ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第21話「入隊指導終了」

最終戦は市街地のビル群に2人とも転送された。距離は遠くはないが建物によって視界が遮られ相手が見えていない状態だ。

 

「「チッ!」」

ビル群という条件に2人は思わず同時に舌打ちをした。

 

ここのビル群は地形が少々複雑であり、変幻自在のバイパーや建物ごと破壊するメテオラがある月守が有利に思われるが、その複雑さの反面、出方次第では一気に彩笑は接近可能なため、両者共に一長一短といった条件だった。

 

「バイパー」

月守は右手にハンドガンを用意しつつ、左手でバイパーを放った。建物を縫うように放たれたバイパーが彩笑に襲いかかるが、

「そんな適当撃ちじゃ当たんないよ!」

彩笑はそう言い、あっさりとバイパーを回避しながら月守のいる方向へと高速で向かった。

 

バッグワームを使おうとも考えたが、小細工はやめた。あえて使わずまっすぐに攻めることで時間を与えず、真っ向勝負に持ち込むことにしたのだ。

 

バイパーの雨を3度搔い潜ったところで、彩笑は後退してビル群から抜け出そうとする月守を視認した。

「見つけた!」

 

彩笑はギアを1段階上げ、今までよりもほんの少しだけ早く月守へと肉迫する。月守は大量のバイパーを複雑怪奇な軌道で放ち迎撃しようとするが、彩笑はそのコースが分かっているかのごとく、危なげなく回避して接近していった。

 

だが、

 

「トラップ」

 

と、月守は小声で言った。今までの楽しげな笑みとは違う、低くて思わずゾクッと来るような声だった。

 

「っ!」

彩笑は月守の豹変に一瞬動揺したが、その言葉の意味に気付き、半ば反射的にグラスホッパーを足元に展開し大きく跳んだ。

 

それと同時に回避したバイパーが周囲の地形に着弾し、爆発した。

合成弾のトマホークではなく、あらかじめ周辺に仕込んであった弾速ゼロのメテオラに、彩笑が回避したバイパーがそれに当たるように月守はコースを設定していたのだ。

 

メテオラが、大きな音を立てて爆発する。その火力は並大抵のものでは無く、回避があと少し遅れていたらダメージは免れなかったと、彩笑は思った。

 

(最終戦はちょっと気合い入ってる、かな?)

試合開始からここまでの短いやり取りで、彩笑は月守の意図をそう解釈し、気持ちを切り替えた。

 

彩笑は着地と同時に意図的に短く一呼吸入れ、気持ちを切り替えた。手を抜いていた訳ではないが、より一層、真剣味を増した精神状態で月守へと対峙した。

 

「フッ!」

右手にスコーピオン、左手にはグラスホッパーを待機させて彩笑は月守へと再度間合いを詰めた。

 

「バイパー」

それに対し月守は左手を自身の身体を使って彩笑から見えないように隠した状態でバイパーを放った。左右、上空と彩笑の視界の外へとバイパーは広がっていき、それは一気に襲いかかる。

その軌道はやはり複雑怪奇で、見えているならまだしも死角からの弾丸まで避けられるとは到底思えない。

しかし、彩笑はそれを回避する。間合いを詰める速度を殺さず、最小限のグラスホッパーの使用と回避動作だけで躱していく。

数発被弾したがいずれも掠めた程度であり、この弾幕の中なら上々だと彩笑は思いつつ、月守に接近しアタッカーの間合いに持ち込んだ。

 

右手のスコーピオンを振るって月守へと斬りかかるが、

「危ないね」

その意味に反して全く危機感がこもっていない様子の一言と共にあっさりと月守は躱した。

 

「チッ!」

彩笑は小さく舌打ちをして再度斬りかかる。速度に乗った連続技だが、月守も、まるであらかじめどんな斬撃が来るのか分かっているかのように彩笑の斬撃をあっさりと躱してみせた。

 

ボーダー全スコーピオン使いの中でもスピードだけに限れば彩笑はトップクラスだ。この戦闘をモニター越しに見ている訓練生からすれば彩笑の斬撃速度は速すぎて、かろうじて目で追えるが回避は到底出来ないように思われたが、月守はその斬撃を全て回避し続ける。

 

「この……っ!」

思わず彩笑が大振りの斬撃を放とうとスコーピオンを振るったが、

「ん」

月守は自然とそのモーションの隙を突くようにに右手のハンドガンを構え、銃口を彩笑の額に向けた。

 

躊躇わず引き金を引いて銃弾を放ったが、その先に彩笑の姿は無かった。斬撃をキャンセルして回避に移り、月守から距離を取っていた。

 

膠着状態となり、彩笑は月守に向かって、

「相変わらず回避は上手いね」

と、言った。

 

月守は彩笑に向けてハンドガンを構えたまま答える。

「どっかのスコーピオン使いと訓練生時代に毎日ランク戦してたからかな」

 

「へぇ。じゃあ咲耶はそのどっかのスコーピオン使いには感謝しないといけないね」

 

「そうだな。この試合が終わったら感謝の気持ちを込めてココアでも奢るよ」

 

「やった!」

月守がどっかのスコーピオン使いに向けた言葉に対し、彩笑は我が事のように喜んだ。

 

そんな彩笑に対して月守は小さく笑みを見せ、

「彩笑こそ、死角から来るバイパーをよく避けられるな」

と、言った。

 

すると彩笑はにぱっと笑って、

「んー、どっかのバイパー使いと訓練生の頃、飽きるくらいにランク戦で戦ったからかな?弾道の癖とか、すっかり把握してるもん」

そう答えた。

 

「へぇ?じゃあ彩笑はそのどっかのバイパー使いに感謝しなきゃいけないね」

 

「やだ」

 

「オイコラ」

 

「アッハハ!おしゃべりはここまで!そろそろ終わらせるよ!」

彩笑は威勢良くそう言い、攻撃に出た。

 

両手にサイズがバラバラのナイフ状のスコーピオンを計8本展開し、その内の6本を上に放った。

 

(撹乱のつもり?)

 

月守はその軌道を見てから小さくため息を吐き、

「なにこれ?」

と、彩笑を見て問いかけた。

 

だが、彩笑はそれに答えず、両手に残した2本のスコーピオンを握りしめ月守へと肉迫していた。月守が上のスコーピオンに気を取られたほんの一瞬で一気に間合いを詰めていたのだ。

 

「っ!」

月守の反応は一瞬遅れたが、斬りつけてくる彩笑の斬撃を回避する。たとえ2本になろうとも、彩笑の斬撃なら躱せる自信があった。しかしその連続技の最中、彩笑が不意に左手のスナップを利かせてスコーピオンを上に放るように手放した。

そして、

「ボクの勝ち」

不敵な笑みを浮かべそう言った。それと同時に、()()()()()()()()()()()()()()持ち替えた。

 

「!!?」

それがさっき放ったスコーピオンだと月守は理解するも、そんなの御構い無しといった様子で彩笑は斬撃を再開した。

 

その振るった初撃が月守の頬を掠る。

(……っ!?掠った!?)

思わぬダメージに月守は動揺し、彩笑はそこを畳み込むように攻撃を続けた。

 

斬りつける。

 

スコーピオンを手放す。

 

別のスコーピオンを受け取る。

 

斬りつける。

 

スコーピオンを手放す。

 

別のスコーピオンを受け取る。

 

彩笑はこの工程を高速で繰り返し、月守にダメージを与え続けた。さっまで避けられたのがウソのように、月守には斬撃が決まっていく。

 

「くっそ!」

月守は予想外の展開に焦り攻撃のためのハンドガンを構えたが、

「甘いっ!」

彩笑はその高速の斬撃でハンドガンごと右手を斬り落とした。

 

月守は残った左手を構えて再度攻撃を仕掛けようとした。

「っ!メテオ「はい、お終い」

しかしアタッカーの間合いでシューターの攻撃を繰り出すのは無謀。ましてや相手は屈指のスピードを誇る彩笑だ。

 

月守は最後に一矢報いることも叶わず斬撃を喰らい、

 

『伝達系切断、月守ベイルアウト』

 

本日2回目のその音声を聞き、ベイルアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

ブース内のマットに倒れたまましばらくの間無言だった月守だが、

「最後のあれ、新技?」

ようやくといった様子で、そう言った。

 

『うん』

通信越しの彩笑の声は明るく、月守の問いかけに答えた。

『技名は《蠍の群》。放り上げたスコーピオンを連続技の途中で持ち替えて攻撃を続けるんだけど、()()()()()()()()()()()()()()()んだ』

 

「なるほど。そういうことね。そりゃ、戦闘中にポンポンと武器のリーチが変われば対応しきれるわけないか……」

 

その結論に至った月守は、ゆっくりと身体を起こした。

 

「それにしても、よくそんなの思いついたな」

 

『あはは、一応練習したもん。攻撃中にスコーピオン掴むの、意外と難しいんだよ?』

 

「だろうね」

 

『練習中は2回くらい失敗して頭に刺さったし』

 

「俺はそんな技に負けたのか……」

割と真剣な月守の声を聞き、通信越しの彩笑はケラケラと笑った。

 

「もう、単純な点取りじゃ彩笑に勝てないかな」

彩笑の笑い声が止まると同時に、月守は呟くように言った。

 

『そんなサポート重視のトリガー構成で点取り勝負を挑む方が間違ってると思う』

 

「かもな」

 

『うん。ねえ咲耶、次は点取り用のトリガー構成にしてよ。今でも楽しかったけど、ちょっと物足りなかった。この勝負はボクらの戦績にカウントしないから、次は全力の勝負、やろうね』

約束だから、と、彩笑は付け加えた。

 

それを聞いた月守は小さく微笑み、

「了解」

と、答えた。

 

そして、

「……ところで彩笑。この勝負を戦績にカウントしないってことは、戦闘中のことは無かったことにしていいのかな?」

不意にニヤリと笑みを浮かべて確認するように言った。

 

その意図を図りかねた彩笑は、

『え?……んー、まあ、そういうことで、いいんじゃない、かな?』

小首を傾げつつ、そう答えた。

 

その瞬間、

「りょうかーい。じゃあ、俺が試合中に言ったココアうんぬんとかも無しでいいよな?」

と、言った。

 

『……あ、あーーー!?』

試合中の会話を思い出し、彩笑は思わずそう声を上げた。

 

『な、ナシ!じゃなくて、それだけはアリ!ココア奢って!』

彩笑は慌ててそう言うが、

「んー、あれー?なんか通信状況悪いなー?まあでも、試合中の約束を反故にしてくた所まではしっかり聞こえたから、別に問題ない」

月守は鮮明に聞こえる彩笑の言葉に対して、楽しそうに言い返してブースから出て言った。

 

*** *** ***

 

2人が軽い言い争いをしながらブースから出ると、いつの間にか異常にテンションを上げていた訓練生に驚いた。彼らは口々に、

「速すぎてよく分からなかったけど、凄かったです!」

「弟子にして下さい!」

「感動しました!」

「さすがですね!」

「マジリスペクトっス!」

そんな事を言っていた。

 

3名ほどは、

『オレたちだってその気になれば……』

と言いたげな表情をしていたが、月守と彩笑は訓練生のテンションの高さに驚くあまり気付かなかった。

 

2人は訓練生をなんとか(無理やり)時枝に押し付けて、少し遠くにいた天音のもとに移動した。

 

「神音ちゃんゴメン!待たせちゃった!」

 

「いえ、全然大丈夫、です。あ、たった今、連絡2つ、入りました。聞きます、か?」

天音は耳に当てていた左手を離しながら2人に向かってそう言った。

 

「ん、ああ。そういえばボクら、戦闘中は通信切ってたんだっけ」

今更ながらに彩笑は思い出したようにそう言い、

「お、ありがとね、神音。それで、どんな連絡?」

月守はやんわりとした笑みで天音に連絡の詳細を尋ねた。

 

「えっと……、まずは、風間さんと、三雲くんの、模擬戦、終わりました」

 

「ああ、模擬戦?結果は分かりきってる気もするけど、一応教えてくれる?」

彩笑の問いかけに対して天音はほんの少しだけ躊躇ったあと、

「25戦やって、風間さんの24勝、1引き分け、です」

そう結果を告げた。

 

その途端、

「ウソでしょ!?師匠が引き分け!?」

と、彩笑が狼狽えた。

 

ボーダー本部内ではあまり有名ではないが、彩笑に剣技とステルス戦闘の基礎を教えた師匠は風間である。一時期、といってもほんの2週間ほどだが風間が教えたのだ。

風間からすれば、

「師匠と呼ばれる筋合いは無い」

と言うが、彩笑からすれば唯一と言ってもいい師匠だった。

 

その風間の実力をよく知る彩笑からすれば、たとえどんな経緯があったとはいえ、修が風間と引き分けたということがにわかには信じられなかった。

 

そんな彩笑はさておき、といった様子で、

「……もう1個の方の連絡は何だったの?」

月守は天音にもう1つの連絡事項について尋ねた。

 

「あ、それなんですけど……。スナイパーの、訓練の方で、何かあった、みたい、です」

天音の答えに、月守は首を傾げた。

 

「ん?何かって?」

 

「えっと、私もよく、分からない、です……」

どうやら天音自身も要領を得ていないようだった。

 

ならばと思い、月守は現場にいるであろう真香へと通信を繋いだ。

『あー、真香ちゃん、聞こえてる?』

 

『月守先輩ですか!?すみません、今ちょっと立て込んでて手が離せな……』

通信が繋がったのはいいが、すぐに通信は切れてしまった。普段の落ち着いた声とは違い、どこか慌てたような、そんな声だった。

 

「……真香、慌てて、ました、ね」

月守は今回、個別ではなく地木隊全員で共有している回線を使ったため、今の短いやり取りは天音と彩笑も聞いていた。

 

そこからの行動は素早かった。

「よし、じゃあ行こっか」

即決と言ってもいいレベルで彩笑がそう言い放ち、

「はい、了解、です」

「了解」

天音と月守はそれに肯定して行動を開始した。

 

去り際に月守は時枝と目が合ったが、時枝は引き止める事はせずに快く地木隊を送ってくれた。

 

*** *** ***

 

「ほんとうにごめんなさい」

そう言いながら土下座をする千佳と、それに対して土下座を返す佐鳥、そして訓練場の壁に空いた巨大な穴。

 

地木隊がスナイパーの訓練場に辿り着いて目にしたのはまずそれだった。

それを見た月守は大体の事情を察した。

 

以前の玉狛支部でのやり取りで月守はレプリカにトリオンを計測してもらった際に、

『チカには数歩劣るが、かなりのトリオン量』

という評価を貰っていた。

月守はその時漠然ながら、

(へぇ、このちっちゃい子、俺よりもトリオン多いんだ)

そんな事を考えていた。

 

確証は無いがそれらの事から月守は、

『ズバ抜けたトリオン量を持つ千佳がアイビスで基地の壁に穴を開けた』

大方そんなところだろうと予想した。

 

大した事件と言ってもいいのだが、今の地木隊の関心はそのことでは無く別の事に向いていた。

 

今の地木隊の関心は、同じ訓練場にいた真香と、

「お願いしますっ!アタシを弟子にして下さいっ!」

そう言いながら全身全霊をかけて土下座する夏目出穂に向いていた。

 

何があったか分からないながらも3人は真香たちに近付くが、どうやって声をかけようか判断に困った。

 

どうするか迷ったが、ひとまず、

「あのさ、真香ちゃん。何があったか知らないけど、とりあえず年下を土下座させちゃダメだよ?」

冗談めかした色を含ませた声で月守がそう声をかけた。

 

「あ!月守先輩に、隊長、それにしーちゃん……、って、あの!その言い方だと私が土下座させてるみたいじゃないですか!?」

 

「あれ?違うの?」

 

「違います!これはですね……」

そうして真香の口から事の経緯が語られた。

 

真香が新人の女の子2人の訓練を監督したこと。

途中で正隊員の腕前が見たいと言った出穂のためにイーグレットを起動したこと。

久しぶりの感覚にテンションが上がってちょっと格好つけたこと。

そしてそれに感激した出穂が真香の弟子になりたいと頼みだしたこと。

これが事の経緯だった。

 

その説明を聞いた3人は「ああ、そういうことね」と、納得した。

 

「やらないの?師匠?」

なんの気なしに月守は真香に向かってそう言った。

「そんな軽いものじゃないんです。…私、今、現役退いてオペレーターなんですよ?そんなに教えてあげる時間も機会も無くて、逆に出穂ちゃんに迷惑かけちゃいます」

 

「迷惑なんて思わないっす!」

真香のその言葉に、月守では無く出穂が反応した。

「お時間がある時でいいので!先輩のスケジュールに無理はさせないので!弟子にして下さいっす!」

 

必死に頼み込む出穂を見て、真香は困ったように言葉を返す。

「や、でも…。出穂ちゃんが知らないだけで、ボーダーにはすごいスナイパー、たくさんいるよ?ほら、佐鳥先輩だって、《ツインスナイプ》っていう必殺技が……」

そこまで言いかけた所で、真香の視界に必死で土下座する佐鳥が映り、言葉を切った。

 

「お願いしますっ!」

 

「だから、その……。私、ちゃんと出穂ちゃんに付いてあげられないから、一人前になるまでってなると、凄く時間掛かっちゃうし…」

 

「それでもいいっす!」

 

「それだと申し訳ないよ……」

本当に申し訳無さそうに真香はそう言った。

 

自分じゃどうにもできない、そんな様子で真香は珍しく困っているように見えた。

 

そんな状況を察した月守は、

「じゃあ、こうしようか」

やんわりと笑みを見せて提案した。

 

「ひとまず真香ちゃんは、しばらく出穂ちゃんの面倒を見る」

と。

 

「ちょっと、月守先輩!?」

真香は慌ててそう言うが、月守は落ち着いたまま言葉を続けた。

 

「ただし、時間の都合がつく時だけ。で、真香ちゃんは出穂ちゃんが変な癖とか付かないように、スナイパーの基礎をしっかりと教えること」

 

「……」

言いたいことはあるが、それは月守の説明が終わってからにしようと真香は決めて、大人しく説明に耳を傾けた。

 

「それで、出穂ちゃんが一人前とまではいかなくてもある程度まで形になったら、真香ちゃんが仲介して相性の良いちゃんとした師匠をつける。2人とも、これならどうかな?」

と、月守は穏やかな声でそう提案した。

 

月守の提案を受けた真香は少し悩んだ素振りを見せ、

「……うーん、それなら、まあ、いいかな?」

と、一応納得した様子でそう言った。

 

それを聞いた出穂は、ぱあっと笑顔を見せた。

「ほ、ホントっすか!?」

 

「あ、うん。その、出穂ちゃん、これでもいい?」

 

「はい!」

本当に嬉しそうにそう言う出穂を見て真香はホッと一息つき、月守へと通信回線をつないだ。

 

『月守先輩、ありがとうございます』

 

『んー、どういたしまして。……まあ、色々あるけど、頑張ってね』

 

『はい』

そう言う真香の表情は嬉しそうで、それだけで提案して良かった、と、月守に思わせた。

 

*** *** ***

 

この入隊式の日からボーダーにはいくつかの噂が流れた。

 

『戦闘訓練で1秒以下のタイムを出した新人がいる』

 

『B級に上がり立てで風間さんと引き分けた奴がいる』

 

『壁をアイビスで撃ち抜いた新人がいる』

 

そしてそれとは別に、主に新人隊員の間で、

『オリエンテーションの時自分たちを指導してくれた、地木隊ってチームが凄え』

という別の噂が流れていたのだが、本人達がそれを知るのはしばらくしてからだった。




ここから後書きです。

なんとか無事に入隊指導が終わりました。
地木隊4人が誰1人として新人たちに手を出さなかったことに安堵しています。

そろそろ大規模侵攻が見えてきましたが、もう少々話を挟んでからになると思います。


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