ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

90 / 121
第84話「最低な彼が譲れない願い事」

目の前で切り刻まれ、トリオン体を散らせた姿を見て、彼は思った。

 

(もしも悪夢というものがあるならこういうことで…、悪魔がいるとしたら、コイツみたいな奴のことを、言うんだな)

 

*** *** ***

 

「じゃあ最後に、地木隊の対策を練るぞ」

試合前日に設けたミーティングにて、柿崎国治はそう話題を切り出した。ここまでのミーティングで、柿崎は不知火から授けられたステージ設定や序盤の動き出しを説明し終えた。諏訪隊と荒船隊の対策はここまでのランク戦を元に組み上げており、残すは2シーズンぶりにランク戦に乗り込んできた地木隊への対策のみだった。

 

「まず始めに…、みんな、地木隊はどんなチームだ?」

テーブル上に地木隊のデータを示した書類をいくつも並べながら、柿崎が問いかけると、まず先に照屋が意見した。

「攻撃重視なチームです。ランカークラスの実力がある彩ちゃんに、多彩な攻撃を持つ月守くん、そして未だ成長途中の天音ちゃん…、この3人が状況に合わせて攻めてきます」

照屋の意見を聞き、虎太郎がそれに続く。

「何気に、全員走れますし器用ですよね。地木先輩と天音先輩が速すぎるんで目立ちませんけど、月守先輩だって下手なアタッカーよりは断然動けますし…。データ表見ると、全員技術の評価9ですよ」

そして最後にオペレーターの宇井が、

「オペレーターの目線だと、和水ちゃんも十分厄介かなー。あの子は現場上がりだから、他のオペレーターとは違う発想をしてきそうで…」

 

全員から意見を聞けたところで、柿崎がミーティングを進める。

「そう…、地木隊はみんなが言うようなチームだな。攻・走・技の水準が高くて、厄介な相手だろう。正直…、チーム対チームで衝突すれば…、俺たちにとって旗色の悪い戦いになるだろうな」

悲観的な分析を柿崎は口にしたが、誰もそれに意を唱えることはしなかった。程度に差はあれども、全員が似たような考えだったからだ。

 

だが、

「でも明日…、序盤が上手く決まってほんの少し戦況をコントロールできれば、地木隊とチーム対チームでぶつかる機会は無い」

柿崎はそう断言した。

 

「柿崎さん、それってどういうこと?」

尋ねたのは宇井だが同じ疑問は照屋も虎太郎も抱えており、3人は柿崎の言葉に真剣に耳を傾ける。

 

問いかけられた柿崎はテーブルの上から、1枚の資料を引き抜いた。

「これは地木隊が参加してた2シーズン前のデータなんだが…、これを見ると、地木隊は序盤のほとんどでチームを2人と1人に分断している。狙う対象が複数いる時…、地木隊は全員でどれかに集中してかかるんじゃなく、勝てる要素に勝負をかけつつ、他から邪魔が入らないように足止めを仕掛けてくることが多い」

2シーズン前のデータを引き合いにしたが、柿崎が見出した地木隊のこの性質は正しいものだった。

 

事実としてデータには残っていないものの、年末に勃発した黒トリガー争奪戦でも、アフトクラトルによる大規模侵攻の時でも、地木隊はメンバーを分断していたのだから。

 

柿崎は地木隊のこの性質が変わっていないと仮定して、言葉を続けた。

「だから…、序盤で俺たちと諏訪隊の陣形が整ったとしたら、地木隊はメンバーを分断してくる可能性が高い。全員で来られたら勝ち目は無いが、2人なら…、ましてや1人で足止めに来るようなら、それは十分倒せると、俺は思ってる」

思ってると言いながらも柿崎の目はメンバーに「お前たちはどう思うか?」と問いかけるようであり、それを見た3人は肯定した。

 

「よし。じゃあ地木隊が1人、もしくは2人で来るとして、それぞれの対策を練っていくぞ」

練ると言いながらも、柿崎は日中にすでにある程度対策を考えており、それを発表していく。

「まずは1人を送り込んできた場合だ。対策自体は全員分立てるが…、1人で来るなら、俺は月守が足止めに来ると思ってる」

月守が来ると聞き、虎太郎が少し眉をひそめて、困ったような声で意見した。

「柿崎さん…、月守先輩に対策なんてあるんですか?あの人、コロコロトリガー構成変えるので、対策練るの難しい気がするんですけど…」

「そうだな。月守のトリガー構成は毎回って言っていいほど変わる…、変わらないのは左手のバイパーくらいだろう。でも、構成じゃなくて月守の戦い方に注目すれば対策は練ることができる」

「戦い方っすか…?」

首を傾げた虎太郎に、柿崎は1つ質問した。

「虎太郎、月守のシールドがトリオン能力の割に脆いことは知ってるな?」

「あ、はい。前に一緒に防衛任務出た時に教えてもらいました。…でもその割に、月守先輩って戦闘不能になってベイルアウトする事ってほとんど無いんですよね。この前の大規模侵攻も、噂だと人型ネイバーと1人で戦って生き残った、とか聞きますし…」

「そうだ。月守はシールドが…、防御が脆い割には、異常なくらい生存率が高い。どうしてだと思う?」

続けて投げられた質問に虎太郎は首を傾けたが、代わりに照屋が意見を口にした。

「回避能力が高いんだと思います。経験と知識をフル活用して回避してるんじゃないかと…」

「…文香の言うことは間違ってないが、もっと正確に言えば、月守はそれに加えて敵の狙いを読んで、予想を立てる能力に長けてるんだ」

「予想を立てる能力…、ですか?」

「ああ」

疑問形の照屋の言葉を聞き、柿崎は丁寧にそれを説明し始めた。

 

「月守はおそらく、相手のトリガー構成、目線、間合い、身体や武器のちょっとした仕草、動き出し、全体の状況、狙っていること…、そういう色んな情報を読み取って、相手が次にどう動くかを予想…、察知する能力にとても優れたものを持ってる筈だ。その能力を使って相手が次にしてくる攻撃を予想して動いてる。そうじゃなかったら、シールドを殆ど使わないであんな生存率はあり得ない」

柿崎が話す詳しい分析を、3人は当たり前のように聞き入れる。

 

かつてチームを組み、柿崎のことをよく知る嵐山や時枝は彼のことを「慎重な男だ」と言う。隊を率いる采配にもそれは現れており、危険な場所に隊員を送り込むことはせず、手堅く動かす。ランク戦では敗戦が多いため目立つことは無いが防衛任務を始めとする実戦では柿崎隊のフルメンバーでの生存率はボーダートップクラスであり、その事実が、彼の危機察知能力の高さを裏付ける。

 

柿崎に自覚は無いものの、慎重な性格と危機察知能力と4年に及ぶ経験が元となって、戦場や対戦相手を分析する能力は高いのである。

 

月守の特性について説明し終えた柿崎は、そのまま対策の説明に移った。

「そして、その月守の予想を立てる能力への対策だが…、結論から言えば、俺たちが行動の目的を変え続ければいい」

行動の目的を変え続けるという対策を聞き、いち早く柿崎の真意を見抜いた照屋がそれに続いた。

「つまり…、月守くんが私たちの攻め方に対応し始めたところで、攻め方を変えればいいんですね。射撃戦に対応してきたら白兵戦に切り替えたり…、誰か1人を軸にした攻めたかと思えばすぐに軸になる人を変えたり、腰を据えて戦うと思わせたところで機動力を生かした立ち回りにしたり…、ということですよね?」

「そういうことだ。この方法だと仕留めるまで時間はかかるだろうが…、月守は特性上相手をよく見たがるから速攻で来ることは無いだろうし、大丈夫だろう」

 

柿崎はそこで月守への対策を締めくくり、次の対策を発表しようとしたが、そこで宇井が「でも、1つ気になることがあります」と控えめに挙手しながら意見した。

「なんだ、真登華?」

「この前のランク戦の後の記録なんですけど…、どうも、地木ちゃんと月守くんが真剣勝負したみたいなんですよ。そしてそのスコアは2ー8で月守くんが圧勝していて、動画で内容を見ても圧倒してるんです」

「ああ、そのログは俺も見たよ。荒々しいように見えて無駄の無い動きで、攻撃も地木のやりたい事を封殺しながらもダメージを与えていく、見事なものだったな」

言いながら柿崎は、宇井の懸念に気づいた。

それは今の月守の戦闘能力はランカークラスのアタッカーと渡り合うレベルにまで引き上がっているのではないか?というものだ。柿崎自身もこの懸念は抱いたが、ログを何回も見直すうちにこの懸念は杞憂だと判断した。

 

「だが、明日の月守は開戦から高いパフォーマンスはしないだろう」

「え?なんでですか?」

「そのログを見返してて気づいたんだが、あの戦いで月守は行動や攻撃に迷いが無さすぎた。でもそれでいて、動きにギャンブル性というか、投げやりなものも全くなくて…、まるで、地木が次にどう動くのか分かりきって、対応できるように見えた。…さっきの予想する能力の話と重なるが…、月守は地木の戦い方を他の正隊員の誰よりも知っている。きっと踏み込み1つ見ても、それがフェイクなのか本命なのか、その後に続く攻撃は斬撃なのか刺突なのか、それが単発なのか連続技の起点なのかを、見抜けるのかもしれない。他の隊員相手ならまだ様子見する早い段階でも、月守は地木に限って言えば初動で後に続く行動を見抜いて戦ってる。…確実な根拠というわけじゃないが、月守の戦闘能力は相手の動きをどれだけ予想できているかに比例している筈だ」

説明する柿崎の言葉に、ほんの少しだけ不安の要素を嗅ぎ取った虎太郎が、確認するように問いかけた。

「柿崎さん、あの…、もし月守先輩の戦闘能力と予想の精度が無関係だったとしたら、月守先輩は開戦から強いわけですよね。もしそうなったら、どうしますか?」

 

虎太郎の問いかけに対して柿崎は少し間を開けてから、

 

「もしそうだったら…、一旦、全力で逃げる」

 

堂々と宣言した。

 

*** *** ***

 

いざ戦闘が始まるまでは懸念が残っていたが、始まってしまえばその懸念は必要なかったと柿崎は思った。

月守との戦闘になった柿崎隊は例の対策通り、攻め方を変え続けた。

 

射撃戦から白兵戦へと切り替え、月守が対応しかけたのを察知すれば陣形を引いて固まり距離を取って腰を据えた射撃を多用し、それを月守が打破しようとすれば散り散りになって走り回る機動力戦にシフトした。

攻めの中心に柿崎を据えながらも、それすらも照屋から虎太郎へと切り替えていき、時には連携をわざと取らずにバラバラに攻めた場面もあった。

それでも月守が対応してくると、柿崎隊は戦闘を放棄して逃走するようなそぶりを見せて反応を伺い、徹底的に彼を揺さぶった。

 

そして柿崎隊のその作戦は、予想以上に有効に作用した。柿崎隊の攻め方を変更し続ける作戦により、その対応を切り替える時に生まれる隙に攻撃を撃ち込まれた。

結果として、決定的な一撃は貰わないものの、ジワジワとダメージを受けていった。

 

柿崎が考えた対策は予想以上に()()()、想定以上の効果を発揮していた。

 

こと戦闘面において、月守は基本的に受け身である。事前に敵の手の内を知り尽くすか、圧倒的な力量差がある場合は別だが、それ以外の相手…、未知の敵や、同格、格上との戦闘では敵の手札を十分に見た上で攻め方を選ぶクセがあった。

 

黒トリガー争奪戦の時は、三輪たちが自分たちを仕留めに来ていると判断したから罠を張った。

大規模侵攻の時は、未知の敵ヒュースの手札と狙いを十分に見切ることが出来たから詰将棋のような攻めを展開した。

ラウンド2の時は、那須隊が乱戦を望んでいる事を看破した上でそれを制しようとした彩笑の意見に乗った。

 

敵の出方を判断できないまま月守が勝負を仕掛けることは、今までほとんど無かった。シールドが脆く咄嗟の防御に期待できない彼が、初見殺しに近い技を恐れたために身についた、拭いようのないクセだった。

 

攻めあぐねている月守の表情は僅かに歪み、つい、と言った様子で仕打ちをした。悪態をつく姿を見た柿崎は、この戦い方が有効に作用していることを改めて実感した。

 

その実感から気持ちにゆとりが生まれ、柿崎の視野が少し広くなった。すると諏訪隊と地木・天音ペアの戦闘が視界の端に収まり、そこに意識が向いた。今にも旋空弧月を振るわんとする天音を見て、柿崎は焦った。

 

(ここで諏訪隊が退場したら、地木隊との一騎打ちになる!)

 

現状、柿崎隊からすれば諏訪隊にはまだ残っていてもらわなければ困るため、柿崎は反射的にアサルトライフルの弾丸をメテオラに切り替え、銃口をその4人がいる方向に向ける。

 

仕留める気はない。ただ少し妨害して、戦闘を仕切り直させたい。

そのために柿崎は引き金を引いてメテオラを放った。

 

柿崎の取った行動が、相手全員を警戒していた月守の目に入り、彼は素早くそれに対応した。

 

攻撃のために展開しかけていたアステロイドを急遽目的を変えて、メテオラを撃ち落とすために放ったが、そのアステロイドは虚しく柿崎のメテオラからわずかに逸れていった。

 

「くっそ!」

 

月守らしくない荒々しい声も虚しく、メテオラは4人の近くで爆発した。メテオラは柿崎の狙い通り、諏訪隊を仕留めようとしていた天音を妨害し、戦闘を仕切り直させることに繋がった。

 

思った通りに戦況をコントロールできたことに安堵する柿崎だが、それ故に、

 

「『咲耶ぁ!今撃ってきたの柿崎さんでしょ!?ちゃんと抑えててよ!』」

 

戦場に響き渡った彩笑の声に一際驚いた。

 

通信に乗せられたその声はまるですぐそこで怒鳴ったかのようで、声を通して彩笑の怒気が十二分に伝わってきた。

 

「『…ああ、悪い。次は、ちゃんと抑えるからさ…』」

 

力なく答えた月守は視線を彩笑から外した。新たな視線の先では柿崎がアサルトライフルを構えており、その姿からは自信が見て取れた。

 

偽りのない怒りを見せた彩笑と、作戦が上手くいき気持ちに優位性が出てきた柿崎の姿を見て、

 

月守は左手で口元を隠し、笑った。

 

*** *** ***

 

「柿崎隊が優勢だな」

試合を観覧室の後方にあるVIPルーム(通称)で観ていた忍田が戦況を簡潔に呟き、

「…押してる感じは出てるねぇ…」

左手で頬杖をしながら、不知火がつまらなそうに言葉を返した。

 

彩笑・天音ペア対諏訪隊、月守対柿崎隊の構図で戦闘が始まるまでは楽しそうに試合を観ていた不知火だが、次第に…、具体的には月守がダメージを食らい始めた頃から表情を曇らせていた。

退屈なものを観ていると言いたげな態度と雰囲気の不知火を見て、忍田は声をかけた。

「月守が苦戦しているのは面白くないか?」

 

「…まあ、ね。面白くないというか…、予想外かな」

渋々といった様子で答える不知火の心中はどんなものかと思いながら、忍田は会話を続ける。

「予想外…、確かにそうだな。相手を煙に巻くような意外性のある柿崎隊の動きは初めて見るし、その動きが月守に有効に効いているように見える…」

 

「……」

 

「…しかし、いくら初見の戦法とは言え、月守がここまで苦戦するのは私も驚いている」

 

「………」

 

「…かつて…、夕陽と共にランク戦黎明期で輝き…、地木が加わって時にはボーダー最高火力とすら言われたチームの核を担っていた隊員とは思えないくらい、柿崎隊と戦っている彼は精彩を欠いている」

 

「…………」

 

「…今回に限らず…、大規模侵攻で人型ネイバーを倒す成果を挙げた以降、ランク戦では目立った活躍がない。…俗に言う燃え尽き症候群というやつなのかもしれないが…、彼に必要なのは成長よりも安定なのでは…」

 

「………………」

 

「…不知火?どうした?」

無言を続けた不知火を心配して忍田は尋ねたが、不知火はそれに対して、

「…ふふ」

小さな、小さな笑い声を返した。それは沸々と湧き上がるような勢いで大きなものになり、最後にはVIPルーム中によく通るアルトボイスの笑い声が響きわたる。

 

長い笑い声がようやく収まったところで、

「忍田先輩…、君は今、騙されてるよ」

不知火は心底楽しそうにそう言った。

 

騙されているという指摘に忍田が素早く反応した。

「騙されている…?」

「ものの見事にね。まあ、相対してる柿崎隊からして騙されてるようだし、その他なら騙されて当然なんだけど…」

「…まさか、月守が追い込まれているように見えるのは、演技だと言うのか?」

疑いながら問いかけてきた忍田に不知火は答えようとするが、彼女が視界の端で捉えていたモニターで、月守が左手で口元を隠すところが見えて、不知火は問いかけに答えるのをやめた。代わりに、

 

「嘘だと思うなら、もう少し見てなよ」

 

これから始まる反撃を1人だけ見抜いていた不知火は高揚感を孕ませた声でそう言った。

 

*** *** ***

 

違和感は初手からあった。

次のやり取りでいつもとは違うのが分かった。

その次の手で、月守は柿崎隊の狙いをほぼ看破した。

 

(ああ…、柿崎さん、俺とまともに戦う気が無いんだな)

 

肩透かしにも落胆にも似た感情と共にそう確信した時、月守はそれをチャンスだと捉えた。違和感を覚えた直後こそ面倒だと思っていたが、その違和感の本質さえ捉えてしまえば十分な勝機になった。

 

その勝機をより確実なものにするために、彼は柿崎隊を騙すことにした。

 

作戦が上手く機能していると思わせるように、攻撃への対処を演技だと気付かれないギリギリまで遅らせた。

周りから見て取り乱していると思わせるように、戦闘が続くにつれて攻撃の精度を少しずつ下げた。

何もかもが上手くいっていないと言いたげな悪態も、何度か演じてみせた。

 

そうして戦闘を長引かせ、月守は観察に徹した。

 

こちらからの攻撃を柿崎隊がどう対応するか見て、事前に観たログとこの試合の柿崎隊の動きを擦り合わせた。スムーズにストレスを感じさせないように3人を動かし、動きのクセや傾向を深く探った。最後には、相手がどう攻撃してくるかを高い精度で予測することを可能にしていた。

 

柿崎隊の攻撃を捌きながら…、相手が3人で自分が1人だけというシチュエーションを背負って、月守は思う。

(弱くはないけど…。それでも銃口は1人1つだし、威力もレギュレーション内だし、動きの速さも十分目で追えるし、姿が消えるわけでもない。…あのラービット達と比べたら、十分対応できるな)

 

現状をどこか楽観視する月守だが、その実、彼もこの流れに持ち込むことしか選択肢が無かった。

月守は柿崎隊の相手を彩笑に指示された直後、本音としてはすぐに誰か1人倒すつもりだった。開戦から試合をリードし続ける柿崎隊を崩そうと目論んでいたのだが、この戦闘での柿崎隊の狙いを看破したと同時に、

(…なんか、俺自身も変だな。上手く…、踏み込めないというか…)

説明し難い、奇妙な感覚に襲われていた。

 

月守の理想としては、ケルベロスプログラムを乗り切った時の精神状態で柿崎隊を倒すことだったが、何故かあの精神状態に持っていくことが出来なかった。攻め込むことに失敗したからこそ受け身に回るという選択肢に縛られ、そこから彼は活路を見出した。

そうして柿崎隊の解析を進めると同時に、彼は自分のことも分析し始めた。

 

何故あの状態に持っていけないのか。

何かきっかけがいるのか。

あるとしたら、それは何か。

相手か、状況か、自身の行動か、気持ち的なものか。

 

そこまで考えた月守は現状を利用して、あの状況の再現を試みた。

 

相手…、敵は3人。

状況…、攻撃をとにかく避けて、一瞬の隙を突くような反撃。その戦闘を繰り返す。

自身の行動…、グラスホッパーによる回避を軸にしてとにかく動き回り、敵の位置を絶えず意識する。

気持ち…、これだけは再現出来なかったが、それでも朧げに、あの戦いで感じていたことをなぞるように思い出した。

 

そうして現状で出来る限り、あの戦闘に近い状態に持っていった時、月守は感覚で分かった。

 

(いける。今すぐにでも、あの状態に切り替えれる)

 

それが出来ると、彼の理屈ではなく感覚がそう叫んでいた。

 

柿崎隊の動きと自身の攻める形を掴んだ月守は、それをどのタイミングで発揮するかに意識を割いた。攻めるなら確実に相手を倒しきれる時か、彩笑たちの戦いに変化が起きた時。そのどちらかに絞るべきだと彼は考えた。

しかしここで柿崎が月守の予測から外れた、もう一つの戦場にメテオラを放つという行動に出た。遠目だったが撃つ直前の不自然な間とアステロイドとは違う銃口から放たれたためメテオラだと判断した月守は慌ててそれに対応した。

 

「くっそ!」

 

本音と演技が混在した言葉が咄嗟に出たが、彩笑たちの方に届く前に撃ち墜とそうとしたアステロイドは外れた。

自身の油断と失策により仲間を危険に晒した事を後悔する月守だが、彼に落ち込む暇なんぞ与えねえと言いたげに、

『咲耶ぁ!今撃ってきたの柿崎さんでしょ!?ちゃんと抑えててよ!』

彩笑の怒気が込められた声が届いた。

 

冷水をかけられたかのように気持ちが引き締まった月守だが、そんな心の内とは裏腹に、

「『…ああ、悪い。次は、ちゃんと抑えるからさ…』」

彼の口から出たのは、どこか力無く聞こえる声だった。

 

気のせいだと思ったが、それはやはり力無く聞こえる声だった。

その証拠に、月守と目が合った彩笑の表情からは、いつもの笑みが消えた。いつでも楽しそうに笑う彩笑には似つかわしくない、暗い表情が出てきそうになったのを見て、月守は視線を外して柿崎へと合わせた。

 

同時に彼は、ここから攻めることに決めた。

 

柿崎隊を倒しきるためのベストなタイミングではないかもしれないが、そんな些細な事は表情を曇らせた彩笑を見てしまった瞬間、月守にとってはどうでもよくなった。彼が求めた理想は、仲間を不安にさせてまで欲しいものでは無かった。

 

攻めると決めた月守は、左手で口元を無意識に隠して、笑った。空が澄んだ日の三日月のような笑みは、誰にも見られることは無かった。

 

その笑みのまま月守はこっそりと通信回線を繋ぎ、小さく早い声でオーダーを出した。

 

一方的な通信を切った月守は、柿崎隊3人の位置を確認する。

 

(3人横並び…、いや、真ん中の柿崎さんだけ若干下がり気味。距離はいずれも等間隔…、その場でも射撃で十分援護できるし、ちょっと遠いけど白兵戦にもシフトできる、オールラウンダーとして理想的な距離)

 

相手との間合いを測ってすぐに、左手を口元から外して、素早くキューブを生成して、バイパーを上空へと撃ち上げる。その射撃を柿崎が目で追った瞬間を確認して、グラスホッパーを足元に展開して一気に距離を詰める。

照屋と虎太郎はバイパーを目で追うより前に動いた月守に気づいたため、突撃に対して対策を講じた。当然、照屋はアサルトライフルを、虎太郎はハンドガンの銃口を月守に向ける。

予想通りの動きをした2人に対して月守は、彼らが撃ってきた弾丸を掠めるギリギリで躱しながら(何発か被弾しつつも)次の手を打つ。

 

(バイパー、メテオラ)

 

左手側から再度バイパーを展開して同じように上空に撃ち上げ、右手側から生成したキューブを柿崎と照屋がいる方向に撒き散らす。仕留められるとは思ってはいないが仕留めるつもりで放ったメテオラは確実に2人の動きを止め、その隙に月守は虎太郎との間合いを一気に埋めた。

 

受け身から一気に攻めに転じた月守を見て虎太郎は一瞬動揺したが、すぐに切り替える。ハンドガンを持ったまま右手で弧月を抜き、射撃戦から白兵戦の装いになって、彼も距離を詰める。

至近距離からの射撃は驚異だが、逆に言えば月守との接近戦で恐れるものはそれくらいだったため、虎太郎はそれを全力で警戒して接近戦を挑んだ。

しかし虎太郎が距離を詰めるために踏み込んだのと同時に、月守は不自然にブレーキをかけてバックステップを踏んだ。虎太郎がその意図を見切る前に、上空から雨のようなバイパーが降り注いだ。

 

(さっき撃ったやつか…!)

 

咄嗟にシールドを展開して防いだ虎太郎が現状を理解するのと並行して月守は再度キューブを生成し、那須が好んで使うサークル状にキューブを配置した。

 

『「アステロイド!」』

 

内部通話を通して、声が届く範囲にいる人間全てに聞こえるようにして月守は攻撃した。攻撃の際に月守は背後を見ていなかったが、彼の放った弾丸は目視して撃ったかのような正確さで、距離を詰めていた柿崎と照屋に襲いかかった。

攻撃が来ると思っていなかった2人はノールックの不意打ちに虚を突かれたが、着弾と同時に爆発した弾丸により再度驚いた。

 

(メテオラ…ってことは騙し弾…っ!使ってくるのは分かってたが、まさかこんな露骨に使ってくるのか!)

 

柿崎が心の中で反省する間にも、月守は止まらない。

 

虎太郎が態勢を立て直したと同時に月守はトリガーの切り替え、展開を済ませて踏み込み、アタッカーの間合いに躊躇いなく入り込む。ブレードの間合いに入り込むことで射程の優位を消して虎太郎の選択肢からハンドガンを奪い取り、肉迫することで誤射の可能性を意識させて柿崎と照屋から射撃の選択肢を消した。

月守は虎太郎が右手に持つ弧月のみに意識を集中させ、振り下ろされたそれを左手の先に集中させていたシールドで手を守りながらもブレードを横からはたく形で弾き落とした。

 

ブレードをはたき落とされて態勢を崩した虎太郎に対して月守は、右手に用意していたキューブを容赦なく殴りつけるようにして放った。ほぼ零距離の攻撃だったが、虎太郎はそれを間一髪で反応して後退した。それでも完全な回避とはならず、アステロイドが虎太郎の右腕を穿ち、その手に持っていた弧月ごと空高く吹き飛ばした。

 

(右腕が…っ!)

 

ロストした右腕に一瞬だけ意識が向いた虎太郎を月守は追撃する。左手でハウンドを展開して柿崎と照屋を牽制すると同時に、また一歩、虎太郎に迫る。残されたただ1つの武器のハンドガンを虎太郎は迷いなく構え、銃口を月守に向けた。躱せる筈のない距離で虎太郎は引き金を引こうとしたが、それと全く同じタイミングで、月守がバックステップを踏んだ。

そのバックステップはこの戦いで月守が踏んだものと全く同じであり、虎太郎は先程の降り注ぐようなバイパーと、上空に向けて撃っていた2回目のバイパーのことが脳裏を掠めた。

 

(また同じ攻撃が来るっ!)

 

そう判断した虎太郎は全力で後方に跳び、回避を試みた。後ろに下がったことで視野が広がり、虎太郎はバイパーが降り注いでくるであろう上空への視線を向けるが、

 

そこにあったのは雪を降らせ続けるどんよりとした雲と、吹き飛ばされた自分の右腕と弧月だけだった。

 

2回目の撃ち上げたバイパーはどこに?

 

虎太郎がそれを疑問に思うと同時に、

『虎太郎!左右から来てる!』

叫び声に等しい柿崎からの声が届いた。

 

しかし柿崎の声も虚しく、一度上空に撃ち上げられた後下降して左右から挟み込むようなコースを引かれたバイパーが無防備な虎太郎を貫き、無数の穴を開けた。

 

バイパーに撃たれたことを理解した虎太郎は、同時に、嫌な汗が吹き出た。

 

(…嘘だ、こんな攻撃が当たるってことは、月守先輩ここまで動きを読んで、誘導して…!?)

 

心が動揺に支配されかけて動きが止まりかけた時、月守は落ちてきた虎太郎の右腕から弧月を奪い取った。

 

『トリガー臨時接続』

 

弧月の使用権を得た月守は、まるで長年アタッカーだったかのような自然な動きで虎太郎に迫り、

 

「悪いな、虎太郎」

 

ほんの少しだけ申し訳なさそうにそう言いながら、深々と身体を切り裂く斬撃で虎太郎にとどめを刺した。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

聞き慣れた音声と共に虎太郎のトリオン体が爆散するが、月守はそれを見届けることなく振り返り、残る2人に視線を合わせる。2人は虎太郎が斬撃による致命傷を受けたのと同時に、同士討ちの可能性を切り捨て、アサルトライフルを構えていた。月守は視線の焦点が合って2人がその武装を展開していることを理解するより先に、サブ側のグラスホッパーを展開して足元に配置し、2人が撃ってくるのと同時にそれを踏みつけ左に大きく跳んだ。瞬時にトリガーを切り替えてバイパーをセットし、自身が記憶している中から、最も複雑怪奇な弾道のパターンを反映させてバイパーを放った。ぐちゃぐちゃに絡まった複数のコードを思わせるその弾道は2人を混乱させ、攻撃の手を止めさせて回避か防御の選択を迫った。

 

(柿崎さんはシールド、照屋は回避だな。予想通りだ)

 

ここまでの戦闘でそれぞれが咄嗟の時にどう対処するか見抜いていた月守は、予想通りに動いた2人を見て次の標的を決めた。

 

(やっぱ先にやるなら照屋だな。そうすれば柿崎さん良い人だから、この状況に持ち込んだこと悔やんで動き鈍くなりそうだし)

 

柿崎の人の良さを月守は、罪悪感の欠片すら抱かず付け込んだ。

 

月守は再度トリガーを切り替え、グラスホッパーを複数展開して照屋へと接近した。

 

虎太郎から奪ったブレードを携えたまま接近してくる月守を見て、照屋は柿崎に通信を飛ばした。

『隊長!私は弧月で応戦するので隊長はそこから援護射撃をお願いします!』

『でもそれだと誤射する可能性も高い!俺も弧月で…』

『誤射してもいいです!さっきの月守くんの動きを見てると…』

そこまで照屋が言ったところで、迫っていた月守は、

(ああ、何か話してるな)

2人が何かしら通信をしていることを見抜き、右手に持つ弧月を一旦オフにしてフリーとして、そこからメテオラを放った。

 

通信を無理やり中断され視界が遮られた照屋に月守が迫り、オンにした右手の弧月を薙ぐように振るった。本職のアタッカーとまではいかないが、少なくとも訓練生のレベルを上回る太刀筋を照屋は弧月でしっかりと受け止めた。

 

一度刃を合わせて鍔迫り合いをしているだけだが、それだけで月守はなんとなく照屋と自身の弧月の腕前の差を察した。

「さすが本職。いい腕してるね。付け焼き刃の俺じゃ敵わないな」

「ふふ、それはどうも」

皮肉に近い謝礼を口にした照屋だが、それに対して月守は淡々とした声で、

「でもその腕前は神音ほどじゃない」

しれっと後輩自慢をしてから体格差に物を言わせて鍔迫り合いを崩し、鋭い斬撃を連続して繰り出した。

 

その斬撃を躱し、防ぎながら、照屋は思う。

 

(天音ちゃんっぽい剣だけど、それに比べたらキレも速さも全然ないわね。これなら…)

 

勝てる、と、照屋が確信した瞬間、

 

「伏せろ文香!」

 

いつのまにか白兵戦の距離まで近づいていた柿崎が弧月を構えながらそう叫んだ。敵ではなく味方に驚かされる事態に照屋は慌てつつも、指示通り態勢を低くした。態勢を変えて視界が変わったことで、照屋は指示の意図を理解した。

自分だけではなく、相手もまた、隊長が援護に来ていたという事態に気付いた。

 

乱入してきた柿崎、地木の両隊長が照屋の頭上で刃をぶつけて火花を散らした。

 

照屋は低い態勢から切り上げるような斬撃を繰り出して彩笑を仕留めようとするが、彩笑はそれを危なげなく躱し、月守と共に距離を取った。

一足あれば踏み込める距離を取ったところで、月守が問いかけた。

「なんで来たの?」

「来ちゃ悪かった?」

「いや、助かるけど…、まあいいや。諏訪隊は?」

「神音ちゃんに任せてきた。ダメージ入れてるし、そもそも射程は神音ちゃんの方が長いし」

「なるほど」

月守と彩笑が会話する間に柿崎隊も態勢を立て直していた。

「隊長、助かりました」

「礼はいい。できればこうなる前に仕留めたかったが…。一旦、引こう」

「了解です」

 

小声だったが柿崎隊の会話は辛うじて月守に聴こえており、すぐに彼は動く。

「逃すかよ」

左手を掲げてキューブを展開し、細かく分割して放った。それは本部屈指のバイパー使いである那須の代名詞「鳥籠」を限りなく模倣した、取り囲むようなバイパーだった。本家に比べれば粗があるが、トリオン能力の差によって本家以上の速度と威力を発揮し、2人が展開したシールドに薄っすらとヒビを入れた。

 

柿崎隊の出鼻をくじいた地木隊は、素早く追撃に繋げる。

 

「咲耶!アレやろうアレ!」

「アレじゃ分かんねえよ。ピンボールのパターンは俺が決めていいのか?」

「いいよ!ってか分かってんじゃん!」

 

3年間で積み重ねた経験と、培ってきた技と、築き上げた互いの理解が相まって、必要最低限以下の情報でも2人はこの状況で次の手を確定させた。

 

「グラスホッパー」

月守の左手から展開されたグラスホッパーが柿崎と照屋の周囲を取り囲むように配置される。一見して、軽量系アタッカーが得意とするピンボールが来ると分かったが、それを用意してきたのが月守というのが謎だった。

 

まさか月守がピンボールを使ってくるのかと思って防御を構えた次の瞬間、彩笑は足元に用意された一枚のグラスホッパーめがけてピョンと軽く跳び、

 

「ステルスオン」

 

そう言ってカメレオンを起動して姿を消した。

 

「ちょっ…」

「まさか…」

照屋と柿崎が嫌な予感を覚えたのと、同時。

 

彼らの周囲にあるグラスホッパーが轟音と共にとんでもない勢いで消費されていった。

 

柿崎隊は彩笑が使ってくるピンボールに入念に対策をした。いくつか存在するというパターンを見抜き、このパターンの動きなら防御、このパターンの動きなら回避、このパターンの動きなら反撃できると、当たりをつけていた。

 

しかしそれも…、他人が展開したグラスホッパーをステルス化した彩笑が使うこのピンボールの前では、全ての対策が無に帰した。どんなパターンであろうとも、動き自体が見えないならどうしようもなかった。

少し冷静さを取り戻せば大きく跳んで回避、互いにシールドでフォローし合うなど対応はいくらでも取れた。だが初見で繰り出された技に動揺してしまった2人は、彩笑の移動のみのピンボールの数秒が終わるその瞬間まで動けなかった。

 

最後のグラスホッパーを踏みつけて照屋の左後方を取った彩笑はスコーピオンを展開すると同時に、

 

「ステルスホッパー」

 

その技名をつぶやいてから、高速の刺突を繰り出した。

彩笑が着地した場所は照屋の右側に立つ柿崎から死角になっており、照屋は支援を望めない状態だった。しかし、彩笑の獣じみた闘志か、呟いてしまった声か、はたまた別の何かを察知して、照屋はその刺突に反応して手を出し、トリオン供給機関へのダメージを防いだ。照屋に少し遅れて柿崎も反応して振り向いたが、その時はすでに照屋はダメージを負ってしまっていた。

 

月守が攻めに転じてから驚かされてばかりだった柿崎隊だが、今度は彩笑が驚かされた。

「ウソん」

完全に仕留めたと思っていただけに彩笑の口から驚きの言葉が出たが、それを意に介さず照屋は深く貫かれた左手で彩笑のスコーピオンと手を力強く握った。

 

「隊長!今で」

す、と言おうとした照屋の首に、投擲された弧月が突き刺さった。

 

何が起こったか照屋が理解する前に、

「2点目」

柿崎から視線が外れた瞬間に弧月を投げつけて全速力で迫った月守が照屋の首に刺さった弧月の柄を握り、自身のスコアを口にしながらそのまま刀身を真下に振り下ろした。

 

大きく損壊した照屋に、あの音声が無情にも響く。

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

照屋のトリオン体が砕け散り、1人残された柿崎は一瞬の虚無感の後、弧月を振るった。

悔しさや不甲斐なさが入り混じった叫び声をあげながら振り切った一撃だが、彩笑も月守も大きく後退してそれを回避した。

 

 

 

柿崎から大きく距離を取った月守は、ふと、思考に没入した。

(きっと…、この試合が終わった後、色々な人に言われんだろうなぁ…。倒せるなら最初から手抜きしないでやれとか、動きを見透かして手玉にとる感じが相手を見下してるとか、倒し方が残酷だとか、性格悪いとか、戦い方自体が邪道だとか、言われるんだろうな…)

それは今まで、彼が陰で言われていたものだった。特別気にするものでは無かったし、言われたところで彼自身特に思うことなく、言われるのも仕方ないと思っていた。

 

だが、戦闘のために昂らせた精神状態である今、普段なんとも思えないそれらの言葉に、ふつふつと感情が芽生えた。

(けど…、色々言われようが、これが俺なんだよ。初見の技で早々に退場するのが怖いから最初は様子見に徹したくなるし、防御が脆いから敵の攻撃封殺できるくらい見切って戦いを仕掛けたいし、王道な戦闘ができるようなスペックも無い。それが、偽りのない俺なんだよ)

そうした思いが形になり…、そしてその事を強く自覚した彼は呟いた。

 

自分のことを見てくれて、信じてくれる人(チームメイト)に向けて。

 

月守咲耶は、言った。

 

「こんな最低な俺でも、皆と一緒に勝ちたいって願うことだけは譲れねえよ」




ここから後書きです。

物語を書いてると、当たり前ですけど自分の中にある引き出しから作ってるんだなって毎回思います。今回の月守の戦闘シーン、書いてる時私の頭の中にある「個人対複数」の構図で最も印象が強い漫画「灼熱カバディ」のシーンが何度も繰り返されました。灼熱カバディ、騙されたと思って2巻まで読んでみてください。止まらなくなります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。