ガンダムビルドファイターズ Evolution   作:さざなみイルカ

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02話-08「型破りな戦い」

 

≪⑧≫

 

 山田は、2体の増援を出した。

 

「まだまだッ!更に投入するじぇ!」

 

 同じ機体をさらに2機取り出す。

 

 コマンドデバイザーには、ガンプラをかざすことで瞬時にその機体のデータをシステム内にインプットできる高性能センサーが付いている。バトル中、そこに支援用ガンプラを読み込ませることで、コマンドデバイザーにそれを味方と識別させ、CPU操作することを可能とさせる。

 

 山田は先刻同様、取り出したMSをセンサーに読み込ませる。読み込み完了を示す機械音が鳴ると、1体ずつそれらを投入した。

 

 〈乱入ペナルティ!70%!〉

 〈乱入ペナルティ!70%!〉

 

 一瞬の白雷が、ドームに侵入したMS達を襲う。その洗礼を通過した彼らは、指揮官の操るシュヴァルベ・グレイズのもとに飛んだ。

 

 4つの、熱帯魚のような顔が並び、ビル下で佇む妖精をモノアイで睨みつける。

 

 

 モビルアシスティング。自分の弟のガンキャノンを撃破した戦法が、今度はノーベルガンダムに牙を向いた。しかも、今度は4体である。

 

 理穂は、投入された機体についてよく覚えていなかった。家族や幼馴染の影響でシリーズ全作品観たことある彼女であるが、全てを網羅しているわけではない。物語中重要な人物が搭乗しなかったMSなんて、特に詳しくなかった。

 

「あれって、どの作品の機体だっけ」

 

 どうでもよかったが、思わず呟いてしまった。

 すると、聞き覚えのある紳士の声が、耳元で囁いた。

 

「もしよろしければ、あの機体について解説させていただきましょう」

 

「ぎゃっ!?出た!!」

 

 理穂に顔を並べるようにしていたのは、G-MAXの店長(マスター)だった。

 

「RMS-154バーザム。『機動戦士Zガンダム』後半に登場した、ティターンズの量産MSです」

 

 淡々と解説モードに入る、神出鬼没な眼帯店長。

 ランニング中だったのか、あるいはそんな風を装っているのか、彼は赤いジャージ姿で首にスポーツタオルを掛けていた。

 そんな彼に、理穂はもちろん、城ヶ崎すら訝しげな視線を送る。

 

 

「なんでいるんだよ、店長(マスター)……」

「お店、営業時間中ですよね……?こんな所にいても良いんですか……?」

 

 他に誰かが店番でもしているのだろうか。少なくとも2人は、彼以外のG-MAXの店員を知らない。

 2人の視線や質問にも構わず、店を離れた店長は解説を続けた。

 

「バーザムは、かのガンダムMk-Ⅱのデータを元にして開発された機体でありながら、さらなる総合性能の向上がはかられています。装甲にはガンダリウム合金を使用し、胴体・腰・バックパックが一体化したその姿は、コストパフォーマンス面においても優れているといわれています。ハイザック・マラサイの代わる次期ティターンズの主力機になるはずでした。しかし、量産から間もなくティターンズが崩壊したため、劇中印象的な戦果を出すこともなく戦役終結を迎えることとなりました。まさに、不運な機体です」

 

 つまり、ストライクダガーと同じような背景をもつ、ジオン軍のゲルググ的存在。店長への追及を諦めた理穂は、そのように解釈した。

 説明だけ聞くと、バーザムは弱そうではない印象を受ける。『Zガンダム』前半の主人公機と同等、もしくは、それ以上だと考えれば、決して侮れるMSではない。

 

 

 並列したバーザムに、ほのかも少々驚いている様子だ。

 

「うわー。これはちょっと、厳しいかも……」

 

「じぇーっじぇっじぇ。これぞ、乱入制度の醍醐味だじぇ。いけ、バーザム隊!奴を料理してやるじぇ!」

 

 山田の声とともに、シュヴァルベは腕を水平に挙げた。

 突撃の指令を受けたバーザム達は、各々バーニアを吹かせ地面を蹴る。

 

 内、半分は左右に散開。残りはビームサーベルを抜き、フェアリーに遅い掛かる。

 

 光刃の一薙ぎ。避けた。

 軽やかなステップで、妖精はその身を引いたのだ。

 

 間髪入れず、2機目がビームサーベルを振り上げる。しかし、下ろされるよりも速く放たれたノーベルの蹴りが、バーザムの身体を押し退ける。

 

 猛攻は止まない。

 

 続いてフェアリーに迫ったのは2本の光軸だった。ビームライフル。散開した2機からの射撃だ。

 

「きゃっ!」

 

 1つは避けたが、もう1つは躱せなかった。被弾した腿側面はビームの熱で溶解され、刹那のうちに小さな爆発に変わった。

 回避自慢の妖精も、これだけの数を全て回避するのは困難なようだ。

 

 数の利を欲しいままにするバーザム達は、さらなる追撃を仕掛ける。

 

 次に向かってきた閃光の剣を、ノーベルは取り出したビームブーメランの刃で受け止めた。激しいエネルギー同士がぶつかり合い、空間を引きずり込むような音と強い発光を生み出す。

 両者の馬力はほぼ互角。光刃の競り合いは、微動を伴った膠着状態になった。

 

 しかし、それも長くは続かない。

 別のバーザム達からの援護射撃に、ノーベルは引かなければならなかったからだ。

 

 跳んで光軸を躱し、着地するフェアリー。更なるサーベルの追撃が、彼女を襲う。

 今度は受けず、敵の脇下を転がり込むことで難を逃れる。

 

「ちっ、相変わらずちょこまかと」

 

 城ヶ崎が呟く。

 

 フェアリーノーベルの機動性・回避性能はかなり良い。ほのかの操作技術も、それを活かしている。しかし、以前彼とバトルしたときほど、彼女の動きに余裕が見られない。理穂は洞察していた。

 

 それでも、ほのかの表情に、焦りや苦戦の色は見られない。蒼い瞳は真剣な眼差しを放ち、フィールドの中から反撃の糸口を探そうとしている。

 

「じぇーっじぇっじぇ!この数相手に手も足もでまい!」

 

 再び、ビームサーベルとビームブーメランの光刃が交じりあった。しかし今度は、バーザムに勢いがある。

 押し負けたノーベルはよろけ、その腰に回し蹴りを喰らってしまう。Mk‐Ⅱ直伝の、キック攻撃だ。

 

 コンクリートに弾かれ、地面を転がるフェアリー。

 

「じぇっじぇっじぇ。トドメだじぇーー!」

 

 1体のバーザムが、ブーストを最大限吹かせて突撃。

 

「!!」

 

 立ち上がり切っていないノーベル。もはや、絶対絶命だった。

 

 その瞬間、ほのかの瞳孔が僅かに引き締まった。

 

 刹那、黒金色の物体が腹部を貫く。

 

「じぇ?」

 

 動きが止まった。

 腹を突き刺されたバーザムは、刺し口から血液の代わりに大量の電流を流して後ろに倒れ込んだ。間もなく、轟音と共にその身体は四散する。

 

 バトルアックスである。

 敵が落とした武器を、フェアリーノーベルは咄嗟にバーザムに投げたのだ。

 

「ふぅ、危なかった~」

 

 一瞬の出来事に、理穂も城ヶ崎も目を丸くした。

 

「アイツ、シュヴァルベの武器を使いやがった!」

 

 フェアリーが蹴り飛ばされた先に、先刻叩き落としたその斧が落ちていた。それを瞬時に見つけ扱うには、相当な反射神経が求められる。簡単なことではない。

 それをやってのけるところに、ほのかの強みがあるのだろう。

 

 

 かくして、山田の支援機は残り3体になった。数は依然有利だったが、1体の味方機を消失したことでグレイズとバーザムの性能値は2%減少する。

 一方、敵機を撃破したフェアリーノーベルは3%の性能上昇ボーナスを得る。ほのかがこの先モビルアシスティング・ルールを使用せず、単機で戦い続ける限り、上昇した性能が下がることはない。しかも、この調子で残りのバーザムを全て撃破すれば、シュヴァルベとの性能差は20%も開くことになる。

 

 しかし、山田はそれほど焦慮した様子はない。物量的余裕に浸りすぎて油断しているだけなのか、あるいは、まだ策を隠している故なのか、理穂にはわからない。

 

 しかし、その答えは彼の手元にあった。

 

「あの状況で1体倒すとは、見事だじぇ」

「えへへ。ボク、瞬発力と反射神経には自信あるんだ♪」

「だが、俺様の世界レベ~ルの技術はこんなもんじゃない。モビルアシスティング・ルールにはこういう使い方もあるじぇ!」

 

 山田がほのかに見せたのは、一本の小さな棒だった。理穂の視点からではよく見えないが、真っ直ぐな棒ではない。少し、歪んでいる。

 

 山田はそれを、コマンドデバイザーにかざさずドームに投入した。

 

 投げられたそれは、プラフスキー粒子に反応し、色と質感を得て赤い空を落下する。

 

 そして、シュヴァルベ・グレイズはその手にそれを掴んだ。その長さは、機体の全長と殆ど等しい。

 

 三日月状のビーム光刃がその先端から伸びたとき、理穂はそれが武器だということに気が付いた。

 

「ビームサイズ!?」

 

 『新機動戦記ガンダムW』に登場するガンダムの1つ、ガンダムデスサイズの代名詞ともいえる大鎌状の近接兵器。それを今、作品の垣根をこえてシュヴァルベが装備したのだ。

 例え漆黒のボディや蝙蝠の様な翼がなくとも、巨大な大鎌を構えるその姿は死神のそれに近くなった。

 

 驚いたのは理穂だけではない。対峙するほのかも同じだった。

 

「えっ!?乱入制度って、武器も投入できるの!?」

 

「じぇーっじぇっじぇ!その通り!支援機だけではなく、武器や換装パーツ、ドダイや予備弾丸なんかも投入できるのがモビルアシスティング・ルールだじぇ!」

 

 武器や換装パーツに敵味方の識別や耐久値はない。そのため、センサーでスキャンする必要もなく、また、ペナルティを受けることもない。

 このモビルアシスティング・ルールのもう1つの使い方は、現代のガンプラバトルのゲーム性をさらに高めることに大きく貢献していた。

 

「フッ、支援機を呼ぶばかりが山田の能じゃない。高機動なシュヴァルベ・グレイズと多種多様な武器の組み合わせて戦うのがアイツの真価だ」

 

 腕を組み、ナンバー33の強みを語りだす城ヶ崎。そんな彼に、理穂は前々から思っていた疑問を投げかける。

 

「ところで思ったんだけどさ。彼って、アンタより強いよね?」

「ぎくっ」

「まさか、全敗してるとか?」

「いやっ!だって、ずりぃじゃんッ!!こっち1体なのにアイツ、バンバン乱入制度使ってくるんだぜ!?そりゃ勝てねーよ!」

「……そんな彼を、さっき称えていたのはどこの誰よ」

「タイマンなら勝てるし!俺、負けねーし!」

「はいはい、もういいわよ。アンタの力量は十分わかったから」

 

「さぁ、第二幕の始まりだじぇ!」

 

 ビームサイズを掲げたシュヴァルベ・グレイズにバーザム隊。合計4機の青いMS達がフェアリーに襲い掛かる。

 

「えいっ!」

 

 ハンドグレネード。それを足元に投げ置き、フェアリーは後退した。

 

 爆発が、山田の機体達の直進を阻む。爆風に呑まれた者はいないが、時間的猶予をほのかに与えた。その間、彼女はパラボラアンテナのある施設まで、敵機との距離を作ることに成功した。

 

 間もなく、シュヴァルベ・グレイズが、自慢の高機動でその間合い飛び越えてくる。

 

「いくじぇ!ビームサイズの切れ味、とくと味わうじぇ!」

 

 三日月状の光刃がさらに大きな三日月を描く。妖精はジャンプして回避したが、その後ろにあったポール状の建造物は綺麗に切断された。

 

 パラボラアンテナの根元に着地したフェアリーは、間髪入れずピストルを抜いた。閃光を2発、シュヴァルベに放つ。

 

「そんなもの!」

 

 身体を回転。すると、遠心力を受けたサイズの光刃が、グレイズの周囲に眩いサークルを描く。それは、バリア代わりとなり、ビームピストルの光軸を弾いてしまう。

 

「ウソ!?」

 

 そのその光景に、目を丸くするほのか。

 

 バーニアの操作だけではなく、武器の扱いも器用だ。世界レベルかどうかはともかく、その操作技術に光るものがあるのは、認めざるを得ない。理穂は思った。

 

 再び、巧みな空中移動で間合いを詰めるシュヴァルベ。地に足をつけず、ビームサイズを振るう。

 

 フェアリーは転がり、それを躱した。膝を立てると共に、ピストルで反撃した。

 

 かなりの近距離からの発砲だったが、山田はそれを紙一重で回避。そして、立ちきっていない敵機に追撃を仕掛けた。

 

 避けられない。

 

 フェアリーは拳銃を持ったまま、両腕を顔くらいまでの高さに上げる。

 光刃の根元の柄の部分を、手の甲で受けた。サイズは彼女の金髪を数本、熱溶断したものの、本体に触れるより早く止められた。

 すると、一瞬だけ形成が逆転した。膠着状態、敵の手元には至近発砲可能なビームピストル。

 

「しまった!」

 

 放たれた。

 しかし、それよりも二瞬速く状況を理解していた山田は、シュヴァルベを後退させていた。かなり際どかったが、被弾は免れる。

 

 ほのかは、追撃を仕掛けられなかった。シュヴァルベに足並みを遅らせていたバーザム達の牽制射撃によって、その行く手を阻まれてしまったのだ。まるで、光の柵のように。

 

 量的劣勢が、再びフェアリーの周囲に纏わりついた。

 既にサーベルを抜いていた1機が、彼女に襲いかかる。

 

 ブーメランを再び手に持つノーベル。

 光の刃同士が、またも交じり合った。刹那の鍔競り合い。制したのは、ノーベルだった。撃墜補正が、馬力の差を分けたのだ。

 

 よろけるバーザムに、その武器を投げつける。曲がった軌道を描いたそのくの字兵器は、バーザムの片腿を切り裂き、ノーベルの手元に戻った。撃墜はしていないが、実質的な戦闘不能に追い込んだのだ。

 

「ちっ、やっぱり撃墜補正が厄介だじぇ。ここいらで、奥の手を使ったほうが得策だじぇ」

 

 そう呟いた山田は、ビームサイズの光刃発生器の角度を変え、その形状を鎌から槍に変形させた。その槍を、味方のバーザムに手渡す。

 

 受け取ったバーザムはライフルを捨て、槍を両手に構え、スラスターを噴射。もう1体のバーザムも、サーベルを抜いてその後に続く。

 

 まず、突き。それが避けられば、側面からの薙ぎ。それも躱されれば、再び槍。2種類の武器による波状攻撃が、妖精を踊らせた。

 

 回転・跳躍・受け流し・切り払い。様々なモーションを組み合わせ、妖精は華麗にそれらを回避する。さらに、その合間合間に蹴りや肘鉄を見舞い、僅かだが確実なダメージをバーザム達に返していく。

 

 その姿を見て、理穂はあるものを思い出す。日曜の朝に弟達と観た、特撮ヒーローだ。あの時の引っ掛かった感覚は、彼女の戦い方がそのアクションによく似ていたことを無意識に洞察した故に起こったものだった。

 躍動感溢れる動作に、キレのあるフットワーク。擬斗に似たその機体操作は、ただ敵の攻撃を秀麗に受け流すばかりか、戦場空間を大きなステージにしているかのような錯覚を傍観者に与える。ほのかの戦い方には、人を魅せる力があった。

 ビームやバーニアの閃光が目立つMS達の戦闘において、特撮ヒーロー的な戦い方は異質な存在。いわば、ガンダムらしくない戦闘方法ではなかった。

 

 “型破りな戦い”――――。

 

 彼女の優れた反射神経を活かしているのは、ガンダム世界の法則に囚われない、自由で革新的なそのバトルスタイルにあるのかもしれない。

 

「フェアリィィィィィー・ストラァァァァイク!!」

 

 回し蹴りで放たれた彼女の必殺技が、1体のバーザムの腰に入る。ガンダリウム合金の装甲は砕け、駆け抜けたエネルギーに身体は真っ二つに切り裂かれた。

 

 3機目を撃破。更なる、撃墜補正が、ノーベルの性能を引き出す。

 

 数量的優勢も、さすがに疑わしくなった。それを象徴するかのように取り残された最後のバーザムが、槍状ビームサイズを構えて特攻を仕掛ける。CPUに意志や感情などあるわけないが、その動きは玉砕を覚悟しているようにも見える。

 

 ビーム発生装置が、手刀で折られた。ノーベルの動きは目に見えて速くなっている。

 

 ただの棒切れになってしまったビームサイズを持ったまま狼狽するバーザム。間もなく、モノアイに叩きつけられた肘鉄に耐久値の全てが奪われ、四散。

 

 バーザム隊はほぼ全滅した。

 

「ちぇきっ!」

 

 その功を誇るように、ほのかとノーベルはピースサインを目元に掲げる。

 

 勝負はまだ終わっていない。

 

 しかし、4機あったバーザムはことごとく撃破され、現在ノーベルの性能値は109%まで上昇。一方、シュヴァルベ・グレイズは94%まで下落。本来の性能差を差し引いても、後者の敗北は必至だ。

 

 この状況に、山田は相当焦っているに違いない。

 

 理穂が思った瞬間、紅空赤土のフィールドに巨大な閃光の柱が突き刺さった。

 

「!?」

 

 間一髪、フェアリーはそれを避けた。先刻までバーザム達と戦闘を繰り広げていた通信施設は半壊し、パラボラアンテナも地面に落ちる。

 

 立ち位置の違う少女達は、同じものに瞳の焦点を当てる。

 

「あれは……」

 

 MS以上の長さのある砲身。脚が掛けられたステップアーム部分。バランス悪い巨大な7を描くその兵器は、フィールド上空でシュヴァルベを載せて静止していた。

 

「メガ・バズーカ・ランチャー!?」

 

 『機動戦士Zガンダム』に登場する推進装置付きの戦略兵器“メガ・バズーカ・ランチャー”。並みの戦艦なら一撃で撃沈し、使いようによっては大量のMSを一発で殲滅しうるその巨大な砲台が、ノーベルに向けられていた。彼女がバーザム隊と戦闘している間、山田は密かにメガ・バズーカ・ランチャーをフィールドに投入していたのだ。

 

「じぇーじぇっじぇ!どうだ!?これぞ、俺様の奥の手!メガ・バズーカ・ランチャーだじぇ!」

 

 山田は声を高らかに上げる。

 

「バーザムとの戦いをみたところ、お前の機体は近接戦闘重視でロングレンジに対応した武器がないじぇ!それに、スラスターの数も少なく、飛行能力に乏しいと見た!つまり、空中からの射撃攻撃には手も足も出せないとういうことだじぇ!」

 

 彼の指摘に、ほのかは言葉を返す。

 

「でもその武器、連射とかできないんじゃないの?」

 

「じぇ、確かに。だが、これを使えば話は別だじぇ」

 

 言うと、山田はさらに3機のMSを紅の空に投入する。

 

 〈乱入ペナルティ!70%!〉

 〈乱入ペナルティ!70%!〉

 〈乱入ペナルティ!70%!〉

 

 紫色のボディに、頭の後ろを突き出したバックパック。Zガンダムのの量産化を目指したRGZ系列に連なるその機体の名は、“リファイン・ゼータ・ガンダム・エスコート・リーダー”。通称、リゼル。『機動戦士ガンダムUC』に登場する地球連邦軍の量産型可変モビルスーツだ。

 

 投入された3機のうち、2機にはディフェンサーaユニットが装備されている。

 ディフェンサーユニットが装備されていない1機は、メガ・バズーカ・ランチャーのエネルギー供給コードにつながれる。

 

「じぇーっじぇっじぇ。これで、もう1発発射できる!今度こそ、その機体焼き払ってやるじぇ!」

 

「だったら……!」

 

 フェアリーは駆けだす。向かう先は、半壊した通信施設だった。

 

「むっ、何をする気だ?リゼルども!奴を好きにさせるな!」

 

 山田の指示を受けて、ディフェンサーaユニットを装備した2機はMA形態に可変する。ミサイルコンテナを両翼前にもつ巨大な戦闘機が、空を駆ける。

 

 刹那、各々のコンテナから幾多のマイクロミサイルが放たれた。

 

 走る妖精に弾頭の豪雨が迫る。その脚はミサイルの着弾よりも速い。爆破と轟音は常に彼女の背後だった。

 

 やがて、施設に辿り着いたフェアリーはある物をその手に掴む。角だ。

 片足を失いながらも、メガ・バズーカ・ランチャーの閃光に巻き込まれず、半壊した施設の上で瀕死していたバーザムの角を、彼女は掴んだのだ。

 

 ノーベルは、バーザムのマニピュレータ―から異形のビームライフルを捥ぎ取る。そして、飛行するリゼルの1機を放った閃光で撃ち落とした。

 

「なるほど、ライフルを奪って射撃武器を拵えたのか。……だが、もう遅いじぇ!メガ・バズーカ・ランチャーのエネルギーの再チャージはもう完了している!」

 

 コードにつながれたリゼルのセンサーアイから、光が失われる。まるで、傍らの砲身に精気を吸い取られたように。

 味方のエネルギーを吸収したその戦略兵器は、その銃口に光を宿した。

 

「これで、終わりだじぇーーーーッ!!」

 

 大量の光線が、激流の如く砲台から放たれた。眩い閃耀が、フィールドの大気を一瞬で白に染め上げる。空も、土も、施設も、ガンプラ達も、全て閃光の中に呑み込まれ、ドーム内のあらゆるものは不可視となる。

 

 フィールド上に元の明度が戻ったとき、理穂の目に写ったのはメガ・バズーカ・ランチャーと、それに繋がれたリゼル。そして、シュヴァルベ・グレイズの姿だけだった。

 

 残りの機体は全てランチャーの放ったビームに溶解されたのか。空を飛んでいたリゼルも。瀕死のバーザムも。そして、ほのかのフェアリーノーベルも。

 

「じぇーじぇっじぇ!俺様の勝ちだ!どうだ!?この世界レベ~ルの腕前は!」

 

 高笑いする山田。

 

 7機ものMSを乱入させ、相手の弱点を探り、戦略兵器で一気に逆転。戦法としては技巧を凝らしたとはいえないが、有効な戦術だった。圧倒的物量を味方につけていた彼の勝利は、最初から約束されていたのかもしれない。やはり、強い武器、多くのガンプラを持つ者が勝負を制するということなのか。

 すでに知っていた気がするが、改めてその事実を目の当たりにすると、気が滅入らずにはいられない。

 

 理穂が、胸中でささやかな憂鬱を感じていたとき、彼女から少し離れた位置でバトルを観戦していたミコトが呟いた。

 

「上……」

 

 虫の鳴くような小さな呟きを耳にした理穂は、ドームの上方に目をやった。すると、彼女の瞳に驚くべき光景が映る。

 同じ光景を目の当たりにした城ケ崎も、そして対戦相手の山田も目を丸くする。

 

「「「!!!」」」

 

 

 飛んでいる―――。

 

 

 

 フェアリーノーベルが、空を飛んでいるのだ。

 

 その足元にはパラボラアンテナ。半壊した通信施設のそれを羽代わりに、フェアリーは空を飛んだのだ。

 

「じぇじぇじぇ!?お前、一体何をした!?」

 

「簡単だよ。メガ・バズーカ・ランチャーが発射される直前に、ハンドグレネードとバーザムを爆発させて、ノーベルを乗せたパラボラアンテナを空に飛ばしたの」

 

 パラボラアンテナは爆風受けとなり、その力でほぼ垂直に押し上がった。今フェアリーノーベルは、シュヴァルベよりもさらに高い高度を飛んでいる。

 

 爆風から得た力エネルギーが尽き、落下前一瞬の静止状態に入ると、フェアリーはパラボラアンテナを蹴って、バーニアを吹かせた。

 

 向かう先は、対戦相手の機体。

 

「行くよっ!」

 

「対処を……し、しまった!メガ・バズーカ・ランチャーにジョイントしているせいで身動きが取れない!!」

 

 妖精の右足に、光が宿る。風を切り裂き、雲を抜け、フェアリーはグレイズに迫る。

 

「フェアリィィィィィー・ストラァァァァイク!!」

 

 ガンダムの跳び蹴りが、シュヴァルベ・グレイズをメガ・バズーカ・ランチャー諸共貫き破壊する。このとき、フェアリーの性能値は115%。対するグレイズの性能値は、自らのランチャーに巻き込んだ味方撃破分を含め、88%まで落ち込んでいた。

 上昇した威力と下落しすぎた装甲の差が耐久値を奪い、山田のシュヴァルベ・グレイズは紅の空に散った。

 

「じぇぇぇぇじぇぇぇぇ!!」

 

 試合終了。勝ったのは、ほのかだ。

 

「ちぇき♪楽しいバトルだったよ」

 

 勝利のポーズをきめるほのか。間もなく、粒子ドームは消失する。

 

 

 

   ◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 


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