ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第4話「規格外にしてランク外」

三輪隊の連携は白兵戦で相手の裏を取り続けるものであり、彩笑と月守のような前衛後衛を分断する連携とは異なる。さっきまとは全く異なる連携で攻められた遊真はそのことに戸惑い、ほんの一瞬反応に遅れた。

三輪はその一瞬の隙を突き遊真の背後をとり、銃弾を放った。さすがの遊真でも死角からの攻撃までは対処しきれず数発被弾し、身体を地面に伏せた。

 

遊真の動きが止まったところで、

「月守。改めて今の状況を簡単に説明しろ」

三輪が月守を睨みつけるようにして問いかけた。

 

今更ですか?と言いたげに月守は肩をすくめたあと簡潔に説明した。

「ほぼご覧の通りです。その髪白い子が自称ネイバーでして、俺と彩笑で捕獲を目的として戦闘していたところに三輪先輩達が合流しました」

 

一方遊真は、三輪の銃弾を受けうずくまったままで立ち上がれずにいた。

「く、空閑!大丈夫か!?」

思わずといった様子で三雲が叫んだ。遊真はなんとか身体をググッと起こしたが、

「重た。なんだこれ?」

身体にめり込むように生成された黒い六角柱が重りとなり、上手く身体を動かすことができなかった。

 

今遊真の戦闘体には、いくつもの重りが生成され行動が制限されていた。だがその遊真の戦闘体から、

 

ニョロン

 

と、そんな音を立てながらレプリカが細い管のようなものを鉄柱に接続させた。

『トリオンを重しに変えて相手を拘束するトリガーだ。直接的な破壊力が無い代わりにシールドと干渉しない仕組みのようだ』

レプリカは呟きつつ、それの解析を始めた。

 

それには気付かず、また、傍目には動きのない遊真を見て、

「お!これならあっさり任務完了する流れじゃん!」

三輪隊のアタッカー、米屋陽介はそう言った。

 

「米やん先輩、油断しない方がいいよー。この子、ボクと咲耶の連携をあっさり捌くくらいの実力はありますら」

米屋に忠告しながら彩笑は二刀流のダガーナイフスコーピオンを構えた。

 

「わーってるって!つか油断とか、彩笑ちゃんに1番言われたくないセリフだな!」

「ですねー」

「ちょっと!米やん先輩も咲耶もヒドイ!」

そんなやりとりをしつつ、米屋と月守も構えた。米屋は口調こそ軽いが油断など微塵もしていない臨戦態勢であった。

 

3人の空気を1つ締めるように、

「一斉攻撃でやるぞ、お前達」

三輪が弧月を構えつつ、全体に指示を出した。

 

武器を構えた3人は合図こそないがタイミングを合わせて一斉に動いた。月守も、間合いは詰めないが周囲にキューブを配置して攻撃準備を整えている。

 

「これで終わりだネイバー!」

三輪がそう叫ぶ。

もはや遊真の勝ち目は限りなく薄い。誰もが思ったのと同時に、

『解析完了。印は「(ボルト)」と「(アンカー)」にした』

レプリカが遊真に向けて言った。

 

「オーケー」

それを聞いた遊真は不敵に笑い、左手を構えて反撃に出た。

錨印プラス射印四重(アンカープラスボルトクアドラ)

構えた左手に印が重なるようにして現れ、そこから銃弾が放たれた。

 

「っ!?」

攻撃に出た三輪、米屋、彩笑は勝利がほぼ確定していたタイミングで、かつ至近距離ということも相まって反応が遅れた。

辛うじて彩笑は回避に転じたが間に合わず、3人共被弾した。そして、

「っ!?ウソでしょ!?」

彩笑は驚き、思わず叫んだ。

 

被弾した箇所からダメージを受け、トリオンが漏出するならまだ分かる。だが、彩笑を含め被弾した3人にダメージは無かった。代わりに、被弾した箇所に黒い六角柱が生成され重りとなって3人の動きを封じていた。

「オイオイっ!?」

「そんな、バカなっ!?」

米屋と三輪もやはり同じように驚いていた。

 

唯一被弾しなかった月守だけが、冷静さを保っていた。

「これ、三輪先輩の鉛弾(レッドバレッド)…?まさか、受けた攻撃をコピーしたのかな?」

 

「こちらの攻撃を何倍もの威力で撃ち返してきた……!他者の攻撃を学習するトリガー……、そんなふざけたトリガーがアリなのかっ!?」

三輪も月守と同意見のようだが、やはり信じられない様子を隠せなかった。

 

さっきの自分と同じように地面に伏した3人を見つめながら、遊真はググッと身体を起こし、

「さて、それじゃあ話し合おうか」

不敵にそう言った。

 

「クソっ」

「仕方ないかなぁ」

部隊を率いる隊長という立場にある三輪と彩笑は、この状況から勝利への可能性の低さとリスクの高さを秤にかけて、ひとまず遊真の提案に応じることにした。

 

そしてそのタイミングを見計らって、

「おー、なんだ遊真。けっこうやれてんじゃんか」

三輪隊のスナイパー2人を引き連れた迅が姿を現した。

 

「お、迅さん」

迅の登場に対し、遊真はほんの少し安堵したような声を漏らした。

一方、迅と共に現れた奈良坂は、

「すまん、狙撃しようとしたところを迅さんに止められた」

すまなそうに三輪へと謝罪した。

 

そのやりとりを聞いた後、

「な?秀次……、だから止めとけって言ったろ?」

迅は三輪へそう言った。

 

すかさず彩笑が抗議の声を上げた。

「えーっ!ちょっと迅さん!?ボクたちそれ聞いてないよ!」

「あれ?そうだっけか?」

迅はトボけたように答え、

「少し落ち着きなよー、彩笑」

月守がそう言ってなだめた。

 

三輪も内心、

(オレも言い忘れてたな……)

そう思いつつもそれを表に出さずに、会話を仕切り直した。

 

「迅、わざわざ、オレたちをバカにしに来たのか?」

迅は首を振って三輪の言葉を否定した。

「違うよ。お前らが負けるのも無理はない」

しっかりとした口調で、迅は三輪隊と地木隊が勝てなかった理由を告げた。

「なんせ遊真のトリガーは……、ブラックトリガーだからな」

と。

 

「……っ!?」

「マジで!?」

迅の言葉を聞き、三輪と米屋は驚きを隠せずに動揺した。彩笑と月守も言葉にこそ出さないが、驚いてはいた。

 

「……レプリカ、ブラックトリガーってなんだ?」

三雲は聞きなれないその単語の意味をレプリカに質問した。

『ブラックトリガーとは、優れたトリオン能力を持った使い手が死後も己の力を世に残すため、自分の命と全トリオンを注ぎ込んで作った特別なトリガーだ。作った人間の人格や性格が強く反映され、起動するにも相性があるが…、その性能は通常のトリガーとは桁違いだ』

 

レプリカの説明が済んだところで、迅は再び口を開き、

「ま、そういうわけだから、お前らこいつからは手を引け。ここの所、イレギュラーゲートやらでゴタゴタしてるのに、ブラックトリガーの相手までするのは厳しいだろ?」

説得するような言葉を続けた。

 

「その子がボーダーと対立する可能性は無いんですか?」

月守が迅に向かってまっすぐ問いかけた。さっきまでとは違う、真剣な表情だった。

 

「無い。なんなら、オレのクビや全財産を賭けてもいい」

月守同様、迅は真剣な表情で答えた。そして、

「……咲耶、それと彩笑ちゃん。忠告だけど、ここで君らは手を引いた方が、君らの目的に近付きやすくなる。オレのサイドエフェクトがそう言ってる」

そう、言葉を続けた。

 

その言葉を受けた2人は、

「……」

「……」

しばらく言葉を失ったが、

「……ま、ひとまずは引こうかな」

「だね」

迅の提案を受け入れることにした。

 

月守はほんの少し沈んだ表情を戻し、小さく笑った顔を三輪へと向けた。

「まあ、そういうことらしいですよ、三輪先輩」

どうしますか?そう言いたげな声だった。

 

「……ふざけるな!ネイバーは…、全て敵だ!」

三輪は自身の強い信念の元にそう叫び、

「ベイルアウト!」

ボーダーの正隊員についている緊急脱出機能により、1度本部へと帰投した。

 

*** *** ***

 

三輪隊全員の姿が見えなくなったところで、

「それじゃあ、一旦戻る?」

「とりあえずな」

彩笑と月守も1度本部へ向かうことにした。

 

「さっきの人たちと同じで、あっさり引くね」

拍子抜けするほど戦闘を引き上げる2人を見て、遊真は思わずそう尋ねた。

彩笑はニッコリと笑いながら、遊真の問いかけに答える。

「うん。だってとりあえず停戦でしょ?」

「まあ、それはそうだけど……」

遊真はやはり納得がいかないのか、歯切れ悪く口ごもった。

 

そんな様子を見せる遊真の頭を、迅は軽くポンポンと叩きながら言った。

「まあまあ。遊真、ここは大人しく納得しとけ。あの子はかなり気まぐれだから、機嫌を損ねればまた斬りかかってくるかもしれないぞ」

 

「もー、迅さん!さすがのボクでもそれはないから!」

迅の言葉に彩笑は抗議の声を飛ばすが、

「いや、彩笑ならやりかねないねー」

「咲耶まで!」

傍らにいた月守がケラケラと笑いながらそう言い、彩笑の怒り(?)の矛先は月守へと向かった。

だが、

「……あ!そういえばなんだけど、あの賭けはボクの勝ちだよね?」

彩笑はふと思い出し、月守にそう尋ねた。

 

「……あ」

月守は一瞬、何のことか分からなかったがすぐに思い出し、

「……なんのこと?」

そしてトボけた。

 

「今一瞬「あ」って言ったよね?ごまかされないから」

彩笑は楽しそうに笑いながら月守を問い詰めた。月守はすぐに観念し、

「分かってるって。えーっと、クガくん?だっけ?彼がネイバーなんだから、ネイバーが三雲くんに関わってるかどうかの賭けは彩笑の勝ち。ココアでいいんだっけ?」

苦笑いしながら彩笑に確認をとった。

 

「ココアでいいよ、むしろココア以外は認めない!」

ビシッ!という効果音が聞こえそうな勢いで彩笑は月守を指差しながら言った。月守はその彩笑の指先をペシッと軽く叩き逸らした。

 

「人を指差さないの」

「咲耶細かい。保護者みたいだね」

「今目の前にいる中学生くらいの子の保護者か?」

「ボクは高校生だけど?」

「制服着てないと分かんないよ。自称150センチ」

「自称じゃなくてちゃんと150センチあるから!」

そしてなぜか2人は口喧嘩を始めた。

 

遊真はそんな2人やり取りを見ながら、

「仲が良いんだな」

思わずそう呟いた。呟きに答える形で、迅が口を開いた。

「まあな。普段はあんな感じで緩いけど……、強いぞあの2人」

「うん、なかなかに強かったよ。もう少し本気で来られたらちょっとヤバかったかも」

「へえ、あれで本気じゃないって分かったのか?」

感心したように迅が言った。

 

「……2人とも、戦いながら手は抜いて無いけど余裕があったから。多分、まだ何か……、ううん、()()隠してるんでしょ?」

 

「さあ、どうだかな」

遊真の問いかけを、迅はそう濁して打ち切った。

 

「おーい、2人とも!」

そうして迅は2人に向かって声をかけた。

 

「はいー?」

「なんですかー?」

声を合わせて彩笑と月守は反応した。

 

「この後本部に行って報告するんだけど、どうせなら一緒に行かないか?三輪隊だけだと報告が偏るだろうからさ」

そう言われた2人は一瞬だけ何かを確認するように顔を見合わせた。

迅の誘いには月守が答えた。

「いえ、俺たちはあくまで三輪隊の補佐なのでこういう報告は三輪隊に任せることになってるんですよ。一応、俺たちが戦闘を開始する直前あたりからの音声を録音したデータはあるんで、それ渡しますね」

 

「了解だ」

迅はそう答え、月守からデータを受け取った。

 

「メガネくんはどうする?」

不意に声をかけられた三雲はとっさに、

「あ、じゃあ、今行きます」

そう答え、遊真と雨取には後で合流すると言って迅と共に本部へと向かっていった。

 

「じゃあ、ボクらも行こっか」

彩笑と月守もそれに合わせるかのように歩き出した。

 

「……ねえ」

そんな2人の背中に向かって遊真は声をかけた。

 

「んー?なに?」

彩笑はクルリと振り返り、遊真と視線を合わる。

 

「2人とも、何者?」

遊真はシンプルに尋ねた。

 

「地木隊!」

遊真の問いかけに、彩笑はとびきりの笑顔で答える。

 

「規格外にしてランク外!それがボクら地木隊さ!」

 

と。

 

彩笑の声は12月の寒空の下、廃墟となった駅のホームに響き渡った。




後書きです。

とりあえず戦いは遊真の勝利です。
この戦いには別のパターンも考えたのですが、その流れだと三輪先輩が登場すると同時にレッドバレットを撃って速攻で遊真にコピーされ、三輪先輩がすぐにベイルアウトするという『三輪先輩何しに来たの?』状態になってしまったので断念しました。

彩笑が最後に言った「規格外にしてランク外」の意味は出来るだけ早く本編で明かしたいと思います。

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