ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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前書きです。

私がゆったり休んでた半年間で素敵なイラストを頂きました!
こちらは「悠士」さんから頂いた咲耶!

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こちらは以前から何度もイラストを頂いている「トピアリー」さんからで、地木隊勢揃い!もう、この4人の並び方がもう、『写真撮るから並んで!』って言われたらこう並ぶ!って感じの並びなので最高です!

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どちらも素敵で、今でも彼らを見てはニコニコになります!


第111話「ラッキー、そして見えないふり」

「遊真か」

 

 レーダーを見た月守は、遊真が迫ってきたことを知る。同時に、ビル爆破に紛れて影浦がベイルアウトした事にも気付いた。

 

(これで得点は玉狛が3点、俺らが1点……同点に追いつけないこともないけど……)

 

 点差は開いたが、状況自体は月守にとって幸運だった。

 

 絵馬がこのビルの下に埋まっていたとしても、遊真との戦闘を避けるために離脱したという理に叶った行動が取れるからだ。

 

 絵馬が生き埋めになっているか確認出来ないことは痛手ではあったが、それはついさっきまでの話。

 

 遊真が影浦に勝ってくれた事で、月守にはこの戦いの落とし所が見えた。

 

 壊したビルから立ち去りながら月守は耳に手を当てて通信回線を開く。

 

『彩笑、聞こえる?』

 

『聞こえるよ。なに?』

 

 ベイルアウトして作戦室に戻った彩笑に、月守は1つ案を出す。

 

『提案なんだけど……この試合、このスコアで終わらせたい』

 

『この点数で? 負けて終わるんだけど……狙いは?』

 

『3チームの順位の調整が出来る。一応真香ちゃんに確認して欲しいんだけど、昼の部終わった時点で生駒隊は影浦隊と同点だったよね?』

 

 作戦室で2人の通信を聞いている真香は素早く確認を取り、報告した。

 

『ですね。このまま影浦隊が無得点で終わると24点で並びます』

 

『えー、でも並んでも初期順位のアレで影浦隊が上に来るよ?』

 

 彩笑が並んでも影浦隊が上になると指摘するが、月守は、

 

『でも25点と24点でハッキリ順位の上下着くより良くない?』

 

 と反論する。

 

『んー、まあ……それはそうだけど……でも影浦隊の得点止めたいなら、絵馬(ゆずゆず)倒しちゃえば?』

 

『出来ればそうしたいけど……絵馬がいたビルをメテオラで崩したら、この中で生き埋めになってるか外に逃げたのか分かんなくなった』

 

『バカじゃないの? なんで壊したの?』

 

『ビル捜索しきるの無理だと思ったから、いっそ壊して生き埋めにすれば楽かなって……』

 

 その答えを聞いた彩笑と真香は顔を見合わせて、示し合わせたようにため息を吐いた。

 

『月守先輩アレですよね、根本的なところで脳筋思考』

 

『そうなんだよ真香ちゃん。咲耶さー、自分頭良いですって感じに振る舞うし、実際勉強も出来るけど、根っこはボク並みの脳筋だからね?』

 

『もうちょっとスマートなイメージあったんですけど……脳筋ですね』

 

 脳筋といじられる月守だが、今回は反論の余地が全くないため、ぐぬぬと唸りながら謗りを受け止めた。

 

 試合中じゃなかったらもう少しいじってたのに、と思いながら、彩笑は月守へと問いかける。

 

『で、他は? 他の狙いは何?』

 

『シンプルに玉狛にこれ以上得点されたくない。あとは、この点数で上位に残留できたら次の試合で俺たちがマップ選択権を得るくらいの順位になりそう』

 

『んー……マップ選択権は欲しいけど……ゆまち倒すのはどうしても無理? 咲耶、ゆまちみたいなのは得意でしょ?』

 

 通信をしながら月守は周囲の警戒を怠らずに遊真や絵馬の不意打ちに備え、少しでも安全な場所へと移動を続ける。

 

『得意というか……ああいう小さくて速くて技術があるタイプとは散々戦ってるから、慣れはあるよ。少なくとも、カゲさん相手にするよりは楽』

 

『でも倒せないの?』

 

『トリオンと片腕持ってかれてるから……甘く見て相討ち。最悪の場合、絵馬があの瓦礫の下に居なかったら、遊真に勝とうが負けようが勝負終わった時に狙撃される』

 

『んー……』

 

 月守の提案を聞き、彩笑は迷う。

 

 月守の提案は、無難で手堅い。

 ランク戦はシステム上、ひどく乱暴な言い方をすれば、相手に10点取られようが自分たちが11点取れば勝者になる仕組みになっている。

 

 減点よりも、加点する方向性の思考、チームが強くなる。

 

 自分たちより上のチームの得点を抑えた上に、もしかすれば次戦のマップ選択権を得るという月守の提案は、戦術として有りだと彩笑は考えている。

 

 ただ、彩笑にはそういう、

『こうすればお得!』

という作戦を取るよりも、

『そういう効率見てアレコレするより全員倒そう』

という理想が捨てきれない葛藤があった。

 

 少し迷って、彩笑は隣にいる真香に問いかける。

 

「真香ちゃんは、どう思う?」

 

「私も、このまま終わっていいと思います。玉狛が欲張って点取りに来なければ、ウチと玉狛が得をする終わり方ですから」

 

「んー……だよねぇ」

 

「影浦隊の出方だけが不安要素ですけど……絵馬くんが残り時間自由に動けたところで、この警戒してる中全員をスナイプするのは流石に無理がありますし……下手にギャンブルして傷口大きくしちゃうよりは良いかなと思います」

 

「だよねぇ」

 

 真香が出した答えも月守と同じだった。

 

「だったら、それでいこっか」

 

 戦況を中と外で判断する2人が同じ判断を下したこともあり、彩笑はそれを拒む事はしなかった。

 

『神音ちゃんも、それでいい?』

 

『あ、はい』

 

 天音にも確認を取った彩笑は、隊長として全員に自分の判断を告げた。

 

『じゃあ、今日はこのまま時間切れまで粘って。神音ちゃんは適当なところでベイルアウトして……咲耶はくれぐれもうっかりドジ踏まないこと』

 

『了解』

『りょうかい、です』

 

「真香ちゃんは、ゆずゆずがフリーに動いてると仮定して、咲耶への狙撃ポイントを逆算して報告し続けてね」

 

「わかりました」

 

 そして最後に、と彩笑は念を押しながら月守に追加の命令を出す。

 

『咲耶。次の試合でボクらにマップ選択権があったら……とびっきり面白い作戦を組んでね』

 

『オッケー、任せろ』

 

 そうして2人は通信回線越しに笑顔で約束を交わし……地木隊は最後まで逃げ続けて、試合を終えた。

 

*** *** ***

 

『試合終了! スコアは3対1対0で玉狛第二の勝利です!』

 

 試合が終わると同時にモニターが切り替わり、全チームの暫定順位が点数つきで更新される。ここで1つ、順位表に1つの波乱が起きた。

 

『本日の試合はこれで終了ですので、順位が更新されましたが……これは……』

 

 2位影浦隊24点

 3位生駒隊24点

 

 これまでB級不動のツートップの一角を誇っていた影浦隊が、得点で並ばれた。初期順位の上下により2位にはいるものの、3位に並ばれるということはこのシーズン初であった。

 

『影浦隊は順位こそキープして2位ですが、得点の上では生駒隊と同点。玉狛第二は6位、地木隊は8位へとそれぞれ変動しました』

 

 綾辻が発表した順位の更新を聞き、当真が眉間にわずかにシワを寄せてから口を開いた。

 

『影浦隊は無得点だったのが痛すぎたな……ってか、影浦隊が無得点で終わったのもシーズン初か』

 

『このシーズンどころか、前のシーズンでも無かったような気がしますね』

 

 元A級にしてB級屈指の攻撃力を持つ影浦隊の無得点は非常に珍しいものであり、観覧席にいる観客たちに騒めきが広がった。

 

 綾辻はチラリと時計を見てから、少し慌てて総評へと話題を移すことにした。

 

『時間も押してきてますので、試合の総ざらいをお願いします』

 

 頼まれた三輪は手短に、この試合の評価を下す。

 

『スコア上では玉狛第二の勝利ですが、内容でも勝利とは言い難いものがあります。序盤で隊長を失い、中盤終盤でも敵チームを崩しながら点を取ってはいましたが……逆に言えば玉狛第二はこの試合の長い時間を対応する側として戦っていました』

 

 この試合、得点の関係で玉狛第二はステージ選択権を持っていたため仕掛ける側であった。しかし蓋を開けてみれば、お世辞にも「仕掛けた」とは言い難い内容だった。

 

『もちろん、そんな状況下でも得点を重ねた空閑隊員の技量や勝負強さは称賛されるものではあります。それ故に……空閑隊員が力を満足に発揮できない局面が訪れた時に、どうするのか。ここが変わらず今後の課題になりそうですね』

 

 三輪の評価を聞いた綾辻は、それがギャラリーや作戦室でこの総評を聴いているであろう玉狛第二が誤解しないように、質問して総評の補正を図ることにした。

 

『それは、三雲隊長や雨取隊員の成長、ということでしょうか?』

 

『……一概にそうとは言えませんが、それが1番わかりやすい答えですね』

 

 三輪はそこで少し言葉を置き、間を開けてから、

 

『三雲隊長に関しては、この試合で()()()()()()()()()かもしれませんが、それを発揮する前に落ちてしまいましたので、まずはそこに期待しましょう』

 

 何か手があるのだろう、と意思を込めて三雲への言葉を送った。

 

『なるほど……』

 

 三輪の玉狛第二についての相性にひと段落ついたのを見計らって綾辻は、当真へと話題を振ることにした。

 

『当真さんは、この試合でどんな印象を持ちましたか?』

 

 当真はさして悩むことなく、簡潔に、

 

『スナイパー3人ともいい動きをしてたな』

 

 と答えた。

 

 言い切ったぜ。そんな雰囲気を出し始めた当真を見て綾辻は微苦笑してから、話題を掘り下げにかかった。

 

『もう少し具体的にお願いします』

 

『具体的にか……。順番に行けば、天音ちゃんからか。スナイパーの型にハマっちゃいねえけど、警戒されずに狙撃できたわけだし、そこは結果オーライだろ。けど次戦以降は相手チームも「地木隊に狙撃がある」ってのを考えて動くようになるから、その上で結果出せるかどうかってことが次以降の課題だな』

 

 もっとも、次もスナイパーで来るならな。と当真は小さな声で付け加えるように言った。

 

 当真は続いて天音の次に動いたスナイパーである雨取の評価と課題を語る。

 

『雨取ちゃんは自分だけの武器の大砲を、最高のタイミングでぶっ放したな。あそこで手を出さなきゃ、試合の流れを地木隊が完全に持って行っちまっただろうし……タイミングとしては、ガチで最高だった。ただまあ……』

 

 これ以上言うべきか迷った当真は、言葉を濁すように、

 

『地形変更以外にも、状況を動かす手段を使ってもいいかもな』

 

 雨取が向かうべき課題を伝えた。

 

 そして最後に、当真がこの試合で1番の働きをしたと思っている絵馬について語った。

 

『ユズルに関しちゃ、文句ない動きをしてたと思うぜ。雨取ちゃんを囮にして天音ちゃん狙撃して機動力奪えた時点で、十分すぎる働きはしただろ。月守の攻撃のおかげで試合終了まで瓦礫の下にいたけど、ベイルアウトしなかったおかげで月守と空閑は最後まで「ユズルがどこかに潜んでるかも」って警戒してたしな』

 

『……となると、この試合で1番良い働きをしたのは絵馬隊員ということですか?』

 

『個人の動きだけを見たらそうなるな。ユズルはいい動きをしてた……それだけに、チームの得点が0ってのが、勿体ねえな』

 

『なるほど……』

 

 悔やむように当真が言ったところで、綾辻は総評であまり触れられていなかった地木隊について話題を振ることにした。

 

『では、地木隊はどうでしょうか? 得点こそ1点にとどまりましたが、存在感という意味では玉狛第二や影浦隊に劣らないものがあったように感じられました』

 

 当真と三輪。綾辻はどちらが答えてもいいような雰囲気を、態度と視線で作り上げていた。

 

『中盤までは十分有利に試合を運んでいたと思いますね』

 

 先に答えたのは、三輪だった。

 

『三雲隊長を開幕スナイプで仕留め、モールの中でも常に仕掛ける側に立ち、試合のコントロールができていました。雨取隊員の大砲が無ければ、あのまま終盤まで押し切っていたと思います』

 

『……ということは、地木隊は雨取隊員の大砲を何がなんでも防ぐ必要があったということでしょうか』

 

『このマップ、この試合展開に限ればそうですね。屋外に残した天音隊員が雨取隊員を仕留めるまで待つか、居場所をもっと絞り込むまで待っていれば……と思いますが、結果論ですね』

 

 この試合に関して言えることを三輪が言い切ったところで、当真がこれまでの地木隊の戦いを通して感じていたことを口にした。

 

『地木隊は、なんつーか……アドリブで動くことが多いな。行き当たりばったりが、やたら目につく』

 

『ですね』

 

 当真の意見に、三輪が素早く同意した。

 

『隊長に落ち着きがないので、手綱を締める副官も手を焼いてることだと思います』

 

『いやいや三輪。月守もなんだかんだで地木ちゃんに甘いぜ? 手綱を締めるフリしてユルユルだからな、あいつ』

 

『タチが悪いですね。多分あのチームで一番しっかりしてるのはオペレーターなので、手厳しく一言欲しいものです』

 

 2人が唐突に始めた地木隊への軽口は会場内の雰囲気を和らげ、綾辻も思わずといった様子で微苦笑した。

 

『まあまあ、2人とも……あんまり言うと、地木隊長が作戦室で「うにゃああぁぁ」って唸っちゃうと思うので、その辺にしてください』

 

*** *** ***

 

「うにゃああぁぁ!!」

 

 音声を繋いでいた観覧室から聞こえてきた軽口を作戦室で聞いていた彩笑は、綾辻の予想通りに唸っていた。

 

「地木隊長、落ち着いて、ください」

「そうだぞ、落ち着け彩笑」

 

 天音と月守が両サイドから宥めるが、彩笑はプルプルと震えながら反論する。

 

「だって三輪先輩……ボクがアホの子みたいな感じに言うじゃん!」

 

 それを聞いた天音はどう答えるか迷ったが、月守は躊躇わずに言い放つ。

 

「実際アホの子だから仕方なくない?」

 

「今回の咲耶にだけは言われたくないんだけど!?」

 

 元気よく言い返した後に、うにゃああぁぁ……と彩笑が再度唸るが、真香がパンっ、と手を叩いて雰囲気を締める。

 

「はい、地木隊長おふざけはそこまでですよ。まだ講評終わってないですし……、ほら、次戦の組み合わせ発表されましたよ。モニター見てください」

 

「うにゃ……あ、ホントだ」

 

 真香に促されてモニターを見た彩笑に続き、月守と天音もモニターへと視線を向ける。

 

『B級上位グループ』

『2月19日(水)昼の部』

『001・二宮隊』

『004・王子隊』

『006・玉狛第二』

『008・地木隊』

 

 発表されたマッチングを見て、彩笑が首を傾げた。

 

「ボクら8位なのに上位でいいの?」

 

「変ですね」

 

 真香も疑問を口にしたが、観覧席の綾辻が会場に向けてその疑問を解説した。

 

『えーと……、……ただ今、通達がありました。特定グループが8チームとなり四つ巴戦が続くことによって起こる精神的疲労を軽減するために、上位・中位・下位グループの組み分けを1位から8位、9位から15位、16位から22位と変更する……とのことです。今後も定期的に、組み分けは変更されるようです』

 

「……だってさ」

 

 綾辻の説明に()()()()()納得した月守は彩笑を見ながらそう言うが、彩笑はなんだか釈然としない……と言いたげに眉間にシワを寄せていた。

 

「なんかすっごいそれっぽいけど……これ、なんか変だよね」

 

「どうして、ですか?」

 

 天音が無表情で問いかけると、彩笑ではなく真香が腕組みしながら答えた。

 

「組み分けを変えるなら、3試合ごとに入れてる日程調整のタイミングで一緒にしちゃえば楽だと思わない?」

 

「あ……言われてみれば……そう、かも……?」

 

 真香の言葉を聞き、天音も何か不自然さを感じ始めた。

 

 違和感と言うには気にし過ぎると言われるかもしれない。しかし彩笑と月守は同じ違和感を感じでおり、一瞬だけ2人は視線を合わせて、

 

(後で綾辻先輩に聞きにいこっか)

(オッケー)

 

 アイコンタクトで意思を疎通させていた。

 

 後輩2人にそれを気付かれないように、彩笑は何事もないように笑顔のまま話題を変える。

 

「まあ、なんかモヤモヤするけど……とりあえず上位残留でセーフ! 玉狛とは連戦!」

 

「普通に考えれば連戦しないマッチングの方が少ないし、妥当な組み合わせだとは思う。けど、今日と違うのは……」

 

「ボクらにマップ選択権があること!」

 

 マップ選択権があるということは、自分たちが仕掛ける側であるということ。この数試合、対応する側に居続けたため久々となる攻めの権利を得た彩笑は、楽しそうにニコニコと微笑む。

 

「咲耶、約束守ってよ?」

 

「わかってる」

 

 早くも次の試合に先輩2人が目を向ける中、天音はそんな2人に気づかれないように、静かにソファに座った。

 

「しーちゃん、おつかれ」

 

 真香は天音の隣にそっと立ち、小さな声で親友を労う。

 

「……ん……」

 

「もうちょっとで試合後の総評も終わるから、そしたら不知火さんのとこに連れてってあげるね」

 

 気遣うように言う真香だが、天音は……無表情ながらも意外そうな雰囲気を醸し出して真香を見た。

 

「……私の、体調、良くない、の……()()()()、バレ、てる……?」

 

 ほんの少し震える声で問われた真香は、先輩2人には絶対聞こえない小さな声で、答える。

 

「バレバレ。私にも、地木隊長にも、月守先輩にも……ね」

 

「……」

 

 慰めるような、叱るような、泣いているような、そんな色んな思いが混ざり合った声で、真香は天音に言い聞かせる。

 

「でも、しーちゃんは皆に気づかれたくないんでしょ?」

 

「……ぅん……」

 

「……だよね。だから……そうなんだろうな、って思ってるから、私も、2人も、なにも言わないの。しーちゃんが触れられたくないって思ってるから、2人はそういう話をしないように、次の試合に無理やり目を向けてるの」

 

「……」

 

 天音の心に、真香の優しくも酷な言葉がゆっくりと刺さる。

 

 真香も、彩笑も、月守も。

 

 本音を吐き出していいなら、ランク戦など放り出して天音を休ませたいと、言いたかった。

 

 でも、天音本人はそれを望まない。望まないだろうということを、3人は分かっていた。

 

 そして天音も、3人が多分自分のそういう気持ちを分かってくれるであろうことを、分かっていた。

 

 3人は、そんな天音の気持ちを汲んで試合に臨んだ。

 

 各々が各々の気持ちを汲んで、試合に臨むしか出来なかった。

 

 そうするしか、なかった。

 それしか、出来なかった。

 

 気持ちを汲んだことは、強さなのか、弱さなのか。

 

 その答えを、4人は見つけていない。

 

 ただ、辛い気持ちを汲んだ状況下で、

 

 彩笑は最高のパフォーマンスを見せた。

 

 真香は平常通りに戦況を見渡せた。

 

 月守はミスと言ってもいい判断をした。

 

 それぞれの結果は、残った。

 

 

 

 作戦室のモニターからは、当真と三輪に次の試合はどうなるかと予想する声が流れ続ける。

 

 彩笑と月守が次戦はどう戦うか意見をぶつけている。

 

 その全ての音が、天音の耳にはまるで虚しく空回っているように聞こえてならなかった。


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