ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第32話「月守の本質」

グラスホッパーによって踏み込んだ月守はそのまま続けてグラスホッパーを展開し、先程までとは比べものにならない高い機動力を発揮してヒュースの攻撃を避けつつ隙を窺うような動きを続けた。

 

それを見たヒュースは呟く。

「なるほど。防ぐのでは無く、機動力を持ってして攻撃を躱すのか」

 

「当たり前だろ。身近にアホみたいなスピードで動き回るのがいるから、シールド使えない時点でこの発想にはすぐ行き着いたよ」

久々に実戦で使うグラスホッパーの感覚を確かめた月守は間合いを開けるように後方に跳び、そこから攻撃に移った。

 

その右手から放たれたトリオンの弾丸はまっすぐヒュースに向かうが、

「ランビリス」

ヒュースはそれに対して当然のごとくランビリスによる反射盾を展開して防ぎにかかった。

 

だが、

「甘いよ優等生」

反射盾を展開するヒュースを見て月守はそう言った。

 

月守の放った弾丸が反射盾に着弾した瞬間、その弾丸が爆発した。

「ぐっ……。炸裂する弾丸を攻撃に回してきたのか」

爆煙が立ち込める中、ヒュースは冷静に言い、

「正解」

月守はニコリと笑って答えた。

 

ここまでのヒュースとの戦闘で月守が使っていたのは、アステロイドとメテオラの2つだ。だが攻撃に用いていたのはアステロイドのみで、メテオラは視界を遮るための爆煙狙いで地形に放つだけであり、ヒュースに向けてはまだ1度もメテオラを放っていなかった。

 

煙が薄っすらと晴れる中、月守は口を開く。

「その反射盾、弾丸を受けて跳弾を繰り返すことで撃ち手に返す仕組みだろう?一見、弾丸に対して強いけど、着弾したと同時に爆発されたら反射のしようもない。違うか?」

 

月守の問いかけに対し、ヒュースは舌打ちをしてから答える。

「確かにそうだ。だが、それだけで貴様はこの盾を無効化したつもりか?」

 

「まさか。確かに反射こそされなかったけど、結局君にはダメージを与えられてない。これじゃあ、攻略とは言えないさ。だけど…」

 

そこで月守は1度言葉を区切って右手からトリオンキューブを生成する。

ヒュースを見据え、月守は宣言した。

 

「アフトクラトルの優等生。先に言っておく。俺は合計で7種類の弾丸を扱える。そんで俺はその7種類、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

と。

 

「……なんだと?」

ヒュースの口は冷静にそう言ったが、内心は驚きと疑心に満ちていた。

(まだ他に弾丸が5種類あるだけでも驚きだが、その全てでオレの反射盾を無効化するだと?そんなの出来るわけがない)

 

「まだ5種類あるのもビックリだけど、その全部で反射盾の無効化なんて出来るわけない…、とか、思ってる顔してるよ、優等生くん?」

 

「っ!?」

心の内を見透かされた言葉に驚き、ヒュースは動揺した。そしてその動揺を突くように、

「グラスホッパー」

月守は再度突撃した。

 

「ラ、ランビリスっ!」

動揺により反応が遅れたヒュースだが、ランビリスの弾丸をなんとか月守に向かって放つ。月守はそれを回避しながら周囲に弾丸を漂わせつつ、口を開く。

「動揺しすぎだ、優等生。アフトクラトルじゃその辺のメンタルトレーニングは疎かなのかな?」

 

「黙れっ!!」

 

「嫌だね」

月守は舌を出しつつそう言い、キューブが生成された右手を構える。

真正面にいる月守からの攻撃に備えてヒュースは反射盾を生成するが、

「はい、残念賞。アステロイド」

その言葉と共に放たれた弾丸をヒュースは反射させる事ができなかった。

 

厳密には、()()()()()放たれたアステロイドは反射させたが、事前に周囲に展開されていたアステロイドは反射させられずに終わったのだ。

それを受けたヒュースは、

「くそっ!貴様、角度を……!!」

月守を睨みながら反射させられなかった理由を口にした。

 

ヒットアンドアウェイの要領で距離を取った月守はヒュースの言葉に答える。

「そういうことだ。その反射盾は表面を滑らせるようにして防いでる。なら撃ち込む角度をズラしてやればいい。盾に対して90度で撃ち込めば、ベクトルを真逆に変換する機能でもない限り反射させられない」

説明しながら次の手であるキューブを用意した月守は、3度目となる接近を仕掛けた。

 

それを見たヒュースの対応は素早かった。

「させるかっ!」

2度もグラスホッパーによる接近を許しており、なおかつ防御手段を崩されているヒュースは月守の接近を警戒して間合いを詰められ過ぎる前にランビリスを右手に纏わせて銃の形状を取り、そこから弾丸を月守めがけて放った。

 

弾速こそ速いが直線的な軌道。読むのは容易く回避することもできたが、月守は最小限の身のこなしで軌道から身体を外し、軌道にそっとキューブを添えるようにした。

そしてランビリスの弾丸とトリオンキューブが接触した瞬間、

 

ガギンッ!

 

という音と共に弾丸に黒い六角柱が生成され、鈍い音を立てて落下した。

「なっ……!?」

その光景を見たレプリカが口を開いた。

『これは「錨印(アンカー)」の元になったトリガーか?』

 

「レプリカさん正解。あの時三輪先輩が使ってたのと同じ鉛弾(レッドバレット)だよ」

月守が使ったのは相手に重石を与えて動きを制限するトリガー「レッドバレット」だった。ランビリスの構成パーツが弧月などと同じ形質であると予想して放ったこの1発も有効だった。

 

事実、ヒュースはレッドバレットによって重くされたパーツを持ち上げようと磁力を発生させているが、プルプルとわずかに動くだけで持ち上がりはしなかった。

 

「これも有効みたいだな、優等生くん?」

挑発するように月守は言い、

 

「調子に乗るなっ!!」

 

ヒュースはそれに対して声を荒げて、自身から間合いを詰めにかかった。

 

月守は後退しつつ、左手から生成したキューブから弾丸を放ちながらその効果を確認することなく道を曲がり、ヒュースの視界から姿を消した。

どんな弾丸なのかヒュースは警戒するが、月守のように躱せるだけの身のこなしはできないため、結局反射盾で防ぐしかなかった。

 

ヒュースは着弾の瞬間を全力で警戒したが、今回の弾丸は難なく反射させることができた。

 

今回はなにも無かったとヒュースが安心した、その次の瞬間、反射させたはずの弾丸がカクカクと曲がりヒュースへと襲いかかった。

「これは……っ!?」

幸いにも威力は低い上に狙いも乱雑で、アフトクラトルメンバーが着用しているマントの防御力によって大きなダメージは無かったが1発だけマントで覆えていない足に被弾し、僅かながらトリオンを漏出させた。

 

反射を繰り返すという特性の反射盾であるため、ヒュースは一瞬反射の計算を間違えたかと思ったが、すぐにそれを頭で否定し、答えにたどり着いた。

「あの時の曲がる弾丸か……!」

と。

 

ヒュースの予想通り、今月守が放ったのはバイパーだった。月守と戦う前に玉狛第一の烏丸と戦ったヒュースはバイパーを身を以て体験していた。ただし、烏丸はバイパーを盾に当てないようにしたのに対して月守は盾に当てて反射された後に弾道が変わるように設定しており、ヒュースを惑わせることに成功した。

その結論に至ったヒュースは内心に苛立ちを抱えつつ、角を曲がった月守を追った。

 

追いながら、ヒュースはあることに気付く。

(さっきの戦闘痕が残っている……。どうやらあいつはこの辺をグルグルと回るようにして逃げ回っていたんだな)

と。

事実、周囲には月守が放って出来たメテオラによる爆発の跡がいくつも残っていた。

 

角を曲がると、月守が両手に生成したトリオンキューブの合成を終えたところだった。

「足からトリオンが漏れてるところを見ると、今のも有効だったみたいだな。あ、もしかして転んでできた傷だったりする?」

 

「貴様の攻撃で出来た傷だ」

 

「思ったより冷静だね。もしかして知ってる弾丸だった?」

月守は笑みを絶やさぬまま会話しつつ、完成させた合成弾を放った。

 

月守の手元から放たれた弾丸は、縦横無尽な弾道でヒュースへと牙を剥く。

その軌道からヒュースは先ほどと同じ性質を持つ弾丸だと推測し対策を取る。

(同じ()は……食わない!)

反射は諦めて烏丸と戦った時と同様に全方位を覆う半球状に展開した。反射はできなくなるが、強度的には問題なく防げることは烏丸との戦いで折り込み済みだった。

 

しかし……、いや、やはりと言うべきか。月守の攻撃はヒュースの対応の一歩先を進んでいた。

全方位にランビリスを展開したヒュースを見て、月守は笑った。

「どんなコースで来るか分からないと、盾を広げて満遍なく防ごうとするよな。でもそれだと、強度には劣る。その劣った強度で、()()()は防げないよ」

 

『コブラ』

アステロイドとバイパーによる合成弾。変幻自在な弾道を誇るバイパーに、4種の弾丸の中で最も威力の高いアステロイドが掛け合わされた合成弾だ。

 

月守の言った通り、合成弾コブラはランビリスの装甲を穿った。ただし、わずかに威力が足りなかったようで盾を貫通するまでは至らなかった。

「一点集中にすればよかったかな」

 

そう言って月守は足を止め、再び合成弾を練り始めた。

ヒュースはなんとなくだが、月守のやっていることを理解していた。

(2つの弾丸を掛け合わせて、強力な弾丸を作っているのか……?ならば……!)

その合成が終わる前に攻撃を仕掛けて妨害する。ヒュースがその作戦を取ろうとした瞬間、

「完成」

月守の合成が完了した。

 

 

*** *** ***

 

 

月守の弱点は防御力の脆さだが、そんな分かりやすい弱点を抱えた人間が生き残れるほどボーダー正隊員は甘くない。

その弱点を補って余りある長所が、月守にはある。

 

銃手・射手としては高い機動力。

 

合成弾の名手と言われる出水に迫る合成弾の生成速度。

 

対象の特性を的確に把握できる解析力。

 

そしてなにより、掴んだ敵の弱点や欠点に罪悪感の欠片も持たずに攻めることができる、内に秘めた一種の残虐性とも言える性質だった。

 

 

*** *** ***

 

 

 

「ぐっ……!?」

またしても先手を打たれたヒュースは愕然とし、その隙を突くように月守は間合いを詰めにかかる。

 

動揺、ダメージ、未知数な敵の手札。あらゆる要素が重なり、もはやヒュースには通常時ほどの冷静さやトリガー制御能力は発揮することが困難になっていた。

 

筋が鈍ったランビリスの弾丸を、月守はあっさりと躱してヒュースへと肉迫する。

 

「ぼーっとしてるね。色んなとこに気を配って頭回せよ優等生」

困ったように笑いながらそう言った月守はアタッカーの領域かと思うほどに接近し、その至近距離で用意した弾丸を放った。

 

「ギムレット」

月守が第6の手段として選んだのは、アステロイド同士の合成弾であるギムレットだった。月守のギムレットはシューターの間合いで用いてもラービットの装甲を穿つだけの威力がある。そして今回に限り、月守はボーダー射撃用トリガー3要素の威力・弾速・射程を操作して、射程を大きく削って威力に割り振り、尚且つそれを分割せずに放った。

 

そしてそれは当然のごとく、ランビリスの盾を大きく穿ち、ヒュースへとダメージを与えた。

ランビリスによって威力は削がれ、軌道も逸らされた上にアフトクラトル製のマントにより致命傷とまではいかないが、それでも先ほどのバイパーよりは大きなダメージをヒュースは受けた。

 

「そんなっ……!!?」

驚愕に目を見開くヒュースに向けて、月守は薄く笑った。

「大したもんだな、君のトリガー。今の1撃、真香ちゃんのアイビス並みの威力だったんだけど、それでも致命傷にはならないか…」

追撃を恐れて、月守は急いでグラスホッパーを展開して距離を取った。

 

遠くに着地する月守を見るヒュースの動揺はピークに達していた。

(オレのランビリスの性能をこの僅かな時間で見抜いて、手持ちのカード全てで対策を立ててみせた…!いや、それだけじゃない…!オレが弾丸を受け、その後に立てる対策を全て読んだ上で、さらにそれを凌駕する手段を当然のように切ってくる…!)

 

「何なんだ……」

笑みを浮かべる月守が、もはや不気味にしか見えないヒュースは思わずといった様子で叫んだ。

 

「貴様は一体、何者だっ!!」

 

と。

 

そしてその問いに対して、月守はあの笑みを浮かべる。

楽しそうであり、虚ろであり、邪悪にも見える、得体の知れない笑みを浮かべた月守は、ヒュースの問いかけに答えた。

 

「わざわざ敵に名乗る奴がいるかよ」

 

そしてそのまま、ぺろっと舌を出したあとに言葉を続けた。

 

「まあ、何かで呼びたきゃ『ロキ』って呼べばいいさ」

 

と。

 

 

 

 

 

 

『ロキ』

とある神話に登場する神々の1人。

狡猾であり、本質を掴ませない行動をとる、トリックスター。

 

そしてかつて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()につけられた、月守の悪名とでも言うべき通り名だ。

 

 

 

 

ヒュースの質問に答えた(つもりの)月守は、ダメ押しとも言える手を打った。いや、()()()()()()()()

 

1つ息を吐いた月守はヒュースに向けて言った。

 

「ああ、今更だけどさ…。この辺の地下一帯には広大な地下道があるんだ」

 

「……?」

 

「それがどうした?って言いたげな表情だな」

困ったような笑みを浮かべた月守は、忘れたのかと言わんばかりに言った。

「俺が使う弾丸は7種類って言ったけど…。まだ1つ、君は見てないだろ?」

と。

 

月守がそう言った瞬間、

 

ドンッッッ!!!

 

と、ヒュースの足元で大きな爆発が起こった。

 

「なっ……!?」

空高く吹き飛ばされたヒュースを見て、月守は『してやったり』と言わんばかりに笑う。

 

月守が最後に切った7つ目の弾丸は、バイパーとメテオラを掛け合わせたトマホークだった。ヒュースをバイパーで足止めした一瞬で、コブラより先にトマホークを合成し、開戦時からメテオラでいくつも作っていた地下道への穴にトマホークを放った。コースは事前に真香から得ていた立体のマップ情報から引き、最終的に爆発させるべきポイントにヒュースを誘導して、足元で爆発させることによりヒュースを上空に吹き飛ばしたのだ。

 

舞い上げられるヒュースに向かって、

「蝶の楯、だっけか?その脆い羽根、今すぐ毟ってやるよ」

月守は容赦なく止めを刺しにかかった。

 

*** *** ***

 

月守とヒュースとの戦闘は、敵国アフトクラトルの遠征艇内のモニターで監視されていた。

 

遠征艇にいるのは3人。

隊長であるハイレイン、オペレーター役でもあるミラ、そしてすでにボーダーに敗北したランバネインの3人だ。

 

「ヒュースの敗北が濃厚ですが……。どうなさいますか、ハイレイン隊長?」

劣勢に立たされたヒュースを見て、紅一点であるミラが隊長であるハイレインに指示を仰いだ。

「そうだな…。『金の雛鳥』が見つかったが、ミデンの底力は侮れない。確実に捕獲できる確証がない以上、まだヒュースは……」

いくらか悩んだ素振りを見せたハイレインだが、1つの決定を頭の中で下し、それを実行するべくミラへと指示を出した。

 

「ミラ……。ヒュースの近くに窓を開けてくれ」

 

「構いませんが…。それはつまり……」

 

「兄……、隊長どのが直々に戦場に出るということか?」

実弟であるランバネインの言葉を受け、ハイレインは苦笑する。

 

「少しだけだ。オレがほんの少し、あのミデンの悪神と戯れ、ヒュースに指示を与えて立て直させるだけだ」

 

「分かりました。それでは、大窓を開きます」

ミラがそう言うと同時に目の前に大きな黒い穴が現れ、ハイレインはその穴に姿を消して行った。




ここから後書きです。

二宮さんが引き抜きスカウトを狙う月守の全開戦闘を披露した話となりました。
ただ、月守が張り切りすぎたので、まさかのハイレインさん登場となります。

活動報告の方に、月守のトリガー構成とBBF的パラメータ載せました。あの手の設定を考えるのは楽しいです。

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