ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第40話「救われた過去」

C級の白い隊服を着た天音はソロ戦用のブースを出て、人気のない場所にある自販機に向かって歩いていた。

移動する中、いつもの言葉が遠巻きに聞こえてきた。

 

「ああ、例の反則サイドエフェクトの持ち主じゃん」

 

「攻撃予知だっけ?事前に攻撃分かるとかズルじゃね?」

 

「勝てないでしょ、そんなの」

 

「つか、そんなんなら早く上に行けよ」

 

「わかる。戦うの上手いし、ここは天職だろ」

 

「いやでも、たまに負けるぜあの子」

 

「え?来る攻撃視えてるなら避けれるでしょ?なんで?」

 

「さあ、手抜きじゃね?」

 

毎日形を変えて言われ続ける、妬みや攻撃性を含む悪意ある言葉だった。

本人たちは聞こえてないと思ってるのだろうが、天音の耳にはしっかりと聞こえていた。そして、

「うるさい……」

天音は呟くようにそう言った。

 

攻撃が視えるのはウソじゃない。

でも見逃すこともあるし、むしろその方が多い。

 

負けることだってある。

シールドがないから接近前に弾幕を張られたらどうしようもない。

 

手は抜いてないけど全力じゃない。

勝っても負けても文句を言われるのだから、本当に真面目にやるなんてバカげてる。

 

天音は俯いてその感情を奥底に沈めて、

「みんな、うるさい……」

ただ、そう呟いた。

 

毎日毎日、天音はこの悪意ある言葉に埋もれて過ごしていた。

 

用もなければ誰も来ないような所にある自販機に辿り着いた天音は、何を飲もうか迷った。寒かったから、あったかいものにしようと思い、ココアを買った。

ボタンを押すと、赤いランプが点灯し、

「売り切れ」

の文字が浮かび上がった。

 

(なんか、申し訳ない……)

と、天音が思いながらココアを取ると同時に、

「ああ、あったあった」

そんな事を言いながら、普段誰もいないこの場所に人が現れた。

 

その人物を天音はチラッと見た。

(Bの刻印……、正隊員……)

隊服の刻印で正隊員なのを判断し、出会い頭の声で男子だと判断した。背丈が高すぎず低すぎずの細身だし、顔立ちが整った中性的だったので、声を聞かなければ性別の判断にちょっと迷うと思った。

 

「ココアココア……って、あれ?」

その正隊員は硬貨を自販機に入れてココアを求めたが、すぐに「売り切れ」の文字に気付いた。同時に天音が持つココアにも気付いた。

 

「…………」

 

「…………」

2人に気まずい空気が流れ、その空気に正隊員の方が折れた。踵を返し、別の自販機のココアを求めて歩き出した。だが、

「あの……。私、まだ飲んでませんので、どうぞ」

天音がその背中に向けてそう言った。すると、その正隊員は足を止めてその場でしばらく葛藤した後に振り返り、

「……いや、いいよ。別にこの自販機のココアじゃなきゃダメってわけじゃないし」

と、言葉を返した。

「いえ、私こそ別に、ココアじゃなくて、いいので」

 

「いやでも……」

互いに意見を譲らず、天音は軽くため息を吐いた後、

「じゃあ、私に飲み物、買ってください。ココアと交換、しましょう」

と、提案した。

その正隊員はその意見を飲み、天音はコーヒーを受け取りココアと交換した。

 

ココアを受け取った正隊員は、

「うん、ありがとうね、天音さん」

と、お礼を言った。

 

同時に、

「……なんで、私の名前、知ってるんですか?」

自身の名前を相手が知っていたことに対して、天音は反応した。

ここ最近、C級のみならず正隊員にも天音のサイドエフェクトは伝わってきているようで、度々勧誘されることも増えていた。中には少々強引な勧誘もあるので、天音は正隊員に対しても気が立っていた。

 

軽く凄んで見せた天音を見た正隊員は、やんわりとした笑みを浮かべた。

「ああ、良かった。名前は間違ってなかったんだね」

 

「質問を、はぐらかさないで、ください」

分かりやすく警戒心を剥き出しにして、天音は言葉を投げつける。

 

正隊員の少年はやんわりと笑い、天音の質問に答えた。

「えーと、天音さんの名前を知ってる理由ね。……俺さ、一応君が入隊する時の案内役だったんだ。その時、君とバムスターの戦闘を見て、

『ああ、面白い子だなぁ……』

って思ったから、覚えてたんだ。どう?これで納得したかな?」

 

それを見て、

(胡散臭い……)

と、天音は思ったが理由には納得できたので、

「……まあ、一応」

ひとまずそう答えた。

 

ほっと一安心したように胸を撫で下ろした少年は、

「ついでに、ここ最近C級に腕は立つしサイドエフェクト持ちの黒髪の女の子で弧月使いの天音さんって人の噂と動画が出回ってるのもあって名前を覚えた」

と、後出しで付け加えるように言った。

 

「………」

その説明で一気に不機嫌になった天音は、ただ無言で少年を睨みつけ、

「……あなたも勧誘しに来たんですか?」

と、この年頃の女の子が出すにしては低い声で問いかけた。

 

すると、

「ううん?うちの隊長のワガママでココア買いに来ただけ。うちの作戦室からここの自販機近いし」

キョトンとした表情で少年は答えた。なんとなくだがウソだとは思えず、天音はそれを信じた。

(掴み所がない人だ……)

少年に対し、天音はそんな風に思った。

 

そんな天音を見つつ、その少年はココアの缶を上に軽く放り、それをキャッチしてから、

「ココアありがとね。そのお礼になるか微妙だけど、1ついいかな?」

 

「……なんですか?」

 

「……天音さん、今の気持ちのままならボーダー向かないから辞めた方がいいよー、っていう忠告」

少年はあっさりとそう言い、

「……は?」

天音は思わず、口からそんな声が出た。

 

というより、今までそんな事を言われたことがなかったのだ。

 

早く上に行け。

正隊員になって、うちのチームに来てくれ。

将来有望な子だ。

 

そんな風に、形はどうあれ上に行く事ばかりを言われ続けていた。しかし逆に、

 

辞めろ

 

とは、一度も天音は言われた事がなかった。

自分でも戦うのは他よりも上手いと思っていて、上に行くとは考えても辞めることを考えたことは、天音自身なかった。

 

今までとは反対のことを言われ、天音は多少なり動揺した。

「なんで、私が辞めなきゃ、ダメなんですか?」

天音は睨みつけて食ってかかった。

 

「ダメとは言ってないよ?ただ、入隊した時よりも目が……、こう……、死にかけた魚みたいになってるからさ。嫌なら辞めればいいよーってだけ」

 

「別に……、嫌じゃ、ないですから」

 

「そう?……たまにいるんだよ。ネイバーから街を守りたいって気持ちで入隊したはいいけど、訓練のランク戦の過程で、

『人を傷つけるなんて無理です!』

っていう、優しさと甘さを履き違える甘ったるい子がさ」

 

「……」

 

「まあ、天音さんは優しくても甘くはなさそうだし、取り越し苦労かもね……」

その少年は、そう言った。

 

天音の事を、優しい子と、言った。

 

「……はは」

俯いたままの天音は小さく笑った。

 

その「優しい」という言葉が、天音は自分に一番似合わないと思っていたから、天音は笑った。

 

「うん?俺、何か変な事言った?」

問いかけられた天音は、再度笑ったあとに顔を上げた。

 

「……勝手なこと、言ってくれますね……!私が、優しい……!?見る目、無いですよ、先輩……!」

天音は普段なら表情の変化に乏しいが、今ばかりはその表情に明確な色をつけていた。

 

「……というと?」

続きを促した少年に向け、天音は言葉を投げつけた。

「私のサイドエフェクト、知ってますか!?

『自分に当たる攻撃を予知するサイドエフェクト』

です。言い換えたら、

『自分に当たらない攻撃は予知できないサイドエフェクト』

なんですよ!?」

 

どうして見ず知らずの他人に天音はこんな事を言い始めたのか、感情を爆発させたのか、天音自身分からなかった。

 

おそらく、限界だったのだろう。

入隊してから溜め込んできた何かが、今ここで、爆発した。

 

天音は、まっすぐと言葉をぶつけた。

 

「みんな、口を揃えて便利だって、言います。でもこれは、そんなに便利じゃ、ないですよ。視えたり視えなかったり、ムラが多すぎて、イライラします!ジャマ、なんです!いっそ、視えない方が、ずっと良かった!みんなと同じ方が……、ずっと良かった!」

 

「……」

少年は、いきなり取り乱した天音の言葉を、ただ黙って聞いていた。

 

「……っ、私は、私のサイドエフェクトが、大っ嫌いです!なんなんですか、自分に当たる攻撃しか、視えないなんて……!まるで、自分だけ助かればいいみたいな、そんな能力じゃ、ないですか!

こんなの、要らなかった!みんなに、疎まれるくらいなら、こんなの要らなかったです!」

 

手に持っていた缶コーヒーを落としたが、今の天音と少年にとってはどうでもよかった。

 

「……どうして、私だけなんですか……!?どうして、他の人のは、視えないんですか……!?私のしか視えないなら、それはきっと、私が心の奥で、

『自分だけ助かればいい』

って、思ってるような人間だから、です…!」

 

いつの間にか、いつからか、天音はその碧みがかった瞳を潤ませ、顔を俯かせて吐き捨てるように言葉を絞り出した。

 

「そんな私は、優しい人なわけ、ないんです……!だからっ!私は私が、大っ嫌いです!」

 

天音が今まで心の中で思っていた事を、全て吐き出した。

自分が優しくない、人の事を思いやれないような人間だと認め、最大の自己否定をも口にした。

 

そんな天音の言葉を聞いても少年は黙ったままで、天音は俯いた顔を上げて、

「何か言ったら、どうですか……!」

半ば怒鳴りつけるように言った。

 

するとその少年は、穏やかな表情で天音に向かって言った。

 

「天音さん。君はやっぱり、優しい子だよ」

 

それを聞いた天音は思う。

この人は私の話を聞いていたのか?

と。

「どこが、ですか?先輩、今の話を、聞いてなかったん、ですか!?」

 

「聞いてたよ。その上で俺は、君は優しい子だと、思った」

 

「だから!どこがっ!?」

人気のない廊下に天音の声が響き、少年は答えを口にした。

 

「君は、自分のサイドエフェクトが嫌いだと言ったね。

『他人に降りかかる攻撃が視えないから嫌だ』

って。

でもそれは、

『他人に降りかかる攻撃を防げないから』

『自分以外を助けられないから』

とか、そんな考えがあるからでしょ」

 

少年はやんわりとした笑みで、天音をまっすぐ見ている。

 

そして、

 

 

 

「誰かを助けられないことを嘆くことができる。そんな子が優しくないわけがない。だから天音さん、君はとても優しい子だよ」

 

 

 

と、言った。

そして少年は天音に対して、深々と頭を下げて謝罪した。

「怒らせちゃって、ごめんね」

 

「…………」

天音は何も答えなかった。

 

悔しいくらいに、この言葉に納得してしまったから。

納得したと同時に、心に暖かい何が満たされていくのを感じたから。

そして何より、満たされ、こみ上げてくる何かに負けて、声が、出なかった。

 

それでも少年は気にせずに踵を返してココアを持って部隊の作戦室に向かって歩き出した。

 

遠くなるその背に向かって、天音は問いかけた。

「……あ、あの……!お名前、教えて、ください!」

すると少年は振り返り、やんわりと笑いながら所属部隊と名前を名乗り、何処かへと消えて行った。

 

その姿が完全に見えなくなったところで、天音は落とした缶コーヒーを拾い、プルタブを開けてコーヒーに口をつけた。

 

「……苦い。頼む、んじゃ、なかった…」

初めて飲んだコーヒーに対しての感想を言いつつ、天音はボロボロと泣いた。

 

心と頭の中で、

『君はとても優しい子だよ』

と、まっすぐと自分を見ながら言ってくれた少年の言葉と顔が、何度も巡った。

 

このサイドエフェクトを知ってから自己批判と自己嫌悪ばかりで、天音は苦しくて仕方なかった。

そんな天音にとってその言葉は、とても暖かくて、どうしようもなく心地良かった。

 

大げさかもしれないが、救われたと、思った。

 

自己嫌悪ばかりだった天音が、無意識のうちに一番欲しかった言葉を、あの少年は天音にくれた。

 

この時の少年がどんな気持ちで天音に言葉を向けたかは分からない。深い意味などあったようには思えず、思ったことを素直に言葉にしただけのようではあった。

 

ただそれでも、この言葉によって天音は確実に救われたのだ。

 

天音は名乗ってくれた少年の言葉を、一字一句違わずに繰り返した。

 

「夕陽隊…、じゃなくて…。地木隊。俺は地木隊の、月守咲耶だよ」

 

と。

 

月守咲耶。

天音神音はこの名前をしっかりと、頭の中に刻み込んだ。

 

自分を救って許してくれた人の名を忘れぬよう、心にも刻み込んだ。

 

*** *** ***

 

「……」

まどろみの中で見た懐かしい記憶から意識が覚醒した天音の目に入ってきたのは、白い天井だった。

「……病院?」

その色合いと独特な匂いから、天音はここが病院であることを判断し、なぜ自分が病院にいるのかを考えた。

 

(……えっと……、ベイルアウトした、後は……、作戦室の、ベットに、落ちて……。ああ……、地木隊長も、真香も、泣いてた……。不知火さんも、必死な、顔、してた……。みんなの顔、見た後、私は…)

天音の記憶は、そこで途切れていた。おそらく、そこで気を失ったのだろうと、天音はぼんやりと予想した。

 

途切れた記憶の後に何があったのか考えようとしたところで、タイミング良く病室のドアが開いた。気付けば、病室は個室だった。

 

「あ!神音ちゃん起きた!」

ドアを開けて入って来たのは、20歳前後の若い女性だった。顔立ちがどことなく天音と似ていて、瞳の色など瓜ふたつだった。

 

「椛さん……」

その人を天音はよく知っていた。

 

土屋椛。

昔からよく知ってる天音の従姉妹にあたる人で、三門市立大学に通う学生である。出身は県外であり、大学に通う間は天音家に住んでいる。天音家は母子家庭な上に母は仕事で家を開けることが多いことに加え、天音はボーダー、土屋は花屋でのバイトをしているため、天音家に住む3人が自宅で揃うことはあまりないというのが天音家の日常であった。

 

「もー、ボーダーさんから神音ちゃんが倒れたーって連絡来た時はびっくりしちゃったよー」

バイト先の花屋から購入してきたであろう花を窓際に飾りながら土屋は安心したように言い、

「……心配かけて、ごめんなさい」

天音は土屋に向けてペコリと頭を下げて謝った。

 

ベットの隣にある椅子に腰掛けた土屋は天音の黒髪を撫でながら、

「……ごめんなさいは、天音ちゃんのチームメイトに言いなさい」

と、言った。

 

「チームメイト……」

 

「うん、そう。えーっと、地木隊……、だよね?」

土屋の確認するような口ぶりに対して、天音はコクンと頷いた。土屋は病室に届けられた沢山のお見舞いの品を見ながら言葉を続けた。

 

「毎日ねー、いろんな人が神音ちゃんのお見舞いに来てくれたのよ。えっと……、まずは嵐山隊の人たちでしょ。私と同じ大学に通ってる人だと……、ダメ川……じゃなくて太刀川くんに風間先輩……、それから加古さんとかね」

天音は一瞬聞こえた太刀川の名前に笑いそうになりつつも土屋の言葉を聞いていた。

「あとは名前わからないから特徴になるけど……。神音ちゃんと同じ学校の3人組……、男の子1人に女の子2人のね」

漠然としているが、おそらく黒江、緑川、武富の3人だろうと天音は予想した。

 

「あとは……、もさもさしたイケメンの子と、前髪分けてるのにわざわざ両目にかけてる男の子とカチューシャの男の子、とても落ち着いてる男の子ね。みんな学ランだった」

烏丸先輩に出水先輩、米屋先輩とあと三輪先輩かな…、と、天音は思った。三輪だけ自信が無かった。

 

「同じ学ランだと、おでこ出しててキリッとした侍みたいな子もいたよ。髪の毛すごいボサボサの男の子と、身体大っきいのに優しそうな男の子もいたわね。なんか、沢山いちごを差し入れてくれてたよ」

村上先輩と影浦先輩、それにゾエさんこと北添先輩だと、これはすぐに分かった。荒船先輩もいそうだけど……、と、天音が思ったところで、

「その3人と一緒に、1人だけ制服違う子がいたわね。髪の毛にちょっと型がついてたから、多分普段帽子を被ってる子よ」

土屋が付け足すように荒船のことを言った。

 

「それから、えーっと……、オペレーター?っていうのをボーダーでやってますーって子たちがまとまって来てたよ。沢山の飴を持ってきた子と、よく分からない手作りの人形を置いていった子に……、高級なミネラルウォーターと塩昆布を差し入れた子……、あと和菓子を差し入れてくれた子でしょ……。それと、片目隠れてるけどお姉さんオーラが凄い子、髪が綺麗でツヤツヤしてる子、ちょっと眠そうにしてる子……。性格もスタイルもふわふわしてる子に、小柄だけど頼れるお姉さんオーラ全開の子、とか、かな……」

小佐野先輩、加賀美先輩、志岐先輩、今先輩、人見先輩、冷見先輩、仁礼先輩、国近先輩、三上先輩と、これは自信を持って天音は分かった。

 

「……あとは、ボーダーの本部長さん?だったかな……。モテそうだけど鈍くて結婚できなさそうな人」

忍田本部長に少々残念な評価を下したところで、土屋は何か思い出したように、

「あとお客さん……、じゃなくて……。玉狛支部?って所の迅くんって子。それと、その子と一緒に、車椅子の子も来てたよ。その2人は、

『申し訳ない』

って、謝ってた」

と、言った。

 

(車椅子……、じゃあ、夕陽さん、かな……)

天音の様子を見つつ、土屋は言葉を続けた。

 

「本当に色んな人が来てくれてたけど……、地木隊の子たちは毎日来てたわよ」

 

「毎日……」

 

「そ。学校とか、防衛任務以外の時間は、本当に面会時間ギリギリまで毎日ね。毎日、神音ちゃんのお見舞いに来ては、一応身内の私に頭下げて謝ってたわね。もう、泣きながら……」

 

「……そっか」

伏し目がちに言う天音に向けて言うべきか土屋は迷ったが、付け加えるように言った。

 

「あとね……。何日かは、若葉さんも来てたよ」

それを聞いた途端、天音は驚いたように目を少し見開き、

「……お母さん、が?」

と、確認するように尋ねた。

 

「うん。土曜日と日曜日。今日が火曜日だから、一昨日までね」

そう言われて天音は日にちと時間を確認した。今は大規模侵攻から一週間少々経過した1月28日の午前10時だった。

 

そのまま土屋は話を続けた。

「若葉さんにも、地木隊のみんなと、あと……、不知火さんだっけかな、美人なお姉さんも頭下げて謝ってたよ」

 

「……お母さん、みんなに、何か、言ってた?」

 

「んー、聞きたい?」

 

「うん」

そう答えた天音に向かい、土屋は苦笑しながら言った。

「……『この子が自分で選んだんですから、皆さんは気に病まなくてもいいですよ』……って、バッサリ切り捨ててたわね」

 

「あー……、お母さん、なら、言いそう……」

天音はその光景を想像して、思わず呟いた。

 

ちょっと冷たいようにも思えるが、天音若葉という人はそういう母親だと、天音神音は15年少々の人生で学んでいた。

 

土屋も思わずと言った様子で苦笑しており、天音が寝ているベットの隣にある棚の引き出しを指差しながら言った。

「若葉さんからの手紙がそこに入ってるから、後で見てみるといいよ。私はお医者さんに、神音ちゃんが目を覚ましましたよーって言った後に大学の方に行くから。何かあったら連絡ちょうだいね」

 

「あ、はい」

荷物をまとめた土屋は「お大事に」と言い残して、天音の病室から出て行った。

 

「…………」

1人残された天音は医者が来るまで、病室に置かれた見舞いの品を一通り見た後に、母が書いた手紙を読んだ。

 

読み終えた天音が、

「……お母さん、相変わらず、不器用、だね」

と、感想を呟いたところで、連絡を受けたであろう、天音を担当していると思われる医者と手伝いの看護師、そして不知火が天音の病室に足を踏み入れた。

 

 

 




ここから後書きです。

冒頭は、ヴィザ戦で天音が語った過去のお話でした。
サイドエフェクトについて悩みすぎてどうにもならなくなった天音を上手く書きたかったのですが、書いてる私自身が妙な方向に行きかけました。いや、これは妙な方向に行きました。もう、上手く皆様に伝わってくださいと願うばかりです。

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