たちにゲームという娯楽を与えたいって事だろう?その手っ取り早い手段は何か、考えればすぐだ。マジェコン以外にはないだろ。だからマジェコンを正当化したいのかと思ったんだ」

 

ようやくブレイブは理解出来た。どうしてこの男がプラネテューヌを支配し、犯罪組織に対抗する事が出来ているのか。それはずば抜けた洞察力と優れた先見の明を持つがゆえなのだと。

 

「勘違いしないでくれよ?俺はブレイブさんの全てが間違っているなんて思っちゃいない。もう少し法的に健全だったら良かったけどな」

 

「お前は国を指揮する立場だろう?そんなお前が国を揺るがすマジェコンを正当化したいという考えを完全否定しないのは不味いのではないか?」

 

痛いところを突かれたと言うように困った顔になったアレン。

 

「それは言うな、俺の立場なんて無視した話をさせてくれ」

 

苦笑しながら彼は告げた。

確かにフェアではなかった。ブレイブも犯罪組織四天王としての立場を語っていないのだから相手の立場を話し合いに持ち込むのは卑怯だろう。ブレイブは何よりもそういった行動を嫌う。正々堂々、それが彼のやり方だ。

 

「すまなかったな、忘れてくれ。それで、良くもあれば悪くあるというのは?」

 

「逆に聞くが良い世の中というのはなんだ?」

 

アレンは問う。良い世の中とは一体どんなものなのかと。

 

「誰もが幸せで居られるというのは良い世の中と言えないか?」

 

「誰もが幸せね……。そうなると今度は幸せとはなんだという質問が出る。例えばの話、今の俺たちが現状を幸せでないと思っていたとする。けれど路地裏で野良犬の如き生活を送るホームレスから見たら俺たちは十分に幸せじゃないか?幸せを感じるのには個人差がある。けれどそれは黒の中で白が際立つように、闇の中で光が輝くように、幸せっていうのは不幸がそこにあるから感じられるものじゃないのか?」

 

ブレイブは思案する。彼の言う事は分からなくもない。

 

 

「だから、当然なんだ。世界が良くもあれば悪くあるのも。ブレイブさんの言った貧富の差がなくなったとしよう。それでも世界は幸せに満ちる事はないだろう。きっとさらなる幸せを求め始める。人間というのは強欲だ、次へ次へと求め続ける」

 

この善悪入り乱れた混沌とした世界こそが真に正しき姿であり、どちらかのみが存在する世界などあり得ない。それがアレンの示した考えだった。

 

ブレイブはあくまで子供たちに娯楽を提供したいだけであって、世界そのものを良くしようとしているわけではない。だが、彼の考える通りなのであれば子供たちにマジェコンを普及させ、ゲームという娯楽を皆が手にすれば、さらなるものを求め、再び差が生まれるであろう事は想像に難くない。

 

「では、どうすれば良いのだ?どうすれば報われぬ者を助けることが出来る?」

 

「あんたは神か何かか?何時から誰かを救えるなんて思っているんだ」

 

「何だと?!」

 

「烏滸がましいと言ってるんだ。そもそも、その報われぬ何某とやらはあんたが決めつけたものだろう?その何某には何某なりの幸せがあるはずだ。それを第三者の独り善がりで不幸と決めつけるのはいささか問題がある。具体的には子供たちだ。子供たちは本当にゲームが出来ないから報われないのか?もしかしたらサッカーやら野球、鬼ごっことかしながら日々を楽しく過ごしているかもしれないじゃないか」

 

「それは……」

 

ブレイブは言い淀む。彼の言うとおりゲームで遊べないから不幸で報われない哀れな者だと決めつけるのは間違っている。

 

「まぁ、ゲームをやりたくても出来ない子供はいるんだろうけどな」

 

ふとアレンが零した言葉にブレイブは噛み付いた。

 

「その通りだ!俺はそんな貧しい子供達の悲憤から生まれた!ゲームをしたくても出来ないという想いから俺は生じた!」

 

心の底からの叫び。

ブレイブは己の出生の秘密も気にせずに吼えた。

 

ブレイブの剣幕に驚いた彼は少し引き気味だったが、何かを閃いたかのように口を開いた。

 

 

「なら、公共施設としてゲームを出来る場所を提供しようか」

 

「ーーッ?!」

 

「市民の要求に応えるのが政府の義務だ。それが民主主義だからな。セーブとかは出来ないから、メモリくらいは用意して貰う必要があるが場所とゲーム自体を行政で用意すればすぐにでも出来る」

 

「…ほ……本気で、言っているのか?」

 

「昔の俺ならどうしようもないが今の俺は身に余る役職に就かせてもらっているからな、多少の無茶は通る。それに貧しくてゲームが出来ない子供たちがマジェコンに手を出しているというのであれば、そちらに対する対抗手段にもなり得るからな」

 

根本的な解決にはならない気休め程度だがとアレンは付け加えた。

ブレイブは言葉を失う。

 

「違法コピーなんかよりも、その方がずっと楽しくプレイ出来るハズだ」

 

呆然とするブレイブにアレンは微笑んだ。

 

やがてブレイブは腰をかけていたベンチから立ち上がる。にこやかなアレンは不思議そうに彼を見つめた。

 

「俺はまだ考えねばならない事が多いようだ。さらばだ、友よ」

 

そう言い残し、ブレイブはアレンの元を去っていく。

目的は果たせたとは言えない。彼の力の一端を垣間見た程度で、犯罪組織に勧誘することも出来なかった。しかし彼との問答はブレイブに少なくない影響を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかぐだっているなと。

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